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All About 身辺雑事

『我が道 松尾雄治』を読んだ

「我が道」松尾雄治

スポーツニッポン新聞社(編集)/スポーツニッポン新聞社

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1980年代前半の日本ラグビー界に絶対的な王者として君臨していたのが新日鉄釜石(現釜石シーウエイブス)。寡黙な「北の鉄人」たちを率いて日本選手権7連覇という前人未到の偉業を成し遂げた司令塔が松尾雄治氏。スポニチ紙上で一ヶ月にわたり連載された松尾氏の半生記を一冊にまとめたものが表題の書です。

松尾氏は釜石の司令塔であるとともに、日本代表(以下ジャパン)の司令塔をも長年務めました。レッドドラゴンと呼ばれ、当時世界最強の名を恣にしたウエールズを相手に演じた24-29の大接戦をはじめ、数多の国際試合にも出場し、現在に到るまで、ジャパン史上最高のスタンドオフ(異論も多々ありますが…)と語り継がれています。

そんな松尾氏を作り上げたのは、練習。中学、高校、大学、社会人、ジャパン、どのステージにおいてもとにかく練習したそうです。現役時代のプレーには、攻撃が鮮やかである反面、守備が弱い(つまりガツンガツンとタックルに行くことが少ない)というイメージがあったのですが、ラグビーというスポーツの性質上、一定レベルに達するまでにはどうしても高強度の練習はついて回ってきます。どんなにセンスが良くても、どんなにパスが上手くても、まずは走れて、最低限一試合に数回は相手のラッシュを受けても耐えうるフィジカルの強さがなければ、選手として大成することはできません。強力なFWがいた明治大学、釜石出会ってもそれは一緒。松尾氏はどちらかといえば優男の部類に入る体型ですが、体の芯を強くするための鍛錬は油断なくしっかりやったんでしょうね。とはいえ、現代の、BKにはパワーランナーを揃え、かつFWのライン参加が多数発生するようなラグビーにはちょっと不向きだとは思います。

現役を退いてからは、持ち前の明るさと、機転の利いたトークで、一時期はスポーツ番組を中心にタレントとしても活躍していました。このことは「ラグビーで得た名声をタレント活動に利用している」として、ラグビー協会のお偉方たちの覚えを悪くしたようです。本来なら、平尾氏や向井氏の世代がジャパンの監督を務める前に彼が務めるべきだったように思いますがね…。そんなことを思っているうちに高額の金額をかけた賭博が発覚して、一気にマスコミから干されちゃいました。そのことに触れたのはほんの数行でしたね。本人にとってはあまり触れたくないおハナシなんでしょう。ちなみにこのことで明治大学のラグビー部のOB会からは除名もしくはそれと同じ程度の重い処分がくだったはずです。結果明治大学の監督になる道も閉ざされちゃいました。彼が、ラグビー界の中心にいたら、もっと今回のW杯の盛り上げ役として活躍したであろうと思うと残念な限りです。彼の「軽さ」が悪い方に転んでしまった最大の例でしょう。

最近、ビートたけし氏のオフィス北野退所に際し、いち早く自身の脱退を表明したことでちょっと話題になりましたが、現役時代に比べれば随分としみったれた扱いしか受けていません。自業自得と言ってしまえばそれまでですが、彼の才能を活かす場がないというのは返す返すも残念です。



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# by lemgmnsc-bara | 2018-04-24 17:05 | 読んだ本 | Comments(0)

『沈黙の制裁』鑑賞

沈黙の制裁 [Blu-ray]

スティーヴン・セガール,ヴィニー・ジョーンズ,バイロン・マン,ラウロ ・チャートランド/アメイジングD.C.

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駄作ぞろいと名高い、スティーブン・セガールの『沈黙シリーズ』中の一作。『沈黙シリーズ』は、映画会社の宣伝部が、セガール作品ならなんでも邦題には『沈黙の〜』とつけてしまえばいい、という思い込みで文字通り何でもかんでも沈黙の、になってしまったようで、本当の沈黙シリーズというのは二作しかないそうです。この作品は正統派沈黙シリーズとは別口のようです。まあ、沈黙とつこうがつくまいが、セガールの作品ってのは、凄腕の傭兵である主人公が仲間とともに悪の組織に立ち向かい、最終的に勝利をおさめるっていう筋立てでしかないので、勧善懲悪な結末に至るまでをどう楽しむかってのが、鑑賞の醍醐味ってやつです。

さて、本作の敵役はロシアンマフィア。若い女性を、ギャラが高額なベビーシッターとして雇うという名目で自宅に引っ張り込んでは、嬲り殺しにするのが趣味という変態野郎が頭目。その頭目の元を、殺される寸前で逃げ出してきたおねーちゃんを、セガール演じるところの、通りすがりの凄腕の傭兵ジョン・アレクサンダーが助け、それが原因で、ジョンとマフィアの一大軍団が全面戦争になるというのがメインストーリー。

見所であるアクションシーンは、多くの人から「全く動かないジョンに、相手が雨あられと打ちまくる銃弾が全く当たらない」というツッコミが入ってましたが、まさにその通り。その昔のアメリカ製の戦争映画では、米軍の軍艦や戦闘機には全く弾が当たらずに、敵軍のそれらにはボカスカ当たるという「アメリカの正義」が描かれましたが、その思想を人間にも適用したってところですかね。「アメリカの正義」には毛ほどの傷もつけちゃいけない。このルールこそがこのシリーズ最大の武器なのだと思いますね。一方で、相棒であるアジア系の顔立ちのキャラクターは散々に殴られたり、撃たれたりします。このキャラクター、背後から、胸を貫通するほどの至近距離で撃たれたというのに、次の瞬間には立ち上がって、ジョンの手助けをしたりします。いかに撃たれたのが右側の胸で、心臓にダメージはないという理屈をつけても、撃たれる前と全く同じ動きができるわけねーだろ、ってのがこの作品の最大のツッコミどころ。

まあ、かの水野晴郎先生のシベリア超特急と同様、いくつのしょうもないツッコミどころを見つけることができるか、というのがこの作品の「正しい」鑑賞方法なのだ、ということにしておきましょう。



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# by lemgmnsc-bara | 2018-04-24 16:34 | エンターテインメント | Comments(0)

『網走番外地 北海篇』鑑賞

網走番外地 北海篇 [Blu-ray]

高倉健,千葉真一,田中邦衛,杉浦直樹,嵐寛寿郎/TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)

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高倉健氏の代表作『網走番外地』シリーズの四作目。仮釈放で娑婆に出た主人公橘真一(もちろん健さん)が大型トラックの運転手として様々な人物と関わり合っていくというロードムービーです。

じつは私は今まで、健さんの作品といえば『鉄道員』や『幸せの黄色いハンカチ』といった「いい人」を演じたモノしか観たことがありませんでした。しかしながら、健さんをスターダムに伸し上げたのは何と言っても任侠モノ。かねがね任侠モノを観てみたいと思っていたのですが、今回、Blu-Rayに録り溜めておいたものを観る機会に恵まれました。ちょうど健さんが逝去された時に追悼番組として放映されたやつだと思います。

基本的に健さんはどの作品でも「正義の味方」ですね。罪人ではあっても、決して悪人ではない。刑務所で同房の若いヤクザ葉山(千葉真一。若い。息子の真剣佑ソックリ)が重病だと知るや、厨房に余分に食い物を分けてもらえるよう頼んだり、娑婆にいる葉山の家族の様子を見てくることを請け負ったり。悪徳看守に反抗して、看守とつるんだ一派と大乱闘を繰り広げてみたりもします。この大乱闘を何事もなかったかのように沈めたのが嵐寛寿郎演じる8人の人間を殺したという鬼寅。「いよっ、鞍馬天狗!!」とでも合いの手を入れたくなるような、見事なドスの利かせ方。こちらも罪人ではあってもスジの通らないことは許さないという正義感に満ち満ちています。

で、娑婆に出た橘は葉山が受け取るはずだった給金をもらうために運送会社へと向かうのですが、火の車の財政状況を誇るこの運送会社の社長は金を払おうとはしません。払いようにも払えないという状況を見てとった橘は、大雪のために交通が麻痺した地域に大型トラックで乗り込むという業務を請け負うこととなります。

