2017年 11月 16日
『暗くて静かでロックな娘』を読んだ
久々に読んだ「紙」に書いてあるエンターテインメント作品集。平岡氏の作品を読むのも『ダイナー』以来です。「本棚の片っ端から読んでいく作戦」の一環として、本当に本棚の一番隅から引っ張り出した一冊。
平岡氏は元々、階段を収集してそれも本にまとめることから出発した方で、のちに小説を書くようになってからは、バイオレンスとスプラッターな描写に満ち溢れながら、どこかユーモアとペーソスを感じさせる作品を書き続けていましたが、この短編集は恐怖やグロの要素よりも、むしろ哀愁漂う作品ばかりが収められています。
出てくるのは、紺の腰巻によれば「社会の鍋底」にいる人物たち。ゆくあてもなく、行き倒れかけていた男を自宅に連れ帰った、両親のいない幼い兄妹に、義理の父と実の母から虐待を受け続け、ついに死を迎えるも、実の母の方から「飼い犬が死んだときの方が、マジ泣けた」などと言われてしまう少女、自殺未遂を繰り返しては、怪しげなイタコに死んだ娘を憑依させ(もちろんイタコはインチキながら周到な演技で娘のフリをしているだけ)、その娘の世話を焼くことで、辛うじて精神の平静を保っている女等々…。
以前読んだ平岡氏の作品の世界が目の当たりに展開したとしたら、それは吐き気を催さざるを得ないグロな光景だったと思いますが、この作品集の描き出す世界は、極力血の流れる量を抑えつつ、実は登場人物たちの心の中ではそれこそ大量の血が流れています。人間らしい生き方だとか、人間の尊厳というお題目を唱えながら眺めれば、心の傷の方がより深刻だと言えるでしょうし、それこそが作者の意図したことなのだろうと勝手に推測しておきます。
で、登場人物たちが尊厳を捨てた生き方を選ばざるを得なかった背景には貧困というごく現実的な問題が横たわっています。そういう意味では、人間が一番恐怖すべきなのは貧困という状況なのかもしれません。金がありさえすれば、まともな家庭生活が営め、まともに成長できたであろう人物たちがどんどん壊れていく…。こういう光景は作り事の中にしか存在しないように思えて、実は我々のすぐ隣に存在しているオハナシです。ほんのちょっとしたひずみが人の生き方をも大きく変えてしまうという恐怖をしっかり味わわせていただきました。
by lemgmnsc-bara
| 2017-11-16 11:24
| 読んだ本