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『パパとムスメの7日間』を読んだ

パパとムスメの7日間

五十嵐 貴久 / 幻冬舎

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古くは『とりかへばやものがたり』、新しくは『転校生』(もう新しくもないか^^;)など、男女の人格が入れ替わってしまい、そこから生じる様々なカルチャーギャップやドタバタは、様々な小説や映画で描かれてきましたね。つい最近も舘ひろしと新垣結衣のコンビで似たような話がドラマ化されましたね、と書こうと思ったところで念のためググッてみたら、何のことはないこの本はそのドラマの原作本でした^^。

著者五十嵐貴久氏は、ここ2~3年注目している作家の一人です。最初から最後まで弛緩することなく読ませるエンターテインメント性の高い文体と、作品中に張り巡らされた様々な伏線が、最後の最後に見事に効いて、思いもよらぬ結末を迎えるところに魅力を感じています。

さて、この五十嵐氏が、古くて新しい「男女間の意識の違い」をどう料理するのか、しかも同年代の男女ではなく、父と娘の人格が入れ替わってしまうという設定の下で、どうストーリーを展開させていくのか、気がついたらひきづり込まれて一日で読んじゃいました。結構厚い本だったんですけどね。まあ、文章はさほど難しくはありませんでしたが…。

川原恭一郎(47歳・会社員)と小梅(16歳・高校2年生)は普段はろくに口もきかない関係です。難しい年頃の娘の扱い方に戸惑う父と、自我の目覚めと共に、家族よりは友人との関係を重視するようになっていった娘。私には子供がいないので、親の感情は推測するしかありませんが、子供として親の存在がうっとうしい、と思った経験は多々あります。ちょうど高校生くらいだったですね、確かに。特に母親に対してはいろいろな局面でかなり反発した覚えがあります。私の反抗など所詮、親からみれば幼児がダダをこねているようなものだったでしょうけどね。私にも高校生くらいの子供がいてもおかしくない歳まわりです。自分がもしその年頃の娘を持っていたら、さぞかし手を焼いちゃうんでしょうな。親は幼い頃の「かわいい」面影をいつまでも追い求めるものでしょう。先日、ラグビーのチームメイトが連れてきた3歳のムスメちゃんに「おじちゃんはアタチの隣にすわって!!」と言われて一緒に遊んでもらった時は、娘にめろめろになる父親の気持ちが少しだけわかったような気がしました。抱きしめて頬ずりしたいほどかわいかったんですから^^。

ハナシが横道にそれちゃいましたんで元に戻しましょう。この微妙な関係にある二人の人格が、ある事故により入れ替わってしまいます。娘の体に父の人格。父の体には娘の人格。父の人格を持った娘は、娘の日常生活どおりに高校に通い、娘を憎からず思っている先輩とデートまでします。娘の人格を持った父はそのデートを尾行し、なんとか憧れの先輩との恋を成就させようと努力するのですが、父の人格を持った娘は、その恋路を邪魔しようとして、あえて先輩に嫌われるような行動に出たりします。このへんの入り組んだ構造が一つの読みどころ。

もう一つの読みどころは大事なプロジェクトを最終決定するための会議に出席した娘の人格を持つ父親(ああややこしいし、いちいち書くのが面倒くさい!!)の発言。女子高生のナマの視点で発せられたこの言葉で、失敗が確実視されていたプロジェクトが生き返り、会社全体を巻き込む大きなムーヴメントとなります。

娘と父親の人格が入れ替わったことによるドタバタはとても良く描けていたと思います。さて、そこで気になるのは、娘と父親の人格は元の鞘に納まるのか、という問題です。この問題の解決の仕方も無理なく描かれていました。最初にも書いたとおり、作者が綿密に張り巡らしておいた伏線の一つが見事に効いての解決でした。どのような解決法だったかは、実際に読んで下さい。ちょっとゾクっとくるような解決の仕方だったとだけ言っておきましょう。

最終的にはめでたしめでたしなのですが、これを機に娘と父親の関係が劇的に改善するというようなことはありません。お互いがお互いの立場を理解はしたものの、あいかわらず、微妙な距離感を残したまま物語は終わりを告げます。きっとこの年頃の娘と父親はお互いに歩み寄るなどという関係にはなれないのでしょう。これから父親になるかもしれない私にとってはちょっぴり切ない結末だったような気がします。
by lemgmnsc-bara | 2009-12-15 20:44 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

by 黄昏ラガーマン
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