このトラックには見るからに怪しい人物が二名始めから乗り込んでいます。さらには運送会社社長の娘(大原麗子。こちらも若い。後年の「しっとり感」ではなく、いまのKPOPのアイドルを思わすような派手な顔つきで、おキャンな娘を演じてました)やら、通りすがりの怪しい男やら、心中相手に逃げられた女やら、怪我した幼い娘とその母親やら、ワケありの登場人物がどんどん増えていって、その人物たちが相互にいろんな関係性を構築していくことになります。

正義の人、健さんは弱気を助け、強きを挫くというオイシイ役どころをしっかりと演じています。この作品は、主人公はあくまでカッコよく、敵役は憎々しくてとことん卑劣な人物として、実にわかりやすく描かれています。歌舞伎の手法を踏襲しているんだと思いますが、悪役は、いかにも、な顔つき、衣装、仕草で、どう考えたって最後にこいつは成敗されるなってのがわかっちゃいます。単純なつくりですね。

作品の公開年は1965年(私はまだ生まれてません。ようやく父と母が知り合ったくらいの時期です 笑)とあって、先にも述べた大原麗子をはじめ、出演者が皆若い。鬼籍に入って久しい由利徹氏はコメディーリリーフとして、しっかり存在感を示していましたし、強引な関西弁を駆使する田中邦衛、肌がツルツル、ツヤツヤしている藤木孝など「若いって素晴らしい!」と叫ばざるを得ないような画面写りでした。

筋立てといい、キャスティングといい、古臭さは否めませんでしたが、日本にはこうした作品がウケた時代があったということです。男は寡黙で己の信念を心の内に秘めながら現実の理不尽さを耐え忍ぶモノだ。こういうヒーロー像は今の世ではウケそうにありません。それがいいことなのか悪いことなのかはにわかには判断できない問題です。この問題は一旦脇において、このシリーズをいくつか観てみたいと思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2018-04-24 16:07 | エンターテインメント | Comments(0)

『ウォークライ』(全8巻)を読んだ

ウォー・クライ コミックセット [マーケットプレイスセット]

竜崎 遼児/ワニブックス

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高校ラグビーを題材としたスポ根漫画。『どぐされ球団』の作者竜崎遼児氏がラグビーというスポーツをどう料理しているのかに興味を惹かれ、衝動DL。

舞台は創立1年目の扶桑高校。校長兼ラグビー部の監督は元日本代表のラガーマン。犯罪を犯して少年院送りになった者、あるいはそれと同等の悪たれどもを集めてラグビー部を創り、そこで少年たちを更生させようってのが目論見、って『スクールウォーズ』(それもどちらかというとパート2)の設定そのまんまじゃねーかよ!

最初の試合で強豪校と当たって、惨めな大差の敗戦を喫し、そこから発奮して猛練習に励み、ってモロにそのまんまの展開がしばらく続きます。

この作品の連載時期は1980〜81年。有名な伏見工業vs大工大高(そう言えばこの両校とも校名が変わっちゃいましたね…)の決勝が1981年の正月で、書籍としての『スクールウォーズ』の出版はそれよりももっと後になってのオハナシですので、こちらの方が先、とも言えるのですが、伏見工業のエピソードはこの作品のもっと前ですから、マスコミ等を通じて伝えられたエピソードの数々に竜崎氏がインスパイアを受けたであろうことは想像に難くありません。

ストーリーは王道のスポ根モノです。一度叩きのめされた相手にリベンジするまでの血と汗にまみれた猛練習の日々と、キャプテンである叶の苦悩、校長からこの悪たれたちの「調教」を任された女監督なんかが出てきて、それなりに読ませるストーリーが仕掛けられています。

数々の強豪との対戦、NZの高校生チームとの対戦などを経て、最後には少年院のチームまで出てきて、ケンカというよりは殺し合いに近いような試合をやったりもするのです。このチームの必殺サインプレー「アマゾネス」なんてのも登場しますが、これはちょっとラグビーをかじったことのある人なら、実現性の極めて低いプレーであるとすぐにわかってしまう必殺技です。こういうところがフィクションとノンフィクションの決定的な違いですね。

物語の終結部分では、今までの敵味方を問わないメインキャラたちが勢ぞろいして、日本代表チームとして、オールブラックスと対戦することとなります。試合は一進一退で最後の最後まで結果がわからないままのストーリー展開となります。

この作品の発表時点ではW杯も開催されていませんので、オールブラックスとは対戦することも難しかったし、ましてや互角に戦うなんざ、夢のまた夢、人類が木星で暮らすのと同レベルの不可能なオハナシでした。しかしながら2015年のW杯の「ブライトンの奇跡」以降、月面で生活するくらいの距離感に縮まってはきたように思います。このストーリーの最後で描かれたような熱戦の末、ジャパンがNZを破って優勝、なんてな2019年W杯になってくれたらいいな、ってのが読後に最も強く感じた感想でした。


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# by lemgmnsc-bara | 2018-04-21 08:03 | 読んだ本 | Comments(0)

『クレージー作戦 くたばれ!無責任』鑑賞

クレージー作戦 くたばれ ! 無責任 [DVD]

クレージー・キャッツ,浜美枝,藤山陽子,淡路恵子/東宝

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クレージーキャッツの「無責任シリーズ」中の一作。『ホンダラ行進曲』や『ハッスルホイ』などのヒット曲も劇中に効果的に散りばめられた快作です。

鶴亀製菓の冴えない総務課員田中太郎(植木等)が主人公。彼は徹頭徹尾やる気がなく、何事に対しても常に一歩どころか二百歩も三百歩も引いて、オドオドオドオドしている人物という設定がなされています。彼を取り巻く世界は全てモノクロ。クソ面白くもない人生のメタファーとしてこの表現方法はなかなか効果が高かったように思います。

彼の人生を一変させたのは、「悪役」である鶴亀製菓の石黒専務(山茶花究’名前はいろんなところで見聞きしてたんですが実際の映像を観るのは初めて。表面上は強面ながら、実は腹黒くて器の小さい人物って役がピッタリハマってましたね)の肝煎りで開発された「ハッスルコーラ(スポンサーの日本飲料が当時製造販売していたペプシコーラの実際の製造現場のシーンがハッスルコーラの製造シーンとして挿入されていたりもします。瓶のラベルのロゴとか、非常に懐かしかったです)」。このコーラには特殊な成分が含まれており、田中はそれを飲んだらたちまち元気ハツラツ、というよりは一気に典型的なC調(調子いい、のアナグラムであるということを最近知りました、ってかっこ付きの注釈ばっかり)モーレツ社員に変身して、会社の重役相手に大風呂敷を広げるわ、バス待ちの列に横入りしてきたいかついおっさんを追い払うわ、このことで彼に好意を寄せてきた美女恵子(浜美枝’わ、若い。しかも綺麗)ともいいムードになります。

ん?でもこれって、昨今問題となっているエナジードリンクの効果を少々大げさに描いただけじゃん。薬物とか危険ドラッグも種類によってはこんな「効能」を謳い文句にしてなかったっけ?ってなツッコミ視点を持ちつつも鑑賞続行。

このツッコミへの回答はすぐさまストーリーに示されます。役所の認可のおりていない成分が含まれているということで、ハッスルコーラは売ることができないという予見が登場人物の口から語られます。しかしながら、開発に会社の資金を多量につぎ込んで売れもしない商品を作ったという責任を追及された専務は、窮余の一策として販売子会社を作って、責任をそこになすりつけることを提案します。同時に田中とその上司の大沢(ハナ肇)をはじめとする会社の厄介者計7人(残りの5人は全てクレージーキャッツメンバー)をも一掃してしまう、という妙案に重役連中も同意します。

体良くスケープゴードを押し付けられた7人ですが、そこでくじけないのが「ハッスルコーラ」の威力。商道徳からすると反則となるような様々な手練手管を用いて、大逆転に持っていくというのがメインストーリー。その商戦の過程で随所にいろんなギャグが盛り込まれるという仕組みです。正統派二枚目の上原謙や、のちの黄門様東野英治郎らがコミカルな演技を繰り広げているのも見所。作りはシンプルながら、素材の良さと香辛料の利かせ方の巧さで見事な作品に仕上がっていると思います。

