『旅人 国定龍次』を読んだ

旅人 国定龍次(上) 山田風太郎幕末小説集(全4巻) (ちくま文庫)

山田 風太郎/筑摩書房

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旅人 国定龍次(下) 山田風太郎幕末小説集(全4巻) (ちくま文庫)

山田 風太郎/筑摩書房

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タイトルは「たびにん くにさだりゅうじ」と読みます。

主人公国定龍次は架空の人物で、飢饉の際に農民を救った義賊としても名高い渡世人、国定忠治が愛妾の一人に産ませた息子という設定です。

龍次はやはり上州の渡世人として有名な大前田の栄五郎の乾分でしたが、成人するちょっと前までは自分の出自を知らなかった、という設定にもなっています。

ある日、勤皇という当初の目的を見失い、ただの略奪集団と化していた天狗党の宿に栄五郎と龍次の二人は乗り込んでいきます。栄五郎の縄張りである土地を通らないで欲しいと懇願するためでした。そこで天狗党の軍師役だった草堂万千代はある党員を呼び寄せます。千乗坊こと国定虎次でした。この千乗坊という人物は後に大谷国次と名乗った実在の人物で、幕軍と戦って戦死した記録があるそうです。虎次は自分とそっくりな、丸顔でずんぐりむっくりした体型(いわゆるとっちゃん坊や)をした龍次を異母弟と認め、忠治の遺品である長ドス小松五郎兼定を渡します。

で、龍次は自分に忠治の血が流れていることを知り、忠治同様、弱きを助け強きを挫く侠になろうと奮闘努力する姿が描かれるというわけです。この龍次、志は高いのですが、父親以上の暴れん坊。一旦思い込んだら後先考えずに突っ走るというキャラクターを付与されています。実際に先述した通り、たった二人で乗り込んだ天狗党の宿で栄五郎に暴行を加えようとした党員を一人、いきなり叩き斬ってしまったりします。激情に駆られたとはいえ、自殺行為としか言いようのない突発的な行動でしたが、この時は草堂の一言で命を救われることとなります。

上州に帰った栄五郎は龍次に「本物の侠になる修業のため、しばらく旅に出ろ」と命令します。それに猛反発したのが栄五郎の養女で、幼い頃から龍次と兄妹同然に育ち、今ではお互いに恋心を抱いているおりん。龍次はそれでもおりんを振り切って出発しますが、栄五郎は同時におりんに「大前田の娘である」というお墨付きの書と路銀を持たせて龍次の後を追わせます。こうして龍次とおりんの見えつ隠れつの奇妙な二人旅が始まります。さらに途中からは天狗党を抜け出した草堂も加わり、三人旅に。

草堂は龍次の剣の師としての役割も担います。ただの喧嘩殺法だった龍次の剣は日々磨かれていくことともなります。こうして、江戸の新門の辰五郎、甲州の黒駒の勝蔵、駿州の清水次郎長などの名だたる侠客たちと交わっていくうちに人間としての質も喧嘩の腕も上がっていくというのがメインストリーです。しかしながら、艱難辛苦を乗り越えて、上州に帰り、おりんと結ばれて上州の大親分となってメデタシメデタシという結末には残念ながらなりません。

時は幕末の混乱期。京大坂を中心に勤皇佐幕両勢力が繰り広げた血みどろの戦いに、龍次、おりんも否応なしに巻き込まれていくこととなります。もっとも、この戦乱に龍次を巻き込むことが草堂の目的だったりもしますが…。いずれにせよ龍次は侍たちの勝手で無辜の民が苦しむような状況には黙っちゃおれずになんとかしようという狭気の持ち主であるというキャラクター設定にはなっていました。

しかし、龍次のこの純粋な侠気は最後の最後で踏みにじられることとなります。苦く切ないラスト。信じていたモノに裏切られ、愛するおりんを喪った龍次の気持ちは何万語を費やしても語りつくせないでしょう。真剣に生きてきた半生を一気に飲み込んでしまう時代のうねりってやつの無情さをつくづくと感じさせてくれたエンディングでした。




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by lemgmnsc-bara | 2018-07-08 11:55 | 読んだ本 | Comments(0)

なんだかんだで読んだ本のことばっかり書いてます。たまに映画、時々食い物とドライブとラグビー観戦。
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