『よろず屋稼業 早乙女十内 一 雨月の道』を読んだ

よろず屋稼業 早乙女十内(一)雨月の道

稲葉稔/幻冬舎

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早乙女十内シリーズの第一巻。例によってkindleのバーゲン本コーナーで見かけて衝動DL。稲葉稔氏の作品を読むのはこれが初めてです。

主人公の早乙女十内は幕府の要職にある名門旗本の次男坊。幼少の頃は、長男である兄が、「明日をも知れぬ」レベルの病弱体質だったため、跡継ぎとしての期待をかけられ手厚く遇されていたのですが、長じた兄が健康となってからは、一家の中での厄介者扱い。そのことで少々やっかみ気質となってしまった十内は部屋住みの身に甘んじることも、他家への婿入りも潔しとせずに、町人と同じ長屋に住んで「よろず屋」を開業。人捜しなどで生計を立てています。幼い頃から鍛えられたこともあって優れた剣技を持ってはいるものの。その腕を披露する機会にもそうそう恵まれない、その日暮らしの毎日。

自ら選んだ道とはいえ、うらぶれた境遇にあって満たされぬ思いを抱えた身、という設定は心ならずもサラリーマンとして口に糊している方には感情移入しやすいものだと思います。私は大いに身につまされました(苦笑)。

さて、十内はとある商家から人捜しを頼まれます。捜す人物はその商家の一人娘への入り婿。かざり職人として独立しているのですが、何故かその商家のカネを持ち逃げしたというのが捜される理由です。持ち逃げされたのは二百両余。にもかかわらず、ケチとして名の通っている商家の主人が五十両もの金を成功報酬で支払う、という話に違和感を覚えた十内は婿を捜すと同時に、この商家が婿を捜す本当の理由を知ろうと奔走します。

で、数々の妨害にも関わらず、その謎を解いて、こじれた人間関係(婿と嫁である商家の一人娘の間にはいろいろな問題があったということ設定になっています)も修復して、十内の剣の腕も存分に披露される場も生じるというストーリー展開です。

まあ、一言で言ってしまえば、昭和の時代劇の典型的なストーリー展開です。日頃は冴えない主人公が、いざとなったら凄腕を発揮して謎を解いて悪人を懲らしめて最後はメデタシメデタシ。十内のキャラクター設定だけは少々ひねってありますが、主人公が遊び人の金さんでも徳田新之助でもまったく同じストーリーで通用してしまいます。よくいえば、昭和の時代劇へのオマージュ、悪くいえばモロパクリ。それ以上の感想は持ち得ませんでした。このシリーズかなり巻数を重ねているようですが、次の巻に進みたいか?と問われたら「微妙」と返さざるを得ませんね。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-03-16 12:03 | 読んだ本 | Comments(0)

『奇談蒐集家』を読んだ

奇談蒐集家 (創元推理文庫)

太田 忠司/東京創元社

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kindleのバーゲン本コーナーからのDL品。最近このイントロ多いですが、バーゲンコーナーから購った作品から新しい作家を知ることも少なくないので、この衝動DLだけは止められません。太田氏の作品を読むのはもちろん初めてです。

主人公は恵美酒一(えびすはじめ)。奇談蒐集家を名乗り、新聞広告を打って実際に奇妙な体験をした人を募り、応募してきた人からその体験談を聞き取るというのが趣味という人物設定です。なお、本当に奇妙なオハナシには高額な謝礼を支払う、というのが広告の謳い文句でもあります。『聊斎志異』みたいな作りのオハナシですね。

さて、この一冊は、いくつかのオハナシが編まれた連作短編集で、どの話も恵美酒氏が指定したバー「Strawberry Hills」に奇談を売り込もうと企図した人物たちが入店するところから始まります。どの話もそれなりに奇妙な話ですので、恵美酒氏は大いに喜んで買い取ろうとするのですが、そこに待ったをかけるのが恵美酒氏の助手(というよりは相棒またはそれ以上の存在)である氷坂。話をする人の背後にいつの間にか忍び寄っているような不気味な習性を持ち、美貌でありながら、外見からは男か女かの区別がつかないというキャラクターが付与されています。

この氷坂は、出てくる話出てくる話にすべてツッコミをいれ、冷静に、科学的に話の矛盾点を指摘し、すべての人の話を思い込みや錯覚によるものだと「解決」してしまうのです。

奇談を集めたい恵美酒氏も、奇談を買ってもらおうと意気込んできた人々もガックリとさせてしまうことがオチ。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ではありませんが、いわゆる奇談とか怪異譚の類いは、すべて当事者の歪んだ主観がもたらすもので、すべてにおいて何らかの「合理的」な説明がついてしまうものだ、という皮肉り方はなかなか悪くありません。この展開は展開として面白かったのですが、最後の最後のオハナシにどんでん返しが待っています。う〜ん、やられたね、ってな感じです。すべての矛盾に対する答えを示すと見せかけて、実は最後の最後に最大の奇談を持ってくるというのは、この一冊の完結編としてなかなか見事な落とし方だったと思います。

太田氏なかなか面白い作風の持ち主ですね。また別の作品を読んでみたい作家が増えちゃいました。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-03-11 19:34 | 読んだ本 | Comments(0)

『漂流巌流島』を読んだ

漂流巌流島 (創元推理文庫)

高井 忍/東京創元社

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kindleのバーゲン本コーナーで見かけてDLした一冊。

著者高井氏は、日本史上有名な出来事にフォーカスし、様々な資料を検証し、再構成することで、「そういう見方も出来るな」という事態にその出来事を放り込むという手法でこの一冊を書き上げ、文壇デビュー。ちなみに今作は『ミステリーズ!新人賞』を受賞しているそうです。

さて、この一作には4つの事件が取り上げられていますが、主人公は事件の「当事者」でも、事件があった時代に生きた人物でもなく、その子孫でもなく、映画界の底辺付近を這いずり回っているような駆け出しのシナリオライター。主人公は、低予算でどんな無理な撮影も引き受けるが、「巨匠」とか「名監督」という名称にはほど遠い三津木という映画監督からの依頼で、巌流島の決闘を題材とした作品のシナリオを書くこととなります。この三津木監督という方、安い予算で撮影を引き受けはしても、作品そのものを安っぽく作ることは良しとしない気概だけは持っている人物という設定で、主人公の書いてきたシナリオと、そのシナリオの基となった史料をもう一度見直して、よく言えば大胆な新解釈の、悪く言えば荒唐無稽な筋立てて映画を撮影しようとするのです。

主人公がSFチックな存在、すなわちタイムトラベラーとか超能力者などではなく、身は現実社会にありながら、空想だけは果てしなく飛翔させることを常に求められる映画というものの制作に関わっている人物だというのがミソ。一般的に「常識」とされている説を紹介した上で、「それじゃつまらないから」という理由で、ちょっとしたほころびを見つけて、そこをどんどん拡大させて新しい物語をでっち上げてしまう…。なかなか巧い方法です。

で、でっち上げられた方のストーリーでも、それなりに信憑性のあるものに仕上げられてしまうというところも巧みです。

4つの出来事は、巌流島の決闘の他、赤穂浪士47士の討ち入りに、池田屋事件、鍵屋の辻の仇討ちとどれもこれも人口に膾炙したオハナシばかり。さてさて、この物語たちがどんな風に変身させられ、それなりに筋の通ったオハナシとなるのか?基本的にこの作品集はミステリー集ですので、ネタバレになるような野暮なことはできません。実際の文章に是非触れてみて下さい。

高井氏はこの作風をこの後も続けているとのことなので、折をみて別の作品も読んでみたいと思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-03-11 19:08 | 読んだ本 | Comments(0)

『日本の「神話」と「古代史」がよくわかる本』を読んだ

日本の「神話」と「古代史」がよくわかる本

日本博学倶楽部/PHP研究所

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私が愛読しているコミックスの一つに『孔雀王』シリーズがあります。