最後の最後でクレージーの面々がその名も『くたばれ!無責任』という曲を、会社前の大通りをミュージカルのように歌い踊りながら行進していくシーンも清々しい。歌の歌詞もいい。『安いサラリーでこき使われて』とか『ペコペコペコペコ下げるために頭はあるんじゃない』とか、拍手喝采したくなるような言葉の数々。全てのストーリーは最後のこのシーンの前フリだったと言って良いくらいです。

いつの世もサラリーマンにウケるストーリーってのは不変なんだな、とも思わされました。



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# by lemgmnsc-bara | 2018-04-17 20:43 | エンターテインメント | Comments(0)

『野球エリート 野球選手の人生は13歳で決まる』を読んだ

野球エリート 野球選手の人生は13歳で決まる (講談社+α新書)

赤坂 英一/講談社

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選抜高校野球は前評判通りの力を見せつけて大阪桐蔭が優勝し、プロ野球も開幕しました。球春たけなわといった昨今ですが、今年の選抜には群馬県代表が出ていなかったので、私自身はほとんど興味をそそられなかったし、プロ野球についてもジャイアンツの岡本の「覚醒」が本物か否かを見極めたくはありますが、何を置いても、というほど注目しているわけではありません。せいぜい夜中のニュースのスポーツコーナーを観るくらいのレベルです。

私自身の興味はさておき、活躍と年収が見事にマッチし、トップクラスともなれば、普通のサラリーマンが生涯かけて得る賃金を上回る年俸を獲得できるプロ野球選手というのは魅力的な職業であり続け、その大きなステップの一つが高校野球であることは間違いありません。高校野球というステージにおいて、最も注目されるのが甲子園出場。一人の優秀な選手を酷使して、その将来を大きく損なってしまう恐れもある「ハレの場」という側面も持ち合わせてはいますが、スカウトたちの「見本市」としての性格も色濃く持っていますね。件の大阪桐蔭などはレギュラーのほとんどがドラフト候補と言われているほどです。

さて、表題の書は甲子園球場での活躍が大いに見込まれ、その後にはプロ野球(日本とは限りません)の未来を担うであろう選手達にフォーカスし、彼らが幼少時からどのような生活を送り、どのような努力を重ねてきたかを克明に描いたルポルタージュ集です。

受験生を増やして経営を楽にするために、高校の名を手っ取り早く上げたいと思えば、スポーツの世界で実績を示すことが一番効果的と一般には考えられています。それゆえ、各種の少年スポーツ団体にはその種目の強豪校のスカウトが定期的に巡回してきて、将来が有望と考えられる少年少女を捕まえようとするのはごく自然なこと。東北地方の高校なのに、選手として名を連ねているのは関西出身者ばかり、などという「歪み」はどこの「強豪校」においても大なり小なり見られるはずです。

現状では、まずこの高校レベルでその他大勢と、一握りのエリートにしっかりと分けられてしまいます。その一握りに入るために、選手本人はもとより、親、家族がそれこそ我が身を削るようなサポートを続ける、というわけです。かのイチロー選手ですら、本人の努力、才能はもちろんのこと有名な「チチロー」氏の協力無しには今の姿はなかったと言われていますね。

まさに受験戦争さながら、それも東大を頂点とする偏差値ヒエラルキー内の争いが可愛く感じられるほどの熾烈さです。一人が大学に行けば、一族全員が食えるようになるがゆえに、親戚中がそれこそ半狂乱で受験勉強に追い立てる中国や韓国を思わせる、恐怖すら感じる状況があります。

この本で取り上げられている、今年のドラフトの目玉候補の一人、大阪桐蔭の「三刀流」、根尾選手もそうした野球エリートです。ずば抜けた身体能力とセンスに加え、家族に支えられて練習したからこそ、今の姿がある。当家に子供はいませんが、もし子供がいたと仮定して、自分にはここまでのフォローはできないな、と思わされてしまうほどの手厚いフォロー。そしてプロを目指す、というレベルの選手のいる家庭では、すでにこの程度のフォローは当たり前になっているというのですから、野球エリートも楽じゃないですね。「来た球を思いっきり打つ」などという単純な思考法では到底大成などできそうにありません。

そんな努力を続けた結果として、首尾よくプロ野球の世界に飛び込めたとしても、そこでの成功は、それ以前よりはるかに難しいですね。高校時代の成績から、大いに期待されてプロの球団に入ったものの、一向に実績を残せないまま、二軍でくすぶっている古澤勝吾選手の例が挙げられていましたが、素質に恵まれていたが故に、過去において見過ごされて来た小さなほころびが、プロのレベルでは大きな弱点として牙を剥いてくるというわけです。

古澤選手の所属するホークスの二軍監督水上氏の「壁にぶち当たる、というのは目的がしっかり定まって、そこに到達するのが難しい状態を指す。古澤の場合は自分の目指す方向すら定まっていないから、壁にぶち当たる以前の問題で、ただ自分の殻が破れていないだけ」という言葉が実に重く響きました。会社における私の状態そのものだって、気づかされてせいですがね(苦笑)。

壁を越えるなり、殻を破るなりして、どれだけの選手が活躍を見せるのか?そう考えるとプロ野球も高校野球も今よりは興味深く観ることができそうな気がします。私のようないらぬウンチク好きには、こういう背景を知ることの方がむしろ野球観戦の醍醐味だと言ってよのかもしれません。



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# by lemgmnsc-bara | 2018-04-05 11:59 | 読んだ本 | Comments(0)

『暴力団』を読んだ

暴力団 (新潮新書)

溝口 敦/新潮社

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いわゆる、社会のアウトローたちの姿を描き出すことをメインテーマに作品を発表しているライター溝口敦氏のど真ん中のルポルタージュ。題名どおり現在は反社会的集団といういかめしい名称に変わりつつあるアウトロー中のアウトロー「暴力団」の現在の姿と、その歴史について詳説してくれています。氏自らが前書きで語っている通り暴力団に対する「入門書」という趣のある一冊です。

バブル華やかなりし頃、私の職場は新宿にありました。飲みに行くのは歌舞伎町で、本を買うのは紀伊国屋、服を買うのは伊勢丹のデブ専バーゲンって決まっていました。歌舞伎町の毒々しくも賑々しい佇まいは否応無しに毎日見物させられてましたね。そんな街のケバケバしさの陰に蠢いていたのが、件の暴力団の皆さまでした。当時、すでに風営法が施行されていて、往時を知る人々からは「歌舞伎町からは怪しげなスポットは随分減った」と言われていましたが、それでもちょっと脇道に逸れると少々怖さを感じる街ではありました。その怖さを演出していたのが誰あろう暴力団の皆様だったのです。ポン引きから、裏ビデオに裏本といった、いわゆるいかがわしいモノゴトについて声をかけて来る方々というのはいかにもそれっぽいって方々ばかりでした。一度など、ちょっとした裏路地の暗がりで怪しさをそのまま包んだような、新聞紙の包みが怪しい風体の人甲から、同乙に手渡されている現場に出くわしてしまったことがありました。関わり合いになると、下手すると翌朝東京湾に浮かんでいるかも知れない、という恐怖が襲ってきて、急いで本来は通るはずでなかった路地に逃げ込んで、ここぞとばかりに腕を引っ張らんばかりに寄り付いて来ようとするポン引きたちをステップを切ってかわしながら(当時はそういうことができたんです)足早に立ち去った覚えがあります。

現在は石原都政の数少ない功績の一環で、少なくとも表通りはかなり浄化され、歌舞伎町は随分と健全な顔を見せていますが、それでもこの街に事務所を構えている、その筋の方は多く、1000人以上もの方々が、いまだに跳梁跋扈しているそうです。うっかりすれ違いに肩もぶつけられない街だってことです。

歌舞伎町の例は少々極端で、その筋の方々の絶対数は減少の一途をたどってはいるそうです。新暴対法が施行されて、シノギの方法が大幅に減少したことも大きな要因の一つですが、一番は若者の意識の変化だそうです。この世界は俗に「親が黒と言ったら白いものでも黒」と言われるような、絶対的な封建制がいまだに幅を利かせています。そもそも食って行くことすらおぼつかないのに、その上、理不尽な「身分制度」に拘束されなきゃならないとしたら、今の若者にはウケるはずがありません。以前ならボーダーラインにいてちょっとしたきっかけで悪の道の方に転んでいった人間が、せいぜいかなり色の薄いグレーゾーンをちょっと体験してマトモな人間の方に戻って行く。どこかのスポーツ界と同じような構造が出来上がってますね。

