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『岳飛伝 十一 烽燧の章』を読んだ

岳飛伝 十一 烽燧の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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岳飛伝も巻を重ねること11冊目。いよいよ本格的な戦闘シーンが描かれることとなります。

とはいえ、作者が文中の登場人物に吐かせるセリフに「もはや、戦いの勝ち負けだけで世の中が変わる時代ではなくなった」という主旨のものがある通り、武力に優れた勢力が勝って「国」を名乗ったとしても、その治世は長くは続かないだろう、という思想が暗示されています。梁山泊軍が陰に陽に発達させたモノの流れを背景にした貨幣経済が民の意識までをも変革させてしまったからです。

史実としてはこの後、元が出現し、中国のみならず、欧州近辺までその勢力を拡大し、占領した都市では、人間のみならず、勝っていた小鳥までをも皆殺しにしたなどと伝えられるような「力の時代」が出来して、民の意識はもう一度大きく古代に戻ることになるんですけどね。

さて、今巻のハイライトは呼延凌率いる梁山泊軍の本軍と、金国の主力軍とのぶつかり合いです。お互いの大将同士が一騎打ちに近い形で切り結んだ激戦は、決着を見ないままに一旦終結。当然リターンマッチはあるでしょうし、金国との連携を保ちながら、一方で二つの勢力の力が弱まることによる漁夫の利を得ようとする南宋の動きからも目を離せません。

王清、秦容などのメインキャラたちの人間的成長(武や商いだけに生きてきた若者が好きな人にきちんと好きだと伝え、妻にするなど)が描かれる一方で、「主人公」岳飛は自分の子(現妻の連れ子も含む)の成長を目の当たりにし、自分の人生が後半戦に入ったことを徐々に思い知らされていきます。そんな日々の中、岳飛は南宋内に居残った旧岳飛軍三千人の潜伏先を全て訪ね歩き、来るべき大きな戦いへの準備を進めていきます。

最終的には兵力で一番劣る、梁山泊軍・岳飛軍の連合軍が、南宋、金国の二大勢力を相手にどこまで食い下がり、彼らが戦う根底をなす志をどこまで実現できるのか、という展開になりそうですが、まだまだ波乱は起きそうですね。



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by lemgmnsc-bara | 2017-11-18 07:39 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 十 天雷の章』を読んだ

岳飛伝 十 天雷の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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岳飛伝も後半戦に突入。各々の勢力が、各々の方法で蓄えていた力を徐々に放出して、勢力同士がぶつかり合う、という展開に物語は進んで行きます。

正面切っての戦いの描写こそ一箇所しかありませんでしたが、暗殺あり海戦あり破壊工作ありと、多種多様な「小競り合い」が展開されます。

今巻ではまた、梁山泊、南宋、金国の三つの勢力の戦いをそれぞれが持つイデオロギーの戦いであるとする描き方がより先鋭化しています。

一人一人の民の暮らしが先にあり、それが集まったものが結果として国という体裁を取るのだ、という梁山泊と、巨大な権力がまずありきで、民をその権力のために奉仕させる存在であると位置付ける南宋、戦いに勝ったものが全てを掌握し、その後の統治形態については歴代の中国王朝を踏襲するのだろうなと予想される金国。比較的親和性の高い後二者が連合し、それに梁山泊軍が対峙するという構図となります。南宋も金国も共に目の上のたんこぶ的存在なのが梁山泊。まずは共同してこのたんこぶを取り除いてしまおうというわけです。で、地理的にも思想的にも目障りな梁山泊がなくなったら、改めて両者で覇を競い、勝った方が中央集権国家を構築しようという魂胆です。