このシリーズ、最初の作品が好評だったために一旦完結した後『退魔聖伝』という続編が連載されたのですが、その中盤位から、日本の天津神と国津神の戦いを描くストーリーが展開されます。主人公、裏高野退魔師孔雀がスサノオの牙の力を得て、天津神たちの野望を打ち砕こうとするというのが主な筋立てなのですが、このシリーズはなぜか途中でブッチ切れてしまいます。その後このストーリーを引き継ぐものとして『曲神記』が連載されたのですが、これも肝心なところでブチ切れ。ようやく最近『戦国転生』というシリーズが始まって尻切れとんぼだったストーリーの続きが読めるようになりました。

前置きと愚痴が長くなりましたが、このストーリーで孔雀の前に立ちはだかるのがイザナギとその子供のツキヨミ、それに手力男やオモイカネといった日本の神話の神たちです。『孔雀王』では実際のキャラクターはそのままに本来なら善であるはずの神が悪役で出てきたりするので、この作品を読むためにはそもそもの「位置づけ」を知っておく必要があります。しかしながら私が日本の神話に触れたのは遥か昔の小学生時代に子供向けの「やさしい日本神話」みたいなものを読んだのが最後。そのため、イザナギ、イザナミの後、アマテラスが出てきて、スサノオが暴れて天岩戸に引っ込んで、八岐大蛇に因幡の国の白ウサギ、海幸山幸、ヤマトタケル…、どの人物がどの順番で出現してきて、で、どんな子孫を残したのかについて混乱に混乱を重ねる状態でした。

これは良くないね、ということでいつかは日本の神話を読んで、少なくとも誰がどの順番で出てきて、どんなキャラクターだったのかのアウトラインくらいはあたまにいれておかなきゃ、という思いは常に持ち続けていました。で、kindleの割引本コーナーで見かけたこの本を即DL。一応すべて読んだのですが、まだなんとなくこんがらがっています。

天皇が人間宣言をしたのは第二次大戦の敗戦後ですが、神話の神が実際の人間の天皇として政治を始めたのは誰の代からなのか?なぜ、大国主は国ゆずりをしたのか?土蜘蛛や長髄彦などと呼ばれ蛮族とされた土着民たちはどんな由来を持つ民族だったのか?こうしたことはこの本を出発点としてより深く学んでいくべき事柄なのでしょう。孔雀王を最初から読み直す際には、端末に呼び出しておいて、並行して読み進め直したいと思います。




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# by lemgmnsc-bara | 2017-03-05 19:57 | 読んだ本 | Comments(0)

『2014年! 中国と韓国、北朝鮮の動きが15分でわかる本』を読んだ

2014年! 中国と韓国、北朝鮮の動きが15分でわかる本

中島 孝志/ゴマブックス株式会社

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標題の通り、日本の隣国3国の状況につき著者中島氏が概観した一冊。2014年時点での概観ですので、3年後の現在、状況は変化してはいますが、当時より良くなったと思える状況はどの国との間にもありません。まずは中国。南シナ海での軍のプレゼンスをますます高めてきているような印象があります。そのうち本気で尖閣諸島に進出してくるかもしれません。一応アメリカとは「尖閣諸島は日米安保条約の適用区域である」との合意をみてはいますが、大統領が大統領だけに、今後のアメリカの動向には注意する必要がありますね。中国には「太平洋を中国とアメリカで分け合おう」という壮大かつ馬鹿げた妄想がありますが、提示される条件によってはアメリカ側が日本の権益などそっちのけでいきなり合意してしまわないとも限りません。トランプ氏は20年、30年先のことを考えるより、目先の利益に追われるビジネスマンの典型例ですからね。ましてや、アメリカファーストを掲げて当選してますから、アメリカの利益につながれば、日本がないがしろにされる可能性は低くありません。さらに中島氏の解説によれば、中国は表向き共産党の首脳が指導者ですが、実際は軍閥による支配の方が強力であり、もし軍閥のどれかが暴走しはじめたらそれを止める術はないそうです。直接的な軍事的行動はないにせよ、民間の漁船(を装ってはいるもののその実、軍の方針で動いている可能性が高い)をどんどん送り込んで、気がつけば実効支配されているなどという事態が出来しないとも限りませんね。

お次は韓国。この国は今実質的に指導者がいない状態です。パククネ大統領は「友人」への利益供与問題で、機能停止状態ですが、そんなこと関係なく世界は動いていますから、どんどんその潮流から置いていかれてしまっています。最大の有力企業であるサムスンはスマホの不具合で大打撃を受けていますし、政治、経済ともに麻痺状態ですね。そんな時にこの国が何を考えるか?嫌日です。プサンの大使館前をはじめ世界各国に設置された従軍慰安婦の像は撤去されるどころかますます増えていきそうな勢いです。明日、すぐに諸問題をすべて解決してくれとはいわないものの、せめて正常な交渉ができる責任者を早く擁立して欲しいものですね。

最後は北朝鮮。ここのところマレーシアでの暗殺事件で世界を騒がせていますし、査察が行われる度に破棄を約束するものの、実際はまったく破棄などせず、日米交渉が行われるタイミングにあわせて、ミサイルを発射するなど、ならずもの国家としての体裁ばかりが整いつつある状態です。「親」である中国も、経済制裁は実施していますが、国家の根本的な体制を変革するまでの意志はないようですし、「兄弟分」の韓国は前述したとおり、自国のことで精一杯で北のことをどうこうできる状態にありません。

お隣三国の状態もばたついてますが、わが日本も国有地の格安払い下げ問題なんかでかなりゆれています。政局政局ばっかりで肝心の政治活動は進まないまま。野党に与党を倒すほどの甲斐性がないために政権だけは安定してますが、やっぱり短期的な問題の対処に追われて、重要な問題は先送りのままです。こういうときこそアジアが共同体を組んでアメリカや欧州に対抗するチャンスだったような気もしますがね・・・。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-03-02 05:48 | 読んだ本 | Comments(2)

『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王』を読んだ

トラオ 徳田虎雄 不随の病院王 (小学館文庫)

青木 理/小学館

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青木理氏による徳田虎雄氏の評伝。週刊ポストに連載されたものに加筆して上梓しています。

徳田氏といえば、2013年の11月に発覚した猪瀬都知事(当時)への資金供与の件で公の場に現れた姿をみて、驚いた記憶があります。現代の世にあっても原因、治療法ともに明らかになっていないALSという難病に冒され、全身が麻痺して、視線の動きでようやく意志の疎通ができるという、非常に痛々しい姿だったからです。そこには、地盤である徳之島で全島の島民を巻き込んで「保徳戦争」を繰り広げたり、徳州会病院の建設に際して建設予定地の医師会とモメゴトを繰り返したり、といった猛々しさはほとんどみられませんでした。わずかに視線の鋭さのみが強烈な意志を感じさせてはいましたがね…。

この本の出版は2013年の前半だったようで、猪瀬都知事への資金供与の問題についてはまったく触れられていませんでしたが、そうでなくても重大な疾患なのに、この事件でよりダメージを負って一気にあの世に行ってもおかしくはないなと思った記憶もあります。でも、あれから3年以上経った現在でも自力で呼吸もできない状況ながらまだご存命のようです。生命力が強いと感心すべきか、この世への未練がそんなに強いのか、とあきれるべきか?いずれにせよ、そんな状態でありながら、徳州会は虎雄氏の指導なしには日も夜も暮れぬという状態だそうです。いやはや。

徳田氏の医学への志向は幼い時に故郷の徳之島の医療体制が整っていないが故に弟が死んでしまったことで芽生えました。徳州会の根本的なスローガンである「生命だけは平等だ」という言葉には、地域や収入により受けられる医療に差があってはならないはずだ、という徳田氏の思いが込められています。患者は年中無休、24時間オープンという体制で受け入れ、3割の自己負担分も場合によっては支払いを免除する、という徳州会グループの病院の姿勢はなるほど「医は仁術である」という言葉を体現しているように思えます。しかし、この患者に取ってはありがたいと思える方針であるが故、進出する地方地方でその地の医師会からの猛反発を喰い、衝突を巻き起こします。徳州会グループに、常に漂うきな臭さというかヤバい雰囲気はこういう紛争に由来するもののようですね。

