2013年 12月 12日
『すごい畑のすごい土 無農薬・無肥料・自然栽培の生態学』を読んだ
著者杉山氏は弘前大学の農学生命科学部(こんな学部あったんですねぇ。初めて知りました)の教授。「奇跡のりんご」で有名な木村秋則氏の農園について研究し、科学的な分析を試みています。
木村氏が無農薬のりんごを作ろうとして失敗を重ね、自殺を図ろうとして分け入った山で、椎の木の根元の土の柔らかさに気づき、そこから大逆転が始まった、というのはよく知られたエピソードですね。木村氏は経験則的に、「農薬を使わずに植物を育てようと思ったら植物本来の持つ力を最大限に引き出すことが必要。そしてそのためには土をなるべく自然の状態に近づける事」を学び、実践しています。しかし、この「土の自然な状態」とはどういうことなのか、とか「土を自然な状態に近づけると、なぜ植物は力強く育つのか?」については、まだわからないコトの方が多いんだそうです。
杉山教授は土の自然な状態とは、様々な生物が多様性を保ったまま生き続けている状態だと定義します。慣行農法(農薬や化学肥料を使う一般的な農法)は、生育する作物にとって有益な生物は生かし、不要な生物は殺す、という方法です。木村氏の農法は生育するのに有益な生物の力は活用するものの、不要な生物も殺さない、というもの。そのため、定期的に刈り込むまで下草は生え放題だし、害虫も病気もたかられるままです。しかし、最終的にはりんごそのものの力で、病気も害虫も撃退し、素晴らしい品質のりんごが出来るというわけです。
ここのところ何冊か集中して読んだ農業の本では、土の中にいる有益な菌や微生物を最大限に活かし、有害な生物の影響をいかに「化学的」な方法を用いずに押さえるかがポイントだということが共通して書かれていました。ある人は田んぼの土を掘り返す深さを極限まで微妙に調節し、またある人は多様な作物を同時に育てる事で、農園全体として病害や虫害を防ぐ工夫をしていました。
しかし、いずれの方も経験則。まだ完全に安全で安心な農法は「科学的」に解明されたわけではありません。杉山教授の研究は、迷える農政や迷える農民達を導き、ひいては日本の食糧事情を改善するためのキーポイントになるかもしれません。もっと広げて考えれば、環境保全の取り組みにまで広がるオハナシかもしれませんね。
by lemgmnsc-bara
| 2013-12-12 20:11
| 読んだ本