二つの勢力が組んだら、いかに豪傑揃いの梁山泊といえど、その命運は危うくなるでしょう。しかしながら敵と同じ方法で戦力を拡充することは、民の暮らしが優先(どこかの国の政党に突きつけてやりたいイデアですな)という梁山泊設立の志に反することです。故に梁山泊軍は南方の地を開拓して、そこに人を集め、今で言うところの福利厚生を手厚くして、住民の暮らしが十分に成り立つようにしながら、精強な兵を育て上げます。商業と兵器の生産の中心でもある本拠地梁山泊に、豪傑の一人秦容が築いた南国の小梁山、小梁山にほど近い場所にやはり屯田兵的な本拠地を築いた岳飛軍との軍事的連携と、日本を含めたアジア全域にまたがる巨大かつ精緻な経済網の構築で、圧倒的な兵数の差を埋めていこうというのが戦略です。

そんな中、岳飛は岳飛なき後、宋軍の最高司令官となった辛晃と戦い、後一歩で辛晃の首をとる、というところまで追い詰めます。大軍同士が正面からぶつかり合うだけが戦ではなく、相手の頭だけを狙って一直線に攻めるというのも有効な戦法だ(寡兵を以って大軍を攻める時の常套手段でもありますね)というのが、北方氏独特の男臭い記述で描かれます。

こうした戦いの日々の中、水滸伝、楊令伝で活躍した武将の「ジュニア世代」が次々と成人して行きます。すなわち人を愛することを知り、民と同じように「暮らし」を経験することで、人生の意味、みたいなものを考え始めるようになるのです。こうした経験や思索が今後の梁山泊軍の「志」にどのように影響し、そしてその「志」の下に作られようとする国がどのような形となるのか…。

史実上は、梁山泊軍というのは単なる反乱軍であり、結局は中央集権国家に飲み込まれてしまうのですが、この物語上ではどこまで成長していくのか?今後の展開も目を離せません。



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by lemgmnsc-bara | 2017-10-28 16:38 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 八 龍蟠の章』を読んだ

岳飛伝 八 龍蟠の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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岳飛伝も巻を重ねること8冊目。梁山泊軍、南宋、金国の三大勢力に、西遼、大理、南越等の周辺国の情勢も盛り込まれ、いよいよ事態は複雑化していきます。

とは言っても、実際の武力衝突はなく、やがて来るべき「決戦」を見据え、各勢力が様々な方法で力を蓄える姿の記述が中心となっています。

水陸ともに設備、体制を整え、商流の充実により「資本主義国家」として発達しているのが我らが梁山泊軍。英雄豪傑が集い、武によって民の暮らしを豊かにしようとした、作品開始当初からは大幅に方針を変更していますが、産業を興すことでそこに関わる民に益をもたらし、商流を発達させることで、得た益を有効に活用させる、という仕組みはまさに近代国家ですね。秦容が南越に作り上げつつある甘藷糖の生産基地に至っては老齢や怪我などのために戦の第一線を退いたメンバーたちの福祉施設とでもいうべき機能まで果たしています。

三大勢力の一角、南宋は秦檜のリーダーシップにより、中央集権国家としての体裁を取り戻しつつあります。最近ほとんど登場の場がありませんが、張俊という人物が率いる軍閥も依然として力を保ったまま。梁山泊軍にとっての最大の「仮想敵国」であることは間違いありません。

残る一つ、金国は目の上のタンコブとでもいうべき梁山泊を疎ましく思い始め、南宋との連携を模索し始めます。

そしてこのシリーズの主人公、岳飛は裸一貫の状態から、三千人の人員を従えて、再起ロードをたどり始めます。隣接していると言って良い、秦容の生産基地を訪問するなど、梁山泊軍との距離を縮めるのですが、この二つの勢力が合流するのか否か、現段階ではまだ明らかになりません。

いずれにせよ、物語はクライマックスに向けて、大きく舵を切ったというところでしょうか。目の離せない展開となりそうです。本屋の店頭には文庫版の第9巻が山積みとなり、10巻目の刊行も近いようです。電子版の出版が待ち遠しい、という感想を今巻の読了後にも感じました。



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by lemgmnsc-bara | 2017-08-13 14:46 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 七 懸軍の章』を読んだ

岳飛伝 七 懸軍の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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岳飛伝の7巻目。『大水滸伝シリーズ』全体としては終盤ですが、『岳飛伝』に限って言えばちょうど中間点あたり。今巻には戦闘シーンは全くなく、三つの勢力が来るべき「決戦」を見据えて、それぞれに力を蓄える姿が描かれます。

