『教団X』を読んだ

教団X (集英社文庫)

中村 文則/集英社

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中村文則氏による超大作。氏の作品を読むのは芥川賞受賞作『土の中の子供』以来となります。ふたつの対照的なカルト教団の教祖とその信者たちの姿を通じて、現代社会に生きるおそらく全ての人々が常々疑問に思いながらも見て見ぬフリをしている、大きな問題に鋭く切り込んでいます。

物語はある教団に入信したと思しき女性を探す男性の描写から始まります。男が最初に訪れたのは「教団」とは呼べないような、緩やかな宗教サークルとでもいうべき集まり。この集団はそのメンバーに献金やら献身を強要することなく、死期の迫った老「リーダー」の講話を皆で聴く、というのが主な活動です。どのような存在を信仰の対象とするかは別にして、こうした素朴な寄合こそが宗教の原始的な、それ故純粋な形ではないでしょうか?様々な悩みを抱えた一般人が教祖の言葉に耳を傾けて、心が洗われたように感じてそれぞれの生活に戻る…。そこには一切寄付や苦役やらは登場しません。ただひたすらに生きていることを肯定し、そこに生じる苦しみにいかに対処していくかを人智を超えた存在の導きによって知る。理想的ですねぇ。世界の宗教が皆この形であれば世界の平和は保たれたままなのだと思いますが…。

一方で、タイトルともなっている「教団X」はヤバい方の典型です。外観上は普通のマンションながら各種装備を備え、武器も備えた施設に信者を集め、教祖はそこで武装した男性信者に守られながら、ハーレムを作り、女性信者を集めて酒池肉林の生活を送っています。この教団Xの教祖、沢渡という人物は、上述した牧歌的な宗教サークルから、多数の信者を引き抜いて教団を創設したという設定です。

沢渡は紛争地域に医師として赴いた経験があり、そこで感じた、この世にはびこる様々な矛盾を正すべく立ち上がったということにもなっています。

人の命というものが、それこそ虫ケラのごとく扱われるような事態を引き起こしたのは一体誰なのでしょう?発展途上にある国々の人民や資源を搾取して富を得ているのは誰?そしてそんなシステムを作り上げたのは誰?

やや、ステレオタイプな疑問の提示の仕方ではありますが、実体験に基づいた沢渡のこの問題に対する答えは信者たちの心に突き刺さり、強烈な信仰心を生むとともに、かなり先鋭的な思想を持つ集団として成長し続けています。

こうなると行き着く先は一つ。現世界の破壊と新秩序の確立です。信者たちは周到な計画を練ってテロを実行しようとします。

果たしてこのテロは成功するのか?そして主人公たる男性の探し求める女性の行方は?次々とたたみかけてくる後半部分の展開にはすっかり引き込まれました。作品の世界に引き込まれてみたい方はぜひとも本文に当たってみてください。

世の中には勝ち組と負け組とが存在し、負け組の方は、大なり小なり世の中がひっくり返って欲しいという願望を持っていると思います。負け組の不満が爆発寸前にまで高まっているときに、着火剤のような役割を果たす、沢渡のような存在がもし現れたら…。ヒトラー然り、IS然り、オウム真理教然り。世界は少なからず混乱し、大きく傷つくこととなります。

こうした不満分子に対する「景気対策」などのガス抜きには短期的にはそれなりに効果があるでしょうが、最終的には物事の根本を全て変えてしまわない限り、いずれまた不満は溜まっていきます。どこかでこの悪しき循環というか、イタチごっこを解消しなければならないとは思いますが、では具体的に何をどうする?と問われても、私には答えは到底出せそうにありません。教祖になるだけのカリスマ性も知識もない私としては、せいぜい、世の風潮に流されないように、不貞腐れて世の中を眺めるくらいのことしかできませんね。








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by lemgmnsc-bara | 2018-01-25 11:04 | 読んだ本 | Comments(0)

なんだかんだで読んだ本のことばっかり書いてます。たまに映画、時々食い物とドライブとラグビー観戦。
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