2012年 02月 09日
『共喰い』を読んどいてやった
選考委員石原慎太郎氏の発言を受けての「不機嫌会見」が話題を呼んだ田中慎弥氏の芥川賞受賞作。ああいうキャラクターは嫌いではないので、肝心の著作の方を是非読んでみようと思い、私にしては珍しく、即買い即読みしました。
狷介な性格ではないかという事前予想に反して、非常にわかりやすい文章だったように思います。高校時代までは「現代国語」が得意で、テストの点だけは良かった私にとっては読みやすい本でした。「この傍線部分で主人公はなぜこのような言動をとったか、答えなさい」という質問の非常に作りやすい文章だ、という気がしたのです。
もちろん試験の際の正解と、作者の実際の思いというものが食い違っているというのはよく指摘されるオハナシですね。出題された問題を作者に解いてもらったら正解と違ったなどというのはよくある笑い話です。
この本に収められている表題作「共喰い」、「第三紀層の魚」の二作ともに「作者の言いたいこと」は非常に良くわかったという気がしました。実際に作者にあったら「いや、そんなことは書いていません。そんな表層的なことしか読み取れない人に私の文章を読んで欲しくない」ってむくれられそうなきがしますけど(笑)。
「共喰い」の主人公は高校生。父の暴力的性癖により実の母は家を出て、後妻に入った女性とともに三人で暮らしているという設定。実の母は近所で魚屋を営んでおり、主人公はそこにもよく出入りしています。主人公の住んでいる街に流れる汚い川がモチーフとなって重苦しい仕上がりになっています。救いもなにも描かれません。ずーっと暗いタッチで暗い物語が信仰していきます。たとえば陰茎で障子を突き破るというような衝撃的な描写は一切ありません。しかし、リアルな日常ってのはこういうもんでしょう。大多数の人々が、衝撃的な逆転打を放てないまま平々凡々と這いずりながら暮らしていっているのですから。あえて、文芸評論家的にいえば、独特の暗さが時代の閉塞感を良く表している、とでもいいましょうか?田中氏にはまた怒られちゃいそうですが…。
「第三紀層の魚」はこのまま高校の教科書に掲載してもいいくらいのわかりやすさ。多感な小学生が曾祖父の死というおおきなイベントに際し、自分でも押さえきれない感情を炸裂させ、そして同時に一つ大人への階段を上って行くというオハナシです。
読み終えて、田中氏っていやなやつという仮面をかぶりたい「いい人」なんだなってのが伝わってくる一冊でした。
by lemgmnsc-bara
| 2012-02-09 20:24
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