そして徳田氏自身もかなり強烈な人物であるようです。自分が正しいと信じたことを推進するためにはどんな「汚い」方法でも使う。そしてその「汚さ」ですら、自分の策の推進のためには必要だったと正統化してしまう。まわりの人間もすべて巻き込んで、不眠不休で目的を達成するまでしゃにむに走る。スティーブ・ジョブズしかり、ダイエーの創始者中内功氏しかり。大きな既得権益団体に戦いを挑み、大きくブレークスルーした人物にはどこかしら狂的な部分があるようです。徳田氏も、どんな地域のどんな人々にも平等に医療が行き渡る体制を作るためには政治を変えなければいけない、と考え「俺は総理大臣になる」と言い放って政界に進出します。

実現させるための方法についてはいろいろと問題があるように思いますが、なにしろ、一つのことを成し遂げようと自分の持てるもののすべてを注ぎ込む、という集中力と執念については大いに見習う点があるように思います。もっとも凡人中の凡人である私は自分の身の減量すらも達成し得ないというのが現状なのですが…。




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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-26 18:03 | 読んだ本 | Comments(0)

『ソフィー・マルソーのSEX,LOVE&セラピー』鑑賞

ソフィー・マルソーのSEX■LOVE&セラピー [DVD]

ソフィー・マルソー,パトリック・ブリュエル,アンドレイ・ウィルム,ジャン=ピエール・マリエール,マリー・リヴィエール/インターフィルム

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ソフィー・マルソーが超肉食の美魔女を演じた一作。

ソフィー・マルソーといえば、アラフィフ世代にとってはなんといっても『ラ・ブーム』でしょう。思春期を迎え、恋心に目覚めていく可憐な少女を演じた同作を観て、美少女ソフィーに惹かれた男子は少なくなかったはずです。公開当時男子校の高校生だった私も、美少女ソフィーに魅せられた一人でした。

それから数年後、彼女は見事なセクシー美女に変身します。豊満な肉体を披露したヌード写真を発表してみたり、ボンドガールになってジェームズ・ボンドと濡れ場を演じたりする大人の女性としてのソフィーを観て、引いてしまったロリコン男性もいると思います。私自身は成長した姿を好ましく(もちろん相当なエロ目線は入っています 苦笑)観てましたけどね。

さて、そんな彼女も当年とって50歳。顔のアチコチにあるしわは年輪を感じさせますが、プロポーションはボンドガール当時そのまま。まさに昨今流行の「美魔女」の条件にぴったりと合致する姿でスクリーンを駆け回ります。

彼女が今作で演じるのはセックスのことばかり考えているという美魔女。海外各地を股にかけ取引先の男性担当者をその美貌と肉体的な魅力で籠絡する敏腕営業職というキャラクターが付与されています。彼女が日本人らしき得意先と一戦交える倉庫にはなぜかニッカのウイスキーがずらりと並んでいます。後半部分でもニッカは印象的な部分で登場します。ニッカはフランスで人気があるんでしょうかね?

閑話休題。

彼女の「性癖」を快く思わない上層部からクビを言い渡された彼女は、ひょんなことからカップルセラピーのクリニックに潜り込みセラピストとしての職を得ることとなります。カップルセラピーとは男女のセラピストがコンビを組んで夫婦(または事実上の夫婦といってよい二人)の間の問題を解決するというものです。日本ではお目にかかったことはありませんが、彼の地ではポピュラーなものなのでしょうかね?いずれにせよさまざまな悩みを抱えたカップルがこのクリニックを訪れ、セラピストの経験などないはずの彼女からトンチンカンな回答を得て混乱に拍車がかかってしまったり、逆にうまく問題が解決する姿がコミカルに描かれます。フロイトじゃあるまいし、何でもかんでも性衝動に結びつけりゃいいってもんじゃない気もしますが、まあそういう設定を楽しむしかありません。

そして彼女は相棒の男性セラピストと恋に落ち、自分自身が様々なトラブルに直面する、というのが大まかなストーリー。フランスの作品らしく、色々なところに、細かく、かつ「高度」なくすぐりが入っていたのだとは思いますが、彼の地の文化には明るくない私にとってはイマイチ笑えないシーンが続きました。

昨今は日本の女性もずいぶん大胆に自由に行動するようになったとは思いますが、まだフランスの、それこそ本能のおもむくままに快楽を求めるという奔放さは一般化していませんね。少々誇張されているとはいえ、女だって普通に性欲があり、男をとっかえひっかえすることだってあるさ、という主張は日本の文化と照らし合わせたギャップとしてココロにひっかかりました。文化の差の前に、日本の普通の女性の場合は、この作品のソフィーのような美しさを保ったまま美魔女になれる人の絶対数が少ないってのもあるのかもしれませんがね。

俗に天才子役は大成しないなどといいますが、ソフィーに関して言えば、大スターとまでは言えないにせよ確かな演技力を身につけて立派に一本立ちしてるな、という印象を受けました。ソフィーみたいな女性が目の前に現れたら…、気後れしてナンパなんて思いもよらないでしょうね(苦笑)。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-23 10:56 | エンターテインメント | Comments(0)

『アフリカで誕生した人類が日本人になるまで』を読んだ

アフリカで誕生した人類が日本人になるまで (SB新書)

溝口 優司/SBクリエイティブ

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少し前にkindleをPaperWhiteからFireHDに変えたのですが、変更後の最大の利点は本体のメモリ容量が増えたこと。本体に落とし込んでおける書籍の数が大幅に増えました。例えば前者だとコミックスはせいぜい3冊くらいしか落としておけませんが、後者なら100冊以上持ち歩くことが出来ます。文字情報だけの書籍なら1000冊以上大丈夫。そんなわけで、今までクラウドの中で文字通り眠っていた書籍を端末上に引っ張り出して片っ端から読んでいこうとしております。

以上のような状況の下で、クラウドの中から引っ張り出したうちの一冊が標題の書。今の人類がどこで発生し、どんな環境下で進化して現在の姿に至ったのかについて、特に日本人にフォーカスしてかなりわかりやすく解説してくれています。

人間がサルから枝分かれして人類としての歩みを始めたのはどの時点なのでしょうか?

それまでは森林地帯に住んでいたサルの種族のなかから、森林の中の敵を避けるために平地で暮らすものが出てきてから、というのが本書に記されたその答え。樹上とは違い、地上で素早く合理的に動くには二足歩行をする方がよい。で、自由になった前脚を「手」として使えるようになり、その手から受ける刺激で脳が著しく発達し、知能という卓抜した能力を得たところでヒトという種が始まります。その後は気候の寒冷化にあわせて、カラダの表面積を減らしたり、逆に暑さに対処するために体毛を減らしたり、大きくなった脳を格納するために頭蓋骨が大きくなったりというマイナーチェンジを何万年もの間連綿と続けてきた結果として今の人間に至った、という説明はシンプルながら非常にわかりやすいものでした。

今後、人間の姿はどのように変わっていくのでしょうか?発達した知能によって開発された道具の機能が優れていると、本来的には持ち合わせていた生物としての機能は衰えていくものなのだそうです。例えば、歯やあごの大きさや形状。刃物という道具によって細かく刻まれたり、熱を加えることで咀嚼しやすく加工することを覚えた結果、人類のあごはどんどん小さくなってきたそうですし、歯の形状も変化してきたそうです。確かに類人猿は牙を持った顔で表現されることが多いですね。生肉を喰いちぎるための能力が不可欠だったことの証左です。

さて、昨今人間特有の「考える」という働きを代行したり補完したりするための人工知能の発達が著しいようですが、これは人類の今後にとってどのような変化をもたらすのでしょうか?まあ、私が生きている間には結論が出るようなオハナシではないとは思いますが、様々な電子機器が身近にあることが「当たり前」となっている世代の常識と自分の持っている常識との乖離を考えあわせると少々恐いような気がしています。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-23 10:23 | 読んだ本 | Comments(0)

