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『飢餓海峡』鑑賞

飢餓海峡 [DVD]

東映ビデオ

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水上勉原作の推理小説を内田吐夢監督、三国連太郎主演で映画化したのが標題の作品。井筒和幸監督が「すごい映画だ」と誉めていたので、借りてきてみました。

物語は戦後間もない北海道函館から始まります。その日北海道地方を襲った台風のために青函連絡船が沈没し、多数の死者が出たのですが、そのうちの2体は乗客名簿に名前のない遺体でした。同じ日、やはり道内で強盗殺人放火事件が起こり、この放火が元で一つの街がすべて丸焼けになるほどの大火が起こります。

函館署の弓坂刑事(伴淳三郎)は身元不明の2体が強盗殺人放火事件の犯人で、犯人一味の仲間割れの結果殺されたのではないかと推理を働かします。

同じ頃、青森大湊の娼婦杉戸八重(左幸子)はひょんなことから知り合った男犬飼太吉(三国連太郎。佐藤浩市によく似てます。)を客として楼に上げ、一夜を共にします。犬飼は後朝の別れの際、八重に大金を渡し、いずこへともなく去っていきます。犬飼を追って北海道から弓坂刑事が八重のもとを訪れますが、八重は知らぬ存ぜぬを貫き通し、犬飼をかばいます。

八重は娼家への借金を清算し、上京します。最初は堅い職場で働こうとしたのですが、結局は大湊の時と同様娼婦に身を落とすことになります。満たされない思いのまま日々を送る八重にとって唯一の慰めは、犬飼が残していった大金と、犬飼が切り落とした爪を眺めることでした。

ある日、八重は新聞記事に目を留めます。その記事は舞鶴の実業家樽見京一郎という人物が刑余者の更生施設に3000万円の私費を投じたという内容で、樽見の顔写真が載っていました。その写真を見た八重は樽見が犬飼であると直感し、舞鶴まで樽見を訪ねていきます。

樽見は八重と会いますが、犬飼であることは否定します。しかし八重の執拗な追及に正体を隠しきれなくなった樽見は、八重を殺してしまいます。ちょうどその折家にいた書生の松村も一緒に殺し、心中に見せかけて二人の遺体を海に打ち棄ててしまいます。

舞鶴署の味村刑事(高倉健。わ、若い!)は様々な状況証拠から樽見が二人を殺したのではないかと疑うのですが、確証を得るまでには至りません。様々に調べを進めるうちに、樽見が北海道にいたことがあり、強盗殺人放火事件にもかかわりがあるのではないかという疑いが浮上してきます。味村刑事は北海道から弓坂元刑事を呼び寄せます。彼はその強盗殺人事件を解決できなかった責任を取って辞職し、いまは刑務所の刑務官を務めていました。

舞鶴を訪れた弓坂は樽見と対決します。このときの弓坂の「私はあんたが憎い」というセリフは、コメディアンとして人気を博していた伴淳さんの、内に秘めた演技派俳優志向の発露として名高いのだそうです。確かに決して激昂しているわけではないにもかかわらず、事件を解決できなかった責任を取って刑事を辞職して以降うだつのあがらない生活を余儀なくされた恨みと、何よりも強盗殺人放火を犯したのみならず、仲間までも殺した犯人に対する怒りが感じられるシーンでした。

樽見=犬飼は八重と松村殺しは認めたものの、仲間の二人はお互いに殺しあって海に転落したのであって、自分は手を下してはいないと主張します。果たして真相はいかに?という訳でほとんどあらすじを語ってしまいましたが、ラストシーンは実際の映像をご覧くださいm(_)m。

まだ日本が貧しかった頃の暗さをたっぷりとひきづった重苦しい作品でした。しかもその暗さが胸に引っかかって消えていかないんです。犬飼は犬飼なりに精一杯時代を生き抜こうとした結果だったんでしょうし、刑余者への援助だってせめてもの贖罪のつもりだったんでしょう。演じた三国連太郎も近頃の柔和な老人役からはまったく想像しえないぎらぎらの演技ぶりでした。一方老でいさらばえた弓坂の鬼気迫る追及も凄みがありました。一つ小さな歯車が狂ってしまうと、どんどんゆがみが大きくなりついに破綻が生じる。人生の縮図そのままの映画でした。
by lemgmnsc-bara | 2010-04-23 20:44 | エンターテインメント

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

by 黄昏ラガーマン
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