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『リミット』を読んだ

リミット (祥伝社文庫)

五十嵐 貴久 / 祥伝社

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出ると買い作家の一人五十嵐貴久氏のサスペンス。とは言っても、血が流れる訳でも、モノが壊される訳でもありません。

主人公はラジオディレクター安岡。彼の担当する深夜番組はお笑い芸人のぶっちゃけ毒舌トークが受けてコアなファンを多数獲得し、看板番組の一つとなっています。お笑い芸人は関西の出自で、常に世の中に対してケンカを売るような物言いをするというキャラ設定ですので、無理矢理モデルを見つけるとすれば松本人志氏でしょうかね。私はこの芸人の登場シーンは松本氏をイメージして読み進めました。

物語は番組宛に来た一通のメールで幕が開きます。そのメールには当日の番組終了後に投稿者が自殺するという内容が書かれていました。

電子メールやSNSが普及してから、こうした番組への投稿はずいぶん垣根が低くなったことでしょうね。故にこういう内容のイタズラ投稿は少なからず発生しているものと考えられますし、普段であれば安岡もその他のスタッフも気にもとめないであろうということが語られます。しかし安岡には何故かこのメールは「信憑性」が高いと判断し、投稿者の行方を探し当て、その投稿者を救おうとします。

安岡が何故このメールに引っかかったのか、そしてその自殺を防ぐためにどのような手段を用いたのか、を書いてしまうとモロにネタバレになってしまいますので、その辺は本文を実際にお読み下さい、としか書きようがないのですが、番組に携わる人間すべてに走る緊張感と、責め苛む焦燥感はリアルです。知らぬ間に手に汗を握らせる筆遣いはさすが五十嵐氏。このドキドキ感を疑似体験するだけでも一読の価値ありです。

さはさりながら、一つだけ不満があります。安岡は何故、そのメール「だけ」を「本物」と断じたのか?安岡の口からは再三「勘としか言いようがない」という言葉が出てきますが、ちょっとこの理由が弱い。こういうとき電子メールというツールは無機質ですね。字の乱れとか、行間とかいうニュアンスが出しにくい。故に強引に「勘です」としか言わせようがない。

それ以外は絶え間ない緊張感が心地良かったですね。感情移入しやすいキャラが多かった気もします。五十嵐氏の持ち味である、一見何の関係もなさそうな事柄同士が実は密接に結びついているという仕掛けも十分に堪能しました。

結末が少々ウエットなのはご愛嬌。後味は悪くありませんでした。一気に読んでしまうのに適した作品でしたし、一気に読ませ切る魅力を持った作品でもありました。
by lemgmnsc-bara | 2014-11-08 20:33 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

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