こうした人々の減少は喜ばしいkじょとではあるのですが、一方で溝口氏は、グレーゾーンの減少もしくは消失に対して警鐘を鳴らしてもいます。良くも悪しくも日本人の特質であるのが曖昧さ。白黒はっきりつけられないもめごとが日々起こっており、そこに介入して「調整機能」を担ってきたのがこうした方々なのですが、こうした曖昧さがなくなってしまうと、妥協点を探ることがなくなり、交渉決裂、即戦争、勝っても負けてもお互いが膨大な血を流し、後に残るは遺恨ばかりなりという事態が出来するのではないか、というのです。

溝口氏はこの事態をヤクザのマフィア化と呼んでいます。四の五の言わずにすぐにドンパチやって決着をつけるような集団が横行したら、日本は平和国家だなどとは口が裂けても言えない状態に陥ってしまいますね。

彼らを必要悪として残すのか、それとも文字通り根絶やしにするのか?石川五右衛門ではありませんが、「世にトラブルのタネはつきまじ」、トラブルの影には暗躍するものありです。叩いても叩いても、こうした「調整機能」を担う集団はどこからか現れてくるのでしょう。



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# by lemgmnsc-bara | 2018-03-31 18:16 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 15 照影の章』を読んだ

岳飛伝 十五 照影の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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岳飛伝の15巻目。いよいよ三大勢力の直接のぶつかり合いが始まりました。

南宋の程雲という将軍が実にいやらしい動きを見せます。岳飛一人に狙いを定め、彼を討ち果たすために、軍の動きを感知されないよう、大多数の味方にも内緒のまま自ら城砦作りの一兵卒に身をやつして「気配」を完全に絶ってしまうのです。そして実際に後一歩というところまで岳飛を追い詰めるのですが、岳飛は命からがらなんとか逃げ切ります。戦闘で深手を負った岳飛は、しばらくの間生死の境をさまよいますが、回復したら即、身の回りの世話(シモの世話を含む)を焼いてくれた女性と関係を持ってしまったりもします。人間臭いというか男臭いというか、決して清廉潔白一辺倒の男として描かれないところがリアルですね。大敗を喫した岳飛が今後どのように生まれ変わった姿を見せてくれるのか?興味は尽きません。

南方から北上して来たもう一方の雄、秦容も一度程雲の巧妙さの前に、軍全滅の危機に陥りそうになりますが、持ち前の「嗅覚」のおかげで、程雲の包囲網のほんの少しのほころびを突いて一点突破し、ほぼ無傷で金国軍に相対する位置まで軍を引っ張り上げます。

南宋は、岳飛、秦容を程雲が追う一方で、梁山泊軍の南の本拠、小梁山を攻めるための船を続々と作り上げ、南方に集結させていきます。宰相秦檜は大病を患っていて徐々に弱って来ているという設定。秦檜に息あるうちに梁山泊を倒し、返す刀で金国軍を追い払おうと企図する程雲ですが、まずは梁山泊軍との戦いに注力していくようです。

金国は海陵王の梁山泊軍との開戦の決意待ち。将軍の兀朮はすでに臨戦体制なのですが、人を動かし、死なせることの怖さを知った海陵王はなかなか肚が定まりません。梁山泊は梁山泊で。兀朮を最高権力者にしてしまうよりは、人間としての器が小さい海陵王を王座に据えておいたほうが組し易しとみて、いざ海陵王が出張って来ても、わざと撃ち漏らすように将校たちに指示を出したりします。下手な味方は敵より怖いとはよく言ったもので、才能のない人間が、特に上にいると組織全体が機能不全になりますな。どこかの会社の管理職に突きつけてやりたい物語です。

三者三様に風雲急を告げる展開となった今巻。物語がどのような結末を迎えるのかが、楽しみでもあり、寂しくもありというところですが、まずは、結末前に描かれるであろう、一大決戦を楽しみにしておこうと思います。





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# by lemgmnsc-bara | 2018-03-21 15:43 | 読んだ本 | Comments(0)

『甘いもの中毒 私たちを蝕む「マイルドドラッグ」の正体』を読んだ

甘いもの中毒 私たちを蝕む「マイルドドラッグ」の正体 (朝日新書)

宗田哲男/朝日新聞出版

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しばらく前から「ダイエット理論」の中で、大きな支持を集めている「糖質制限」の効用について述べた一冊。題名通り炭水化物を含む「甘いもの」を摂取することの弊害を説くとともに、いかにして糖質の摂取を制限していくかのノウハウについて書き記しています。

著者宗田氏自身が糖尿病を患っており、その治療のために糖質を制限し始めたらすこぶる元気になったという事実がまず述べられます。何しろご自身が体験したことですから、記述の一語一語の重さが違いますね。

そして産婦人科医師として、胎児に糖質が必要ないという知見を得、胎児に必要ないものは成人にも必要ないものだ、とも述べています。人間には元来体内で糖を生成する能力があり、わざわざ糖質を摂取する必要などなく、過剰に摂りすぎた糖質が体内に様々な不具合をもたらし、ひいては重篤な疾患に繋がっているのだという意見には一理あるように思います。人類がエネルギーを穀類に多く含まれる糖質から得るようになったのは歴史的に見るとつい最近のオハナシであり、比較的容易に、かつ安定的に収穫できることから、生活に密接に結びつきはしたものの、生物としては不自然な栄養摂取方法なのだということ、また「主食」が穀類であるという認識は後天的に繰り返し刷り込まれた「知識」であって本能でもなんでもない、という説はすんなりと納得できました。長命の方が一定量の肉を必ず召し上がっている、というのを考え併せても、肥満体質の人間はほぼ例外なく甘味や穀類が好きだという自分自身も含めた実体験を鑑みても、穀類に偏った食生活の不自然さについてはよくわかります。

医師としての見地からは現状の医療体制について、一つの重い疑問をも呈しています。それは医療というものの根幹に関わる疑問です。現在の「医療産業」は、軽微な不調を長引かすことで、薬や治療の「需要」を生み出しているのではないか、という宗田氏の指摘は実に重い。私が長らく付き合っているうつだって、薬品メーカーの大々的なキャンペーンが、この病を人口に膾炙させたというのは事実です。まあ、そのキャンペーンがなければ、私の現在の不調は単なる甘えとか怠け病とされてしまっていたでしょうから、そういう意味では、私個人としてはキャンペーンに感謝することしきりなんですけど(苦笑)。

閑話休題。

宗田氏の結論は、糖質ではなくてケトン体をエネルギーに転化できるよう食生活を改めるべきだ、というものです。具体的には、穀類の代わりに肉や魚、野菜で必要なカロリーを摂取するよう食生活を工夫する、ということになります。どんぶり飯を食うなら大きなステーキを食う方が良い。マグロの赤身ならなお良い。菓子や甘い飲料などは毒も同然。これは今までに読んだ「糖質制限」解説本とほぼ同じ結論です。しかしながら、わかっていても手が出てしまうのが中毒というやつです。私などはかなり重症の中毒患者と言って良いと思います。

しかも、糖質は別に違法でもなんでもありませんし、「主食」として、食事の主役級を占めるのが世の「常識」。コンビニでもスーパーでもかなりのボリュームで棚を占めていますし、今やオフィスに定着した「置き菓子」などは糖質以外のものは見当たりませんね(いうまでもなく、煎餅もポテチも炭水化物≒糖質ですね)。「中毒者」にとっては地獄と言うべきか、天国というべきか。出来うる限り我慢してみようと思う、としか言いようがありません。

なんてな本を読んだ矢先に、糖質制限をすると廊下が早まったり若死にのリスクが高まる、なんて学説が発表されたりもしました。一朝一夕には結論の出ない問題のようです。個人差もありますしね…。ま、とにかく食事の絶対量を減らして、運動による消費カロリーを増やす、というのがダイエットの王道であることだけは間違いないでしょう。



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# by lemgmnsc-bara | 2018-03-21 12:51 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝14 撃撞の章』を読んだ

岳飛伝 14 撃撞の章 (集英社文庫)

北方 謙三/集英社

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トラックで行われる徒競走に例えれば最終周の第4コーナーに突入したところといった風情の『岳飛伝』第14巻目。