『暗黒の巨人軍論』を読んだ

暗黒の巨人軍論 (角川新書)

野村 克也/KADOKAWA / 角川書店

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巨人を倒すことに生涯をささげてきたといってよい野村克也氏による現在の巨人軍の問題点を指摘した書。

野球というスポーツは、1球1球プレーが切れ、インターバルがあるという珍しいスポーツです。野村氏によれば、この「間」の活用方法こそが勝負を分ける重要なポイントであるとのこと。点差、イニング、アウトカウント、相手投手との相性、走者の有無などの属性により、その場面場面での最良の結果を見極め、その結果をもたらすよう努力するのと同時に、最悪の結果も考えて、そこから少しでも遠ざかるようなプレーをしようと試みる。たとえば、無死一塁二塁で点差が1点ビハインド自分が右打者で相手投手も右、なんてな場面を想像してみてください。最良の結果はホームランで3点取ることではありますが、ホームランが出る確率は非常に低いし、下手に打って出たら内野ゴロでダブルプレーを取られて一気に二死(すなわち最悪の結果)なんて事態にもなりかねない。そこで、チャンスを広げるために送りバントを選択するが、その際には、二塁ランナーが三塁で封殺されないよう、捕球から送球までに時間がかかる三塁側にボールを転がすことを心がける、などというのが「考えた」プレーです。こうした場面場面での最良選択プレーは長い歴史を経るうちに「セオリー」として定着しています。またこのセオリーがあるからこそ、その裏をかく策だって出てくるわけです。そこで、いろんな選択肢を考え、実行するために練習を重ねる、というのが強化における「セオリー」となります。

俗に「アンチは裏返ったファン心理だ」などという言葉がありますが、野村氏は実はかなりの巨人ファンです。有力な選手が続々と集まる巨人には鼻も引っ掛けられなかったという悔しさが打倒巨人への強いモチベーションとなったのですが、野村氏が打倒したかったのはV9を達成した当時の巨人であり、現在の巨人はまったく怖くないとも述べています。V9時代の巨人はONという打線の軸と強力な投手陣を擁した上に、なおかつ各人が自分の果たすべき役割を熟知し、その役割を果たすための練習をきちんとしていたそうです。中心選手であるONも圧倒的な練習量でチーム全体を引っ張った。試合でのプレーだけでなく、日常生活においても他の選手の手本となるよう心がけていたというわけです。こうしたチームが空前絶後のV9を達成したのは至極当然で、現在のチームもこの時代のチームを手本とすべきだとも説いています。

なぜ、こんなことを野村氏が一冊の本にして上梓したのか?それは現在の巨人軍に考えるということがまったく根付いていないからです。冒頭にいくつかのミスが挙げられていますが、なるほどプロとしては恥ずかしいレベルのプレーばかりです。野球というスポーツへの理解も足りないし、理解するための研鑽も積んでいない。反射神経と筋肉だけでただ目の前の事象にのみ対応しているだけ。だから体力が衰えると高いパフォーマンスがみせられなくなる。仕方がないから他球団で実績を挙げた選手をFAで引っこ抜く。かくして素質のある選手が育たずに、功成り名を遂げた選手ばかりを巨人が引っかき集める、という今の図式が出来上がり、しらけたファンがどんどん離れていくという事態を招いたというわけです。

まったくもってその通り。自前の選手を育てて優勝した広島や日ハムに倣うかと思いきや、またぞろ欲しい欲しい病発動で有力な選手を3人FAでかき集めるわ、未完の大器大田を放出するわ、外国人も欲しいだけ取るわで、まったく反省がありません。盟主がこれでは、日本野球はアメリカに追いつくどころか完全ファーム化への道一直線です。なんとかして欲しいもんですが、今の最高権力者がどうにかならない限りはどうしようもないんでしょうね。テレビのゴールデンタイムにプロ野球中継が復活する日は来るんでしょうか?望み薄ですね…。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-23 05:56 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 二 飛流の章』を読んだ

岳飛伝 2 飛流の章 (集英社文庫)

北方 謙三/集英社

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北方大水滸伝シリーズ完結編『岳飛伝』の二巻目。『楊令伝』終了時における作品世界の状況の「おさらい」に終始した観のある一巻目から、岳飛、金国、梁山泊のそれぞれが躍動を始め、新しいストーリーをつむぎだし始めたのが今巻です。

まずは主人公岳飛。梁山泊で銭を鋳造していた田峯を招聘して、楊令に斬り落とされた右手にはめる義手を作ってもらうこととなります。元々の右手に質感、性能ともに劣らぬ義手は、楊令との戦いで文字通り傷ついた岳飛の心身を癒し、新しい戦いへの意欲を掻き立てます。ただし、まだ、自分が主権を握ろうという考えは薄く、あくまでも南宋の軍閥の一つの頭領という位置づけで、金国や梁山泊との対決に臨んでいかに勝利するかを考え、行動しています。また、彼の下には崔蘭という義理の娘が登場します。彼女が、梁山泊の医療を薬という面で支えた薛永が残した、さまざまな薬草の効能を記した書をたよりに、薬に対する造詣を深めていく姿が描かれます。やがて訪れるであろう、大きな戦において彼女が重要な役割を果たすこととなるのでしょう。そして、彼女はまた岳飛に、父親の成長した娘に対する戸惑いまでをも感じさせる役割をも担います。岳飛の人間臭いエピソードを示す手段としてはとしてはなかなか上手く考えられた手法ですね。

金国は王位を狙う人物たちの権力闘争と平行して、隣接する梁山泊との戦いに突入します。元々精強な兵を多数抱えるという設定であり、兵の絶対数も梁山泊軍を大きく上回るために、梁山泊軍と一進一退の攻防を繰り広げます。国としての野望は中原に覇を唱えることではあるのですが、実際にもし覇を唱えることになっても、その際の王が誰なのかについてはまだまだ混迷を深めていきそうですね。梁山泊を凌駕して南宋軍との直接対決があるのか否かも気になります。

さて、われらが梁山泊の面々ですが、現首領である呉用は、自らの「統治権」を破棄し、一種の集団指導体制を採っています。軍、兵站、商流、物流などなどの各分野に最高責任者を任命し、自身はその調整役に回っているのです。自分自身には宋江や楊令のように「志」を強烈に示して梁山泊を一つの方向にまとめあげる力はないと考えての施策です。潔い腹のくくり方ですね。権力に固執するどこかの政治家にはぜひとも見習って欲しいと思います。呉用をはじめとする元々の水滸伝からの登場人物たちは、志という一番の重荷を若い楊令一人に背負わせてしまったことを悔いてもいます。そして、志は一人の人間が背負うものではなく、梁山泊に集った面々の一人ひとりが持つべきものだという結論に達したのです。この施策は結果として、梁山泊の運営体制を現代の「民主主義」に近いものに変質させていきます。「志」に反しない限りはどんな行動をとることも自由。軍においてはさらに「規律」が存在しますが、たとえば商流に関しては梁山泊に蓄えられた原資を背景に日本やベトナムにまで手を広げるなど、当時としては目一杯ワールドワイドな活動が可能です。「裁量が」大きい分、責任も重大であるというのは容易に想像はつきますがね…。

さてさて、今後の展開を楽しみに次巻のkindle化を待ちたいと思います。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-23 05:52 | 読んだ本 | Comments(0)

『ファーゴ』鑑賞

ファーゴ [Blu-ray]

フランシス・マクドーマンド,スティーヴ・ブシェーミ,ウィリアム・H・メイシー,ピーター・ストーメア,ジョン・キャロル・リンチ/20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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ハリウッド屈指のヒットメーカー、コーエン兄弟によるクライムサスペンス。毎年この時期になるとレンタルDVD屋の店頭に出現する「アカデミー賞受賞作品」コーナーに並んでいたやつを衝動借り。

最初に登場するのはいかにも頼りなさそうな男ジェリーと、いかにもヤバそうな雰囲気を醸し出している2人組の男、カールとゲア。ジェリーがカールとゲアに持ちかけるのは自分の妻の狂言誘拐。資産家である義父から高額の身代金をせしめようという目論みです。どうやらジェリーはカネに困っているようです。

