『の・ようなもの』鑑賞

の・ようなもの [DVD]

秋吉久美子,伊藤克信,尾藤イサオ,小林まさひろ,大野貴保/KADOKAWA / 角川書店

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故森田芳光監督作品。小堺一機、関根勤(出演当時はまだラビット関根)の「コサラビ」コンビがおすぎとピーコを髣髴とさせるオカマコンビを演じているのを観たかったというのが第一の目的。関根氏がラジオやコントなどの場でさんざんネタにしていた、でんでん氏の怪演ぶりを観てみたい、というのが二つ目の目的でした。

第一の目的のシーンは早々に出てきて、あっという間に終わっちゃいました。衣装とか髪型で撮影当時の1981年をしのぶことは出来ましたが、このコンビが売れた後の、出てきただけで大爆笑を誘うようなモノマネの切れ味はまだ観られませんでした。まあ、この映画の中での彼らの役柄はあくまでもチョイ役ですから仕方ないんですけどね・・・。

第二の目的、でんでん氏について。最近でこそ、味のあるバイプレーヤーとして刑事役や、犯人役などで存在感を示している同氏ですが、もともとはお笑い出身。それも現在で言えば、ノンスタイル井上などのようにブサイクなのに気障ったらしいセリフを吐いて笑いをとるというスタイルで、そこそこ面白かったという記憶があります。関根氏によると、出演前には、いつも「俺の演技はすごいからちゃんとみとけよ」みたいな大口を叩いているのですが、いざ本番に入るとアガッってしまってセリフがしどろもどろになるところが滑稽だったとのことなのですが、この作品では特におどおどした様子もなく、無難に売れない落語家を演じていましたね。ただ、出てくるたびについつい「どうだ、かっこいいだろう」っていう往年の決めゼリフがどうしても浮かんできちゃいはしましたがね。

さて、ストーリーの紹介を少々。二つ目の落語家志ん魚(伊藤克信)が主人公。二つ目の落語家というのは落語家「のようなもの」ではありますが、まだ一人前の落語家ではない。ソープのおねえさんや女子高生のお姉ちゃんたちとも付き合いはするのですが、どちらもいわゆる「本命」とはちょっと違う。彼氏「のようなもの」。要するに志ん魚は、その社会的人格のすべてが何か「のようなもの」で常にあっちにふらふら、こっちにふらふらしている。でもそのことを恥じるでもなく、悩むでもなく、ただ飄然と日々を過ごしています。

この設定、どこかで同じようなものをみたことがあるというデジャヴを感じました。そうそう、又吉先生の芥川賞受賞作『火花』に非常に良く似た設定です。あちらの主人公が破滅型の芸人なのに対し、こちらは、あることがきっかけで、落語家になりたいという自分を発見し、そこに向かって邁進していくのであろうという、明るさを感じさせるエンディングになっています。

バブル期直前、漫才ブームやアイドルブームがおこりつつある時代の不安定ながら不安ではない若者たちの群像劇。同じようにカネはなくても、今よりはミジメでなかった若者たち・・・。リアルタイムで観たらいったい私はどんな感想を持つに至ったのでしょうか?今となっては、バブル景気という花火が打ちあがる前の、時代の盛り上がりを懐かしく感じるのみです。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-09-11 17:42 | エンターテインメント | Comments(0)

『LA LA LAND』鑑賞

ラ・ラ・ランド スタンダード・エディション [Blu-ray]

ライアン・ゴズリング,エマ・ストーン,カリー・ヘルナンデス,ジェシカ・ローゼンバーグ,ソノヤ・ミズノ/ポニーキャニオン

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アカデミー賞の場で、史上最大のぬか喜びをさせられたのが標題の作。興行そのものは成功したといってよいのですが、どうも滑稽なイメージがまとわりついてしまったようですね。

さて、ストーリーは典型的なボーイ・ミーツ・ガールの恋愛モノ。女優をめざすミアとジャズピアニストとして、自らの音楽を追及したいというセブが出会い、自らの夢と二人の愛情の間で揺れ動き、そして最後はお互いの道を歩んでいく、という余韻残しの失恋物というのが大雑把なストーリー。

この映画はストーリーを見せるものじゃなくて、ダンスを魅せるのが最大の特長でした。オープニングで、ハイウエイの渋滞にはまった車から一人の女性が路上に出てきて、いきなりダンスを始めると、別の車からも次々と人々が降りてきて、様々な歌とダンスを繰り広げる。このシーンで一気に映画の中の異世界へ引きずり込まれてしまいました。

題名の「LA LA LAND」とはロスアンゼルスと架空の空想の国とのダブルミーニングとなっているそうです。空想の国「LA LA LAND」の中では、二人それぞれの夢も、二人の間の愛情も順調に育っていく姿が描かれます。趣向を凝らした舞台で繰り広げられる二人のダンスシーンは、単純に美しい。「雨に歌えば」などの古いミュージカル映画を思わすような、夢のような一時。