軍功多大だった岳飛を「処刑」(実際には岳飛は逃亡)した南宋は、宰相秦檜が中心となって、かつての宋の栄光を取り戻そうとしますが、内憂外患を地でいく状態。講和がなったとはいえ、いつその状態が破綻してもおかしくない金国、武力でいえば三勢力の中で随一の梁山泊軍が間接的なプレッシャーをかけている上、国内では岳飛亡き後最大の軍閥となった張俊軍の処遇が悩みのタネに。さらに皇帝の座を狙って、死に絶えたはずの青蓮寺勢力までもが暗躍し始めるのです。いやはや。フィクションとはいえ、某国の首相が同じような状況に放り込まれたら、病気を理由にさっさと逃げてしまいたくなるであろう状況です。

金国はリーダーである耶律大石の死期がいよいよ迫り、世代交代を迎えています。その中では梁山泊軍の一員であった、韓成の動きが気になります。前首領の楊令からの関係性を踏まえて連携する方向に向かうのか?それともあくまで単独で中原に覇を唱えようとするのか?これも三勢力の力関係が刻々と変化する展開の中では非常に読みにくい、それゆえハラハラさせられる状況です。

さて、我らが梁山泊軍はというと、「本社」である梁山泊の山塞にいる宣凱が組織としての機能を統制してはいますが、ますます「国」としてのカタチは拡散し、希薄化していっています。各人の心の中に「志」がある限り、どこでどんな形態であろうとも梁山泊という「国」はあり続ける…。現代における「国家」という枠組みすら超えているような概念です。

一方で秦容が南方の地で進めている農地の開拓が軌道に乗り始め、十万人の人間が住む街を作り上げるというプロジェクトが走り始めることとなります。甘藷糖を作るために、当時としては最新・最高の設備を作り上げ、そこに従事する人々がきちんと生活して行く施設と仕組みを作り上げる。物々交換が基本だったこの地の経済活動に通貨を導入する。生活用水の手配から下水の処理まで。元々が武の人であった秦容は、こうした活動も一つの戦いだと心得て、一つ一つの問題と向き合います。人々が安定した暮らしを営むための手段は、武力による統一だけではない、という主張がはっきりとわかる表現方法ですね。

主人公の岳飛は秦容が巨大な街を作ろうとしている地域に近い場所で、やはり新しい街を作って行こうとしています。軍の将であった姚明とともにたった二人でたどり着いた地でしたが、岳飛を慕う兵士たちがボチボチと集まりだし、今巻の終了時点では300人ほどの人員がいました。この仲間たちは新しい国作りを目指すのか?それともあくまでも軍としての復活を企図するのか?当事者同士は否定していますが、梁山泊への合流はあるのか?

あらゆる疑問と期待が提示された一冊でした。次巻の電子書籍化が待ち遠しい限りです。



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by lemgmnsc-bara | 2017-07-14 20:02 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 六 転遠の章』を読んだ

岳飛伝 六 転遠の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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岳飛伝の6巻目。

今巻では、「正統派」の岳飛伝での最大の敵役秦檜が、そのストーリー通りの憎まれ役として岳飛の前に立ちはだかります。秦檜は、岳飛を南宋軍の最高司令官として迎えるとともに、岳家軍を正式な軍隊として南宋に取り込もうとするのですが、岳飛はあくまでも軍閥として独立して活動することを望みます。最高権力者たる秦檜の命令に従わない岳飛は、南宋に対しての忠誠を秘めながら、従容として刑場の露と消える、というのが正統派のストーリー。

しかし、北方版は正統派通りにストーリー展開などしません。こんなところで主人公が死んでしまっては元も子もないってのもありますが、北方氏の大胆な翻案を楽しむのがこの大水滸伝の醍醐味。岳飛は表向き処刑されたこととされますが、実際は目立たぬように都から追放されます。秦檜は約束どおり岳飛を解放しましたが、その部下は後顧の憂いを断つために、暗殺団を送り込みます。ここで岳飛を救ったのは梁山泊の致死軍。久しぶりにこの集団が、暗躍でなく活躍する姿が描かれ、燕青も登場します。世間的には「亡くなった人物」となった岳飛はどこに向かうのか?梁山泊への合流となるのか?仮に合流となれば知も武も兼ね備えた、頭領にふさわしい存在になるとは思いますが、そうそうすんなりとは行きそうにないのもこの物語の特色です。

