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『現代百物語 不実』を読んだ

現代百物語 不実 (角川ホラー文庫)

岩井 志麻子/KADOKAWA

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イヤミスの第一人者であり、下ネタ連発のコメンテーターとしても名高い岩井志麻子氏の集めた怪異集。「不実」というサブタイトルがついた今巻はこのシリーズ9作目となるそうです。

ウソかマコトか、人外のバケモノか、それともバケモノと化した人間がなしたものなのか?人々の生活のスキマにポツリと発生した不可思議でちょっと背中がゾクッとするお話ばかり99編。題名は「百物語」ですが、100話全てを語り切ってしまうと、その後には必ずとてつもなく恐ろしいことが起こる、という伝承を踏まえ、話そのものは99編で止めた上で、最後は岩井氏のあとがきで締める、というのが定番の構成パターンになっています。

さて、このシリーズも9冊目ともなれば、明らかにパワーダウンしています。以前なら「あ、この話は本当に怖い」と思わせてくれるようなお話がいくつかは必ずあったのですが、今巻に関してはあっさりと最後まで読み進めてしまえた、という印象を持ちました。

一編、友人の彼氏と浮気してしまった女性が、その友人の追求をかわすために、苦し紛れに浮気相手はこんな女だと架空の人物像をでっち上げて友人に話したところ、そのでっち上げの人物像とぴったり合致する人物とその彼氏が本当に浮気をしており、友人はその女を殺してしまったというお話には興味を惹かれました。「科学的」に説明しようとすると、話の主は友人の彼氏から感じ取ったものを無意識のうちに蓄積していて、それを具象化した結果、実在の人物にぴったりとマッチしてしまったということになるのでしょう。自覚することのなかったストレスが、いつの間にか胃に穴を穿つように、男から感じ取った様々なものは話の主の中に静かに溜まっていき、具体的な像を結んでしまったということになります。

う〜ん、やっぱり不思議で怖いのは実在する人間ですね。

岩井氏はあとがきの中で、怪異が少しも怖くないという友人の話を取り上げています。その友人よると「所詮はワケのわからないものが物陰から覗いている程度のことで、実害はほとんどないんだから、怖がりようがない」そうです。これはまさに目から鱗が落ちる思いでした。そうそう、「不気味なもの」はそこら中に転がってはいますが、そのほとんどは無害なんですよね。たまたま、そういう不気味なものを感じることのできる人間が必要以上に想像力を膨らましてしまったために、聞いた人はその想像に対して恐怖してしまうのでしょう。更に言えば、聞いた人自身もその話に自分の中で勝手に尾ひれをつけて恐怖をことさらおおげさなものにしてしまっているだけです。「幽霊の正体みたり枯れ尾花」みたいなもんです。そう思ってしまいたい私がいるというのも事実なんですけどね。



by lemgmnsc-bara | 2017-10-28 17:00 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

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