今巻ではいよいよ岳飛軍と秦容の軍とが本格的な北上を開始します。頭数こそ少ないものの、両軍の強さは圧倒的。当初は刺客として送り込まれながら味方につけた「高山兵」の活躍もあり、野戦、攻城戦ともに連戦連勝。久しぶりに、疾駆する騎馬隊によってまき起こされる殺気を孕んだ風や、血の臭いまでを生々しく感じられるような、北方氏の描き出す戦闘シーンを堪能しました。こういう男臭さがあるからこそ、軟弱な男からの人生相談に対し「風俗へ行け!」と言い切れる力強さが出てくるんだと思います(笑)。

南宋は陸戦では負け続きですが、巨大な船団を編成して、秦容の本拠地である小梁山を攻め取るという戦略を巡らし始めます。北の梁山泊本山は金国に任せ、南宋と金国は当面争わないという約定を結んだ上での動きなのですが、この辺はいかにも権謀術数に長けた秦檜ならではの「外交戦略」ですね。現実社会でも、実動部隊とは別の次元と場所でハカリゴトをめぐらして一気にコトが決まってしまうってのはよくあるオハナシですが、武力だけには依らず、交渉と協調で敵に当たるというのは、一つの優れた戦略ではあります。雄々しい梁山泊軍の前ではどうしても女々しく感じられてしまいますし、ハカリゴトの後には首謀者は民衆に広く嫌われそうではありますけどね(笑)。

金国は梁山泊軍との戦いのみを考えている状態。将軍兀朮も、王である海陵王も中原に覇を唱えるためにはまず梁山泊を倒さなければならないという意図の下、着々と決戦に向けての準備を進めていますが、兀朮はすでに梁山泊との戦いそのものが目的化しているという状態。梁山泊軍の主力豪傑たちとの「直接対決」のシーンはどう描かれるのか、少しワクワクします。

そんな中、楊志、楊令と受け継がれた、伝説の「吹毛剣」を、楊令の遺児である胡土児に手渡す「儀式」のために史進が登場します。今巻では戦闘シーンには一切登場しませんでしたが、後々どんな散りざまを見せてくれるのかに期待しましょう。



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# by lemgmnsc-bara | 2018-03-04 11:41 | 読んだ本 | Comments(0)

『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』を読んだ

チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男

遠藤 誉/朝日新聞出版

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現代中国きっての野心家であった薄熙来の出生から挫折までを事細かに描いたルポルタージュ。旧満州に生まれ、その幼少期において日本の敗戦という事態に見舞われながら、日本の独立復帰までの期間を彼の地で過ごした「知中派」の社会学者遠藤誉氏による一冊。

主人公である薄熙来は中国共産党の有力者薄一波の息子で、様々な政治の荒波を乗り越え、一時は重慶市を「独立国」として支配していたほどの人物ですが、2011年にイギリス人の実業家ニール・ヘイウッド氏を毒殺(実行犯とされているのは薄熙来の妻谷開来)した容疑で逮捕され失脚しました。

この事件、発生当時は日本でもそれなりに大きく取り上げられてたとみえて、私も薄っすらと記憶には残っていました。しかしながら、実行犯、被害者を含め、関係者の名前がすぐに浮かんでくるほど強い関心を持っていたわけではなく、「中国ってのは相変わらず物騒な国だな」程度の感想を持ったに過ぎませんでした。私が奉職している企業も中国には進出しており、しかも当時は彼の地での業績はかなりの勢いで伸長していたため、海外勤務を希望したら中国に行かされる可能性が高かったので、一旦海外勤務希望を取り下げたという経緯もありました。英語の点もマネジメント力も足りずに、希望しても行けなかったというのが実際のオハナシではありますが…。

さて、ルポの方は薄熙来がいかにして出世の階段を昇って行ったのかを、まず詳細に述べています。父である薄一波は先にも書いたように中国共産党の大物ではありましたが、若き日の薄熙来は、お世辞にもこの父親との関係が良好だったとは言えませんでした。文革華やかなりし頃は権力者であった父を敵視して、殴り倒した父の胸の上に乗っかって肋骨を折ったこともあったそうです。

しかし長ずるにつれて、両者の関係性は変化していきます。個人的な感情は一旦棚上げにして、父の権力を目一杯利用する方向に舵を切るのです。利用できるものはなんでも利用し、敵対する者は確実に蹴落としていく。世が戦国時代であれば、薄熙来は中国皇帝の地位にまで上り詰めたかもしれません。しかし、一応は平和な現代においては、その強引すぎる手法は問題視され、次第に共産党の首脳部からは遠ざけられていきます。起死回生の策として、重慶市を完全に支配するのですが、この事がかえって薄熙来をはっきりと中国共産党の「政敵」と位置づけさせてしまいました。そして、イギリス人の実業家暗殺事件を発端に様々なスキャンダルを暴き立てられて投獄されてしまうのです。

彼の事例は、現代中国においてそれなりの地位にある人物は、誰しもが、一気に罪人と化してしまう可能性があることを示しています。何しろすでに「裸官」などという言葉があるくらいです。この言葉は、有力な官僚が国内で一人で生活していることを指します。単純な単身赴任という意味ではなく、子供を海外留学させ、その世話を焼くという名目で妻をその国に送り出し、「家族」という基地をその国に作っておいて、夫が地位を利用して不正に手に入れた財産をせっせと溜め込み、リタイヤした時や失脚の恐れがある場合にはとっととその国に逃げてしまうための手立てです。こうした手立てが一般化しているほど腐敗が進行しているということです。いやはや。

食うや食わずの人が大半を占める中で、役人だけはやりたい放題。いまだに「梁山泊」の英雄豪傑たちが庶民のヒーローであり続けるのもムベなるかな、というところですね。

著者遠藤氏は「知中派」らしく、現地に生活した事がなければ知り得ない細々とした知識をふんだんに散りばめていて、最後まで非常に興味深く読み進める事が出来ました。若干残念なのは、自慢話も少なからず織り込まれてしまった事。これも幼少期を彼の地で過ごした影響でしょうか?彼の地は「謙譲の美徳」という言葉への馴染みは薄いですからね。

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# by lemgmnsc-bara | 2018-02-24 08:43 | 読んだ本 | Comments(0)

『ぼくのおじさん』鑑賞

ぼくのおじさん [DVD]

松田龍平,真木よう子,大西利空(子役),戸次重幸,寺島しのぶ/TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)

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私が敬愛する作家である北杜夫氏の同名の小説の映画化作品。原作の方は読んだ記憶があります。もう微かにしか記憶には残っていませんが…。

この小説の主人公は小学生の春山雪男。この少年の目を通して、父親の弟である風変わりな叔父さんの行動を描く、という体で物語は進みます。今時、兄の家族と同居するような弟、というような存在は稀有だと思いますが、これは大家族が当たり前であった北氏の幼少時代が投影された設定でしょう。北氏は実際に叔父や叔母などとの同居を経験していますし、映画の中のおじさんのモデルは米国(よねくに)さんという実在の人物です。ただし、その人物像には北氏本人のキャラクターがかなり色濃く反映されているようですね。ご自身がエッセイなどで書いている、ご自身の日常のエピソードがそのまま描かれていたりもします。

ちなみに米国さんというおじさんは少々変わり者ではあったようです。ただ、この方の奇行に関してはすでに私の記憶からは抜け落ちており、太平洋戦争の際に「米国」という名前が敵国と同じなので、色々とトラブルがあったというエピソードが少々引っかかっている程度です。

物語そのものは、大学に哲学の非常勤講師としての職を得てはいるものの、それ以外は常に部屋でごろ寝し、甥っ子が購読している少年漫画誌を読むのが最大の娯楽で運動神経も微塵もないおじさんがトリックスターとして様々な騒動を巻き起こすというもの。真木よう子演じるヒロインに一目惚れしてハワイまで追いかけては行ったものの、そこでもいいところを見せるどころかドジばかりという展開で少々笑わせた後に、最後は結構格好良く、少し切ない感情を観るものに惹起させるという、日本で一番ウケる筋立て(要するに寅さんパターン)です。

ええ?こんな話だったっけ?というのが鑑賞後の感想。人物像のへんてこりんさを表すエピソードについてはそれなりに覚えていたのですが、こんな「ユーモアとペーソス」を打ち出した物語って印象はありませんでしたね…。読んだのがすでに30年近く前ですから、結末については記憶の片隅にも残っていませんでした。

