2013年 08月 10日
『ああ知らなんだこんな世界史』を読んだ
ここのところ、イスラム世界の紀行文を上梓するなど、イスラム世界に対して興味を深めている清水氏がイスラム教の国々からみた歴史を語った一冊。
「歴史は勝者のもの」とはよく言われている言葉ですね。日本でも大和朝廷が最大勢力となって以降は、「周辺諸国」の民族達は蝦夷だ隼人だ土蜘蛛だ、と半分化け物のように描かれるようになってしまいました。学校で習う「歴史」もその視点で統一されています。坂上田村麻呂は「蝦夷を平定」したのであって、「大和朝廷による東北地方の侵略」とは書かれません。東北地方に住んでいた人々にとっては立派な侵略であったし、略奪や乱暴狼藉も多々うけたことでしょうけどね。
イスラム世界に関してもしかり。日本の学校では勝者としてのヨーロッパ列強からみた歴史しか教えてもらえません。わずかに「十字軍はキリスト教の聖地を奪還することを目的に結成されたが、実際は玉石混淆のならずもの集団で遠征の先々で略奪行為などに及んだ」ということがこぼれ話的に語られるくらいです。
増してや今の世の中、「世界の警察」たるアメリカが一番敵視しているのがイスラム教の組織であるアルカイダですね。毎日の様に自爆テロだのなんだという事件が報道されているといつの間にか「イスラム教の信者というのは怖い人間ばっかりだ」という意識が植え付けられてしまいます。まあ、イスラム教の国々は実際に渡航の自粛を求められるような危険な地域が多々あるというのも事実ですけどね。
いずれにせよ、この世は単純に「善悪」というモノサシでは捉えきれないという事です。日本なんかは島国で第二次大戦後にいたるまで本格的に「占領」されたことがありませんでしたから、のほほんと「西欧キリスト教史観」を学んでいれば良いだけでしたが、地続きで実際に血が流れた地域の人々は、そうはいきません。キリスト教的には崇高な行為でも、イスラム教徒にとってはただの侵略なんですから。
というわけで、この本には、イスラム世界の方からみた世界史が綴られています(題名そのまま〜)。歴史上の様々なトピックを取り上げてイスラム世界ではどのように受け取られていたのかがかなり具体的に分りやすく書かれています。まあ、この本を一冊読んだだけでは「西欧キリスト教史観」の呪縛から完全に逃れる事は出来ないでしょうが、少なくとも新しい視点を一つ手に入れる事は出来ます。興味深い一冊でした。
by lemgmnsc-bara
| 2013-08-10 06:42
| 読んだ本