カールとゲアは誘拐に成功しますが、逃亡に使った車両にナンバープレートがついていないことを警官に見とがめられ、その警官をゲアが射殺してしまってから、ストーリーが、ジェリーを含む犯人一味にとっては悪い方向悪い方向に展開していきます。いわゆる「ドツボにはまる」というシチュエーションがどんどん進行していくのです。

まずは、警官射殺現場を偶然車で通りかかったカップルを二人とも殺害。罪がどんどん重なります。依頼したジェリーはジェリーで、警察に通報しようとする義父を説得し、身代金を引っ張り出すのに散々苦労させられます。おまけに、当初の要求金額から大幅に増額した身代金をジェリーではなく義父自らが犯人の元に運ぶと言い出し、強引に犯人との受け渡し場所に行ってしまいます。途中で身代金の大半をネコババしようとしていたジェリーにとっては実入りが何もないのに焦りと罪悪感だけが募る結果となります。

で、カネの受け渡し場所に行った義父は、受け取りに来たカールと銃撃戦の上、射殺されてしまいます。さらにはカネと車の取り分の争いから、カールもゲアに殺されてしまいます。いやはや。ちょっとした手違いや一瞬のイラつきによってもたらされたホンのちょっとしたズレがやがて大きな歪みとなって、登場人物たちに襲いかかる、という展開はなかなか上手く考えられていたと思います。悪いことを企んだやつには結局利益はもたらされず、代償としての罪だけはしっかり背負わされる、という結末も悪くありませんでした。

一つだけ消化不良だったのは、身代金の最終的な行方。支払われた金が要求額より大幅に多いことに気づいたカールは、当初通りの分け前だけ持って、残りはとりあえず雪の下に隠してゲアのいる隠れ家に帰るのですが、そこで前述した通り諍いが起こり、殺されてしまいます。カネの隠し場所を知る人物はストーリー展開からはカールしか考えられません。結局このカネは一体どうしたんだろう?そこだけ少々尻切れトンボ感は否めませんが、全体としてはなかなかの佳作だったように思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-14 18:59 | エンターテインメント | Comments(0)

『Eight Days a Week』鑑賞

ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK -The Touring Years DVD スタンダード・エディション

ポール・マッカートニー,リンゴ・スター,ジョージ・ハリスン,ジョン・レノン/KADOKAWA / 角川書店

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1962〜66年頃のビートルズの姿を、現存する映像から描き出したドキュメンタリー映画。当時のライブの映像から、後年になってからのメンバーや関係者へのインタビュー映像なども交え、彼らの「本気」にかなり近いところまでアプローチすることに成功しています。

静かなものから激しいものまでバラエティーに富んだメロディーにのせ、シンプルながら意味の深い歌詞が曲となって流れる。そして彼らの演奏する姿を観に、今までの音楽のコンサートでは考えられないほどの膨大な数の人々が会場に文字通り押し寄せる。熱狂、熱狂、また熱狂。警備の人数を増やしても、警官隊の出動を要請しても、ほとんど何の効果もない。このムーヴメントの解消のために、ひとまずは「ハコ」を大きくする方向に向かうこととなります。すなわち、普通のコンサートホールではなく、野球場などの「スタジアム」を会場とするのです。

今でこそ、ポッと出のアイドルとかいう連中までが当たり前のように行う「ドームツアー」なんてな催しを初めて「行わざるを得なかった」のがビートルズだったのですね。ネット配信などはもちろんなく、レコードですら普及の途上だった当時における彼らの人気は空前絶後、今の言葉で言えばレジェンドとでも言いましょうか。音楽の教科書にまでその名前が載ってしまうというのがよくわかる光景が次々と映し出されます。

そしてこの作品はやがて訪れるであろう、解散の日をにおわすようなカタチで終わっています。それこそ1週間に8日も働き詰めに働く、という日々がデビュー以来続いていた彼らは次第にマスコミの前でも不機嫌さを隠さなくなります。一部のメディアとは険悪な雰囲気になっていたし、デビュー当時の勢いからすればやや勢いに欠ける(とはいえ、それでもすべての作品が「ヒット」したと言える状態なのですがね…)セールスも、メンバー個々の音楽性の違いってやつも影響していたんでしょうね。メンバー間の亀裂を決定的なものにしたと言われている、ジョンのオノ・ヨーコへの過剰なまでの肩入れに関してのタネもこの時期に蒔かれていたのかもしれません。

ビートルズが音楽を、そして社会をどのように変えたのかが具体的に描かれていた、なかなか興味深い作品だったと思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-12 18:37 | エンターテインメント | Comments(0)

『平尾誠二・ラグビー界の太陽大金星のラグビー人生を振り返る』を読んだ

平尾誠二・ラグビー界の太陽 大金星のラグビー人生を振り返る (朝日新聞デジタルSELECT)

朝日新聞/朝日新聞社

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昨年53歳という若さで急逝し、昨日お別れの会が催され、2000人もの弔問客を集めた平尾誠二氏に関する朝日新聞の記事を集めた一冊。大学選手権三連覇を果たした同志社大学時代のものから、昨年6月に行われたジャパンvsスコットランドのテストマッチ直前のものまでが収められています。

平尾氏といえば伏見工業での高校ラグビー全国制覇、同志社では大学選手権三連覇、社会人の神戸製鋼では七連覇とすべてのステージで栄冠を得、ジャパンの中心選手としても長年活躍した「ミスターラグビー」の名にふさわしい名選手でした。

この一冊にも優勝直後のインタビューや、主将としての日常など明るい面が数多く取り上げられています。まあ、亡くなった方の悪い面をとりあげるのは特に日本でははばかられる傾向にありますし、悪いことよりは良いことの方が圧倒的に多い方でもありますので、構成上しかたのない部分もありますが、エディー氏というかつてない業績を残した監督が去った後という時期だけに、苦闘続きだった日本代表監督時代についてももっと触れて欲しかった気がします。彼の一番の悔いはおそらく、志半ばにして退いた日本代表監督であっただろうと思われますし、彼がやろうとしていながら果たせなかった強化策(例えばジュニア世代から継続したエリート育成プログラムなど)については今のジャパンに活かすことが可能であるとも思うからです。

無念の思いとともに、俗に「棺桶のなかまで持っていく」などと言われる秘話やしがらみ、障壁などを赤裸々に語った内容のものを掲載してほしかったなぁ、という気がします。彼は日本ラグビー界のさまざまな場面をすべて知りうる立場にあった人であり、かついろいろな方々に意見を言える立場でもあったはずです。だれの、どんな思惑が日本ラグビーの前進を阻んだか、それこそ亡くなった今だからこそ言えるオハナシが多々あるように思うのですがね…。

新聞報道の限界の一つの局面をみてしまったような気がしました。新聞はその時その時の客観的な事実を伝えることが最優先されるがゆえに一つ一つの事柄を深く掘り下げるて伝えるのは苦手です。新聞に掲載された記事を集めると、どうしても当たり障りのない事象の羅列になってしまうんですよね。平尾氏は称えられてしかるべき人物ではありますが、彼をもってしても改革出来なかったジャパンの今にも連なる暗部について語ることの意味は決して低くなかったように思いました。

いずれにせよ、私くらいの年代のラグビーファンにとってはまさしくキラ星のような存在でした。その輝きが亡くなってしまった今の喪失感は例えようもありません。改めてご冥福をお祈りしたいと思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-11 08:31 | 読んだ本 | Comments(0)

『5th Wave』鑑賞

フィフス・ウェイブ(初回生産限定) [Blu-ray]

クロエ・グレース・モレッツ,ニック・ロビンソン,ロン・リヴィングストン,マギー・シフ,アレックス・ロー/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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クロエ・グレース・モレッツが主演しているというだけで借りて来てしまった一作。

彼女の今作の役割は女子高生キャシー。ある日キャシーの住む町の真上にいきなり巨大な円盤のようなものが出現します。どうやらこれは異星人(作中の呼び名はアザース。以下アザース)の乗り物兼前線基地だったらしく、このアザースたちからは不気味な10日間の沈黙の後、第一の波(攻撃)が送られてきます。

これは電磁波による攻撃で、エネルギーの統制を司るコンピューターから、人々が持つスマホにいたるまで、すべての電子機器が使えなくなります。次に襲ってくるのが内陸部では大洪水、沿岸部では大津波。この第一次、二次の攻撃はちょっと穿った見方をすれば大地震の光景を模したものかもしれません。ライフラインと通信手段を失った後の人々に襲いかかる大量の水…、特に東日本ではリアルな恐怖を感じる人もいるのではないでしょうか?

