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『おそれずにたちむかえ - テースト・オブ・苦虫5』を読んだ

おそれずにたちむかえ - テースト・オブ・苦虫5 (中公文庫)

町田 康 / 中央公論新社

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ここのところ、私は町田康氏の著作に触れることが多い。氏の書く文章にほれ込んでしまったと言っていい状態になったためで、過去の著作をバカバカ買いまくっている。で、この本も衝動買いして、しばらく積ん読しておいてようやく読んだ。

内容は解説の貴志祐介氏の言葉に集約されるだろう。「町田氏は常に読む人の予想を裏切る。」そう、その通り。「普通」のエッセイなら、話はこう流れて、大体こんな表現がなされるだろうと予想がつくのだが、町田氏の文章は見事にこちらの予想をはずし、むしろ予想を超えた異様な迫力を感じさせるのだ。一言で言ってしまえば面白いのである。

などという文章を頭の中でひねくり回しながら、私は目的の電車に乗るべく、長い長い駅の構内を歩いていた。大抵駅には余裕を持って着くよう、終業後すぐに職場を飛び出すのだが、その日に限って職場の女性同僚(34歳、独身)がまさに終業チャイムの鳴るその瞬間に声をかけてきたのだ。その内容は別にその日のうちに解決しなければいけない類のモノではなかったが、心配性の彼女はどうしても私の判断を仰ぎたいらしい。私は内心のイライラを押し隠しながら一度しまいかけた資料を出し、その資料を確認した上で、ある決定を下した。女性同僚は「あ、やっぱり私もそう思っていました!!」と小躍りせんばかりに喜んだが、その程度の判断なら自分で下せ、っていう内容だった。

私は資料を投げつけたい衝動を抑えながら、資料をしまい、足早に駅まで歩いた。当日は池袋の行きつけの整体院で肩と膝の治療を受ける予定で予約を入れてしまっていたのだ。ウデの確かな整体師なのでなかなか予約が取れず、ようやくねじ込んで入れてもらった予約であり、遅れるわけにはいかなかった。予約時間に間に合う電車を逃すと次の電車は20分後となり、完全に予約には遅刻する。私は焦ってこの暑い中、ほとんど駆け足に近い早足で歩いた。

ギリギリなんとか間に合いそうだという目処がつきホッとしたのも束の間、長いコンコースにある動く歩道を二列で占拠し、頑として動かない年寄りが二人。実に楽しそうに談笑している。その雰囲気を壊すのはイヤだったし、下手にイチャモンをつけて「貴様長幼の序というものを理解しとらんのか?」と帝国陸軍仕込の鉄拳制裁を受けるのも剣呑である。なんとか気付いてもらおうと、空咳をしてみたり、足を大きく踏み鳴らしたりしたのだが、まったく効き目がない。仕方がないので「失礼」と声をかけてどいてもらおうとしたが「本当に失礼な奴だ」という顔をされたのみで、私の要求は黙殺された。私はよほど蹴り飛ばしてどかしてやろうかと思ったのだが、相手の老人が実は合気道か何かの達人で、一指も触れないうちに投げ飛ばされてしまう可能性を恐れて結局そのままご老体二人の後ろについていかざるを得なかった。最後、猛ダッシュでエスカレーターを駆け上がり、「駆け込み乗車はおやめ下さい」という駅員の制止を振り切ってようやく電車に乗ることが出来た。ラグビーの後のように汗だくだったし、何より、よくなりかけていた膝を酷使してしまった。

整体院で首尾よく治療を受けた後、池袋東口の宮城ふるさとプラザへと向かう。ここで宮城の銘酒一の蔵でも買って帰るのが粋でもあり、東北復興の一助ともなるのだが、私は酒は飲めない。とりわけ日本酒にはいい思い出がない。従って、世間で言うところの女房、当家での名称は最高権力者様に頼まれた「白謙」の笹かまぼこを買い求めるのが目的であった。

宮城ふるさとプラザへ着き、出入り口から中へ入ろうとすると、折りしもその出入り口から出てきて、真正面に立ちふさがった若者が一人。中からツレが出てくるのでも待っているのかと思ったら、いきなり携帯でメールを打つらしき動作を始めた。入り口のどまん前で往来の邪魔するんじゃねーよと思ったが、先ほど整体院で施術を受け、弛緩しきった心身ではこの若者に対抗しうる、気力も体力も湧いてくるものではなかった。なんとか咳払いをしてどいてもらおうと試みたところ「デブはピザでも食ってろ」という某有名掲示板でデブを罵る時の常套句をそのまま表したような表情を顔に貼り付けて若者が脇によけた。私は若者の表情から最大の侮辱を受け、精神に著しいダメージを負ったが、木曜日という、週の中でももっとも疲労の蓄積している日においては気力の奮い立たせようがなかった。

ようやくのことで目的の笹かまぼこを買い求め、帰宅すると、疲労困憊して居間のソファーに倒れこんでしまった。うわごとのように「ゆ、夕飯をお願いします」と最高権力者様にお願いしてみたが、「安月給しか稼げない贅六モンが夕飯ねだるなんざ、100年早いわ!もっと稼いでからねだれ、このボケデブがっ!!」と罵りを受け、さらに精神的にダメージを負った。なおも畳み掛けてくる最高権力者様の口舌の刃から心身を守ろうと最高権力者様に背を向けた途端、彼女に向かって屁をひってしまった。

怒髪天を衝いた最高権力者様はジャンプ一番私の背にドロップキックを放った。まともに受けた私は空腹の胃に多大なる衝撃を受け、胃液が逆流。口中に広がる胃液の味…。
by lemgmnsc-bara | 2011-08-13 23:07 | 読んだ本

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