無私の日本人 (文春文庫)

磯田道史/文藝春秋

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映画『武士の家計簿』の原作者、磯田道史氏の中編集。三つの作品が収められています。この中の『穀田屋十三郎』という作品が映画『殿、利息でござる!』の原作となりました。

作品は他に『中根東里』、『大田垣蓮月』の二つ。三つの作品とも主人公の名前をそのまま題名にしています。名は体を表す、ではありませんが、各人の人生を見事に描ききっている三作は別の題名をつけようがないってな気がしますね。

さて、この三名が三名とも、歴史好きを辞任する方々でも「?」がついてしまう人物だと思います。それもそのはず、この方々、なにか素晴らしい業績を残した人物たちではなく、あくまでも市井の「無名な」人達です。ただし各々の生き方は非常に興味深い、ドラマチックなものでした。身分制度のあった江戸時代において、藩主にカネを貸し付けてその利息を毎年もらうことを実現させた穀田屋十三郎に、とにかく本を読むことを好み、儒学者として有り余る知識を持ちながら一切表舞台に立たなかった中根東里、幼少の頃から何をやらせても一流で、絶世のと称されるくらいの美貌を持ち合わせたスーパーレディながら、その生活は決して幸福ではなく、晩年に作った陶器が非常に優れた品質であったため、「蓮月焼き」としてわずかに名の残る大田垣蓮月。無名故に史料も乏しく、物語を紡ぎ出すには多大な労力を要したであろうことがうかがわれます。

主人公たちの生き方に共通するのは、自らの身を犠牲にして、その信じる道を突き進んだこと。そしてその信じる道を歩む道程において、その真心が周りの人々を動かし、大きなムーブメントを巻き起こしたこと。本人たちは決して裕福な生涯を送ったのではないことです。

作者があとがきで書いている通り、こうした人々の姿は、経済優先で「カネを持ってる奴が一番エラい」とする現実社会で息苦しさを感じている我々の心を一時の間、清々しくしてくれます。こうした無名の人々が持ち得ていた清浄な心持ちをいつ日本人は失ってしまったのでしょうか?経済の発展以上の損失は日本人からこうした美風が失われたことだと説く、作者の言葉はあまりにも重いですね。清々しくてやがて悲しき中編集。心がめげている人にオススメしたい一冊です。



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by lemgmnsc-bara | 2017-07-09 19:57 | 読んだ本 | Comments(0)

なんだかんだで読んだ本のことばっかり書いてます。たまに映画、時々食い物とドライブとラグビー観戦。
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