金国は兀述が岳飛との戦いを終え、世代交代を画策します。こちらの動きからも目を離せません。中原に覇を唱えることが悲願のこの国が南宋とどう対峙して、そしてそれは梁山泊軍にどのような影響をもたらすのか?今のところは、楊令とのつながりや物流により金と梁山泊は協力体制にありますが、世代交代後の金がどのような道を選択するのかについては、暗示すらもされていない状態です。

さて、我らが梁山泊は二強の直接対決を横目に、着々と力を蓄えている最中です。南越に甘藷糖の生産基地を建設した秦容が、その基地が大きくなるにつれて生じる「生活の諸問題」をいかに解決していくのか、を描きながら、狩猟採集から栽培定住の生活への転換、国というものの根本的な成り立ちとはどういうものかをも描いています。

以前、一時期ハマった水滸伝のシュミレーションゲームでも、実際の戦闘よりは、戦闘を開始する前の国力の充実(武器や食料の生産拠点の建設と発展)の方が楽しくなって、戦闘そのものはソフト任せにしていた(武器やら何やらを最大限に持たせておけば勝手に勝ってくれた)私にとっては非常に興味深い視点の転換です。もとより、梁山泊の志とは民が安心して暮らせる国とはどんなものかという問いに対しての答えを求めるものであったはず。で、南越の地に、一つの理想郷とでもいうべき村が出来上がるのです。戦いだけに生きてきた秦容が「文官」に転じるのも、武力革命を成し遂げた後の指導者の姿の一つの理想形だと思いますね。

シメの言葉はいつもと同じ。次巻の発売が待ち遠しい…。

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by lemgmnsc-bara | 2017-06-07 05:20 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 五 紅星の章』を読んだ



岳飛伝も巻を重ねること5冊目。この壮大かつ男臭い物語がだんだん終わりに近づいていくのが楽しみでもあり、さびしくもありというところですね。

さて、ストーリーは今までの流れに沿ったものです。南宋の軍閥岳飛軍と兀述とは相変わらず戦い続けています。一方で講和の動きがある反面、岳飛と兀述は直接対決し、「戦いのための戦い」を繰り広げることとなります。戦場では、川中島の上杉謙信、武田信玄よろしく一騎打ちに近いような場面すらあります。結果については直接本文を読んでください。単純に勝った負けたを論じるより、この戦いが両者にどんな影響を及ぼし、その結果として両国間にどのような関係性の変化が生じ、そしてそのことが我らが梁山泊にどのように波及してくるのか、を考えることがこの物語本来の楽しみ方であるはずです。

梁山泊軍は相変わらず高みの見物状態が続いています。しかしながら水面下では激しく動いてもいます。梁山泊軍の頭脳であり続けた呉用がついに亡くなり、「政治」の主体は宣凱に譲られることとなります。王貴の商業部隊は岳飛軍に糧秣を供給し続け、南越に渡った秦容は甘藷糖の製造に向け、着々と体制を整えていきます。

ここでやはり一番気になるのは秦容の動向ですかね。密林を開拓し、治水を行い、甘藷の栽培を本格化させる。農地の拡大や、甘藷糖の製造開始に当たって、増やすべき人物は梁山泊の活動から「引退」した人物たちを充当する。それでも足りない場合は現地の人々を採用したり、水牛を労働力に使うことを考えてみたり…。一種の福祉国家の建設ですね。日本で、源氏と平氏が争っている時代に、自由主義経済国家のみならず、老人の福祉までを考えた国家を出現させてしまうとは…。派手な事件ではなく、日常の着実な歩みこそが国の姿を作り上げる、という北方氏の哲学が見事に表されていますね。

