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『ロケットマン』鑑賞記

ロケットマン ブルーレイ+DVD<英語歌詞字幕付き> [Blu-ray]

タロン・エガートン,ジェイミー・ベル,リチャード・マッデン,ブライス・ダラス・ハワード/パラマウント

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音楽界のビッグネーム、エルトン・ジョン氏の自伝ミュージカル映画。

物語は、一人の奇抜な格好をした人物が自助グループ(様々な精神的疾患を抱えた人物たちが、語り合ったり、一緒に行動することで治癒していこうとするグループ。日本でも断酒会やうつ病の罹患者など多くのグループが存在する)の集会に参加し、自らの半生を語り始めるところからスタートします。

各種の音楽を一度聞いただけで、ピアノで再現できてしまう天才的な才能を持ったレジー(エルトンの本名)は、常に人から認められ、愛されることを求めていた少年でした。自分の都合を最優先させる父親は、レジーが普通の子供のように甘えてくることを拒絶していましたし、レジーの母親との間もすっかり冷え切っていました(のちに両親は離婚します)。母親は母親で、やはり子供のことより、自分の恋人との関係の深化に夢中。結果として、レジー少年は常に満たされない思いを抱えた時間を過ごすことになります。少年期のみならず、長じてからも、この「満たされない思い」は常に彼を苦しめます。

やがて、音楽の才能が開花したレジー青年は、バックミュージシャンを経て、作詞家バーニー・トーピンとの出会いをきっかけに、「エルトン・ジョン」としてオリジナルの作品を作り始め、それがヒットに次ぐヒットで、一気に名声と大金を手に入れることとなります。

それでも彼の「愛が欲しい」、「自分を認めて欲しい」という気持ちが満たされることはありません。新しい家族を設けていた父親には疎んじられ、母親からは金ばかり要求される上に、レジーがゲイであることで、迷惑ばかりかけられたと罵られる始末。熱烈な恋愛関係にあった男性マネージャーとも破局して、金のことだけで繋がっている状態。そんな寂しさを紛らすために、酒やクスリに溺れ、やがて最大の理解者であったバーニー・トーピンも彼の下を去ることになります。

もともと、レジーは人見知りで、人前に出ることが苦手な少年でした。「エルトン・ジョン」の奇抜を通り越して、奇矯なまでに派手派手しい衣装や、やはり人目を惹かずにはいられない数々のメガネも全て、彼が「エルトン・ジョン」になるために必要な仕掛けだったのです。でも人々に愛され、受け入れられたのは、その派手派手しい「仕掛け」の方だけ。一個人のレジーは誰からも愛されず、拒絶された存在として、大勢の人間に囲まれながらも孤独を感じざるを得ない状態に常に放り込まれていたのでした。

これは、本当に根の深い孤独ですね。本来なら、無条件に素のままの自分を受け入れてくれるはずの家族という根本的な組織がすでに存在しない上に、世間からは羨望を受ける代わりに嫉妬と偏見をぶつけられる。繊細なレジーが窒息感を感じてもおかしくありません。

そして、彼を救ったのは創作と、本当に愛せる人間たちでした。治療の結果、復活して1990年代以降も作曲と演奏活動に勤しみ、2005年に15年来男性パートナーと「結婚」した彼は養子二人を迎え、幸せな家庭生活を営んでいるそうです。彼は、ようやく彼を無条件で受け入れてくれ、同時に無条件の愛を捧げることのできる人々を見つけることができたのでした。

ストーリーもさることながら、所々で、彼のヒット曲とともに、大勢がダンスを見せるミュージカルシーンが秀逸。感情の高まりを歌と踊りで表すというミュージカルの本質を見事に体現していました。残念ながら、私はエルトンの曲は「Your Song」くらいしか知らないので、各ミュージカルシーンの「本質」を理解していたとは言い難いのですが…。こればっかりは彼の作品を改めて聞き込んで、その世界を理解してからもう一度この作品に触れてみないと理解できないですね。ちょっと前に見た『ボヘミアン・ラプソディ』よりも深く感動できた一作でした。

by lemgmnsc-bara | 2020-03-08 11:05 | エンターテインメント

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