人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったか―擬態するニッポンの小説』を読んだ

芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったか―擬態するニッポンの小説 (幻冬舎新書)

市川 真人 / 幻冬舎

スコア:




文芸評論家市川真人氏による、「文壇」への評論集。

島田雅彦、よしもとばなな、そして村上春樹。この三人に共通することはなんでしょう?ずばりタイトルで答えが出ちゃってますね。いずれの方も芥川賞候補にのぼりながら、ついに受賞せずに「終わっ」ています。ずいぶんと定義が曖昧になっては来てはいますが、芥川賞とは純文学の「新人」に与えられる賞だからです。上記の三名の方々はすでに数々の名作を世に問うているベテランですから、いまさら新人扱いは出来ないので芥川賞の対象からは外れてしまっているということです。一方でつい最近史上最高齢(たしか70歳を越えてましたね)での受賞もありましたがね。

村上春樹氏などは、ノーベル賞の候補に挙げられるほどの「世界的作家」です。しかも、デビュー作の『風の歌を聴け』はファンの間でも人気の高い作品です。私もあの作品の中に流れている、独特のニヒリズムに魅せられ、その後立て続けに作品を読み耽った記憶があります。

その村上氏は何故芥川賞を獲ることが出来なかったのか?ここでその答えを出してしまっては、興を殺いでしまうことになりますので、詳しくは本文をお読み下さい(笑)。

私なりのごく大雑把な解釈としては、当時の芥川賞の選考委員には、村上氏の文体はあまりにアメリカ的過ぎて、日本的な感覚にはなじまないと感じられたのではないか?ということです。確かに村上氏の作品は、「無国籍小説」とでも言うべき奇妙な違和感が常に漂っています。舞台は明らかに日本なのですが、どうも現実味には欠ける。どこにでもありそうな風景を、誰にでも書けそうな筆致で描いているのに、村上氏以外には決して描くことのできない世界がそこに厳然として存在します。

青春時代に一度は罹る、精神的な「はしか」とでも言うべき虚無的な感覚と、衝動、行き場の見えない鬱屈したエネルギーなどなど…。そういう世界を乾いた筆致で描いた作品は確かに日本のウエットな人生観とはそぐわない気がしますね。今現在ですらそう思います。

時は流れ、選考委員も「若手」に代わり新しい作家達が次々と登場していますが、売り上げ的にも、作品の質的にも村上氏を越える人材はなかなか出現しませんね。俗に「早稲田は中退した奴の方が大物になる」などと言われていますが、そのうち「芥川賞なんか獲らない作家の方が大成する」などと言われる日が来るんでしょうかね?
by lemgmnsc-bara | 2014-02-18 19:59 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

by 黄昏ラガーマン
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31