2010年 10月 06日
『第9地区』鑑賞
以前、新聞の映画レビュー欄で高い評価を得ていたのが標題の作。劇場公開時に見に行けなかったので、DVD化されたら是非観ようと思っていた作品です。
物語は、ある日突然南アフリカの首都ヨハネスブルグの上空に巨大な宇宙船が浮かんだところから始まります。その宇宙船の中には180万人ものエイリアンが詰め込まれていました。人間とほぼ同じ知性を持ち合わせている異星人をそのままにしておくことも出来ず、宇宙船が浮かんでいる地域の真下に「第9地区」を設けて、一般の人間とは隔離し彼らを住まわすこととなります。彼らはエビに似た外見をしているので、地球人たちは軽蔑をこめて(エビは海底のごみをあさって生きている)エビと呼びます。
エビたちがヨハネスブルグに住み始めて20年経った頃、第9地区はスラム化していました。治安の維持のためにエビたちを新しい居住区(第10地区)に移住させる計画が持ち上がります。この計画を遂行するのがMNUと略称される超国家軍事機関の職員であるヴィカス。彼は一戸一戸をまわり、移住に関する同意書を無理やり取り付けます。移住に同意しないエビはMNUの戦闘部隊が容赦なく射殺してしまいます。組織の意向に逆らわないという条件の下でのうわべだけの人道主義と権利の保障。どこかの超大国のやり口をしっかり皮肉ってますな。
次々と住民たちを「陥落」させていくヴィカスはある家で、黒い液体に入った不思議な筒を見つけます。その筒をいじっているうちに、ヴィカスは黒い液体を浴びてしまいます。そこからヴィカスの悲劇が始まるのですが、どんな悲劇だったかは実際の映像をご覧くださいm(__)m。
舞台設定が奇抜なだけで、中味は人種差別と抑圧の歴史を描いたものでした。舞台を、長らくアパルトヘイト政策を採っていた南アフリカに持ってきたのも、いかにもっていう演出でした。アメリカを始めとして、いまだに世界各国に根強く巣食う人種差別の実情を分かりやすく描いていました。抑圧している側もされている側も、どこの誰とは特定していないけれど、誰もがみんな察しがついてしまう…。『仮名手本忠臣蔵』みたいなもんです。
物語の終盤近くで、エビたちを抑圧してきたMNUの戦闘員や、エビたちを相手にあくどい商売をしてきたギャングたちはすべて壊滅し、一応のハッピーエンドを迎えるのですが、解決しないままの問題が山積しているという中途半端な結末です。そもそもこのエイリアンたちは一体どこから来たのか?巨大な宇宙船を建造できるほどに科学力が優れており、また地球のものとは比べ物にならないくらい強力な武器を持っているのに、なぜエイリアンは地球を武力で支配しようとはしないのか?主人公ヴィカスの運命は?第10地区に移住したエイリアンたちはこれからも地球に暮らし続けるのか?様々に疑問は残っています。興行的には成功した作品のようですから、続編含みでわざと中途半端な結末にしているのかもしれませんが、それにしても放り出したままの謎が多すぎますね。
多少消化不良な感じはしたものの、いろいろなことを考えさせてくれる映画でした。決してたんなるゲテモノSFではなく、むしろヒューマンな映画だったと思います。
by lemgmnsc-bara
| 2010-10-06 20:09
| エンターテインメント