お次ぎは伝染病。キャシーの母は看護師で人々の治療にあたるうちに感染して死亡。しかし中にはこの病原菌に打ち勝つ人々もいます。しかし打ち勝ったとは言ってもアザースに脳を乗っ取られて別人格(アザースのために人類を殺戮する方向で活動します)になってしまう人物もいれば、全く影響を受けない人物たちもいます。ここで起こるのが人間同士の同士討ちと疑心暗鬼。このあたりは「人間が本当に頼れるのは人間だが、同時に一番の敵となるのも人間だ」という私にとっては『デビルマン』の原作コミックを読んで以来のパラドクスが示されていたように思います。ここまでの攻撃で第4波。で、五つ目は何?と思っているうちにエンドロールになっちゃいました。何じゃこりゃ?

ストーリーそのものはさほど悪いとは思いませんでしたが、あまりにもリアリティーがなさ過ぎて、普通に観ているのが困難でした。詳しい筋立ては観ていただくしかありませんが、最終的に、人類を救いうるのは子供である、というメッセージを表すために、大人ですらかなわないアザース相手に子供が戦おうとする、という設定がそもそも理解不能。文字通りの子供騙しです。キャシーだって、不意打ちだったとはいえ、訓練を摘んだ女性兵士と戦って絞め殺してしまったりもします。いくらなんでもあり得ねーだろ。もしこれが実情だとしたら、アメリカ軍に守ってもらってるって安心すら出来ねーじゃねーか!

まあ、作品としての室はさておいて。クロエ・グレース・モレッツだけはたっぷりと鑑賞することはできましたので、それだけが救いでした。彼女のファン以外にはあまり観る価値のない作品であるように思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-07 19:00 | エンターテインメント | Comments(0)

『家族喰い-尼崎連続変死事件の真相』を読んだ

家族喰い――尼崎連続変死事件の真相

小野一光/太田出版

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戦地から風俗嬢まで幅広い分野のルポルタージュを上梓しているルポライター、小野一光氏による尼崎で起こった不可解な事件に関する渾身のルポルタージュ。

このテの事件の先例としては、北九州の一家監禁殺人事件が挙げられますが、小野氏はこの事件の主犯とされる人物にも直接逢って話を聞いています。今回のこの事件に関しては、主犯とされる角田美代子の行きつけの店などを粘り強く探し出して、「角田ファミリー」をよく知る人々を追い求め、時には事件の当事者から、時には近所の人々からじっくりとファミリーの姿を聞き出し、日々流される、新鮮ではあっても底の浅い情報とは一線を画した、深く濃い実像を描き出しています。

この手法は遠い大学時代に聞きかじったニュージャーナリズムの手法そのもの。書き手は即時性には目をつぶり、じっくりと時間をかけて事件の真相を深い部分まで探り出していきます。そして角田美代子とそのファミリーとされる人物たちの実像をリアルに描き出すことに成功しています。

それにしても何故角田美代子のような人物に魅入られ、いいようにクイモノにされる人物が存在するのでしょうか?小野氏は、角田の洞察力の鋭さとマインドコントロールの方法、警察への対処の仕方などを次々と暴いていきます。

彼女はまず、自分がクイモノにできそうな弱い一家を見つけることが天才的に上手い。そして目をつけられたが最後、その家族は住居に居座られるわ、家族同士が互いに暴行虐待をさせられるわ、ろくに睡眠も取らせずに延々と家族会議をさせられて、何を答えても編成と称して虐待されるわで、どんどん弱っていきます。そして、その家の資産という資産をすべて食いつぶすと、今度はその成員たちを次々と殺してしまうのです。そして新たな寄生先を探すという訳です。聞いているだけで身の毛もよだつような恐怖ですね。

身も心もズダボロにされてから殺される訳ですから、それこそ「死んだ方がマシ」という気分のママで死んでいくことになるのです。哀れという以外に言葉が浮かばない死に様ですね。

自分自身が手を下さずに、周りの人間を「実行犯」に仕立て上げることの上手い人物というのは確かに存在します。私の場合は小学生時代にそういう人物にぶち当たってしまいました。そいつは、成績が良かったために、教師を味方に付けることにいち早く成功しました。ケンカにでもなれば、どちらが発端なのかはまず問題にされず、教師はほぼすべてそいつの肩を持つ方に回りました。そしてそうした教師の姿勢はいつの間にか、そいつに逆らってはいけない、という空気を醸成してしまったのです。で、仮に逆らってしまえば、集団すべての人間からいじめの対象にされる。しかし当の本人は全く自分では手を下さないので、仮にいじめの現場を教師に見つかっても、怒られるのは実行犯だけ。そいつはいつも教師の後ろでニヤケヅラしてました。

角田の場合は、背後に反社会的勢力の皆様がいることをにおわせた上で、最初の方では子飼のガタイのいい男に暴力をふるわせ、獲物の心に恐怖と絶望感を植え付けます。そして絶望感の中で、今度は家族同士が角田に命じられるままお互いに暴力をふるいあうのです。この世の地獄とはこのことではないでしょうか。

こういう人物は本当にどこにでも存在します。魅入られないようにするためには人を見る目というものを培っていくしかありません。魅入られたが最後、行きつくところまで行きついてしまうでしょうから。


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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-28 19:05 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 一 三霊の章』を読んだ

岳飛伝 一 三霊の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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ようやく文庫化されたので買い求めた、北方水滸伝の完結編『岳飛伝』の第一巻。待ちわびてましたね。

とはいえ『楊令伝』の最終巻を読んでから2年も経っていたので、最初のうちは現在の人間関係をもう一度把握し直すというリハビリが必要でした。そもそものオリジナルメンバー108星で残っているのは呉用、史進、李俊くらいでしょうか。後はほとんどが二世。今巻の中心となってストーリーを引っ張るのは王英と一丈青の息子王貴。梁山泊を財政面から支える商品流通の、それも物流部門に文字通り新しい道をつけようと奮闘します。

で、現在の梁山泊はというと、実質的な指導者がいないような状態。なにか活動をしようと思うと、指導部からは物資的な支援があるのですが、各部隊の各々の行動は「志」の下に統一されていた前二作とは大違い。実務担当者としてのリーダーは呉用が務めていますが、リーダーとして引っ張るという役割までは付与されていません。皆が皆、今のままではどこかで大きな破綻が起きるのではないかと思いながら、今のところ大きな不都合は起きていないし、さしあたっての脅威もないのでなんとなくモノゴトが回っていってしまっている状況です。なんというか、今の日本の閉塞感にも似た状況ですね。少し面倒な問題は先送り先送りにして、現在の当事者が責任を問われないようなカタチになんとなくなってしまっている。梁山泊を襲った大洪水の復興が最優先という流れで、中長期的な視点に立って対処すべき問題がとりあえずないことにされている状態なんか、二つの震災の復興に追われている日本の状況にそっくり。で、先送りにした結果のマズい結末の一例が築地移転問題を始めとする都政の混迷です。何かしっくりしないものを感じながらモノゴトを進めていった結果、大きな矛盾が表出する。梁山泊もいつか大きな崩壊を迎えるのではないか?故に北方氏は、完結編の主人公を梁山泊の人間ではない岳飛にしたのではないか?色々な憶測を持ちながら読み進めざるを得ません。

