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『あとより恋の責めくれば 御家人大田南畝』を読んだ

あとより恋の責めくれば 御家人大田南畝 (集英社文庫)

竹田 真砂子 / 集英社

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私には「出ると買い作家」の他に「出ると買いトピックス」というのがいくつかあります。例えばラグビー、日本の農業といったトピックスを取り上げた本に関しては書店、あるいはKindleでみかけた瞬間に即買いします。

そしてそのトピックスの一つが「太田南畝(蜀山人とも)」です。歴とした御家人でありながら、狂歌に秀でて一世を風靡した風流人です。私が憧れる「二足の草鞋」を体現した人物です。

この太田南畝(本名直次郎)という人物、私生活はなかなか複雑だったようで、いままで読んだ評伝では自らの住処に正式な女房と妾を同居させたと書かれていました。いかにも風流人っぽい評伝ですが、例えば自分が同じ環境に放り込まれたら、と考えると、これほど煩わしい状況はないと思いますね。私は一度に二人の女性を愛する度量もなければ、甲斐性もありません(苦笑)。まあ、そのくらいの「常識はずれ」振りでないと、後世に名前なんぞ残せないのかも知れませんが…。

標題の書においては、吉原で運命的な出会いを果たした「お妾さん」は狂歌仲間の寮に住んだ事になっています。一つの新解釈ですね。この「お妾さん」を囲った時期と、南畝が自宅を増築した時期が非常に近い事から、「お妾さん」まで自宅に住まわせたという「伝説」が流布したのだ、というスタンスを取っています。実際に二人の女性を同じ屋根の下に住まわす事が出来るのか?という疑問に対する一つの解答案としてはよく出来ていると思います。

そしてこの物語は、南畝としてより直次郎としての側面により重きを置いた構成になっています。風流人としての南畝よりも、代々続く御家人の家系を守ろうとする直次郎の姿に重点を置いて描いているのです。あくまでも世の中を茶化す風流人としての南畝を描く方がある意味簡単です。獅子身中の虫としての気概を描けばいいのですから。あくまでも伝統ある御家人としての家系を一番大事に考える直次郎を描く事で新しい太田蜀山人像を描いているところが新しい。世間をあっと言わせる事が一番の快感だという事を承知していながら、自家の「伝統」を無視するところが出来ないところに共感を覚えます。新しい道に踏み出したい気持ちがありながら、今の生活を捨てられない自分とダブるからです。レベルがまったく違いますけどね(苦笑)

従来の「伝説」とはひと味違った南畝像、新鮮でしたね。
by lemgmnsc-bara | 2013-07-21 19:19 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

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