しかし、現実のロスアンゼルスでは、二人を取り巻く環境は非常に厳しい。オーディションに落ちまくるミアと、金のために自らの音楽性とは違うバンドで活動するセブ。そして、お互いがお互いの夢の実現のための努力から逃げていることをなじり、関係が壊れていく…。まさに現実には良くある話です。ゆえに、空想の国の中のダンスシーンがより甘美なものに感じられるというわけです。このあたりのさじ加減が実に巧み。

ただし、先にも書いたとおり、ストーリーがあまりにもオーソドックス過ぎ。使い尽くされた類型的物語であったがゆえに作品賞のオスカーは逃してしまったのではないでしょうか?材料は大したことなくても調味料の使い方が上手い、というのはいい料理人の条件ではありますが、ややテクニカルな部分に走りすぎた感はあります。

単純に画面上で繰り広げられるシーンの美しさだけを鑑賞している分には十分に満足できる内容でした。映画館の大きなスクリーンで観たかった作品です。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-09-11 17:26 | エンターテインメント | Comments(0)

『矢島美容室THE MOVIE〜夢をつかまネバダ〜』鑑賞

矢島美容室 THE MOVIE ~夢をつかまネバダ~メモリアル・エディション [DVD]

ストロベリー,マーガレット,ナオミ,黒木メイサ,山本裕典/ポニーキャニオン

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TVCM華やかななりしころは、CMで使われたフレーズが好評で、そこを中心に無理矢理曲にしてしまい、それなりにヒットしたなんて例が結構ありました。有名なところでは『勇気のしるし』(リゲイン〜24時間戦えますか?ってフレーズが有名ですね)、『いまのキミはピカピカに光って』(カメラのCM。今はおばちゃん役が板についた感のある宮崎美子が巨乳アイドルとしてTシャツを脱ぐシーンが有名ですね)が挙げられます。

標題の作は、とんねるずの番組内での架空のユニットに、無理矢理キャラをかぶせて作ってしまった映画。まあ、作りは推して知るべし。チープな映画です。元々がコントを演じるためのユニットですから、映画の中に様々なくすぐりが入っていました。今見ると、おかしさよりは「懐かしさ」を感じてしまうギャグばっかりでしたけどね。そもそも「矢島美容室」というユニット名そのものが、30年近く前の『とんねるずのみなさんのおかげです』内のコントに際して作った「矢島工務店」のもじり。ウィキペディアとかなしでこのハナシが通じてしまうのは、40代以上でしょうね。

内容とかストーリーとかを味わうとか追いかけるとかそういうレベルの作品じゃありません。いかに笑わせてくれるかが焦点だったのですが、まあ、げらげら笑うまでには行きませんでしたね。下手に「映画」なんてしゃっちょこばらずに、往年のコントのノリをそのまま再現してくれたほうが面白かったんじゃないかな、というのが率直な感想。まあ、とんねるずの全盛期を知っているだけに無残だな、という気持ちのほうが強かったですね。

一方で、ちょっと救いだったのが、ミュージカル風のシーン。曲はすべて出演者でもあるDJOZMAが作ったそうなのですが、そこそこのクオリティーに仕上がっていたように思います。まあ、曲そのものはモロパクリのフレーズばっかりでしたけどね。

その他は、さまざまな人々がカメオ出演していたのが、お笑いポイント。期待せずに観た作品でしたが、期待を裏切らないチープさでした。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-09-11 17:02 | エンターテインメント | Comments(0)

『EAT&RUN 100マイルを走る僕の旅』を読んだ

EAT&RUN 100マイルを走る僕の旅

スコット・ジュレク,スティーヴ・フリードマン/NHK出版

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何故買ったのかわからない一冊。おそらく日替わりのバーゲン書籍としてラインアップされていたのに釣られてしまったのでしょう。なにしろ、内容はウルトラマラソン(通常のマラソンの4倍近くを走ることになる100マイルマラソンが主な参加レース)のランナー、スコット・ジュレク氏のお話なのです。

超肥満体で、しかも根性なしの私がもっとも嫌うのが長距離走。ラグビーを真剣にやるようになってからは、それでも多少は走るようになりましたが、フルマラソンはおろか、10km走るって考えただけでも気が遠くなりそうです。おそらく10kmを走ったのは、高校時代の校内マラソン大会が最後でしょう。さて、著者はそのウルトラマラソンを走ることに無上の喜びを覚えるという、私の思想信条からすれば思いっきり変な人です。実際に彼も彼のライバルたちも、周りの人間からは変わり者だと思われていることが多いようです。著者自身がそう書いていましたし、ランナーが走るときに脳内に分泌されている物質は、薬物などと同様の多幸感(いわゆるランナーズ・ハイ)をもたらすそうですので、元薬物中毒者、という方も多いそうで、ますますもって近寄りがたい方たちです(笑)。

著者は、自分にはフルマラソンでチャンピオンになる速さはないが、距離が長くなればなるほど強いランナーであるとの自覚を持ち、ウルトラマラソンに挑戦し、数々の大会で優勝したり、記録を打ち立てたりします。十分にトレーニングを積み、食事にも気をつけて、なおかつ、走っている最中に襲ってくるさまざまな雑念を払い、アップダウンが激しかったり、昼夜で気温が激変するような過酷な環境にもめげず、重篤な怪我にも負けず、トップでゴールすることを目指すのです。