なんてなことを頭の中で思いながら、TVを観ていたら、丁度アメリカのトランプ新大統領の就任式をやってました。で、突然ひらめいたんですが、梁山泊のリーダーをトランプ氏がやったらどうなるでしょうかね?それなりの基盤が整っている状況の下、内容の善悪は別にして、強い言葉で強力なリーダーシップを発揮して、様々な人間からなる集団を一つの方向に持っていこうとする…。こういう人物こそが、この本に描かれている時点の梁山泊には必要なのではないでしょうか。まあ、もしトランプ氏が頭領の座についたら、梁山泊はイスラム国並みのテロリスト集団と化しそうな気もしますがね(笑)。

さて、リハビリも済みましたので、北方水滸伝の掉尾を飾るこの作品じっくりと読み進めたいと思います。ちなみにkindle版での購読となりますので、文庫本の発売とは若干読む時期がズレると思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-22 06:50 | 読んだ本 | Comments(0)

『ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論』を読んだ

【カラー版】ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論 (集英社新書)

ヤマザキマリ/集英社

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『テルマエ・ロマエ』の大ヒットで、一気に人気マンガ家にのぼりつめたヤマザキマリ氏によるルネサンス美術の解説書。題名通り、取り上げられる人物にはやや偏りがありますが、有名どころはほぼ皆紹介されています。

ヤマザキ氏は17歳の時に高校を中退して、絵の勉強をするためにイタリアに渡ります。残念ながら志望していた画家になることは出来ませんでしたが、描画の技術とイタリアの文化・歴史への知識が彼女の中で上手くミックスされて『テルマエ・ロマエ』という快作が生まれたという訳です。

『テルマエ〜』の主人公である技師ルシウスは架空の人物ですが、実在した人物を描いた『プリニウス』(とり・みき氏との共作)という作品も上梓されているようです。プリニウスは本書にも登場します。

さて、ルネサンスとは文芸復興という訳語が当てられる文化的ムーヴメントです。それまで神の教義を伝えるための手段であった芸術が、人間らしさを写実的に表したものに変わっていったことなどが代表的な「動き」となります。

そのムーヴメントの中の三大芸術家といえば、ラファエロ、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロであり、文学の分野では『新曲』を書いたダンテがその代表格です。ヤマザキ氏はこうした人物達の一風変わった人物像を紹介し、その変人ぶりへの愛を語るのです。

芸術家に変人が多いであろうことは、例えば岡本太郎氏の言動や行状をみていれば想像に難くありません。ルネサンス期以前はイエス・キリストや聖母マリアなどは文字通り神々しく、魅力的な人物として「エラそうに」描かれることが一般的でした。神とそれに関係する人々は、聖書などに描かれたイメージからある種のステレオタイプな表現を「強制」されていたのです。しかしながらルネサンス期に活躍した芸術家たちはこうした描き方に異を唱え、実在の人物をモデルに、より写実的に人間の像を描き出すことを始めたのでした。俗に「世の中を変えるのは若者とヨソ者とバカモノだ」等と言われますが、彼らはまさに、芸術のあり方を変えたバカモノだったのです。

彼らによる変革がなければ、芸術は主にキリスト教の伝播道具にしか過ぎなかったかもしれません。そういう意味ではこのバカモノたちには大いに感謝すべきなのかもしれません。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-21 07:14 | 読んだ本 | Comments(0)

『プロ野球もうひとつの攻防「選手vsフロント」の現場』を読んだ

プロ野球 もうひとつの攻防 「選手vsフロント」の現場 角川SSC新書

井箟重慶/角川マガジンズ

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2016年のシーズンにおいて、ペナントレース、交流戦、ウエスタンリーグとすべて最下位で、「完全最下位」という史上初の不名誉な記録を達成してしまったのがオリックスバファローズ。1988年に阪急ブレーブスから経営権を継承し、途中でブルーウエーブと名を変え、さらには近鉄バファローズとの「合流」を経て現在の球団名、経営体瀬となるのですが、「オリックス球団」の創成期に球団代表として経営に携わったのが著者井箟重慶氏。当時の球団経営の裏側を、題名どおり、特に選手との契約を中心に詳しく語った一冊です。

新球団になった当時のオリックスブレーブスは、選手層もちょうど世代交代の時期にさしかかっていました。1970年代後半に阪急ブレーブスの黄金期を築いたベテラン陣は衰えを隠せず、レギュラーラインナップが磐石であったが故の弊害である若手の成長遅れが顕著でした。おまけに当時のパリーグはまだまだマイナーな存在で、いくら勝っても観客は大して増えないが、負けが込めばそれこそ「無観客試合」に近いような状態になることも珍しくありませんでした。親会社だった阪急が悲鳴をあげて投げ出した球団を買い取ったのが当時のオリエントリース。球団買収とともにオリックスと名を変えた同社は、関西発祥の総合リース業者として日の出の勢いでした。井箟氏は丸善石油野球部のマネージメントにかかわったという職歴を買われて球団に入社。以後10年に渡り、球団代表を務めました。

この方の在職時、この球団には実にいろいろなことが起こりました。新生球団であることを差し引いても、並みの球団の3倍くらいの濃い時間を過ごしたのではないでしょうか?

阪急色を「脱色」するためにV9巨人の戦法や選手育成方法を知悉した土井正三氏を監督に迎え、3年間選手の育成に重点を置いた指導体制を敷きます。イチロー選手を見出せなかったとして、指導者としての評価は高くない土井氏ですが、全体の戦力の底上げにはつながったとして井箟氏は「世間」よりは高く評価しています。

そしてその後には、勝つための監督として勝負師仰木彬氏を招聘。仰木監督の誕生とともに彗星のごとく出現したのがイチロー選手。日本球界初のシーズン200本安打を達成するなどして、一気にスターダムに駆け上がった彼は、打線全体を活気付けました。そこに、星野、長谷川、酒井、佐藤、平井といった充実した投手陣が加わったのですから強いのも当たり前。1995年、96年とリーグ連覇を達成し、96年にはチームとしては阪急時代から、仰木監督個人としては3連勝後4連敗を喫した大逆転敗戦の宿敵巨人を倒して日本一にまで昇り詰めました。

この時代のドラフト戦略、外国人獲得、各選手との年俸交渉など面白いオハナシガずらり。なかでもやはり一番興味深かったのは、イチロー選手のドラフト指名をめぐるオハナシでした。イチロー選手は愛知県出身ということもあり、本人も中日ファンでしたし、中日球団もマークしていたそうです。1位指名にかけるほどの目玉ではないにせよ、まるっきりの下位で指名することもないだろう。いったいどの順位で指名してくるのか?この辺のフロント、スカウト同士の原の探りあい、手の読みあいが実にリアルに描かれています。井箟氏も3位指名にするか、4位指名にするか、それこそ3位指名の選手を決める寸前まで迷ったそうです。結局は4位指名で交渉権を獲得し、入団にこぎつけることとなるのですが、ここに人事の妙ってなこともかかわってくるような気がしますね。オリックスで、仰木監督と出会ってこその開花だったかもしれないですから。

イチロー選手といえば、彼は日本球界初のポスティングシステムによるMLB球団遺跡選手でもあります。このポスティングというシステムができるまでのオハナシも非常に興味深い。アメリカに駐在した経験のある井箟氏は制度の整備のためにさまざまな交渉を行い、選手にとっても球団にとってもメリットのあるシステムを作り上げます。スター選手であるがゆえに引き止めたい球団(および日本球界)と、高いレベルで自分を試したいと考える選手とのハザマで奔走したであろう井箟氏の苦労がしのばれるオハナシです。この制度は、選手の価値に見合ったトレードマネーが球団に入ることで、選手が球団やファンに対して、後腐れなくMLBに移籍できるようになったという意味で評価できると思います。日本球界がMLBのマイナーリーグ化してしまったという負の側面も無視できないほどに大きなものではありますがね…。

