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『岳飛伝 四 日暈の章』を読んだ

岳飛伝 四 日暈の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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『岳飛伝』も四巻目となり、そろそろ各勢力の動きが活発化してきました。

まず、前巻で梁山泊と講和した金と南宋随一の軍閥岳飛軍とが激突します。互いに「大将」のクビを獲れば勝利であると確信し、主力の兵とは別の動きで、金軍の大将兀述の親衛隊と、岳飛が自ら率いる一隊が真っ向勝負に出ます。決して言葉の数が多い訳ではないのですが、的確な描写で精鋭同士の戦いをリアルに描ききっています。さすがはハードボイルドの第一人者。男臭い戦いの描写は他に比肩する者のない素晴らしさです。ただ、私の乏しい想像力では、イメージしきれない場面も多々ありましたので、誰か映像化してください!!もっともこのリアルさを実写化するのはほぼ不可能でしょうから、コミックかアニメにするしかないでしょうけどね…。

戦いは一進一退で、まだどちらに転ぶか全くわからない状態です。

さて、この両者の戦いに高みの見物を決め込むカタチとなっているのが梁山泊軍。彼らは目先の戦いではなく、もっと遠くを見据えた戦いを進めています。南越に行った秦容は新たな産物としてイメージしている甘藷糖を製造するため、その原料となる甘藷を栽培するための農地の開墾を粛々と進めていきます。栽培のための土地を見いだし、その地の治水を行う過程で、土地の人々との交わりも生まれてきます。この交わりで梁山泊軍にかかわることのなった人物たちが織りなすドラマにも期待が膨らみますね。

梁山泊軍の志の達成のための支えとなるのは「力」、そしてその力の源泉は「物流」だというのもこの物語の一つのテーマです。秦容の戦いがどのように梁山泊の力となっていくのか?そしてその力は三つの勢力の争いに、そして国の民にどのような影響を与えていくのか?まだまだ興味は尽きません。



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by lemgmnsc-bara | 2017-04-25 09:32 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 三 嘶鳴の章』を読んだ

岳飛伝 三 嘶鳴の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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岳飛伝も三巻目を迎えました。文庫本ではすでに五巻目まで発売されているようですが、まだ電子書籍では三巻目が最新です。早く電子化して欲しいなぁ、集英社の皆さん。

というわけで、いつもの通りの読書感想文です。

さて、この巻では梁山泊、南宋、金国の三つの勢力が、来るべき「決戦」の日に向けて力を蓄えていこうとする姿を描くとともに、それぞれの勢力が内側に抱える問題や、勢力同士の小さな衝突などが描かれています。

我らが梁山泊の一番の問題は、絶対的なリーダーがいないこと。各頭領たちはそれぞれ「志」を持ち、現在でいうところの自由主義経済国家、すなわち国の強権的な部分をなるべく小さくして、商流や物流を自由に行えることを保証する国家を作ろうとしてはいるのですが、「志」を明確に示し、成員を一つの方向に引っ張っていくだけの資質を備えた人物がいないため、「志」が各人各様に分裂してしまう危険性を常にはらんでいます。水滸伝の頃から「生き残って」いる史進や燕青、呉用などに加齢からくる衰えが忍び寄ってきているのも不安材料。新時代のリーダー候補秦容は軍を離れ、ベトナムで甘藷の栽培に勤しむこととなりますし、新しい商流を築きつつあった王貴は南宋の軍閥張俊の軍に襲われ、半死半生の状態で岳飛の軍で手当を受けることとなります。

かつて、北宋軍に攻め滅ぼされた梁山泊から落ち延びた楊令は金国の保護を受け、「幻王」という名で北宋の軍に対峙しましたが、こうした敵味方とははっきり分かれにくい人間関係が出現するところも「現代的」。王貴と岳飛軍の今後の関係性の変化も見逃せません。

南宋も趨勢がはっきりしない。張俊、岳飛の軍閥は成長を続けている上、皇帝の直属軍も整備されつつあります。張俊は他国と対抗する気満々の上、巨大化した軍閥の勢力を背景に宋の乗っ取りをにおわせる行動にも出ています。岳飛はこのシリーズの「主人公らしく」、心身ともに精強な兵団を作り上げつつあります。先にも述べた通り、梁山泊の中心人物の一人である王貴ともつながりができました。旧宋で跋扈していた諜報集団の残党もいまは鳴りをひそめていますが、今後の勢力の動向によってはまた暗躍を始めるかもしれません。