ここで、驚嘆したのは、とにかくあきらめないという強い気持ちを持ち続けられるメンタル面の強さです。私も近所の公園を走ったりしますが、たとえ3周(1周1km強)走る、と決めて走り始めても、最初の1周で早くも「3周走ろうかな、それとも1周でやめちゃおうかな」という雑念がよぎります。次には体の痛さ。いつもの通り、左の踵が痛いな、おや、今日は大臀筋まで痛いぞ、あれ、右のひざまで痛くなってきた、腰にも張りを感じ始めたぞ…。とにかくサボろう、サボろうという気持ちが間断なく襲ってきます。ウルトラマラソンなんてのは文字通り一日中走り続けるわけですから、こうした悪魔の囁きを丸一日聞き続けることになります。とてもじゃないけど私には抗いきれません。これだけでも尊敬に値しますね。

さらに、足の指の骨折や、じん帯断裂などの、救急車で運ばれても不思議でない怪我をレース中に負っても走り続け、栄冠を手にしてしまうことも少なからずあったようです。いやはや。「人種」が違うとしか言いようがありません。

さらに、彼はヴィーガンでもあります。すなわち、植物性の食物しか摂らないという、筋金入りの菜食主義者です。肉も魚も卵も乳製品も摂らずに何故こんなにスタミナが持続するのでしょう?著者は、実際に自分が食べている料理のレシピなども詳細に紹介しながら、ヴィーガンになるに至った経緯を明かしています。この食生活も私にはまねできそうにありません。

そんなこんなで、私とは、丸っきり思想信条も生活態度も正反対の人物の自叙伝でした。こういう生活はアスリートとしての究極なのかもしれませんし、片岡鶴太郎氏のように不健康なまでに健康な体を作り上げるには有効なものなのかもしれませんが、私には絶対無理(苦笑)。せいぜい、晩酌のつまみを揚げ物から魚肉ソーセージにするとか、間食をなくすとか、走る距離を少し伸ばすくらいのことしか出来そうにありません。それすらも辛いんですけどね・・・。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-08-29 19:22 | 読んだ本 | Comments(0)

’17〜'18シーズン観戦記1(サンゴリアスvsイーグルス)

昨年、一昨年は諸般の事情により、生観戦する機会に恵まれなかったのですが、今年は開幕から行ってきました。サントリーサンゴリアスvsキヤノンイーグルス。昨シーズン無敗という無類の強さを見せたチャンピオンサンゴリアスと、田村優、エドワード・カークというサンウルブズでも活躍する二人の有力プレーヤーが加入したイーグルスの注目の一戦です。

当日は、一日中雨が降ったり止んだりの不安定な天候。試合開始時点では雨はすっかり止んだのですが、湿気がべっとりと肌に貼りつくような空気は選手にとってはやりにくいコンディションです。当然観戦状況も快適とは言えませんでした。こういう試合はハンドリングミスが多発します。パスミスやノックオンなどが多々見られ、スクラムが増えて、FWはますますシンドくなるという試合展開になりがち。アタッキングラグビーを標榜するサンゴリアスは球のつなぎが命。開幕戦ということもあって、緊張でボールが手につかないなんて場面があるかもしれません。というわけでイーグルスにも十分勝機はあるという見込みの下でキックオフを待ちます。



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試合前のサンゴリアス。いち早く集まり、さっと自分のポジションへと散ります。

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対照的にイーグルスはじっくりと円陣を組んで士気を高めていきました。

というわけで2年ぶりの生観戦はサンゴリアスキックオフで開始。両チームともにあまり固さもなく、ミスもほとんど生じない、事前予想とは異なる立ち上がり。サンゴリアスは王者の風格というところでしょうか。でもイーグルスもチームとしての対策をしっかりと立ててそれを遂行するトレーニングを十分に積んできたようです。簡単なミスでスタジアムの人が一斉にため息をつくようなシーンはほとんどありませんでした。

スクラムも互角。

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サンゴリアスは石原、中村、須藤と第一列のスタメンは全て明治OB。なかなか珍しい光景でした。

ラインアウトもほぼ互角。
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どちらのチームもマイボールは確実にキープ。スチールもスローミスもなし。

先制こそサンゴリアスが果たしましたが、その後前半の後半までは締まった展開の試合が続きます。イーグルスはサンゴリアスの高速アタックをよく止めていましたが、いかんせん守りに手一杯で攻めにまでは手が回っていないという印象でした。

守る方にばかり走らされていると、スタミナ切れしてしまい、いざ攻撃となった時には目一杯の走りってなかなかできないものです。逆にいうと、イーグルスをスタミナ切れさせたサンゴリアスの攻撃力は大したものだっていうことになるんですけどね。ディフェンスらしいディフェンスの局面がないくらいせめていたという印象があります。