金だけを使うのではなく、知恵を絞ることでチームを強化し、かつ利益構造も改善する。どこかの金満球団に突きつけてやりたいようなオハナシばかりでした。金だけに頼った即戦力補強は長い目で見た場合に球界全体のメリットを減じる行為であることがはっきりした今だからこそ、井箟氏のような方に球団の経営を任せたいものですね。







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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-19 18:29 | 読んだ本 | Comments(0)

『日本ラグビー心に残る名勝負−歴史に残る日本ラグビー激闘史』を読んだ

日本ラグビー心に残る名勝負―歴史に残る日本ラグビー激闘史

ベースボールマガジン社/ベースボールマガジン社

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1970年〜2015年の日本ラグビーの「名勝負」と言われた試合を紹介したのが標題の書。

日本ラグビー史上における最大の名勝負は、なんといっても2015年第8回ワールドカップ予選プールでの南アフリカ戦でしょう。連続出場こそ途切れてはいないものの、勝利が1回だけという「最弱チーム」ジャパンと、対戦成績で負け越しているのはオールブラックスだけ、過去二回の優勝を誇り、この大会でも優勝候補の一角と目されていたスプリングボクス。番狂わせの最も起こりにくいと言われているラグビーと言う競技において、この下馬評の差は圧倒的で、戦前は「いかに食い下がれるか」が焦点となっていたほどでしたが、結果はエディー氏が帰国後の会見の第一声で発した言葉に集約されていると思います。「新しい歴史、作りました」。

2015年はラグビーフィーバーに沸き、マスコミへの選手、チーム、ラグビーそのものの露出が桁違いに増えました。スポーツジャーナリズムはもとより、一般のメディアでも五郎丸選手のメンタルトレーニング方法やらエディー氏の組織管理方法とかが盛んに取り上げられました。これだけ、ラグビーが日本社会の耳目を集めたのは恐らく初めてでしょう。勢いに乗って乗込んだスーパーラグビーという場ではジャパンに準ずる存在のサンウルブズは苦戦続き、また、ジャパンもスコットランド、ウエールズといったチームには善戦どまりだったため、2015年当時の熱狂的なブームはやや沈静化していますが、まだまだ追い風が吹いているのは事実。2017-18シーズンに期待しましょう。

さて、私自身が思う名勝負は二つあります。奇しくもこの本には両方とも取り上げられていませんでした。

一つは1987年12月6日の関東大学ラグビー対抗戦の早稲田vs明治。世に言う「雪の早明戦」というやつです。堀越、藤掛、今泉といったスーパー一年生を擁してこのシーズン現時点では大学チームとして最後の日本選手権制覇チームとなった早稲田に対し、やはりスーパールーキーと言われたWTB吉田を切り札に、伝統の重戦車FWがその破壊力を存分に見せつけていた明治が真っ正面からぶつかりあった一戦。前日に降った雪を溶かすような熱戦でした。特に終盤、ペナルティーで同点のチャンスを得た明治があくまでも勝利を得るためにゴールキックを狙わずに攻めに攻めた場面で早稲田がみせた執念のディフェンス。この攻防は見応えがありましたね。早稲田のFBの選手は脳しんとうで交代しましたし、私と同じポジションであった屯所選手のジャージがびりびりに引き裂かれていたシーンも印象的でした。

もう一つは1990年1月2日の大学選手権準決勝の早稲田vs大体大。この試合、大体大は徹底的にFW戦にこだわってきました。なかでも特にスクラム。何度も何度も組み直し。ついには認定トライまで取ったと記憶しています。当時の大体大は実は明治キラーと呼ばれていました。同じようにFWにこだわるチームながら、大体大は体育大らしく、当時としては最先端の筋肉強化トレーニングを用いて、より効果的に鍛えていました。確か、筋トレに専念する練習日を週の内に何日か必ず設けていたという記事を読んだ記憶があります。で、大体大のFWは明治の重戦車軍団に対しヘラクレス軍団と呼ばれていました。真っ正面から押しまくる重戦車に対し、力では負けない上に、筋肉に柔軟性を持たせた大体大FWの方が一枚上手だという論調でした。実際に1987-88シーズンの大学選手権でも、この大会でも明治には勝っていたはずです。この試合も終盤までは大体大がリードしていました。先にも述べた通り、スクラムを中心に自分たちの強みを最大限に活かしきった試合でしたが、最後の最後で早稲田が2トライを挙げてうっちゃります。どこか晴れ晴れとした大体大フィフティーンに対し、スクラムで散々にやられた早稲田の3番プロップの選手は号泣してました。同じポジションだけにキモチは非常によくわかります。試合に勝ってもスクラムで負けていたらプロップとしては負けなんです。

さて、この文章を書いている時点で、高校ラグビーは東福岡が優勝。大学は帝京と東海で決勝戦を控え、トップリーグの優勝争いからも目がはなせない状態です。2019年の日本でのワールドカップ開催に向け、この本に収録された試合をしのぐような名勝負がもう一冊本に出来るくらいの充実したシーズンを続けて欲しいものです。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-09 07:57 | 読んだ本 | Comments(0)

『アタック・ナンバーハーフ』鑑賞

アタック・ナンバーハーフ〈デラックス版〉 [DVD]

チャイチャーン・ニムブーンサワット/クロックワークス

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タイに実在したオネエたちのバレーボールチームを描いたタイ映画。公開当初、ちょっと気にはなっていたのですが、そのうちビデオ(2000年の制作ですので当時はまだDVDは普及していませんでした)化されるだろうと、思っているうちにいつの間にか、記憶の彼方に消え去ってしまっていた作品です。先日近所のレンタルDVD屋に行ったらたまたまピックアップコーナーにあったので即借り。原題『サトリー・レック』はこの実在のチーム名でタイ語で「鋼鉄の淑女」という意味になるそうです。邦題はあきらかに、女子版のスポ根マンガの草分け『アタックナンバーワン』のもじりです。当時こうした人々のことはニューハーフとかMr.レディーなんて言い方をしていましたから、タイトルはタイムリーなものではあったようですね。

私の大学の卒業旅行はタイでした。バンコクのとある日系デパートに土産物を買いに行き、そこでトイレに入ったらオネーサンが二人、かなり念入りに化粧していました。あれ、男女を間違えたかな?と慌てて外に出て改めて確認したら私はきちんと男性用の方に入っていたのでした。つまり彼女?らはオネエ(最近はこういう言い方をしますね)だったのです。まぎらわしいわ!!まったく。

タイという国は、歴史的にLGBTの方々には比較的寛容な国のようです。国教である仏教は同性愛を罪悪視していませんし、国民の敬愛を一身に浴びていた前国王もゲイだったのではないか、などとも言われています。公立の学校には男女のトイレの他に同性愛者専用のトイレがあるそうですし、性転換手術の最先端の地は彼の国です。日本の有名なオネエさんがたもずいぶんお世話になっていると聞きますね。

こうした文化的背景を持つ国ではありますが、やはりLGBTの人々というのはマイノリティーです。作品中でも、観客からブーイングを受けたり、対戦予定のチームに試合を拒否されたりするというエピソードが描かれます。チームのメンバーの一人は母親から同性愛者であることを手ひどく非難され、親子の縁を切られてしまいます。全体的にコミカルな描き方をされてはいますが、描かれている差別に関してはかなり生々しいです。自分の性に関して違和感を感じているというだけの理由で社会から拒絶されてしまうという悲しみは、差別されたことのない者にとっては想像しがたいことです。ステレオタイプな表現方法ながら、その悲しみと、それにめげないでバレーボールに打ち込む彼(女?)たちの姿は上手く表現されていたように思います。まあ、ストーリー的には「勝利がすべてを癒す」というスポ根モノの王道なのですがね。

ちなみに、このチームの監督は女性で、かつレズビアンです。こういうところにも細かなくすぐりは入っています。

ちょっとググって調べてみたのですが、演じた役者たちの素のセクシュアリティーに関して詳しく解説したモノはありませんでした。もし、素のセクシュアリティーがヘテロであるなら、なかなか真に迫った演技であったとは思います。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-08 06:35 | エンターテインメント | Comments(0)