平尾誠二・ラグビー界の太陽 大金星のラグビー人生を振り返る (朝日新聞デジタルSELECT)

朝日新聞/朝日新聞社

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昨年53歳という若さで急逝し、昨日お別れの会が催され、2000人もの弔問客を集めた平尾誠二氏に関する朝日新聞の記事を集めた一冊。大学選手権三連覇を果たした同志社大学時代のものから、昨年6月に行われたジャパンvsスコットランドのテストマッチ直前のものまでが収められています。

平尾氏といえば伏見工業での高校ラグビー全国制覇、同志社では大学選手権三連覇、社会人の神戸製鋼では七連覇とすべてのステージで栄冠を得、ジャパンの中心選手としても長年活躍した「ミスターラグビー」の名にふさわしい名選手でした。

この一冊にも優勝直後のインタビューや、主将としての日常など明るい面が数多く取り上げられています。まあ、亡くなった方の悪い面をとりあげるのは特に日本でははばかられる傾向にありますし、悪いことよりは良いことの方が圧倒的に多い方でもありますので、構成上しかたのない部分もありますが、エディー氏というかつてない業績を残した監督が去った後という時期だけに、苦闘続きだった日本代表監督時代についてももっと触れて欲しかった気がします。彼の一番の悔いはおそらく、志半ばにして退いた日本代表監督であっただろうと思われますし、彼がやろうとしていながら果たせなかった強化策(例えばジュニア世代から継続したエリート育成プログラムなど)については今のジャパンに活かすことが可能であるとも思うからです。

無念の思いとともに、俗に「棺桶のなかまで持っていく」などと言われる秘話やしがらみ、障壁などを赤裸々に語った内容のものを掲載してほしかったなぁ、という気がします。彼は日本ラグビー界のさまざまな場面をすべて知りうる立場にあった人であり、かついろいろな方々に意見を言える立場でもあったはずです。だれの、どんな思惑が日本ラグビーの前進を阻んだか、それこそ亡くなった今だからこそ言えるオハナシが多々あるように思うのですがね…。

新聞報道の限界の一つの局面をみてしまったような気がしました。新聞はその時その時の客観的な事実を伝えることが最優先されるがゆえに一つ一つの事柄を深く掘り下げるて伝えるのは苦手です。新聞に掲載された記事を集めると、どうしても当たり障りのない事象の羅列になってしまうんですよね。平尾氏は称えられてしかるべき人物ではありますが、彼をもってしても改革出来なかったジャパンの今にも連なる暗部について語ることの意味は決して低くなかったように思いました。

いずれにせよ、私くらいの年代のラグビーファンにとってはまさしくキラ星のような存在でした。その輝きが亡くなってしまった今の喪失感は例えようもありません。改めてご冥福をお祈りしたいと思います。



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by lemgmnsc-bara | 2017-02-11 08:31 | 読んだ本 | Comments(0)

型破りのコーチング (PHP新書)

平尾 誠二 / PHP研究所

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神戸製鋼、そして日本代表のプレーヤーとして一時代を築き、現在神戸製鋼ラグビー部の総監督を務める平尾誠二氏と人間の行動に着目して経営学を論じた著書を数多く上梓している神戸大学大学院教授金井壽宏氏の対談集。題名どおり「コーチング」に関して論じ合っています。

日本の場合、いわゆるスポーツの名門校で名将と言われている指導者には自分が良しとしてきた方法をプレーヤーたちに押し付ける人が少なくないようです。ラグビーに関して言えば、毎日ランパス(走りながらパスをつないでいく練習方法。基本中の基本ではあるが、ずーっとダッシュを続けなければならないのでラグビーの練習の中でも屈指のキツさである)を100本走れ、みたいにとにかくきつい事を、延々とやらせるような方ですな。まあ、毎日キツイ練習を重ねていくうちに少々のことでは折れない精神力がつくとか、桁外れの体力がつくとかいう効用は確かにあります。ラグビーなんていう競技は突き詰めて言えば、相手より1分でも1秒でも長く走れる方が勝ちというスポーツですから、手っ取り早い方法であることも事実です。

しかし、平尾氏はこの現状に疑問を呈します。よく言われることですが、物事には「守、破、離」という3段階があるといわれいます。「守」は師の教えを守り精進すること、「破」は師の教えを超えてゆくこと、そして「離」は自分なりの新しい方法を打ち立てることです。日本の場合は勝利に固執するあまり、特に高校レベルまでは「守」ばかりが重視されており、「破」や「離」に向かう意欲も力も弱いと喝破しています。

平尾氏は同志社大学の監督だった岡仁詩氏のエピソードを紹介しています。ある、雨の日の試合、当時の平尾選手を試合に出場させずに監督のすぐ脇に座らせて、観戦させました。平尾選手の代わりに出場した選手は雨で濡れたボールをファンブルし、そのボールを相手に奪われてトライを許してしまったそうです。それを観ていた岡監督はニコニコと笑いながら平尾選手に問いかけたそうです。「お前が同じ立場だったら次からはどうプレイする?」。平尾選手が「ミスをしないように慎重にプレーします。」と答えると「それがいかん。ミスをしないように慎重にプレーしていたらいつまで経っても当たり前のプレーしか出来ないぞ」という言葉が返ってきたそうです。岡氏は当時の平尾選手のプレーを見ていて、「ここはこの方向にパスを放るな、とかここはキックするな、と予想したらことごとくその予想が当たる。予想通りのプレーをする選手は相手に少しも恐怖感を与えない。敵に恐怖感を与えるような意外性のあるプレーをするために一皮ムケて欲しい」と感じていて、あえてミスの多く発生する雨の日の試合を見学させたのでした。う~ん、深い話ですねえ。その後、漫然と安全策をとることがなく、常にチャレンジする姿勢を忘れなかった平尾氏のプレーは切れ味を増し、世界に通用するプレーヤーの一人とまで評されるようになりました。

現在のJAPANに欠けているのはこの創造性なんだと思います。カーワン監督の指導の下、守備力を強化し、致命的な破綻を招かない、という段階にまではこぎつけていますがまだまだ「守」の範疇を超えていません。しかもこの守備力の強化はボディーコンタクトの機会の多いポジションに外国人を数多く配することによってなされたものでもあります。世界の強豪と伍して行こうと思ったら、日本独自の「破」や「離」の部分にもっと磨きをかけていく必要があると思います。

来年のW杯以降日本代表を引っ張っていくのは誰になるのか?誰がなるにせよ日本オリジナルの戦い方を追及していって欲しいと思います。かなり昔の話になりますが、「接近・展開・連続」という明確なコンセプトの下でオールブラックスジュニアを破ったことだってあるんですから。
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by lemgmnsc-bara | 2010-05-19 20:39 | 読んだ本 | Comments(2)