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『楊家将』(上・下)を読んだ

楊家将〈上〉
北方 謙三 / / PHP研究所
ISBN : 4569666582
スコア選択: ※※※※※




楊家将〈下〉
北方 謙三 / / PHP研究所
ISBN : 4569666590
スコア選択: ※※※※※




『楊家将』は中国では『水滸伝』『三国志』と並ぶ人気をほこっているそうですが、日本ではほとんどと言ってよいほど知られていませんね。縄田一男氏の解説によると、実在の人物の物語に各地の様々な民間伝承が加わって一つの小説として完結した時の出来があまりに悪かったため、とのことですが、演劇などの題材には数多く取り上げられ、それゆえ巷間にはあまねく知れ渡っているとのことです。これも受け売りですが日本で言えば「水戸黄門」や「遠山の金さん」みたいな位置づけの物語のようです。

北方版の同書は「徹底的」に戦の物語です。北漢の武将であった楊業とその7人の息子、更には遼の武将たちの戦いの日々を描いた男臭い小説です。女性らしい女性はほとんど登場しません。遼の女王とその娘が登場しますが、女王は女性というよりは中原の制圧を悲願とする遼の権力者として「男っぽく」描かれています。娘の方は敵である楊家の四男と微妙な恋愛感情を持つに至りますが、これが唯一の色っぽいエピソードです。

全体的に物語は淡々と進むのですが、戦闘シーンの迫力は手に汗を握るという表現がぴったり来るものでした。決して派手な表現を駆使する訳でもないのに、精神を高ぶらせる事ができるのは作者の実力としか言いようがありません。

戦に無知な武官との対立や、遼の文官王欽が仕掛けた策略などで無敵を謳われた楊家の息子たちが次々と無念の死を迎え、ついには一族の総帥楊業も戦いの中で死んで行きます。北方版『水滸伝』にも共通することですが、この「滅びの美学」が実に切なく描かれているとともに、読者に「次は誰が死んでしまうのだろう」という緊張感をもたせ、良質のエンターテインメントを演出しています。

昨年度の文庫本のランキングで2位にランクされているとの事ですが、そんな事は全く関係なく、一気に読んでしまいたくなる魅力を持った本でした。続編も刊行されているとのことですが、そちらも是非読んでみたいですね。
by lemgmnsc-bara | 2007-04-23 07:15 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

by 黄昏ラガーマン
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