金国は梁山泊と対決して敗戦します。しかし梁山泊は一気に金国を攻め滅ぼそうとはせずに、和を結びます。そこで交渉の任についたのは宣讃の息子にして、呉用が自らの後継者であると見込んでいる宣凱。武力同士の衝突だけではなく、交渉による戦いもあるのだ、という記述には静かな力があります。宣凱の今後にも期待したいところです。

様々な勢力が入り乱れる様相を示してきた物語がどのような混沌を迎え、平静をとりもどすのか?早く次の巻が読みたいなぁ。



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by lemgmnsc-bara | 2017-03-20 15:10 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 二 飛流の章』を読んだ

岳飛伝 2 飛流の章 (集英社文庫)

北方 謙三/集英社

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北方大水滸伝シリーズ完結編『岳飛伝』の二巻目。『楊令伝』終了時における作品世界の状況の「おさらい」に終始した観のある一巻目から、岳飛、金国、梁山泊のそれぞれが躍動を始め、新しいストーリーをつむぎだし始めたのが今巻です。

まずは主人公岳飛。梁山泊で銭を鋳造していた田峯を招聘して、楊令に斬り落とされた右手にはめる義手を作ってもらうこととなります。元々の右手に質感、性能ともに劣らぬ義手は、楊令との戦いで文字通り傷ついた岳飛の心身を癒し、新しい戦いへの意欲を掻き立てます。ただし、まだ、自分が主権を握ろうという考えは薄く、あくまでも南宋の軍閥の一つの頭領という位置づけで、金国や梁山泊との対決に臨んでいかに勝利するかを考え、行動しています。また、彼の下には崔蘭という義理の娘が登場します。彼女が、梁山泊の医療を薬という面で支えた薛永が残した、さまざまな薬草の効能を記した書をたよりに、薬に対する造詣を深めていく姿が描かれます。やがて訪れるであろう、大きな戦において彼女が重要な役割を果たすこととなるのでしょう。そして、彼女はまた岳飛に、父親の成長した娘に対する戸惑いまでをも感じさせる役割をも担います。岳飛の人間臭いエピソードを示す手段としてはとしてはなかなか上手く考えられた手法ですね。

金国は王位を狙う人物たちの権力闘争と平行して、隣接する梁山泊との戦いに突入します。元々精強な兵を多数抱えるという設定であり、兵の絶対数も梁山泊軍を大きく上回るために、梁山泊軍と一進一退の攻防を繰り広げます。国としての野望は中原に覇を唱えることではあるのですが、実際にもし覇を唱えることになっても、その際の王が誰なのかについてはまだまだ混迷を深めていきそうですね。梁山泊を凌駕して南宋軍との直接対決があるのか否かも気になります。

さて、われらが梁山泊の面々ですが、現首領である呉用は、自らの「統治権」を破棄し、一種の集団指導体制を採っています。軍、兵站、商流、物流などなどの各分野に最高責任者を任命し、自身はその調整役に回っているのです。自分自身には宋江や楊令のように「志」を強烈に示して梁山泊を一つの方向にまとめあげる力はないと考えての施策です。潔い腹のくくり方ですね。権力に固執するどこかの政治家にはぜひとも見習って欲しいと思います。呉用をはじめとする元々の水滸伝からの登場人物たちは、志という一番の重荷を若い楊令一人に背負わせてしまったことを悔いてもいます。そして、志は一人の人間が背負うものではなく、梁山泊に集った面々の一人ひとりが持つべきものだという結論に達したのです。この施策は結果として、梁山泊の運営体制を現代の「民主主義」に近いものに変質させていきます。「志」に反しない限りはどんな行動をとることも自由。軍においてはさらに「規律」が存在しますが、たとえば商流に関しては梁山泊に蓄えられた原資を背景に日本やベトナムにまで手を広げるなど、当時としては目一杯ワールドワイドな活動が可能です。「裁量が」大きい分、責任も重大であるというのは容易に想像はつきますがね…。

さてさて、今後の展開を楽しみに次巻のkindle化を待ちたいと思います。

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by lemgmnsc-bara | 2017-02-23 05:52 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 一 三霊の章』を読んだ

