2012年 11月 05日
『草祭』を読んだ
角川書店の日本ホラー大賞で長編賞を受賞した『夜市』の作者、恒川光太郎氏の連作短編集。どこかにありそうでいてどこにもない架空の街、美奥を舞台にしたファンタジーが五作収められています。
子供の頃、普段の自分の行動範囲からちょっと出てしまっただけで、もの凄く不安になったという経験はありませんか?同じように人が暮らし、同じように家が建っているというのに、そこはまさに異界。自分にとって未知の世界が広がっていました。標題の書に収められた五作はこの不安感をずーっと持続させてくれる、不思議な感覚の作品です。
何かのアクシデントで普段とは違う道を通ったら、そこの先には人智を越えた存在が潜んでいた。日常とホンの紙一重の差異しかないのに、絶対に存在することのない世界を描かすと、恒川氏は抜群の筆の冴えをみせます。「美奥のそこここにある闇」という表現は、そのまま「日常のそこここにある闇」と置き換えることが出来ます。いつもの道をホンの一本はずれただけで、そこには思いもかけない非日常が転がっています。それは恐怖でもあり、ある意味ワクワクする事態でもあります。リアルな現実としては精々遠回りになる程度の差異でしかありませんがね(笑)。
連作小説としての側面も持ち合わせているので、ある作品で名前だけ出てきた人物が、別の作品では主人公になっていたり、ある作品で存在が匂わされただけの物質が、別の作品では重要な役割を演じたりというような、ニヤリとさせられる演出もあります。
ホラー小説ともちょっと違う、奇妙なテイストの連作集でした。ちょっと追いかけてみたい作家出現です。
by lemgmnsc-bara
| 2012-11-05 20:48
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