そしてこの福祉国家を打ち立てるためにさまざまな問題に直面する秦容は、直接剣を振るうのとは違う形の戦いに臨んでいるという、気概を持ち始め、自らの求める「志」は今の生活にこそあるのでないかという心境にまで至るのです。荒くれヤンキーが農場経営に目覚めたってなところでしょうか。 来るべき「最終決戦」に向け、南宋、金国、梁山泊の三者がどのような変化をみせていくのか?次巻の発売が待ち遠しいですね。

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by lemgmnsc-bara | 2017-05-23 13:16 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 四 日暈の章』を読んだ

岳飛伝 四 日暈の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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『岳飛伝』も四巻目となり、そろそろ各勢力の動きが活発化してきました。

まず、前巻で梁山泊と講和した金と南宋随一の軍閥岳飛軍とが激突します。互いに「大将」のクビを獲れば勝利であると確信し、主力の兵とは別の動きで、金軍の大将兀述の親衛隊と、岳飛が自ら率いる一隊が真っ向勝負に出ます。決して言葉の数が多い訳ではないのですが、的確な描写で精鋭同士の戦いをリアルに描ききっています。さすがはハードボイルドの第一人者。男臭い戦いの描写は他に比肩する者のない素晴らしさです。ただ、私の乏しい想像力では、イメージしきれない場面も多々ありましたので、誰か映像化してください!!もっともこのリアルさを実写化するのはほぼ不可能でしょうから、コミックかアニメにするしかないでしょうけどね…。

戦いは一進一退で、まだどちらに転ぶか全くわからない状態です。

さて、この両者の戦いに高みの見物を決め込むカタチとなっているのが梁山泊軍。彼らは目先の戦いではなく、もっと遠くを見据えた戦いを進めています。南越に行った秦容は新たな産物としてイメージしている甘藷糖を製造するため、その原料となる甘藷を栽培するための農地の開墾を粛々と進めていきます。栽培のための土地を見いだし、その地の治水を行う過程で、土地の人々との交わりも生まれてきます。この交わりで梁山泊軍にかかわることのなった人物たちが織りなすドラマにも期待が膨らみますね。

梁山泊軍の志の達成のための支えとなるのは「力」、そしてその力の源泉は「物流」だというのもこの物語の一つのテーマです。秦容の戦いがどのように梁山泊の力となっていくのか?そしてその力は三つの勢力の争いに、そして国の民にどのような影響を与えていくのか?まだまだ興味は尽きません。



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by lemgmnsc-bara | 2017-04-25 09:32 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 三 嘶鳴の章』を読んだ

岳飛伝 三 嘶鳴の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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岳飛伝も三巻目を迎えました。文庫本ではすでに五巻目まで発売されているようですが、まだ電子書籍では三巻目が最新です。早く電子化して欲しいなぁ、集英社の皆さん。

というわけで、いつもの通りの読書感想文です。

さて、この巻では梁山泊、南宋、金国の三つの勢力が、来るべき「決戦」の日に向けて力を蓄えていこうとする姿を描くとともに、それぞれの勢力が内側に抱える問題や、勢力同士の小さな衝突などが描かれています。

我らが梁山泊の一番の問題は、絶対的なリーダーがいないこと。各頭領たちはそれぞれ「志」を持ち、現在でいうところの自由主義経済国家、すなわち国の強権的な部分をなるべく小さくして、商流や物流を自由に行えることを保証する国家を作ろうとしてはいるのですが、「志」を明確に示し、成員を一つの方向に引っ張っていくだけの資質を備えた人物がいないため、「志」が各人各様に分裂してしまう危険性を常にはらんでいます。水滸伝の頃から「生き残って」いる史進や燕青、呉用などに加齢からくる衰えが忍び寄ってきているのも不安材料。新時代のリーダー候補秦容は軍を離れ、ベトナムで甘藷の栽培に勤しむこととなりますし、新しい商流を築きつつあった王貴は南宋の軍閥張俊の軍に襲われ、半死半生の状態で岳飛の軍で手当を受けることとなります。