岳飛伝 一 三霊の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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ようやく文庫化されたので買い求めた、北方水滸伝の完結編『岳飛伝』の第一巻。待ちわびてましたね。

とはいえ『楊令伝』の最終巻を読んでから2年も経っていたので、最初のうちは現在の人間関係をもう一度把握し直すというリハビリが必要でした。そもそものオリジナルメンバー108星で残っているのは呉用、史進、李俊くらいでしょうか。後はほとんどが二世。今巻の中心となってストーリーを引っ張るのは王英と一丈青の息子王貴。梁山泊を財政面から支える商品流通の、それも物流部門に文字通り新しい道をつけようと奮闘します。

で、現在の梁山泊はというと、実質的な指導者がいないような状態。なにか活動をしようと思うと、指導部からは物資的な支援があるのですが、各部隊の各々の行動は「志」の下に統一されていた前二作とは大違い。実務担当者としてのリーダーは呉用が務めていますが、リーダーとして引っ張るという役割までは付与されていません。皆が皆、今のままではどこかで大きな破綻が起きるのではないかと思いながら、今のところ大きな不都合は起きていないし、さしあたっての脅威もないのでなんとなくモノゴトが回っていってしまっている状況です。なんというか、今の日本の閉塞感にも似た状況ですね。少し面倒な問題は先送り先送りにして、現在の当事者が責任を問われないようなカタチになんとなくなってしまっている。梁山泊を襲った大洪水の復興が最優先という流れで、中長期的な視点に立って対処すべき問題がとりあえずないことにされている状態なんか、二つの震災の復興に追われている日本の状況にそっくり。で、先送りにした結果のマズい結末の一例が築地移転問題を始めとする都政の混迷です。何かしっくりしないものを感じながらモノゴトを進めていった結果、大きな矛盾が表出する。梁山泊もいつか大きな崩壊を迎えるのではないか?故に北方氏は、完結編の主人公を梁山泊の人間ではない岳飛にしたのではないか?色々な憶測を持ちながら読み進めざるを得ません。

なんてなことを頭の中で思いながら、TVを観ていたら、丁度アメリカのトランプ新大統領の就任式をやってました。で、突然ひらめいたんですが、梁山泊のリーダーをトランプ氏がやったらどうなるでしょうかね?それなりの基盤が整っている状況の下、内容の善悪は別にして、強い言葉で強力なリーダーシップを発揮して、様々な人間からなる集団を一つの方向に持っていこうとする…。こういう人物こそが、この本に描かれている時点の梁山泊には必要なのではないでしょうか。まあ、もしトランプ氏が頭領の座についたら、梁山泊はイスラム国並みのテロリスト集団と化しそうな気もしますがね(笑)。

さて、リハビリも済みましたので、北方水滸伝の掉尾を飾るこの作品じっくりと読み進めたいと思います。ちなみにkindle版での購読となりますので、文庫本の発売とは若干読む時期がズレると思います。



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by lemgmnsc-bara | 2017-01-22 06:50 | 読んだ本 | Comments(0)

『抱影』を読んだ

抱影 (講談社文庫)

北方 謙三 / 講談社

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久々に読んだ北方謙三氏の「現代モノ」。横浜を舞台に、元ヤサグレの画家がみせる、ハードボイルドな生き様を描きます。

画家というと青白くて線が細く、幾分かの狂気をはらんだ人物(もろにゴッホですね、このイメージ 笑)という印象が強いのですが、この小説の主人公硲冬樹は骨太の男臭い男です。芸術家としての「産みの苦しみ」を散々に味わうシーンは描写されますが、元々はヤバい業界に片足を突っ込んでいたという設定。いざとなれば暴力に訴えることも厭わない男として活躍します。高い評価を得ている画家だという事を隠して、毎夜毎夜安酒場に出かけるし、4軒の酒場の経営者であるという別の顔も持ち合わせています。なかなか凝った設定でしたね。

硲が創作に苦しむ姿は、作家としての北方氏が直面しているであろう苦しみを彷彿とさせます。作品が満足のいくものに仕上がるまで、文字通り寝食を忘れ、昼も夜もないような生活を送る。すべてはデッサンという哲学も描く対象を静物から人間に置き換えれば、行動を事細かに観察し、その行動に至る心の動きを忠実に文字にしていく、という小説の書き方に通じるところがあるように思います。登場してくる料理や酒がみなやけに美味そうに描かれているのも北方氏の「デッサン」の為せる技なのでしょう。

