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『プレーンソング』を読んだ

プレーンソング

保坂 和志 / 中央公論新社

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かなり以前に『書きあぐねている人のための小説入門』という本を読んでちょっと気になっていた作家保坂和志氏のデビュー作。

保坂氏は『書きあぐねている-』の中で、「文章を書くことと小説を書くことは違う。文章はわかりやすく意味を伝えることを主眼とするが、小説は、文章の意味の通り具合よりも、現実のゆがみやひずみを如何に書き表すかに重点が置かれる」というような主旨の文を書いており、なるほど、と思ったのが興味を持ったきっかけです。興味を持ってすぐの衝動買いツアーの際に、この本は買い求めていたのですが、2年近く「積ん読」していました^^;。

物語は、主人公が練馬の中村橋(当家の現住所の結構近くだったりします)に大き目の部屋を借りて住むことになったところから始まります。大きな部屋に引っ越すことになったのは、ある女性と結婚するためでしたが、結局その女性とは結婚に至らずに別れてしまいます。なのに、引越しだけは決行してしまう主人公。なんだかよくわからないキャラクター設定です。

この広めのの部屋(2LDK)にはさまざまな青年たちが出入りするのですが、アキラとよう子の二人は直にこの部屋に住み着いてしまいます。主人公は会社員らしく、時々会社に出勤するなどの描写が出ては来るのですが、出社時間は昼前になってみたり、下手をすると夕方になってみたり。平均的なサラリーマン生活(仕事の質は平均以下ですが…)を送っている私としては、この辺の曖昧さが変に気になったりします。それと、やはり如何に緩やかな関係だとはいえ、他人と一緒に暮らすのはいやだなぁ、という感じがしますな。しかも、すべての人間の生活費を負担しているのは主人公。作者は、そうした社会的規範のようなものや、プライバシーの問題を超越した青春群像を描きたかったのだと思いますが、最早中年に差し掛かっている私としてはその超現実感には少々違和感を感じましたね。

やがて、この部屋にはもう一人、男性が転がり込み4人の奇妙な共同生活は続きます。アキラはブラブラしてるし、よう子は毎朝野良猫に餌をやるために近所を徘徊します(この餌代だって主人公持ちですよ^^;)。もう一人の居候の島田は、会社を特にたいした理由もなくやめ小説家を目指すつもりですが、自分の家を探そうとはしません。よくわからない関係性ですね、実に…。

物語はアキラの友人を一人加えた5人で海に行きそこで何か結論じみたことを描き出すでもなく、やや唐突に終わってしまいます。解説の四方田犬彦氏はこの終わり方について「アメリカの青春小説などによくあるように『これが私が作家としてデビューする前の最後の夏だった』みたいな振り返り視線で終わっていないところがよい」というような主旨の文を書いていますが、今のままの終わり方だと余韻も何にもないと思います。よく考えると現実的にはありえないシュチュエーションの作品、という意味では村上春樹氏に近かったのですが、村上氏よりも訳のわからん作品でした。
by lemgmnsc-bara | 2009-10-17 21:53 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

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