『インビクタス〜負けざる者たち』を読んだ

インビクタス〜負けざる者たち

ジョン カーリン / 日本放送出版協会

スコア:




一昨日全国公開された、クリント・イーストウッド監督の同名の映画の原作本。2週間ほど前の衝動買いツアーの際にラグビー関連の書籍棚でみつけて早速買い込みました。映画も当然観に行くつもりですが、その前に原作を読んでおこうと思い立って一挙に読みきっちゃいました。投稿するのはちょっと遅れちゃいましたが^^;。

アパルトヘイトで悪名高い南アフリカ共和国の初代黒人大統領、ネルソン・マンデラ氏の苦闘と、彼が国民融和の象徴として位置づけたラグビーとの関わり合いをえがいたルポルタージュです。

ストーリーにはマンデラ氏の苦闘の半生はあまり描かれていませんでした。終身刑を宣告され投獄されたマンデラ氏はいかにして刑務所を脱出し、大統領にまで登りつめたのか?前半はこの過程が詳細に語られます。

マンデラ氏には国内最大の黒人勢力のという「現実的」な圧力団体の後ろ盾もありましたが、なにより個人的な魅力にあふれた人物として描かれています。その魅力は「敵」であるはずの白人の公安トップを突き動かし、ついには現職の大統領との会談まで実現してしまいます。そこでもマンデラ氏は人間的な魅力で大統領を味方につけてしまいます。太閤秀吉もかくやと思われるほどの「人蕩し」ぶりですな。秀吉がカネや名誉などの「現物」を突きつけてなりふりかまわぬ「人蕩し」ぶりを見せたのに対し、マンデラ氏は無手勝流。まさに自身の個人的魅力を最大の武器にして蕩し込んじゃう訳です。

こうして敵を蕩し込んだマンデラ氏は、出獄後、初めて開かれた民主的な選挙で黒人から圧倒的な支持を受け大統領の座に就きます。

ところが国内の情勢は一向に安定しません。白人は黒人に既得権益を奪われることと今までの圧政への仕返しを極度に恐れていましたし、民主化されたとはいえ、黒人の生活も一朝一夕には改善されず、アパルトヘイトが施行されていた時以上に黒人と白人の対立は深刻化していました。

そんな中で開催されたのが1995年のラグビーワールドカップでした。この大会は南アフリカが国際スポーツへ復帰する初めての大会でした。これまで実力的には世界一と評されながら(当時南アフリカはオールブラックスに唯一勝ち越していたチームだったのです)、アパルトヘイトに対する批判にさらされて外国への遠征すらままならなかった南アフリカ代表チーム「スプリングボクス」が初めてベールを脱ぎ捨てる大会でもありました。

実力的には世界一と評されながら、南アフリカ国内でラグビーはまったくといってよいほど人気がありませんでした。俗に「サッカーは庶民のスポーツ、ラグビーは貴族のスポーツ」というくくり方がありますが、南アフリカ国内ではラグビーは一部の白人のみのものだったのです。国民の大多数を占める黒人はラグビーという競技に触れる機会がほとんどなく、当然ルールなども知りませんでした。また、時に一人の人間に多数の人間が群がってボールの争奪戦を繰り広げる様はデモの鎮圧にあたる警官の暴力的行為を思い起こさせたでしょう。たまに世界の強豪国が南アフリカに遠征に来て試合をすると、黒人たちは相手チームを応援するという分裂振り。ラグビーはアパルトヘイトの象徴という悪役を担わされていたのでした。

マンデラ氏はこの悪役を国民の心を一つにする象徴に生まれ変わらせようとします。そのためには優勝することが絶対条件。マンデラ氏はスプリングボクス主将のフランソワ・ピナールを官邸に招き、ぜひとも優勝してほしいとの願いを伝えます。

世界一を求められたチームは奮起し、開幕試合で前回の優勝国オーストラリアを破るなど快進撃を続けます。勝ち続ける過程で、だんだんと分裂していた国が一つになっていく様子は感動的でしたね。国際試合では最初からかないっこないとあきらめている日本では望むべくもない奇跡です。

勝ち進んだスプリングボクスを決勝で待ち受けていたのは、怪物ジョナ・ロムーを擁するNZオールブラックス。この試合はチームだけでなく国としての命運がかかった試合でした。スプリングボクスはタフはディフェンスでロムーを封じ込み、史上初の延長戦を制して世界一の栄冠を勝ち取ります。チームとして最大の感激であるとともに、南アフリカという国がはじめて一体感を持った瞬間でもありました。

全体に海外のルポルタージュによくあるとおり、事実を淡々と書き連ねており、特別感動を呼ぶような表現はなかったのですが、ラグビーというスポーツがもつ巨大なパワーというものがよく描かれていた本だったように思います。映画の出来栄えが楽しみですな。昨日の日経新聞の映画評欄では軒並み高評価を得ていましたし。近々鑑賞に行きたいと思います。
[PR]
Commented by miki3998 at 2010-02-07 13:10
昨日 ムービーチャンネルで この映画のメイキングビデオを見ました。 実話に基づくこの映画、実在の人物を監修者として徹底的にこだわったのだとか、イーストウッドらしいこだわりがいたるところに散りばめられた映画のようでした。 マット・デイモンも体力づくりから始まり、ラグビーも一から学んだそうです。体ももちろん精神的にもラガーマンのポリシーにすっかりほれ込んだ監督以下スタッフの努力が見ものですね。 必見の映画だと思いました。
Commented by himaru73 at 2010-02-07 15:50
ラグビーには素人の私にとっても、この映画はぜひ見たいと思わせてくれる何かがありそうですね。
面食いのはずのうちのかーちゃんが、『最高の人生の見つけ方』を見て以来、モーガン・フリーマンに敏感な反応を示すようになりました。
単に宣伝が上手いのかもしれませんが(笑)
Commented by lemgmnsc-bara at 2010-02-07 19:30
mikiさんこんばんは。毎度コメントありがとうございます。
ただでさえ興味深いストーリーなのに、監督が『グラン・トリノ』で大向こうをうならせたクリント・イーストウッドときては観に行くしかありませんね。マット・デイモンのラガーメンぶりも観てみたいですし、スプリングボクスのインサイドストーリーにどこまで迫っているのか期待に胸ふくらませております^^。
Commented by lemgmnsc-bara at 2010-02-07 19:32
ひまる。さんこんばんは。毎度コメントありがとうございます。
原作を読んだ限りではラグビーを知らなくても十分に楽しめるストーリーだと思いますよ。モーガン・フリーマンに目をつけるとはお目が高い奥様ですね。現代を代表する渋い役者の一人だと思いますよ。
by lemgmnsc-bara | 2010-02-07 09:02 | 読んだ本 | Comments(4)

なんだかんだで読んだ本のことばっかり書いてます。たまに映画、時々食い物とドライブとラグビー観戦。
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30