画家硲冬樹は世の中のあらゆるモノをデッサンしながらも、本当に描こうとしていたのは結ばれなかった想い人、響子の姿の抽象画でした。その響子が死病にかかり、余命数ヶ月となった時に硲が取った行動とは?画家としての硲の真骨頂はここで描かれます。そしてこれ以上はない、という作品が出来上がるのです。

一方、ならず者としての硲も物語の最後に登場します。画家として生きて来た硲は響子を看取る作品を仕上げた事で、最後は男として死のうとするのです。その散り様もカッコいい。ラストシーンなんか本当にゾクゾクしちゃう格好良さ。のみならず、哀愁にも満ち満ちています。こういう武骨な生き様こそが男なのだ、という強烈なメッセージ。中国古典ものとはひと味違った北方ワールドが全開の作品でした。
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by lemgmnsc-bara | 2014-01-11 21:26 | 読んだ本 | Comments(0)

『吹毛剣 楊令伝読本』を読んだ

吹毛剣 楊令伝読本 (集英社文庫)

集英社

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北方版水滸伝のファンブック『替天行道』につづく『楊令伝』のファンブック。「吹毛剣」とは『楊家将』から連綿と受け継がれた「伝家の宝刀」です。水滸伝ファンならおなじみですね。

内容は、まあ悪口は書いてありません。ファンのための本ですから悪口なんか書き様がないし、そもそも作品の内容的に文句をつける余地がありません。とはいえ商売としてはちょっと阿漕かな、って気もします。好きな作品についてはそれこそ、一言一句すべて解説して欲しいというファン心理はよく理解できるので、そこにつけ込んだところがちょっとねぇ…。実際に買わされちゃったし(苦笑)。

しかし、この阿漕さを乗り越えて買った価値があると思わせてもらった部分がありました。「読者への手紙」と題された章で、一月に一遍、北方氏が目の前に友がいてその友に語りかけるという設定で綴るミニエッセイです。ちょうど大震災の後からはじまり、先月の刊行時まで書かれていました。大震災の被害者のことを想うなどちょっとウェットな内容もあるのですが、単なるお涙頂戴に堕することのない乾いたハードな文体でしたね。それでいて北方氏がどれだけこの震災にショックを受け、心を痛めたかというのが伝わってくるんです。プロの技ですねぇ。

さあ、次は「大水滸伝構想」のトリを務める岳飛の活躍に期待するとしましょうかね。
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by lemgmnsc-bara | 2012-09-11 20:17 | 読んだ本 | Comments(2)

『楊令伝 15 天穹の章』を読んだ

楊令伝 15 天穹の章 (集英社文庫)

北方 謙三 / 集英社

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ついに最終巻を迎えてしまった『楊令伝』。北方氏の大水滸伝第二部が完結します。

乱立する勢力の中で最強の軍事力と、その軍事力を支えるだけの兵站を整備した梁山泊軍は、ついに岳飛率いる南宋軍と激突します。しかし、ここでしばらく前の巻から張ってあった伏線が効いてきます。一方が勝って、一方が滅亡するというような単純な結末では、いままで死んでいった武将たちに失礼というものでしょう。

軍勢同士のぶつかり合いの記述は相変わらず迫力満点ですし、次世代を担うはずだったはずのあの武将が戦死してしまったり、中国全土を襲った大洪水で脇を固めて来た頭目たちが続々と水死したりと、読みどころは様々にあるのですが、やはりこの巻での一番の読みどころは、当時の一般大衆が考えていた「国」というものの形を超越したシステムを考えついてしまった楊令の思い悩む姿と、楊令のシステムを本能的に危険なものだと察知して、そのシステムを壊すために楊令を倒すことを決めた金国の姿でしょうね。

前近代的な君主制あるいは専制政治と近代的な資本主義体制とのぶつかり合いは、遥かに時代を後にして現実に起こった衝突です。「資本主義体制は目に見えるものではなく、民一人一人の心の中にあるものだ」という主旨の記述の持つ意味は重いですね。改めて今現在の我々の暮らしを支えている「共同幻想」というものを考えざるを得ませんでした。