後半、イーグルスは1本だけトライを奪いますが、反撃もそこまで。サンゴリアス完勝と言って良い試合でした。サンゴリアスには今シーズンワラビーズで100以上のキャップを得た、マット・ギタウ選手が加入し、早速この試合もスタメン出場していましたが、彼だけが突出して目立つようなシーンはありませんでした。チームへのフィットがまだまだ足りないのか、それともギタウ選手が目立たないくらいサンゴリアスの各選手が躍動していたのか?シーズンの深まりに連れ、その答えは明らかになっていくでしょう。











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# by lemgmnsc-bara | 2017-08-20 12:41 | ラグビー関連 | Comments(0)

『カンコンキンシアター 31 クドい! 味方は孫だけ』鑑賞

31回目のカンコンキンシアターは初の、公演初日鑑賞。小雨模様の空の下、新大久保のグローブ座を目指します。恒例の公演ポスター写真。

今回は出演者の姿も無く、かなりシンプル。まあ、いつもポスターと実際の内容にはほとんど関係がないので絵柄は別に気にしてません。
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初日だけあって、さすがに物販コーナーにはモノがあふれかえっていたので、数年ぶりのTシャツと、毎回買い求めている「軍人魂」を購入。

というわけでいよいよ舞台本番です。オープニングから、少々異変が。森一弥のアクションと天野ひろゆきの言葉選びが楽しい「森です」コーナーがなくなっちゃったんです。結構好きなコーナーだっただけに残念。かわりに森一弥はみずからの「うわさの彼女」をネタにして、舞台を通り過ぎてはいましたが、物足りなさは否めませんでした。

そしてこの物足りなさは、残念なことに、最後の最後まで続いてしまいます。初日ということもあり、演者のエンジンが温まりきっていなかったせいもあるでしょうが、そもそものネタも、アドリブも中途半端。そのわりに下ねたはストレートすぎ。一つのチームとしての一体感の醸成が足りていないな、という印象でした。

その中で関根座長の毒舌評論家コントはさすがでした。安藤裕子をズバリと真正面から貶す「裏関根」をみごとに出現させていました。このコーナー個人的にも一番笑ったし、観衆の笑い声も一番でかかったように思います。

対して、一番最後の大ネタ、故林家三平とその一家を題材としたコントは今ひとつの出来だったように感じました。昨年までの長嶋茂雄氏のコントの設定をそのまま林家一門にもってきただけ。各人の過去の姿と現状とのギャップについての風刺はなかなか面白かったのですが、そもそもの題材がメジャーすぎて、いつものマニアックさに欠けていたような気がしますね。

夜の公演だったので、グローブ座の「門限」を守るために、最後の方ははしょっちゃったのがミエミエでしたし、恒例のお白州もないまま。それでも気がつけば3時間まるまるネタを演じていたのですから、大したものではあるんですが…。次回はマチネ公演の回を予約するとともに、初日は避けたいと思います。今回も最初は楽日をねらって申し込んだのですが、人気が高くて取れませんでしたから…。ツウはちゃんとチームの熟成がきちんと進んだころあいを心得ていますね。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-08-17 09:20 | エンターテインメント | Comments(0)

『岳飛伝 八 龍蟠の章』を読んだ

岳飛伝 八 龍蟠の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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岳飛伝も巻を重ねること8冊目。梁山泊軍、南宋、金国の三大勢力に、西遼、大理、南越等の周辺国の情勢も盛り込まれ、いよいよ事態は複雑化していきます。

とは言っても、実際の武力衝突はなく、やがて来るべき「決戦」を見据え、各勢力が様々な方法で力を蓄える姿の記述が中心となっています。

水陸ともに設備、体制を整え、商流の充実により「資本主義国家」として発達しているのが我らが梁山泊軍。英雄豪傑が集い、武によって民の暮らしを豊かにしようとした、作品開始当初からは大幅に方針を変更していますが、産業を興すことでそこに関わる民に益をもたらし、商流を発達させることで、得た益を有効に活用させる、という仕組みはまさに近代国家ですね。秦容が南越に作り上げつつある甘藷糖の生産基地に至っては老齢や怪我などのために戦の第一線を退いたメンバーたちの福祉施設とでもいうべき機能まで果たしています。

三大勢力の一角、南宋は秦檜のリーダーシップにより、中央集権国家としての体裁を取り戻しつつあります。最近ほとんど登場の場がありませんが、張俊という人物が率いる軍閥も依然として力を保ったまま。梁山泊軍にとっての最大の「仮想敵国」であることは間違いありません。

残る一つ、金国は目の上のタンコブとでもいうべき梁山泊を疎ましく思い始め、南宋との連携を模索し始めます。

そしてこのシリーズの主人公、岳飛は裸一貫の状態から、三千人の人員を従えて、再起ロードをたどり始めます。隣接していると言って良い、秦容の生産基地を訪問するなど、梁山泊軍との距離を縮めるのですが、この二つの勢力が合流するのか否か、現段階ではまだ明らかになりません。

いずれにせよ、物語はクライマックスに向けて、大きく舵を切ったというところでしょうか。目の離せない展開となりそうです。本屋の店頭には文庫版の第9巻が山積みとなり、10巻目の刊行も近いようです。電子版の出版が待ち遠しい、という感想を今巻の読了後にも感じました。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-08-13 14:46 | 読んだ本 | Comments(0)

