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『死に金』を読んだ

死に金 (文春文庫)

福澤 徹三/文藝春秋

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kindleのバーゲンセールにかかっていたのを衝動DLしたのが標題の書。

福澤氏といえば、怪談のコレクターというイメージが強い方なのですが、大藪春彦賞を受賞するなど「リアル」な作品の作者としても優れた方だったのですね。で、標題の作品は、今のところ作者唯一の連作短編集にしてかなり「リアル」な世界を描いています。

表現の「形式」は典型的なクリフハンガー方式。全体の主人公矢坂に関係する人々がそれぞれの章の主人公となり、その章は徹頭徹尾その人物の視点で描かれていきます。

主人公矢坂の職業は冷酷非常な金貸し。貸した相手からは法外な利息を取り、それこそ丸裸にして自殺に追い込むまで取り立てるという人物設定となっています。そして矢坂は末期がんで明日の命をも知れない状態です。籍だけは残っているもののほとんど没交渉な妻しか「家族」と呼べる存在のない天涯孤独の身。しかも家屋や外車と言ったような目に見える派手な資産もない。銀行にも一銭の預金もない。つまり、彼は稼いだカネを現金としてどこかに隠し持っているという設定にもなっています。この隠しガネをめぐって、それぞれに金銭的な問題を抱えた、上述の「妻」、むかし仕事でつるんでいた事のあるヤクザ、そのヤクザの親分、そのヤクザの同僚、などが代わる代わる矢坂を見舞い、カネのありかを聞き出そうとします。

矢坂はだれにもカネのありかを教えようとはしませんでした。一体何のために、どこにカネを隠しているのか?矢坂が口をつぐんでいるのは何故か?この謎にアプローチするために、前述の連中たちが知恵をしぼり、手を変え品を変え、なだめすかしおどし、泣き落としに土下座までしますが、矢坂は頑として口を割りません。カネが必要な連中の焦りが、その必死さの裏付けとなり、最初から最後まで緊張感の保たれた展開でした。謎が謎を呼ぶ、クリフハンガー方式の威力をまざまざと見せつける作品でした。そして最後には一気に謎が解け、様々な厄介事がすべてスッキリ片付く、というおまけまでついてきています。

よくよく読むとあざといくらいの伏線が張ってあったりするのですが、それを伏線と感じさせない筆運びは見事でしたね。



by lemgmnsc-bara | 2016-07-07 12:21 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

by 黄昏ラガーマン
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