そして衝撃のラスト。次作の主人公岳飛にはまだ楊令を倒すだけの技量はないし、乱戦の中で戦死というのもおさまりが悪い。いずれの形にせよ楊令という新時代の旗手が「旧体制」に敗れたことのメタファーになってしまうからです。ああいう結末の付け方の匂いをみじんも感じさせなかった北方氏の筆運びには「参りました」と言うしかありません。

さて、楊令なきあとの梁山泊の志は誰が継ぐのか?岳飛は楊令を、そして宋江を超えることができるのか。次のシリーズが早くも楽しみですが、しばらくはインターバルを置きたいと思います。
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by lemgmnsc-bara | 2012-09-07 23:45 | 読んだ本 | Comments(2)

『楊令伝 14 星歳の章』を読んだ

楊令伝 14 星歳の章 (集英社文庫 き 3-80)

北方 謙三 / 集英社

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北方大水滸伝第二部もラス前まできました。

今巻ではついに岳飛率いる南宋軍と張俊率いる斉国軍と梁山泊軍が全面戦争に入ります。戦いの行方も多いに気になるところですが、かつて楊令が「幻王」として采配をふるっていた金国の宰相がある決断を下します。物語の行方に直接影響を及ぼす重い重い決断でした。

これは君主がいて、その権力の下に国を治めるという旧来の思想と、現在の資本主義との対立のメタファーですね。当時の「一般常識」からすれば、国を超えた経済的ネットワークによって財政を賄い、民たちを潤していくという「思想」はあまりにも突飛すぎて受け入れ難かったのでしょう。この辺はフィクションとはいえ、「商」という職業がまだ卑しいものとされていた当時の状況に関してたくみな描き方がなされています。

それよりも今巻の主眼は梁山泊の世代交代をある意味冷酷に描き切ることにあったのではないでしょうか。花飛麟や呼延凌が戦闘の主力になる一方で、長年諜報部門を支えてきた戴宗が敵将と相討ち、造船部門の長、阮小二も病に倒れます。

なんと言っても心に残ったのは、郭盛の戦死ですね。押し寄せる敵の圧力をもろに受ける戦場のど真ん中に常に位置し、何があっても一歩も引かなかった郭盛は最後史進の腕に抱えられて息絶えます。最後の台詞がまた泣かせる。なんだか読み飛ばすのが惜しくて、もう一度読み返しちゃいました。電車の中だったというのに泣きたいような気分に襲われました。

さて、お次はいよいよ最終巻。楊令が築き上げた梁山泊がどこに向かうのか?そして志士たちの命運は?ああ、待ち遠しい。
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by lemgmnsc-bara | 2012-07-23 22:53 | 読んだ本 | Comments(2)

『楊令伝 13 青冥の章』を読んだ

楊令伝 13 青冥の章 (集英社文庫 き 3-79)

北方 謙三 / 集英社

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長い長いと思っていたこのシリーズも13巻目、今巻も含めて後3冊で終焉を迎えてしまうんですね。なんだか寂しい気がします。

さて、物語は混沌としていた勢力がだんだんと固まり、梁山泊を含めて、いくつかの国として各地に割拠するという展開を見せます。

金国の傀儡として建国された北宋の流れを汲む、斉には張家軍が合流し、梁山泊、南宋と張り合います。このことで、同盟関係であった金国と梁山泊の関係は微妙に変化していきます。首領の楊令は斉との戦いを避けようとしますが、このままの流れでいくと最終的には激突は避けられず、かつて幻王として金軍を率いていた楊令の心理の動きが気になりますねぇ。

一方で次作の主人公岳飛は、南宋に合流します。これは別に南宋が担いでいる帝が人格者であるとかそういう理由ではなく、張家軍とも梁山泊とも連携せずに勢力を保ち、かつ大義名分がある戦いにするための苦肉の策でした。だいたいこの南宋の帝はほとんど人物描写がなされません。演劇で言うところの書き割りの中にでもいるような人物と言えば良いでしょうか?要するに、もう旧来の意味での国というものは意味をなさないという事がはっきりと描かれています。

さて、我らが梁山泊。首領の楊令の出番が少なかったような気がしますね、今巻は。しかしながら現代の資本主義社会の中でも堂々と通用するような経済的な基盤を着々と作り上げ、「国力」を蓄えていきます。そしてその過程で「国とは?民とは?」という近代的な命題について悩む事になるのです。相変わらず人間臭いですねぇ。宋江の唱えた志の下に集った豪傑たちを率い、その志を体現した「国」を打ち立てはしたものの、本当にこれが正しい道なのか?深い悩みです。現代の政治家ですら明確な答えを出せる人物はいないでしょう。