『超高速!参勤交代リターンズ』鑑賞

超高速! 参勤交代リターンズ [DVD]

佐々木蔵之介,深田恭子,伊原剛志,寺脇康文,上地雄輔/松竹

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かなり以前に紹介した『超高速!参勤交代』の続編。敵役の老中松平信祝(陣内孝則)が陸奥の小藩湯長谷藩の藩主内藤政醇(佐々木蔵之介)に無理難題を吹っかけ、それを政醇や家臣たちがさまざまな知恵でしのいでいく、というストーリーの骨子は前作と変わりません。ただし、今作は前回よりもハードボイルドかつ、ハートウォーミングな仕上がり。道中の難関をいかに上手くだまくらかして江戸に向かうかが焦点だった前作とは違い、柳生一族や、老中の直属軍などの手だれたちが次々と一行に襲い掛かります。

対する、湯長谷藩一行も政醇自身が並外れた剣豪であるのに加え、柳生の名のある武士と戦って一歩も退くことのない強者荒木源八郎(寺脇康文)や、弓の腕前なら那須与一をもしのぐのではないかという描き方をされる若者鈴木吉之丞(知念侑李)など、文字通りの少数精鋭。前作で湯長谷藩のシンパとなった忍者の雲隠団蔵(伊原剛志)も、風車の矢七よろしく、一行のピンチにはどこからともなく駆けつけるというヒーロー振りを魅せます。

敵の大軍を前に、矢尽き刀折れ、団蔵の投げる煙幕弾も底を突き、という「必殺シリーズ」であれば、メインキャラの誰かが死んでもおかしくないようなシュチュエーションがかなりの長い間続くのですが、不思議に悲壮感がありません。これはいったい何故なんでしょう?血を見せるシーンがほとんどなかったことか?BGMの違いか?演じている役者が毒々しくないからか?なんというか、私にとっては非常に不思議なシーンが展開されました。

最後の最後までかなり重厚な殺陣のシーンなのに人の死を意識させないつくりになっていました。それゆえ、政醇と信祝の直接対決の最後のシーンとセリフの重さにつながるのだと思いますが…。

まあ、肩の凝らない娯楽作としては良くできた作品だったと思います。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-08-13 13:25 | エンターテインメント | Comments(0)

『オーケストラ!』鑑賞

オーケストラ! [Blu-ray]

アレクセイ・グシュコブ,メラニー・ロラン,フランソワ・ベルレアン,ドミトリー・ナザロフ,ミュウ=ミュウ/Happinet(SB)(D)

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ロシアの一流オーケストラの元指揮者を主人公としたヒューマンコメディー。

ボリショイ楽団のコンサートホールの掃除係アンドレイは、かつては世界的に名声を博した名指揮者でしたが、ブレジネフ体制下のソ連において採られていたユダヤ人排斥に対して反抗したため、コンサート中にタクトを聴衆の面前で折られるという屈辱を味わわされた過去を持っています。そんなアンドレイはパリの有名なコンサートホールから届いたボリショイ楽団への出演依頼をたまたま盗み見てしまい、本チャンの楽団の代わりにパリに乗り込むことを決意します。

とはいえ、指揮者一人いても演奏者がいなければ楽団は成り立ちません。というわけで昔の仲間を何とか集めようとするのですが、30年間ほとんど楽器を触っていない人々ばかり。それでも何とかなだめてすかして人集めに奔走する姿が序盤の笑いどころ。

アンドレイが楽団のマネジメントとして採用したのはかつてコンサート中にタクトをへし折った元KGB部員ガブリーロフ。この元KGB部員がまた共産主義の復活を熱烈に願っており、その姿もややステレオタイプな描き方ながら笑いどころではあります。

さて、パリのコンサートホール側にも何としてでもボリショイ楽団に来てもらわなければならないという理由がありました。本当ならLAフィルを呼ぶ予定だったのがキャンセルを食い、ホールの支配人の進退問題になっていたのです。

そんなわけで、アンドレイとガブリーロフは足元を見て散々いろんな条件をつけます。その中でも一番の難題は、世界一と評されているアンヌ=マリー・ジャケとの共演でした。到底叶うはずのない希望のはずだったのですが、アンヌ=マリーはアンドレイが指揮者であることを知り、共演を承諾します。

しかし、楽団員たちはパリに来ただけで浮かれ上がり、三ツ星ホテルでフロントに群がるわ、ギャラを前払いしろとコンサートホールの係員に詰め寄るわ、やりたい放題。おまけに誰一人外出先から帰って来ず、リハーサルもできないまま。呆れたアンヌ=マリーは共演の取りやめを宣告。困ったのはホールの支配人とガブリーロフ、それにアンドレイ。果たしてコンサートは無事開催できるのか?というところでいつもの逃げ口上。これ以降は是非とも作品を実際に観てください。

結末はいわゆるスポ根モノによくありがちなもの。すなわち「勝利は全てを癒す」という締め方です。どのように「勝利」したのかがこの作品の肝ですので、再度ストーリーは語りません、と逃げておきます。

