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第12回『みなとスポーツフォーラム』(エディー・ジョーンズ氏講演)拝聴

もう丸一週間も経っちゃいましたが、5/31(火)『みなとスポーツフォーラム』を聴きに行ってきました。この催しは、日本ラグビー協会と港区が共催しているもので、ラグビー界の著名人のみならず、広くスポーツ関係者に日本ラグビーを語ってもらおうというものです。

昨日の講演者は、標題にも書いたとおり、昨シーズンサントリーサンゴリアスを率いて日本一の栄冠を勝ち取ったエディー・ジョーンズ氏。日本ラグビーが世界に伍していくためには何が必要とされるかがテーマでした。

エディー・ジョーンズ氏は2003年ワールドカップは母国豪州を率いて準優勝、2007年の同大会では南アフリカのヘッドコーチとして優勝に導きました。世界でもトップクラスの指導者です。先にも書いたとおり、昨シーズンは就任一年目にして見事に日本選手権を制しました。いわば今一番「勝ち方」を知っている人物と言えましょう。因みに奥さんは日本人で、本人も大の日本贔屓です。

お話はワールドカップを勝ち抜くための条件というトピックから始まりました。基本的にまず必要なのは超のつくスーパースターの存在。こういう存在が5~6名は必要だとのこと。ここでエディー氏は2003年の豪州のチームと2007年の南アを引き合いにだしました。当時の豪州で超スーパースターと呼べるのはSHのジョージ・グレーガンとSOのスティーブン・ラーカムの2名だけだったそうです(ちなみにこの二人とも引退時は日本のチームに所属してましたね)。まずは、個々人を鍛えて超スーパースターの数を増やすことを心がけていったそうです。優勝した南アには主将のスミット、大会MVPを獲得したハバナをはじめ5名は超スーパースターがいたそうです。

チームの土台についての説明の後、3つの必要条件をピックアップしました。

まず第一はフィットネス。100%のパフォーマンスをどれだけ長く続けられるか。基本中の基本です。第二はディフェンス。特に強豪国同士の対戦になるといかに相手に点を与えないかが勝負の鍵になります。チーム全体でディフェンスのシステムを共有化し、試合でそのシステムに則った動きを着実に遂行する。これも基本ですね。そして最後がゴールキック。先ほどのディフェンスの話とも関連しますが、上のレベルになればなるほど、ディフェンスが強固になりなかなかトライを取るのが難しくなります。ラグビーの得点方法はトライだけではありません。ペナルティーゴール、ドロップゴールはいずれも3点を獲得する有効な手段です。これを極端に突き詰めたのがラグビーの母国イングランド。2003年の大会では、ウィルキンソンという天才キッカーにPG、DGを決めさせるために他の全員がカラダを張りそして優勝しましたし、2007年もほぼ同じ戦略で決勝まで残りました。

次には2003年に準決勝でNZを破った時のオハナシ。この時、豪州はつい半年前のテストマッチでダブルスコアに近い得点差でNZに惨敗しました。下馬評では当然NZの圧倒的優位。しかし実際に勝ったのは豪州でした。エディー氏はここでも三つのポイントを上げて勝因を説明しました。

まず第一にNZのトライパターンの8割が、相手のキックをキャッチしてからのカウンターアタックによるものだという事実に着目し、キック後のディフェンスの精度を高めたこと。第二にNZの司令塔であるSOカルロス・スペンサーに徹底してプレッシャーをかけたこと。第三にNZの選手たちに「考えさせる」プレーをすること。三つ目のポイントが一番興味深かったですね。実際にVTRを観ながら説明してくれたのですが、試合開始後のキックオフのボールをキャッチした豪州はとにかくボールをつなぎにつなぎ、リサイクルにリサイクルを重ね、9つのフェーズを連続して支配しました。このことで、NZの選手たちは見事に「ん?今日の豪州はちょっと違うぞ。何をやってくるかわからんぞ」と「考え」込んでしまったというわけです。NZの選手は15人すべてが優れたアスリートですので、彼らに自由にプレーされてしまったらダメージが大きい。反面、個々人の力が強すぎるが故に、細かい連係プレーには若干粗い部分がある。個人個人がてんでんバラバラのことを考え始めれば、隙が生じる。実際にその試合で豪州は針の穴ほどの隙をついて2トライを奪いました。

で、その後話はメインテーマの「ジャパンはいかにしたら世界に通用するチームになるか?」に移ります。

まずは現状分析から。昔に比べればフィジカル面は進歩しているし、好悪は別にして外国人選手の起用もうまく機能している。組織力も高い。一言で言えば、実力は高まってきてはいる、という論旨でした。しかし、世界はもっと進んでいる。例えば豪州ではすでに2019年のワールドカップを目指して、18歳くらいの年代の選手の選抜が始まっているそうです。日本は残念ながらそこまで長期的な視点での育成システムは確立されていません。結局はその場その場で高いパフォーマンスをみせた選手を選ぶ、ということに終始しています。しかしそれは国内では通用しても国際舞台ではなかなか通用しません。国内なら力づくのプレーで突破できるところが、国際舞台だと容易には突破できませんし、逆に相手選手を止め切れません。力を凌駕する技を身につけなければ戦えない。そしてそのためには技を身につける時間が出来るだけ長く必要になってくるわけです。8年なんてあっというまですからね。

