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『さよならが君を二度殺す』を読んだ

さよならが君を二度殺す (角川ホラー文庫)

黒井 卓司 / 角川書店(角川グループパブリッシング)

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第18回日本ホラー小説大賞最終候補作を手直しして上梓されたのが標題の書。「貴志祐介氏 推薦!!」という腰巻きの文言につられて買っちゃいました。

物語は香川県に存在するとされる架空の村が舞台。ある日、四人の子供と一人の大人がいきなり行方不明になり、そして生還してきます。奇妙だったのは、五人に失踪中の記憶が一切ないこと。この出来事は原因がまったく解明されないまま、時間の流れの中に埋没してしまい、32年の歳月が過ぎます。

失踪事件当時乳児だった馬淵慎吾は32歳になっていました。死別した妻は、一緒に失踪した6歳年上の亜樹。ある日慎吾は死んだはずの妻からのメッセージを受け取るようになります。時を同じくしてやはり一緒に失踪した康夫と剛も特異な能力を身につけることとなります。原因は32年前の失踪事件でした。何故失踪事件に巻き込まれた、事件当時子供だった人物にのみ超能力が備わったのか?その謎解きは物語の根幹に関わりますので、本文をお読みくださいとしか言えません。

読者を物語にグイグイ引き込む文章力は素晴らしかったですね。この作品が最終候補に残りながら大賞を逃したのは、ホラー色が薄かった事が理由だそうです。確かにメインのストーリーを追いかけて行く限りでは、あまり恐怖を感じません。私が恐怖を感じたのは、いままで「自分」と認識してきたモノが実はまったくの別物だったという条りでした。「自分」が「自分」であることを証明できるのは「自分」でしかありませんが、「自分」が「自分」だと思っていた存在が、実はまったく「自分」からかけ離れた存在であることを知ってしまう…。これは恐怖です。今までの「自分」が完全に覆ってしまうのですから。この辺を深く掘り下げて行けば「ホラー小説」としての評価も高まったのかもしれませんが、ストーリーの進行とは直接関係がないので、単なる驚きのレベルにとどまってしまったのがいかにも残念。

結末に至るまで緊張感が持続した、なかなか興味深い一冊だったように思います。
by lemgmnsc-bara | 2012-12-25 19:13 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

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