おじさんを演じた松田龍平はなかなかいい味出していたと思います。ただちょっと格好良すぎるかな。実際にどうかはともかく、運動神経が全く発達していない、という設定の役には少々違和感があるんですよね。今まで結構派手な役をやってきていただけに…。まあ、不恰好さをうまく演じていたとは思いますが。

思わぬ形で北氏にスポットライトが当たったのは喜ばしいことではありますが、これをもって北氏の小説を代表していると思われるとちょっとそれは違うよ、と言いたくなる映像化作品ではありました。ユーモア物なら『高みの見物』あたりが代表ではないかと思いますが、今のご時世で映画にはしにくい作品でしょうね。






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# by lemgmnsc-bara | 2018-02-04 18:33 | エンターテインメント | Comments(0)

『岳飛伝 13 蒼風の章』を読んだ

岳飛伝 十三 蒼波の章 (集英社文庫)

北方 謙三/集英社

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北方謙三氏の「大水滸伝シリーズ」のシーズン3である岳飛伝も13巻目。このシリーズは18巻までだそうですから、標題の書を入れて残り6巻。物語の収束に向けて、登場人物たちの動きが活発化してきました。

自由主義経済を基盤に現代の民主主義国家に近い民のあり方を模索する梁山泊第二世代と、旧宋国の栄華を取り戻そうとする南宋、そして長年の念願であった中間への進出を目論む金国の三勢力の直接対決が本格化してきました。

南宋は軍事部門の第一人者辛晃が、岳飛・秦容の連合軍に倒され、拠点となっていた景朧も同連合軍に占領されてしまったため、南アジアへの進出を一旦ストップし、改めて軍制を編成し直そうとしていますが、そこに金国が攻め込んできます。

しかしながら金国の王海陵王は、野心だけがでかい暗愚な君主でした。自らが出陣した戦いで、南宋軍に散々に打ち破られ、大河を渡る退却戦を強いられることとなります。ここで海陵王を救うのは叔父でもある将軍兀朮。兀朮は戦いこそが自分の求めるものだと宣言し、国の存続よりも戦いが優先するという自らの価値観をもって海陵王を突き放します。現代で言えば、本業を忘れて、いろんなことに手を出しまくっては失敗している若社長を、一言で黙らせてしまう創業者一族の傍流である専務といった役回りでしょうか。南宋、梁山泊(岳飛軍との連合軍含む)との戦いが厳しいことを承知して、おそらく自分はその戦いの中で命を落とすだろう、と予測し、しかもそれを望んでいるようです。

死に場所を探しているのは梁山泊第一世代の李俊と史進。李俊は南宋海軍の拠点である島を攻めている際に間一髪で生還し、相変わらず第二世代の人物たちへの思いと、梁山泊結成の際の志を強く意識し続けています。史進は相変わらず超人的な強さを誇ります。南宋にも金軍にも彼を打ち取れそうな人物はいません。コロリと病気で死んじゃうような退場のさせ方はして欲しくないのですがね。兀朮との直接対決を期待しましょう。

主人公岳飛は、秦容とともに甘藷糖を産物とする産業立国を着々と築き上げ、様々な地域との貿易で国を富ませていきます。軍を精強なものにする軍人としてだけでなく、為政者として、民の生活を安定させ、一人一人が自分の才覚で自由に生きられる世を作る、という志を小規模ながら実現しています。彼がもし中国の広大な土地を支配して、いまと同じような施策を打っていたらどのような国が出来上がるのかを見てみたい気もしますが、史実からいうと、そんな国は実現されていません。しばらくは他勢力との様々な分野での戦いが描かれることになるのでしょう。事態はますます混迷を深めるばかり。

次巻が待ち遠しいというのは毎回読後に最初に感じることなのですが、あと5冊でこの物語が終わってしまうのは惜しいという気持ちもだんだん「具体的」になってきましたね。






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# by lemgmnsc-bara | 2018-01-25 15:34 | 読んだ本 | Comments(0)

『ねじ曲げられた「イタリア料理」』を読んだ

ねじ曲げられた「イタリア料理」 (光文社新書)

ファブリツィオ・グラッセッリ/光文社

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数年前にイタリア旅行に行って以来、当家は彼の国のファンとなりました。歴史上、世界に冠たる大国だった時代もあれば、ルネサンスという一大文化ムーヴメントを起こした国でもあります。現代においてもファッションを中心に様々な分野で世界をリードする国の一つですね。つい最近、サッカーW杯の連続出場記録が途切れて話題にもなりました。

そんなイタリアが、世界に対し大きな影響力を持つのが料理の世界。一般に世界三大料理といえば、フランス料理、中華料理、トルコ料理と言われていますが、人によってはその中の一つとイタリア料理を取り替えてしまう場合もあります(和食も同様の場合がありますね)。三大料理云々は別にしても、現在のフランス料理に対してイタリア料理が与えた影響というのが非常に大きいことは料理界の常識です。

ところで、イタリア料理といって思い浮かべるモノは一体どんなモノでしょうか?まずは多種多菜(あえて菜の字を使っています)なパスタ、同じくピザ、基本的な食材だとトマトにオリーブオイルってなところではないでしょうか。

表題の書の著者、ファブリツィオ・グラッセッリ氏は、これらの食材や料理は他国のものであり、「イタリア料理」として定着したのはほんの数十年ほどの間の出来事だ、という衝撃の事実を実例を挙げながら示してくれています。

トマトの原産国は南米だし、ピザがブームを経て、もっともポピュラーなファストフードの一つに定着したのはアメリカの方が先だったそうです。

なるほどねぇ…。ピザ屋、トマトに対する、他の国々の人々の感情を知ったら、日本人が、どこかの国のスシバーで、その国のネイティブたちが、海苔巻きに衣をつけて揚げたものにスパイシーなソースとマヨネーズをたっぷりかけて食って「スシは美味い!!」ってのたまう時に感じる違和感と同じような感覚を持つのではないでしょうか?

最近のイタリアでは「スローフード」という考え方が提唱され、それが世界の「意識の高い人」の間でじわじわと広がりつつありますね。広まり方の是非はともかく、その土地土地の気候風土にあった生物を材料に作られる食事こそがその土地に住む人々には一番適しているはずで、ヨソで余計なエネルギーをかけて大量生産された「工業製品」のような食物を、これまた余計なエネルギーをかけて運んでくるよりは、人体にとっても地球にとっても優しいことだというのは事実です。日本にも「身土不二」という概念がありますが、それを実践しているのがスローフード運動だと言えましょう。イタリア人が「イタリア本来の料理」を取り戻すためには文字通り足下を眺めることから始めなきゃならないようですね。まあ、これはイタリアに限った話ではなく、日本も全く同じです。






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# by lemgmnsc-bara | 2018-01-25 14:40 | 読んだ本 | Comments(0)

『教団X』を読んだ

教団X (集英社文庫)

中村 文則/集英社

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中村文則氏による超大作。氏の作品を読むのは芥川賞受賞作『土の中の子供』以来となります。ふたつの対照的なカルト教団の教祖とその信者たちの姿を通じて、現代社会に生きるおそらく全ての人々が常々疑問に思いながらも見て見ぬフリをしている、大きな問題に鋭く切り込んでいます。

物語はある教団に入信したと思しき女性を探す男性の描写から始まります。男が最初に訪れたのは「教団」とは呼べないような、緩やかな宗教サークルとでもいうべき集まり。この集団はそのメンバーに献金やら献身を強要することなく、死期の迫った老「リーダー」の講話を皆で聴く、というのが主な活動です。どのような存在を信仰の対象とするかは別にして、こうした素朴な寄合こそが宗教の原始的な、それ故純粋な形ではないでしょうか?様々な悩みを抱えた一般人が教祖の言葉に耳を傾けて、心が洗われたように感じてそれぞれの生活に戻る…。そこには一切寄付や苦役やらは登場しません。ただひたすらに生きていることを肯定し、そこに生じる苦しみにいかに対処していくかを人智を超えた存在の導きによって知る。理想的ですねぇ。世界の宗教が皆この形であれば世界の平和は保たれたままなのだと思いますが…。

一方で、タイトルともなっている「教団X」はヤバい方の典型です。外観上は普通のマンションながら各種装備を備え、武器も備えた施設に信者を集め、教祖はそこで武装した男性信者に守られながら、ハーレムを作り、女性信者を集めて酒池肉林の生活を送っています。この教団Xの教祖、沢渡という人物は、上述した牧歌的な宗教サークルから、多数の信者を引き抜いて教団を創設したという設定です。

沢渡は紛争地域に医師として赴いた経験があり、そこで感じた、この世にはびこる様々な矛盾を正すべく立ち上がったということにもなっています。

人の命というものが、それこそ虫ケラのごとく扱われるような事態を引き起こしたのは一体誰なのでしょう?発展途上にある国々の人民や資源を搾取して富を得ているのは誰?そしてそんなシステムを作り上げたのは誰?