さて、エディー氏の提言はまた三つ。優れたアジテーターはかならずポイントを三つにまとめる、というのは巷間よく言われる話ですが、まさにそれを地でいっていました。

まず第一は日本オリジナルのプレースタイルを確立すること。この点、具体的にどうしたらよいのか、後の質問コーナーでも専用の用紙に書いて質問したのですが、明確な答えはありませんでした。日本独自のスタイルの確立とはエディー氏のみならず、評論家や有力OBの皆さんが必ず言うことなのですが、誰に聞いても具体像がはっきりしません。そこを明確にしてもらえなかったのが当日一番残念だった点です。第二は日本人の敏捷性を活かすこと。例えば5mのスピードでは日本人は決して世界のレベルに引けを取らない。むしろ優れているそうです。その俊敏さを最大限に活かすこと。さっきのジャパンオリジナルスタイルの確立へのヒントとなる特質ですね。第三はインテリジェンスの高さを活かすこと。日本の選手というのは他の国の選手に比べて非常に教養が高いそうです。司令塔といわれるSHやSOなどのポジションにおいては、情報を取り入れる力、そしてそれを分析する力、さらには他のメンバーに向けて発信する力が重要となってきます。この点、日本の選手のコミュニケーション能力は高い教養という裏打ちがあって、非常に優秀だということです。ただ日本人の場合、教養レベルの高そうな司令塔は概してコンタクトプレー、具体的に言えばタックルが弱い気がするんですよね。ま、これは個人的感想ですけど。でも現日本代表監督のジョン・カーワン氏はSOにはほとんど外国人を起用しています。彼の場合はまずディフェンスありきですからね。先にもあげたイングランドの天才キッカー、ウィルキンソンはハードタックラーでもあります。その分怪我が多いっていう弱点もありますが…。

最後に、強化に対しては「こうあらねばならぬ」という理想の姿(ヴィジョン)を想定し、その姿に向けて努力を重ねていくべき、と締めくくりました。企業の経営者が聞いたら感涙モノの話だったでしょうね。

講演はここで終わり、次は質問コーナーになりました。以下質問と答えです。

Q.6/26に行われる日本代表対トップリーグ選抜のチャリティーマッチにおいてトップリーグ選抜の指揮を執られますが、どんな試合をするおつもりですか?
A.ノーキック(会場爆笑)観ていて楽しい試合を。そして勝つ。意欲的な日本人選手を積極的に起用したい。

Q.12歳~18歳くらいまでの選手はどのように育成していったらよいのでしょうか?
A.試合の様々な場面を想定して、その場面に即した実戦的な練習をすべき。大事なのは練習の意図をと、獲得目標をはっきりさせること。

Q. (オリンピックの種目として採用された)7人制の強化のポイントは?
A.7人制と15人制はまったくの別物と考え、7人制向きの選手を選抜し、7人制に特化した練習を積ませるべき。

Q.今年のワールドカップの優勝国は、ズバリどこ?また日本の成績は?
A.オールブラックス(NZ)。優勝国は常に優秀なキャプテンを輩出しているが、今年のオールブラックスのキャプテン、リッチー・マコーはプレー、人格ともに優勝国のキャプテンにふさわしい。豪州は2015年優勝。日本はカナダには勝つ。(日本語で)トンガ、ギリギリ(場内爆笑)。

Q.どんな日本人コーチがいればワールドカップでいい成績をあげられますか?
A.人種に関係なく、ラグビーの知識が深く、熱意と統率力を兼ね備えた人物であること。最近の若者を取り巻く環境にまで思いをめぐらして、指導できるような人物が好ましい。海外経験もあったほうがよい。

Q.明治大学の監督をやりたいという意向があるそうですが?
A.妻が明治大学出身なもので(場内爆笑)。今現在はサントリーを指導することが楽しい。以前教師をしていたこともあるので、自分のキャリアの最終目標として、大学の指導者というのは一つの選択肢ではある。

Q.(司会者から一番多い質問だったという前フリあり)日本代表の監督への就任を要請されたら受諾しますか?
A.ヴィジョンの確立、選手の育成など、あらゆる環境が整った状態ならば魅力的なポジションだと思うが、今はあまり魅力的ではない。日本協会はもっと環境を整えることに努力すべき。

以上、質疑応答も非常に中身が濃かったように思います。なかなかの好企画でした。
by lemgmnsc-bara | 2011-06-07 22:07 | ラグビー関連

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