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『炎立つ』鑑賞

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高橋克彦氏の「陸奥三部作」第一作『炎立つ』の舞台化。『半沢直樹』でオネエキャラの国税局長を演じて以降、本業の歌舞伎のみならず、現代劇やバラエティーに引っ張りだことなった「ラブリン」こと片岡愛之助氏が主演です。

「陸奥三部作」とは『炎立つ』『火怨』『天を衝く』を指します。主人公はそれぞれ奥州藤原氏、アテルイ、九戸政実。いずれも陸奥が出自で、一つの勢力として中央政権と対立するも、結局は強大な中央政権に飲み込まれてしまうという悲劇のヒーローたちです。よく言われることですが、「歴史」とは勝者の目から見たもの。例えばアテルイなどは朝廷にたてついた蛮族として、悪役のイメージをまといつかされて「教育」された覚えがあります。岩手県出身で、現在も活動拠点を盛岡に置く高橋氏が、この「勝者史観」を覆し、蝦夷(えみし)とさげすまれた側の視点から、時の中央政権と陸奥地域の支配者との対立を描きだした作品が「陸奥三部作」なのです。

日本の場合、先端の文化は常に西から東へと伝播しました。それゆえ、東日本は常に文化的には劣位に置かれ、また迫害を受けてきました。近畿や九州の土豪たちは中央政権からの近さゆえに、すぐに滅ぼされたり、融合されたりしましたが、東日本、とりわけ陸奥と称された地域は、単純に中央政権のある場所から遠かったということで、中央政権からの圧力が強まったり弱まったりし、一度倒されてもゾンビのように蘇ってくることが出来ました。蝦夷としてさげすまれ、疎まれたのも、中央政権の恐怖心の裏返しだというのはうがちすぎでしょうかね。少なくとも、知性においては決して中央政権の面々に引けをとらない人物たちがそろっていたのだとは思いますが、そこは被征服者の悲しさ、そんなことは伝わらず、野蛮な田舎モノの住む未開で自然の厳しい土地、というイメージが現在に至るまでまとわりついています。演歌や安手の犯罪ドラマで、追われる人々が必ず逃げ込むのが「北」をイメージさせる土地だということを考えれば、その根強さ、根深さがお分かりいただけるのではないでしょうか。

閑話休題。

今回の舞台『炎立つ』でラブリンが演じる主人公は奥州藤原氏の頭領藤原清衡。中央政権の権力争いによって、異父弟の家衡と争うことを余儀なくされ、妻とその胎内の子供、そして母までをも失うという痛手を耐え忍ぶ姿が描かれます。私は「陸奥三部作」はすべて読んだのですが、どうやら『炎立つ』と『火怨』のストーリーをいつの間にかごちゃごちゃにしていたようです。中央政権に逆らいながらも結局は討ち果たされて滅んでしまう、という筋立てを予想していたのですが、描かれたのは清衡と家衡の争い。まあ、これも結局は中央政権で権力を伸ばそうとする豪族の争いに巻き込まれた結果ではあるのですが、『火怨』のアテルイのように中央政権と真っ向勝負するものだとばかり思っていました。

悲しみに耐え忍ぶ、というのは日本人に最もウケる「悲しみ」ですね。直接の敵は家衡ではあるものの、その背後には自分たちを「蛮族」とさげすみ、権力争いの道具に使おうとする豪族どもがいる。真の敵が誰なのかは痛いほどわかっていながら、彼我の差を考えると無念さも、悲しさも耐え忍ぶしかない…。いやぁ、涙があふれちゃうなぁって筋立てです。歌舞伎っぽいストーリーでもありますね。決して悪い意味ではなく、苦しみや悲しみに素直に共感できるという意味です。

ラブリンは安定した演技を見せていました。時折、歌舞伎の台詞回しのような抑揚や関西弁のイントネーションが入ってしまったのはご愛嬌。その他の役者ではV6の三宅健の「卑怯っぽさ」と「チャラさ」の演技がいかにもそれっぽくてよかったです。こいつが頭領じゃ誰もついて来ねえな、って感じが変にリアルでした。あとは大御所平幹二朗。毒々しいメイクで東北の土着神アラハバキを怪演じしていました。三宅健を後ろから抱きすくめるシーンなんかもありましたが、そのときの平氏の感想を聞いてみたかった気もします(笑)。
by lemgmnsc-bara | 2014-08-19 05:46 | エンターテインメント

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