やや、ステレオタイプな疑問の提示の仕方ではありますが、実体験に基づいた沢渡のこの問題に対する答えは信者たちの心に突き刺さり、強烈な信仰心を生むとともに、かなり先鋭的な思想を持つ集団として成長し続けています。

こうなると行き着く先は一つ。現世界の破壊と新秩序の確立です。信者たちは周到な計画を練ってテロを実行しようとします。

果たしてこのテロは成功するのか?そして主人公たる男性の探し求める女性の行方は?次々とたたみかけてくる後半部分の展開にはすっかり引き込まれました。作品の世界に引き込まれてみたい方はぜひとも本文に当たってみてください。

世の中には勝ち組と負け組とが存在し、負け組の方は、大なり小なり世の中がひっくり返って欲しいという願望を持っていると思います。負け組の不満が爆発寸前にまで高まっているときに、着火剤のような役割を果たす、沢渡のような存在がもし現れたら…。ヒトラー然り、IS然り、オウム真理教然り。世界は少なからず混乱し、大きく傷つくこととなります。

こうした不満分子に対する「景気対策」などのガス抜きには短期的にはそれなりに効果があるでしょうが、最終的には物事の根本を全て変えてしまわない限り、いずれまた不満は溜まっていきます。どこかでこの悪しき循環というか、イタチごっこを解消しなければならないとは思いますが、では具体的に何をどうする?と問われても、私には答えは到底出せそうにありません。教祖になるだけのカリスマ性も知識もない私としては、せいぜい、世の風潮に流されないように、不貞腐れて世の中を眺めるくらいのことしかできませんね。








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# by lemgmnsc-bara | 2018-01-25 11:04 | 読んだ本 | Comments(0)

『メジャーリーガーの女房〜ヨメだけが知る田口壮の挑戦、その舞台裏〜』を読んだ

メジャーリーガーの女房 ~ヨメだけが知る田口壮の挑戦、その舞台裏~ (マイコミ新書)

田口 恵美子/毎日コミュニケーションズ

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現在オリックスバファローズの二軍監督を務める田口壮氏の妻、恵美子氏のエッセイ集。題名通り、メジャーリーガーの妻としての日常を生き生きとした筆致で描き出しています。

壮氏はアメリカには渡ったものの、メジャーに完全に定着していたわけではなく、マイナーとの間を行ったり来たりする、日本で言うところの一軍半、あるいはエレベーター選手、という立場にいることが長かったですね。そしてその立場はまさに天国と地獄を行ったり来たりするようなもの。チャーター機を仕立てて移動するメジャーに対し、マイナーはオンボロのバスに揺られての長旅続きとなります。食事もメジャーなら専属のコックに豪華なものを用意させますが、マイナーは自費でハンバーガー程度のものを買うことができる程度。厳しい環境ですな〜。

選手もシンドイけどその家族もシンドイ。所属する球団や、グレードが変わるたび引越しを余儀無くされるし、その引越しの際の移動手段も大抵自分で運転する自動車。引越し先では住環境に慣れることから始まって、チームメイトの家族との人間関係なども一から全て再構築しなければならない。そんな事態が長くても数ヶ月に一度、短い場合は一月に満たない期間で発生したそうですから、その煩わしさたるや、考えるだに恐ろしい。

さらに、女房としては壮氏のコンディションづくりを第一に考えなければならないわ、一粒種の寛君を懐妊するわ、実父の死去も重なるわで、私なら到底耐えられなかったであろう日常です。

恵美子氏もある日突然カラダが全く動かなくなるという、典型的なうつ病に襲われてしまったそうです。彼女にとって幸いだったのは「真性うつ」であったこと。きちんと休養を摂って薬を飲んだことで症状は寛解に至ったそうです。現在でも薬は手放せないそうですが、壮氏をはじめとする家族の支えも大きな力になったでしょうし、メジャーリーガーの女房仲間からのサポートも強力だったようです。

異国の地で暮らす本音の厳しさとともに、日米の文化の差異がはっきりと感じられる見事な「比較文化論」になっていたと思います。日本の場合、記録のかかった試合や引退試合など、特別な場合にしか家族を球場に呼ぶようなことはありませんが、米では毎試合観戦して一緒に戦うのが当たり前。球場には選手の家族専用の託児所もあるし、家族用の観戦シートも常設されているそうです。そこで知り合った女房仲間とは独自のネットワークが形成され、選手が他球団にトレードされた際も、そのネットワークが様々に選手の家族をサポートする。多民族の集まった国家であり、またトレードが日常茶飯事である彼の国ならではでのシステムですね。

球界関係者だけでなく、今後海外で暮らす機会があると予想される人にとっても役に立ちそうな一冊であるように思います。






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# by lemgmnsc-bara | 2018-01-21 10:08 | 読んだ本

『虎に食われた男』を読んだ

虎に食われた男

藤本義一/幻戯書房

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故藤本義一氏の阪神タイガース賛歌。日刊スポーツ紙上に連載されたものを単行本化したもの。どこかの大きな書店でバーゲンブックとして叩き売られていたものを「救出」。

藤本氏といえば、私にとっては作家というよりは『11PM』の司会者という印象が強い方です。中学生当時、親が起きてくるのを警戒しながらエッチな画面にドキドキワクワクしていた身としてはどうしてもイヤラシイおじさまというイメージを持ってしまいましたが、実は私は藤本氏の作品を読んだことがありませんでした。

藤本氏初体験のこの作品の主人公は、阪神タイガース私設応援団の創設に深く関わり、その団長を務めたこともある松林豊氏。この方、タイガースを応援するためなら全国どこにでも行くという筋金入りのトラキチで、そのために安定した公務員という職を捨て、順調に拡大しつつあった事業も手放したという人物です。

ストーリーは連載当時、低迷を極めていたタイガースの実像にちらりと触れてから、終戦直後のダイナマイト打線の回顧へと進んでいきます。ちなみに、私が敬愛する北杜夫氏も熱烈な阪神ファンでしたが、彼が阪神ファンとなったのはこのダイナマイト打線に魅せられたからだそうです。

リアルタイムと過去を行き来しながら、タイガースという球団がどのような性格を持ち、どのように変貌して来たのかを描き、同時にトラキチである松林氏の生き様と、日本社会全体の戦後からの復興と平成の世に入ってからの動向を描いています。一つの球団を物語の核に据え、人間の人生と社会の変遷を描いた見事な「時代小説」と言って良いと思います。

オハナシの最後は昭和60年、超強力打線を有したタイガースが日本一の栄冠をつかんだところで終わっています。バース、掛布、岡田の甲子園バックスクリーン3連発はもはや伝説と化していますね。この三人に、俊足と長打力を兼ね備えたリードオフマンの真弓を加えた打線は、日本球界の歴史の中でも屈指の存在でした。日本シリーズの相手は全盛期の西武ライオンズでしたが、管理野球だの戦術だのといった、小やたら難しい野球を強力打線で粉砕してつかんだ日本一は、野球の面白さの一つの原点でしたね。四の五の言おうが、どんな小細工をしようが、最終的に良いバッターが額面通りに打てば勝つんだよ、という野村克也氏あたりが聞いたら卒倒しそうな世界観の野球を実現しちゃいましたからね。

さて、平成の世も末となった先シーズン、タイガースファンの多くは歯がすり減ってしまうくらい歯噛みしたのではないかと思います。大差をつけられてリーグ優勝には届かず、本拠地甲子園でのクライマックスシリーズでDeNAに下克上を許してしまいましたからね。最後の最後で詰めが甘い、という体質だけは確かに継承されているようです。