あんまり期待せずに観た一作でしたが、なかなかよくできた作品であったと思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-08-06 19:29 | エンターテインメント | Comments(0)

『清原和博への告白 甲子園13本塁打の真実』を読んだ

清原和博への告白 甲子園13本塁打の真実 (文春e-book)

鈴木忠平/文藝春秋

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覚せい剤使用で、自らの栄光の日々に泥を塗ってしまったのが清原和博氏。彼が一番輝いていたのは、高校時代の甲子園。こちらももはや昔日の輝きを失った(輝きも何も、野球部そのものがなくなっちゃいましたね…)高校野球の名門PL学園で1年生から4番に据わり快打を連発していた頃です。

彼が在学中の甲子園は5度。そのすべてに出場し、うち二回は全国優勝を遂げました。彼個人としては13本のホームラン(これは現在に至るまで高校球児が甲子園ではなったホームランの最多記録であり続けています)を放ち、「天才」、「怪物」の名をほしいままにしていましたね。

標題の書は、清原氏にホームランを打たれた人の投手たちの「それまで」と「それから」を描いたルポルタージュ集です。これに記事が掲載されたらまずメシの食いっぱぐれは無いといわれている一流スポーツ雑誌「Number」に連載されたものを集めて編んだ一冊です。

清原選手に本塁打を打たれた投手は9人。9人の高校球児がいれば9通りの野球人生があります。彼らがどんな思いで日々を過ごし、甲子園を勝ち取ったのか?そして彼らの球をスタンドに放り込んだ清原選手はどんな存在だったのか?これを、清原氏の視点を一切交えることなく、すべて彼と相対した人物の視点で描き、清原氏の怪物ぶりを際立たせています。見事な構成です。のちにプロで対決することとなる投手もいれば、彼に打たれたホームランによって、その後の人生ががらりと変わってしまった投手たちの姿も描かれます。あの時の清原氏は一人の選手というよりも、高校野球界をゆるがした一つのムーブメントそのものであったと言えますね。実に大きな存在でした。

時たま間に挟まれていた高校時代の清原氏の初々しいこと。金髪にピアス、刺青に過剰なほどのマッチョ体型(その後ブックブクのおデブちゃんに変わっちゃいましたが…)という後年の姿からは想像もつかないような、ひたむきな野球少年の姿がそこにはありました。こんな野球少年がどうして薬物に手を出すような不良中年になってしまったのか…?やっぱりそこには桑田単独指名という驚愕の結果となった、ドラフト会議の影響を挙げざるを得ません。あそこで本人の希望通りに巨人に入っていたら…というifをどうしても考えてしまいます。後年、功なり名を遂げてFAで巨人入りしますが、チャンスに打てないでブーイングを浴びていたというイメージしかありません。巨人での最晩年は「番長」などと呼ばれて一部のマスコミに祭り上げられていましたが、トラブルメーカーでしかなかったような気がします。そこでのストレスが彼に覚せい剤という魔のクスリを選ばせてしまったのでしょう。過去が輝かしければ輝かしいほど、自分の現状が惨めに思えたのではないでしょうか。

今の清原氏は落ちるところまで落ちたという感があります。しっかりと更生して何らかの形で野球に携われる日がくるといいですね。





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# by lemgmnsc-bara | 2017-08-06 19:00 | 読んだ本 | Comments(0)

『極悪鳥になる夢を見る』を読んだ

極悪鳥になる夢を見る (文春文庫)

貴志 祐介/文藝春秋

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ホラー小説の第一人者貴志祐介氏の初エッセイ集。ご本人はおそらくこれが最初で最後のエッセイ集になるだろうと文中で述べてもいます。なんでもエッセイだと自分の文章を見ているのが恥ずかしくなるからだとの理由だそうです。


この感覚なんとなくわかるような気がします。この方はおそらくは非常に真面目なんだと思います。文中に時折織り交ぜるジョークの類も、真面目な人が無理矢理ひねくりだしたような感がありました。本人としては意を決して発したジョークなのでしょうが、文章全体の雰囲気から笑ってはいけないのではないかという、空気がかもし出されています。これは決してマイナスイメージではありません。非常に丁寧に作りこんでいるのであろうことが伺えるのが貴志氏の小説の特色であり、その几帳面さがそのままエッセイの文章にも反映されているというのが率直な感想。おかしなフレーズさえ氾濫させれば面白くなるってもんじゃありませんし、フレーズばかりが先行して内容がスカスカでもプロの作家としての名折れとなりますね。貴志氏が書きたい内容については、ヨタを交えずに書き切った方がおそらくは上手く読者に伝わるのだと思います。
いいんです、面白いフレーズは他の人に任せておけば。貴志氏の真面目なホラー小説は十分に面白いんですから。

