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『岳飛伝 六 転遠の章』を読んだ

岳飛伝 六 転遠の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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岳飛伝の6巻目。

今巻では、「正統派」の岳飛伝での最大の敵役秦檜が、そのストーリー通りの憎まれ役として岳飛の前に立ちはだかります。秦檜は、岳飛を南宋軍の最高司令官として迎えるとともに、岳家軍を正式な軍隊として南宋に取り込もうとするのですが、岳飛はあくまでも軍閥として独立して活動することを望みます。最高権力者たる秦檜の命令に従わない岳飛は、南宋に対しての忠誠を秘めながら、従容として刑場の露と消える、というのが正統派のストーリー。

しかし、北方版は正統派通りにストーリー展開などしません。こんなところで主人公が死んでしまっては元も子もないってのもありますが、北方氏の大胆な翻案を楽しむのがこの大水滸伝の醍醐味。岳飛は表向き処刑されたこととされますが、実際は目立たぬように都から追放されます。秦檜は約束どおり岳飛を解放しましたが、その部下は後顧の憂いを断つために、暗殺団を送り込みます。ここで岳飛を救ったのは梁山泊の致死軍。久しぶりにこの集団が、暗躍でなく活躍する姿が描かれ、燕青も登場します。世間的には「亡くなった人物」となった岳飛はどこに向かうのか?梁山泊への合流となるのか?仮に合流となれば知も武も兼ね備えた、頭領にふさわしい存在になるとは思いますが、そうそうすんなりとは行きそうにないのもこの物語の特色です。

金国は兀述が岳飛との戦いを終え、世代交代を画策します。こちらの動きからも目を離せません。中原に覇を唱えることが悲願のこの国が南宋とどう対峙して、そしてそれは梁山泊軍にどのような影響をもたらすのか?今のところは、楊令とのつながりや物流により金と梁山泊は協力体制にありますが、世代交代後の金がどのような道を選択するのかについては、暗示すらもされていない状態です。

さて、我らが梁山泊は二強の直接対決を横目に、着々と力を蓄えている最中です。南越に甘藷糖の生産基地を建設した秦容が、その基地が大きくなるにつれて生じる「生活の諸問題」をいかに解決していくのか、を描きながら、狩猟採集から栽培定住の生活への転換、国というものの根本的な成り立ちとはどういうものかをも描いています。

以前、一時期ハマった水滸伝のシュミレーションゲームでも、実際の戦闘よりは、戦闘を開始する前の国力の充実(武器や食料の生産拠点の建設と発展)の方が楽しくなって、戦闘そのものはソフト任せにしていた(武器やら何やらを最大限に持たせておけば勝手に勝ってくれた)私にとっては非常に興味深い視点の転換です。もとより、梁山泊の志とは民が安心して暮らせる国とはどんなものかという問いに対しての答えを求めるものであったはず。で、南越の地に、一つの理想郷とでもいうべき村が出来上がるのです。戦いだけに生きてきた秦容が「文官」に転じるのも、武力革命を成し遂げた後の指導者の姿の一つの理想形だと思いますね。

シメの言葉はいつもと同じ。次巻の発売が待ち遠しい…。

by lemgmnsc-bara | 2017-06-07 05:20 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

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