かつて、北宋軍に攻め滅ぼされた梁山泊から落ち延びた楊令は金国の保護を受け、「幻王」という名で北宋の軍に対峙しましたが、こうした敵味方とははっきり分かれにくい人間関係が出現するところも「現代的」。王貴と岳飛軍の今後の関係性の変化も見逃せません。

南宋も趨勢がはっきりしない。張俊、岳飛の軍閥は成長を続けている上、皇帝の直属軍も整備されつつあります。張俊は他国と対抗する気満々の上、巨大化した軍閥の勢力を背景に宋の乗っ取りをにおわせる行動にも出ています。岳飛はこのシリーズの「主人公らしく」、心身ともに精強な兵団を作り上げつつあります。先にも述べた通り、梁山泊の中心人物の一人である王貴ともつながりができました。旧宋で跋扈していた諜報集団の残党もいまは鳴りをひそめていますが、今後の勢力の動向によってはまた暗躍を始めるかもしれません。

金国は梁山泊と対決して敗戦します。しかし梁山泊は一気に金国を攻め滅ぼそうとはせずに、和を結びます。そこで交渉の任についたのは宣讃の息子にして、呉用が自らの後継者であると見込んでいる宣凱。武力同士の衝突だけではなく、交渉による戦いもあるのだ、という記述には静かな力があります。宣凱の今後にも期待したいところです。

様々な勢力が入り乱れる様相を示してきた物語がどのような混沌を迎え、平静をとりもどすのか?早く次の巻が読みたいなぁ。



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by lemgmnsc-bara | 2017-03-20 15:10 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 二 飛流の章』を読んだ

岳飛伝 2 飛流の章 (集英社文庫)

北方 謙三/集英社

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北方大水滸伝シリーズ完結編『岳飛伝』の二巻目。『楊令伝』終了時における作品世界の状況の「おさらい」に終始した観のある一巻目から、岳飛、金国、梁山泊のそれぞれが躍動を始め、新しいストーリーをつむぎだし始めたのが今巻です。

まずは主人公岳飛。梁山泊で銭を鋳造していた田峯を招聘して、楊令に斬り落とされた右手にはめる義手を作ってもらうこととなります。元々の右手に質感、性能ともに劣らぬ義手は、楊令との戦いで文字通り傷ついた岳飛の心身を癒し、新しい戦いへの意欲を掻き立てます。ただし、まだ、自分が主権を握ろうという考えは薄く、あくまでも南宋の軍閥の一つの頭領という位置づけで、金国や梁山泊との対決に臨んでいかに勝利するかを考え、行動しています。また、彼の下には崔蘭という義理の娘が登場します。彼女が、梁山泊の医療を薬という面で支えた薛永が残した、さまざまな薬草の効能を記した書をたよりに、薬に対する造詣を深めていく姿が描かれます。やがて訪れるであろう、大きな戦において彼女が重要な役割を果たすこととなるのでしょう。そして、彼女はまた岳飛に、父親の成長した娘に対する戸惑いまでをも感じさせる役割をも担います。岳飛の人間臭いエピソードを示す手段としてはとしてはなかなか上手く考えられた手法ですね。

金国は王位を狙う人物たちの権力闘争と平行して、隣接する梁山泊との戦いに突入します。元々精強な兵を多数抱えるという設定であり、兵の絶対数も梁山泊軍を大きく上回るために、梁山泊軍と一進一退の攻防を繰り広げます。国としての野望は中原に覇を唱えることではあるのですが、実際にもし覇を唱えることになっても、その際の王が誰なのかについてはまだまだ混迷を深めていきそうですね。梁山泊を凌駕して南宋軍との直接対決があるのか否かも気になります。