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# by lemgmnsc-bara | 2018-01-13 07:40 | 読んだ本 | Comments(0)

『劇場版 お前はまだグンマを知らない』鑑賞

劇場版「お前はまだグンマを知らない」[DVD]

間宮祥太朗,吉村界人,馬場ふみか/バップ

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私が高校生くらいの頃、とあるラジオのクイズ番組でとあるタレントに「群馬県の県庁所在地はどこ?」という問題が出されました。そのタレントは自信満々で「宇都宮!」と絶叫し、私は吉本新喜劇ばりに思いっきり椅子の上から滑り落ちたのを覚えています。おそらくその時群馬でその番組を聴取していた家々では口々に「前橋だんべに!」「何言ってんだんべか、このバカは!!」「常識の問題だいね!!!」みたいな言葉が飛びかっていたと思います。

この傾向は今に至るまで変わりません。少し前まで群馬県は日本の都道府県の中で最下位の認知度を誇っていました。それに比例して人気度もワースト。近年ようやく茨城県にワーストの地位を譲り渡すことができましたが、お世辞にも人気が高い県とは言えない順位に甘んじています。のみならず、ネット上では日本最大の秘境として全国津々浦々からからかわれる始末。ま、愛情の反対は憎しみではなく無関心だということですから、まだ関心を持ってもらっているだけマシなんでしょうけど(苦笑)。

手前味噌になりますが、群馬っていいところなんですよ。米も麦も穫れるし、絹糸や絹織物といった、一時は日本を代表する輸出品の一大生産地でもありました。草津、伊香保、四万など有名な温泉も多いし、首相だって四人も輩出している。多少風が強くて乾燥度合いは高いですが、平野部の冬は雪も降らないし、それほど寒いわけでもない。雪の深い山沿いは温泉とセットになった有名なスキー場もたくさんある。東京の奥座敷的な機能を十分に果たしこそすれ、からかわれるいわれはないんですけどね…。

さて、標題の作品はからかわれる存在としてのグンマを逆手にとってヒットしたコミックをドラマ化したものの劇場版です。元々がギャグマンガだけにかなり大げさにデフォルメされてはいますが、概ね群馬県人の特質は描けていると思います。上毛かるたの条りなんかはゲラゲラ笑っちゃいました。両名ともにグンマネイティブの当家は、例えばドライブ中の眠気防止の策として上毛かるたを「あ」から順に言っていく、という遊びをやったりします。思い出せそうで思い出せないフレーズに当たったときのもどかしさと言ったら…。大抵は「○農船津伝次平」って句で落としちゃいますが…。ちなみに正しくは「老農船津伝次平」という句で、絵柄はこんな感じです。
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伝統的な農法に西洋式の農法を取り入れた「混合農法」の第一人者として、東京帝大で教鞭を執ったこともあったそうです。へぇ〜、そんな優秀な人だったんだ、初めて知ったな(笑)。単純に絵柄と「老農」などという耳慣れない言葉のインパクトで百人一首における蝉丸禅師的な扱いをしてました。何度この句で落としても笑っちゃえるんですよね。この辺はグンマネイティブでないとわかりづらい感覚かもしれません。

ネイティブグンマーとしては世間の人々の目に映っているグンマと実像とのギャップを楽しめた作品だったように思います。

一つだけ新しい発見が。主人公は高校生で、千葉から転校してきたという設定なのですが、高校の授業で「群馬の3B」というのが紹介されてました。BOØWY、BUCK-TICK、Back Numberというのがその3Bたちなのですが、最近結構目にすることの多いBack Numberというバンドが群馬出身者たちだというのを初めて知りました。ちなみにBUCK-TICKのリーダー今井氏の父君と私の父親は高校の同級生だったりします。






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# by lemgmnsc-bara | 2018-01-06 10:55 | エンターテインメント | Comments(0)

『拝み屋怪談 逆さ稲荷』を読んだ

拝み屋怪談 逆さ稲荷 (角川ホラー文庫)

郷内 心瞳/KADOKAWA/角川書店

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宮城県で「拝み屋」を営む郷内心瞳氏の「ライジング」編。郷内氏が幼少期から体験してきた様々な怪奇現象を中心に紹介するとともに、なぜに氏がこの道を選んだのかについて書かれています。

氏はひい婆様、父方の祖父母、両親、本人と弟と妹が一人づつの計8人の家族でした。このひい婆様は一風変わった方で、神仏を一切信じないばかりか、仏壇や神棚を他の家族が拝んでいるとその側で聞こえよがしに神仏を罵倒するという奇行に及びます。

普通は歳をとればとるほど信心深くなると思うのですが、この方は全く逆。そしてこのひい婆様によって起こされた怪異も多々あったそうです。そして最後の最後に非常に君の悪い事態がこの家族を襲います。その怪異の中心人物はやっぱりこのひい婆様でした。

氏は、ひい婆様が引き起こした怪異を取り除いた拝み屋に師事し、拝み屋としての修行を積むこととなります。

私は本書も含め氏の作品は二作しか読んだことがないので、彼の拝み屋としての活躍については詳しくは知りません。まあ、私はどこに行こうと霊とか狐狸妖怪の類を「感じた」ことは一切ありません。感じなきゃ感じないままの方が幸せなのかもしれませんね。知らないうちに祟られているのでは?という恐怖は感じざるを得ませんが、これは何もあやかしの皆様に限ったことではありません。

拝んでもらったら鬱が治るっていうのならすぐにでもすっ飛んでいきたいと思いますが、まあ今後とも氏に拝んでもらうような事態は発生しないだろうと高を括っております。






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# by lemgmnsc-bara | 2018-01-06 09:46 | 読んだ本 | Comments(0)

『審判は見た!』を読んだ

審判は見た!(新潮新書)

織田淳太郎/新潮社

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スポーツライター織田淳太郎氏によるプロ野球審判のルポルタージュ集。

野球というスポーツにはルールが存在し、そのルールに照らして様々な判定を行うのが審判員。目立たないというより、目立ってはいけない存在ですが、彼らがゲームに及ぼす影響は大きいですね。小はボールストライクの判定から、大はホームランか否かの判定まで。塁上のクロスプレーあり、非合法すれすれのプレーあり、コースギリギリを変化してかすめるボールあり。千変万化の状況下で正しい判断を下さねばならず、しかも正しく判定することが最低条件で、ミスジャッジでもしようものなら、不利な判定をされたチームの選手、監督、コーチはもとより応援団やマスコミからも叩かれまくります。本書の冒頭には判定に激怒し暴徒化したファンに追い詰められ、とっさの機転で文字通り命からがら球場から逃れたエピソードが紹介されています。珍プレー好プレーを紹介するTV番組などでは監督やコーチが審判に詰め寄ったり、ひどい時には暴行を受けやりするシーンまでがコミカルに特集されたりしますが、本人たちにとっては笑い事ではすみませんね。

本書では球史に残る名(迷?)判定の数々を取り上げ、それに携わった審判員たちを描くとともに、判定によって起こった騒動前後のエピソードや、審判員の「人気度」、年収など様々なウンチクが散りばめられています。

中でも強く私の印象に残っているのは、1978年の阪急vsヤクルトの日本シリーズ第七戦、大杉選手の打球のジャッジを巡る騒動ですね。ファールを主張した阪急上田監督の抗議は1時間19分もの中断を招き、時のプロ野球コミッショナーまでが説得に出張るという大混乱を巻き起こしました。結局判定は覆らず、ヤクルトは初の日本一という栄冠を手にします。文字通り球史に残る疑惑の判定でした。

常に過度の緊張下に置かれる審判員は胃を中心とした内臓系の重篤な病に犯されることが多いようで、数多の方々が「えっ?そんな年で??」と驚かされるような若さで亡くなっています。ビデオ判定が導入されたり、コリジョンルールなんてものが出現したりで審判の判定がしやすくなるのか、それともより混沌の度合いを深めるのかわからない状況下にあります。彼らのストレスは軽くなるどころか、ますます重くなっていきそうですね。






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# by lemgmnsc-bara | 2018-01-06 08:03 | 読んだ本 | Comments(0)

なんだかんだで読んだ本のことばっかり書いてます。たまに映画、時々食い物とドライブとラグビー観戦。
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