文体のお話はさておき、興味深かったのは、貴志氏の作家になるまでの道のり。元々本を読むことが好きで、幼少の頃より外で遊ぶよりは読書を好む傾向にあったようですが、読書が好きなことと、自分で作品を書いてみたいという欲求の間には大きな壁が存在します。貴志氏も、一度は文筆の道をあきらめて保険会社に就職しますが、8年の会社生活の後、どうしても作家になりたいとい欲求に抗えずに、ご本人の言によれば「まったく先の見込みなどない」状態で、所得の面では安定極まりない会社を辞して作家となる道を選ぶのです。う~ん。この辺、文筆業に進みたいと思いながらも会社に恋々としがみついている私にとっては、わが身の度胸の無さを改めて思い知らされる条りです。

さらに、作家としての船出も決して順風満帆なものであったわけではなく、角川のホラー大賞を受賞するまでには数々の挫折があったようです。そうそう、最初から上手くいく人はそうそういるわけじゃないんです。ちょっとだけ安心しました。すでにホラー小説界で堂々たる「名跡」となっている貴志氏とまだ何も書いていない私とを比べることはそもそも不遜だ、というお話もありますがね…。気持ちが上がったり下がったり。こういう気分を味わわせてくれるだけでもこの一冊を読んだ価値があったと思います。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-29 05:21 | 読んだ本 | Comments(0)

『トウガラシの世界史−辛くて熱い「食卓革命」』を読んだ

トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」 (中公新書)

山本 紀夫/中央公論新社

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久しぶりに読んだ「紙の本」。

著者山本氏は植物学の研究者から民俗学に転じたという経歴の持ち主。食品の歴史を研究し、その成果を本にまとめるためにいるようなお方ですね。というわけで、私の興味のど真ん中にもジャストミートしておりますので、いつかどこかのタイミングで衝動買いしていたのに違いありません。

よく知られているオハナシですが、トウガラシの原産地は南米です。それが欧州諸国の進出に伴い、商人の手によって持ち出され、高価であったコショウの代替品として広まり、中国やインド、韓国などを経て日本にまで伝わりました。ちなみにこれもよく知られていることですが、トウガラシは辛いものばかりではなく、ししとうやピーマンなどそのまま食べても大丈夫なものもあります。

トウガラシを多く使う料理として私が一番最初に思い浮かんだのはキムチですが、実はこのキムチが定着したのはせいぜいここ300年ほどの間だそうです。一説には、秀吉の時代の朝鮮遠征で日本兵が持ち込んだものが、韓国産トウガラシのルーツであるとのこと。意外なほどに歴史の浅い漬け物だったのですね。ちなみに韓国ではここのところ、キムチの消費量は減っているそうですし、若い年齢層には、自家製キムチをつくることを面倒くさがり、出来合いのモノで済ましてしまう人々も増えているそうです。日本でも嫁入り道具の一つにぬか床がラインナップされていた時代は遥か昔になってしまいましたが、韓国でも同じような自体が出来しているようですね。なお、現代の日本で一番生産量の多い漬け物はキムチだそうです。

中国も四川地方は辛い料理が有名ですが、ここでトウガラシが使われるようになったのは、韓国よりも100〜200年ほど後で、さらに歴史が浅い。18世紀にいたるまでトウガラシが出現する文献がないそうです。これがこの本を読んで一番意外に思ったことでしたね。

あとは、ハンガリーでパプリカとして独自の進化を遂げた一派に関する章が興味深かったですね。新婚旅行の際、オーストリアで夕食がフリーとなる日があったのですが、そこで当時のガイド氏に勧められたメニューの一つがグロールシュというスープの一種。これは和訳(でもないんですが…)するとハンガリー風スープと呼ばれるもので、パプリカをたっぷり効かせて牛肉を煮込んだものです。残念ながら、その時にいったレストランにはグロールシュはなかったのですが、このスープは欧州各国で、各言語で「ハンガリー風スープ」としてオンメニューされるほどポピュラーなものだそうです。パプリカは最近は日本でもちょっとしたスーパーに行けば手に入るようになりましたが、ハンガリーでは日本におけるミソみたいな存在のようです。

拡散の過程や年代についてはおぼろげなイメージを持っていただけでしたが、この一冊はかなり具体的に拡散ルートや各国の食文化との結びつきを解説してくれていました。なかなかためになるウンチク本だったような気がします。ついでに、トウガラシをたっぷり入れたうどんをすすりたくなりました。日本のように薬味としての使い方にほぼ限定されていたのは珍しい例だったようです。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-23 15:49 | 読んだ本 | Comments(0)

『グースバンプス モンスターと秘密の書』鑑賞

グースバンプス モンスターと秘密の書 [DVD]

ジャック・ブラック,ディラン・ミネット,オディア・ラッシュ,ライアン・リージリアン・ベル/TCエンタテインメント

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ツタヤの店頭で見かけて、ジャック・ブラックが出演しているということで借りてきてしまった一作。

予備知識まったくなしで、借りてきた作品なのですが、原作者であるRLスタインという作家は実際に『グースバンプス』というホラーアンソロジーを上梓しており、結構な売れ行きらしいです。ついでに言うとこのアンソロジーはドラマ化もされており、アメリカの人口には膾炙している作品のようです。