さて、われらが梁山泊の面々ですが、現首領である呉用は、自らの「統治権」を破棄し、一種の集団指導体制を採っています。軍、兵站、商流、物流などなどの各分野に最高責任者を任命し、自身はその調整役に回っているのです。自分自身には宋江や楊令のように「志」を強烈に示して梁山泊を一つの方向にまとめあげる力はないと考えての施策です。潔い腹のくくり方ですね。権力に固執するどこかの政治家にはぜひとも見習って欲しいと思います。呉用をはじめとする元々の水滸伝からの登場人物たちは、志という一番の重荷を若い楊令一人に背負わせてしまったことを悔いてもいます。そして、志は一人の人間が背負うものではなく、梁山泊に集った面々の一人ひとりが持つべきものだという結論に達したのです。この施策は結果として、梁山泊の運営体制を現代の「民主主義」に近いものに変質させていきます。「志」に反しない限りはどんな行動をとることも自由。軍においてはさらに「規律」が存在しますが、たとえば商流に関しては梁山泊に蓄えられた原資を背景に日本やベトナムにまで手を広げるなど、当時としては目一杯ワールドワイドな活動が可能です。「裁量が」大きい分、責任も重大であるというのは容易に想像はつきますがね…。

さてさて、今後の展開を楽しみに次巻のkindle化を待ちたいと思います。

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by lemgmnsc-bara | 2017-02-23 05:52 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 一 三霊の章』を読んだ

岳飛伝 一 三霊の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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ようやく文庫化されたので買い求めた、北方水滸伝の完結編『岳飛伝』の第一巻。待ちわびてましたね。

とはいえ『楊令伝』の最終巻を読んでから2年も経っていたので、最初のうちは現在の人間関係をもう一度把握し直すというリハビリが必要でした。そもそものオリジナルメンバー108星で残っているのは呉用、史進、李俊くらいでしょうか。後はほとんどが二世。今巻の中心となってストーリーを引っ張るのは王英と一丈青の息子王貴。梁山泊を財政面から支える商品流通の、それも物流部門に文字通り新しい道をつけようと奮闘します。

で、現在の梁山泊はというと、実質的な指導者がいないような状態。なにか活動をしようと思うと、指導部からは物資的な支援があるのですが、各部隊の各々の行動は「志」の下に統一されていた前二作とは大違い。実務担当者としてのリーダーは呉用が務めていますが、リーダーとして引っ張るという役割までは付与されていません。皆が皆、今のままではどこかで大きな破綻が起きるのではないかと思いながら、今のところ大きな不都合は起きていないし、さしあたっての脅威もないのでなんとなくモノゴトが回っていってしまっている状況です。なんというか、今の日本の閉塞感にも似た状況ですね。少し面倒な問題は先送り先送りにして、現在の当事者が責任を問われないようなカタチになんとなくなってしまっている。梁山泊を襲った大洪水の復興が最優先という流れで、中長期的な視点に立って対処すべき問題がとりあえずないことにされている状態なんか、二つの震災の復興に追われている日本の状況にそっくり。で、先送りにした結果のマズい結末の一例が築地移転問題を始めとする都政の混迷です。何かしっくりしないものを感じながらモノゴトを進めていった結果、大きな矛盾が表出する。梁山泊もいつか大きな崩壊を迎えるのではないか?故に北方氏は、完結編の主人公を梁山泊の人間ではない岳飛にしたのではないか?色々な憶測を持ちながら読み進めざるを得ません。

なんてなことを頭の中で思いながら、TVを観ていたら、丁度アメリカのトランプ新大統領の就任式をやってました。で、突然ひらめいたんですが、梁山泊のリーダーをトランプ氏がやったらどうなるでしょうかね?それなりの基盤が整っている状況の下、内容の善悪は別にして、強い言葉で強力なリーダーシップを発揮して、様々な人間からなる集団を一つの方向に持っていこうとする…。こういう人物こそが、この本に描かれている時点の梁山泊には必要なのではないでしょうか。まあ、もしトランプ氏が頭領の座についたら、梁山泊はイスラム国並みのテロリスト集団と化しそうな気もしますがね(笑)。

さて、リハビリも済みましたので、北方水滸伝の掉尾を飾るこの作品じっくりと読み進めたいと思います。ちなみにkindle版での購読となりますので、文庫本の発売とは若干読む時期がズレると思います。



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by lemgmnsc-bara | 2017-01-22 06:50 | 読んだ本 | Comments(0)