そして今巻のクライマックスは楊令と岳飛の邂逅でしょう。敵国の中に義理の息子とともに二騎だけで乗り込み、その国の有り様を見て回る…、さすがは物語を継ぐものですね。肝が座っています。そして岳飛を見つけても暗殺などを仕掛ける訳ではなく、ただ語らう楊令も渋い。語らいつつ二人が食べるイノシシの肉の美味そうな事。なんだかこのまま友情を深めていってもらいたいような二人でしたが、やがて戦場で相見え、剣を交わらせることになるんでしょうね。物語がどのように流れていくのか?いまから次巻が楽しみです。
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by lemgmnsc-bara | 2012-06-28 23:12 | 読んだ本 | Comments(2)

『楊令伝 12 九天の章』を読んだ

楊令伝 12 九天の章 (集英社文庫)

北方 謙三 / 集英社

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楊令伝12巻目。ストーリーの分量から言えばちょうど八分目。話の展開も、人物の描写も一番脂が乗っているといったところでしょうか。

今巻ではほぼ勢力図が固まります。梁山泊、金国、南宋、それに岳飛率る岳家軍、張俊を頭にいただく張家軍、そして最後は西遼という国が誕生します。このうち梁山泊、金国、西遼は盟友関係にあります。また岳家軍と張家軍は南宋の流れをくむ勢力なのですが、なぜか南宋には合流しません。あくまでも独自の軍閥として兵力を蓄えていきます。

そんな中、金国の一人の将軍が独断で梁山泊の商隊を襲うという事件が勃発します。このとき、金国の将軍は楊令に対し「商売するために仲間を犠牲にしてきたのか?!」という罵倒を浴びせかけます。今でこそ商いというのは卑しい職業でも何でもありませんが、古代、中世の中国においては商業というのは蔑まれていた職業でした。「モノを右から左へ動かすだけで利を得る、ずるい職業」という思想に支配されていた時代だったのです。替天行道という大層な理想を掲げて、宋に対して戦いを挑み、そしてその軍を打ち破ったのは、そんな卑しい行動のためなのか…?、という問いは現在の我々にはちょっと想像のつかない最大の蔑み言葉ですね。もっとも当の楊令も梁山泊の執政部も別にそのことを恥じる風はないように描写されていますがね。時代の先端を行く施策を打ち続ける存在は常に旧勢力の批判にさらされる、というのは古今東西変わらぬ現象のようです。この件に関してはあくまでも将軍の独走ということで、金国が梁山泊に謝罪することで一応の決着を見ますが、梁山泊と金国は盟友であっても一心同体ではない、という記述は後々なんらかの形で利いてくるんでしょうね。

陰に陽に大小さまざまな戦いが繰り広げられるのも今巻。梁山泊の諜報部門の一人のエースであった燕青は青蓮寺の強敵と戦い、苦戦の末に敵を打ち倒すものの、自身も失明してしまいます。また渋い脇役として内政に従事していた杜興は元々の主筋の娘李媛をいさめるために自死します。そしてなんといっても今巻のクライマックスは双頭山攻防戦における鮑旭の戦死でしょうね。原作の水滸伝では、盗賊の頭目として梁山泊に参加し、時に残虐な方法で人を殺すような小悪党として描かれていた鮑旭は、仲間を助けるために、数千の敵軍に一人で突入し、文字通り獅子奮迅の戦いぶりを見せた後、体中に矢を浴びるという壮絶な死に様を見せます。水滸伝の最初の方では、原作以下のならず者だった鮑旭がこんなカッコよく死ぬとは…。北方氏の筆の行方はまったく予想がつきません。

楊令が、自分の理想とする国家を打ち立てるまでにどれだけの苦難が待っているのか?どれだけの血が流されるのか?ますます結末が気になってきました。
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by lemgmnsc-bara | 2012-05-23 23:01 | 読んだ本 | Comments(2)

なんだかんだで読んだ本のことばっかり書いてます。たまに映画、時々食い物とドライブとラグビー観戦。


by 黄昏ラガーマン
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