2010年 07月 23日
『マルコヴィッチの穴』鑑賞
以前に観た、よく意味のわからない『アダプテーション』という作品がありましたが、同じスパイク・ジョーンズ氏の監督作品であるのが標題の作。SFチックな設定に、性差を超えた愛憎が複雑に絡み合ったストーリーでした。
人形遣いのクレイグは、腕はよいのですが、難解な作品ばかり演っているのでさっぱり売れません。当然のことながら食えないので、ある会社に事務員として雇われ働くこととなります。その会社はビルの7と1/2階という、不思議な空間にありました。ある日そのクレイグはその会社の壁に奇妙な穴を見つけます。興味を惹かれたクレイグがその穴に入っていくと…。穴は売れっ子俳優のジョン・マルコヴィッチ(本人役)の脳に通じていました。15分間だけマルコヴィッチの視点で世界を体験することが出来るのです。その不思議な感覚に魅せられたクレイグは、同じフロアで働く美女マクシンと組んで、この体験を一般人に売り出します。商売は評判を呼び、連日大勢の客が押し寄せるようになります。そんななか、クレイグはマクシンにアタックするのですが、マクシンにその気はなし。むしろクレイグの妻であるロッテと惹かれあってしまいます。ロッテは「マルコヴィッチ」としてマクシンと関係し、やがてマクシンは妊娠します。ロッテ役のキャメロン・ディアスは改めて意識しないと気づかないほどに、冴えない中年女を演じていました。『メリーに首ったけ』の女の魅力満開のキュートさとは一味違った、しみったれた演技でした。彼女の懐の深さを感じさせますな^^;
ロッテとマクシンの関係に嫉妬したクレイグはマルコヴィッチの「中」に居座り、マルコヴィッチを意のままにコントロールするようになります。マルコヴィッチは俳優を辞め人形遣いとして活動していくと宣言。マルコヴィッチの知名度と、クレイグのテクニックが相まって瞬く間にクレイグはスターダムに登り詰めます。
しかし、その生活が破綻する日が刻々と近づいてきていました。「穴」を発明した人物がマクシンの前に現れ、「穴」のなぞを解説します。なんだかよくわかったようなわかんないような原理を解説されましたが、要は人間というのはDNAを乗せた渡し舟みたいなもので、子供という新しい渡し舟を作ってしまったら、もう単なる抜け殻に過ぎない、という遺伝子工学の理論のメタファーになってるってことです。肉体は滅びても精神は脈々受け継がれてゆく…。どこかの老舗の謳い文句みたいですな。
ラストで、クレイグは強引にもう一度「穴」に入り込むのですが、彼の人格はマルコヴィッチではない別の人物に入り込んでしまいます。その人物とは…。催眠術をかけて生まれる前の記憶を探ると、かなり具体的な「前世」が語られる、という現象を上手く説明するオチになってました。
なんというか、微妙な作品でしたね。設定は奇抜だし、いわゆる気持ちと体のジェンダーの不一致の問題や、自分がまったくの他人とすり替わってしまったら、というSF的な視点などさまざまな要素が盛り込まれてはいたのですが、そのすべてが消化不良。ラストシーンのクレイグの「無念さ」みたいなものの描き方だけはなかなか巧いな、と思いましたがね。まあ『アダプテーション』よりは面白かったとは思います。
by lemgmnsc-bara
| 2010-07-23 23:51
| エンターテインメント