2013年 03月 28日
『即身仏(ミイラ)の殺人 』を読んだ
出ると買い作家の一人高橋克彦氏のミステリー。名探偵塔馬双太郎による謎解きが楽しめる一冊です。
物語は出羽三山のひとつ湯殿山麓で即身仏が発見されたことから始まります。私は浅学にして知りませんでしたが、この出羽三山というのは即身仏のメッカなんだそうです。もともと山岳信仰に基づく修行の場だったこの地において、修験道と密教とが融合して即身仏が数多く誕生するに至ったというのは自然な流れのような気がしますね。しかし、宗教というものが力を持たなくなった現在の日本においては即身仏は信仰の対象というよりはただの怪奇趣味の見せ物でしかありません。この即身仏の所有権を巡って、地主である番内と、山のある村の人々との間に対立が生じます。そんなある日、即身仏が消えてしまいます。これが第一の事件。
第二の事件は映画の助監督が殺されたこと。説明が前後しましたが、番内という人物は映画プロデューサーであり、時代劇映画を撮影するためのセットを自分の持ち山に作っていたら即身仏が発見されてしまったという展開です。でその映画の助監督が殺されてしまったという訳です。第一の容疑者とされたのは村長の千崎。メインキャラクターの一人である女優月宮蛍の伯父に当たる人物です。千崎の調査を進めて行くと、今度は千崎のアリバイを唯一証明できるはずの愛人テル子までが殺されてしまいます。さまざまな事象を突き合わせると関係者すべてが疑わしい。謎が謎を呼ぶ展開の最中、ついに名探偵塔馬双太郎が登場し、すいすいと謎を解いてしまう、というのが筋書き。ま、ミステリーをネタバレさせてしまうことほど野暮なことはありませんので、詳しくは実際の文章をお読みくださいとしかいえません。
ミステリーのストーリーとは別に豊富なコンテキストが興味深かったですね。おなじミイラでも即身仏と生身入定とがあり、それぞれ思想的な背景が違うことや、日本各地に広く伝承されている「異人殺し」の話などが巧みに絡められていました。こうした伝承や知識を得ることは、小説そのもの楽しみとは別の楽しみです。そうした意味においても読み応えのある一冊でした。
by lemgmnsc-bara
| 2013-03-28 21:17
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