人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『野球エリート 野球選手の人生は13歳で決まる』を読んだ

野球エリート 野球選手の人生は13歳で決まる (講談社+α新書)

赤坂 英一/講談社

undefined


選抜高校野球は前評判通りの力を見せつけて大阪桐蔭が優勝し、プロ野球も開幕しました。球春たけなわといった昨今ですが、今年の選抜には群馬県代表が出ていなかったので、私自身はほとんど興味をそそられなかったし、プロ野球についてもジャイアンツの岡本の「覚醒」が本物か否かを見極めたくはありますが、何を置いても、というほど注目しているわけではありません。せいぜい夜中のニュースのスポーツコーナーを観るくらいのレベルです。

私自身の興味はさておき、活躍と年収が見事にマッチし、トップクラスともなれば、普通のサラリーマンが生涯かけて得る賃金を上回る年俸を獲得できるプロ野球選手というのは魅力的な職業であり続け、その大きなステップの一つが高校野球であることは間違いありません。高校野球というステージにおいて、最も注目されるのが甲子園出場。一人の優秀な選手を酷使して、その将来を大きく損なってしまう恐れもある「ハレの場」という側面も持ち合わせてはいますが、スカウトたちの「見本市」としての性格も色濃く持っていますね。件の大阪桐蔭などはレギュラーのほとんどがドラフト候補と言われているほどです。

さて、表題の書は甲子園球場での活躍が大いに見込まれ、その後にはプロ野球(日本とは限りません)の未来を担うであろう選手達にフォーカスし、彼らが幼少時からどのような生活を送り、どのような努力を重ねてきたかを克明に描いたルポルタージュ集です。

受験生を増やして経営を楽にするために、高校の名を手っ取り早く上げたいと思えば、スポーツの世界で実績を示すことが一番効果的と一般には考えられています。それゆえ、各種の少年スポーツ団体にはその種目の強豪校のスカウトが定期的に巡回してきて、将来が有望と考えられる少年少女を捕まえようとするのはごく自然なこと。東北地方の高校なのに、選手として名を連ねているのは関西出身者ばかり、などという「歪み」はどこの「強豪校」においても大なり小なり見られるはずです。

現状では、まずこの高校レベルでその他大勢と、一握りのエリートにしっかりと分けられてしまいます。その一握りに入るために、選手本人はもとより、親、家族がそれこそ我が身を削るようなサポートを続ける、というわけです。かのイチロー選手ですら、本人の努力、才能はもちろんのこと有名な「チチロー」氏の協力無しには今の姿はなかったと言われていますね。

まさに受験戦争さながら、それも東大を頂点とする偏差値ヒエラルキー内の争いが可愛く感じられるほどの熾烈さです。一人が大学に行けば、一族全員が食えるようになるがゆえに、親戚中がそれこそ半狂乱で受験勉強に追い立てる中国や韓国を思わせる、恐怖すら感じる状況があります。

この本で取り上げられている、今年のドラフトの目玉候補の一人、大阪桐蔭の「三刀流」、根尾選手もそうした野球エリートです。ずば抜けた身体能力とセンスに加え、家族に支えられて練習したからこそ、今の姿がある。当家に子供はいませんが、もし子供がいたと仮定して、自分にはここまでのフォローはできないな、と思わされてしまうほどの手厚いフォロー。そしてプロを目指す、というレベルの選手のいる家庭では、すでにこの程度のフォローは当たり前になっているというのですから、野球エリートも楽じゃないですね。「来た球を思いっきり打つ」などという単純な思考法では到底大成などできそうにありません。

そんな努力を続けた結果として、首尾よくプロ野球の世界に飛び込めたとしても、そこでの成功は、それ以前よりはるかに難しいですね。高校時代の成績から、大いに期待されてプロの球団に入ったものの、一向に実績を残せないまま、二軍でくすぶっている古澤勝吾選手の例が挙げられていましたが、素質に恵まれていたが故に、過去において見過ごされて来た小さなほころびが、プロのレベルでは大きな弱点として牙を剥いてくるというわけです。

古澤選手の所属するホークスの二軍監督水上氏の「壁にぶち当たる、というのは目的がしっかり定まって、そこに到達するのが難しい状態を指す。古澤の場合は自分の目指す方向すら定まっていないから、壁にぶち当たる以前の問題で、ただ自分の殻が破れていないだけ」という言葉が実に重く響きました。会社における私の状態そのものだって、気づかされてせいですがね(苦笑)。

壁を越えるなり、殻を破るなりして、どれだけの選手が活躍を見せるのか?そう考えるとプロ野球も高校野球も今よりは興味深く観ることができそうな気がします。私のようないらぬウンチク好きには、こういう背景を知ることの方がむしろ野球観戦の醍醐味だと言ってよのかもしれません。



by lemgmnsc-bara | 2018-04-05 11:59 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

by 黄昏ラガーマン
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31