物語はザックという高校生が、高校の教頭である母親の転勤に伴って、ニューヨークからマディソンという田舎町に引っ越してくるところから始まります。引越し先の隣家には、やはり高校生らしきハンナという娘がいました。ハンナもザックもともにお互いを友達にしようと思うのですが、そこに割って入るのがハンナの父親(ジャック・ブラック)黒ブチの眼鏡をかけた父親はかなり厳しい口調でハンナへの接近を禁じます。

しぶしぶ引き下がらざるを得なかったザックですが、ある日、隣家から女性の悲鳴が聞こえたことにより、父親がハンナを虐待しているのではないかという疑いを持つに至ります。そこでザックは級友チャンプとともに隣家に乗り込んでいきます。そこには膨大な数の本がありました。この本たちはRLスタインの作品でした。この本のすべてには鍵がかかっており、好奇心に駆られたザックは一冊の本の鍵をはずして開いてしまいます。この本はRLスタインが不思議なタイプライターを使って書いた作品で、本を開いてしまうと中のモンスターたちが実在化してしまうのでした。というわけで、その本たちから抜け出した怪物たちの魔の手からいかにザック、ハンナ、チャンプそして作者であるRLスタインが逃げるかというのが主な内容となります。

なかでも一番の強敵となるのは腹話術師が持つ人形のスラッピー。頭が切れて、しかも神出鬼没。怪物たちのリーダーとして、町を大混乱に陥れます。ちなみにこの人形の声はジャック・ブラックが担当しているそうです。ザックたちが持ちうる「反撃策」は件のタイプライターですべての怪物たちが再び本の中に閉じ込められてしまうという結末の物語を完結させること。逃げながらも、タイプライターで物語をかきつづるという作業をスタインは続けねばならず、この逃走劇が単純なものにはならないというつくりになっています。果たして、スタインの執筆は間に合うのか?というハラハラ感を味わうのが本作の醍醐味だと思いますので、実際に作品を観てハラハラしてみてください。

魔法のタイプライターの由来来歴がまったくの不明です。なぜ、このタイプライターからつむぎだされた物語の登場怪物たちは実在化するのか?おそらく、ドラマや原作の小説の中で何度も語られて、アメリカの観衆には自明のことなのでしょう。でも日本で予備知識なしに観た私にとっては、まったくの説明不足。別にシーンはいらないから説明台詞の一つも入れて欲しかったところです。

この他、スタインが一時身を隠す場所に大きく「シャイニング(ちょっとググッてみたら、シャイニングのジャック・ニコルソンとジャック・ブラックが似ている、という意見が多数出されていました)」って横断幕が張られていたり、スタイン自身が自らをスティーブン・キングと比べて卑下する自虐ネタがあったり、スタイン本人がカメオ出演していたりと、細かなくすぐりは数多く入っていました。ホラー一辺倒でないところは評価すべき点でしたね。こういうしゃれっ気は大歓迎です。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-22 09:57 | エンターテインメント | Comments(0)

『PK』鑑賞

PK ピーケイ [Blu-ray]

アーミル・カーン,アヌシュカ・シャルマ,スシャント・シン・ラージプート,サンジャイ・ダット/Happinet

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初めて観たといって良いインド映画。題名の『PK』とは酔っ払いを意味するヒンディー語だそうです。なんの予備知識もなく借りてきてしまった一作。

ところがどっこい、案に反して、この映画、非常に良くできていました。特に、宗教をめぐり、さまざまな利害的、感情的な対立が激化している現在においては、重い重い風刺になっていたと思います。ストーリーはまず、インドのド田舎に怪しげな雲がやってきて、そこから素っ裸に首から緑色の物体を下げた男が一人現れるところから始まります。このオープニングは『ターミネーター』を連想させちゃいますね。出てきた男もシュワちゃんなみに筋骨粒々なマッチョ男。ただし、顔は二枚目半でちょっと特殊な感じです。この男は地球より60億光年のかなたにある星から来た宇宙人でした。この男はたまたま通りがかった一人の男に接近していったのですが、この地球人は緑の物体を奪って逃げてしまいます。緑の物体は宇宙船を呼ぶためのリモコンで、これがないと宇宙人は自分の星に帰れないという設定です。

場面は変わってベルギーに。ここでは一組の男女の出会いが描かれます。二人はひょんなことで知り合い、やがて恋に落ちるのですが、男はパキスタン人でイスラム教、女はインド人でヒンディー教の信者であり、この恋は道ならぬものでした。しかし、ふたりはそんなことにお構いなく結婚式を挙げようとします。花嫁衣裳を着てモスクで待つジャグー。そこに一人の少年が現れ、彼女に手紙を手渡します。そこには、家族や宗教の問題で結婚を取りやめたいというメッセージが…。これからご覧になる皆さんは是非このシーンを覚えておいてください。重要な意味を持つ伏線となっています。

傷心のジャグはニューデリーに戻り、地元のTV局でキャスターの職を得ています。ニュースのネタ探しで街中を駆けずり回る彼女の目に留まったのは、神が行方不明なので探しています、という文言のかかれたビラをまく男の姿。彼こそは冒頭のシーンでリモコンを奪われた宇宙人。彼は地球上の人間なら誰でもが「常識」としていることにいちいち疑問をさしはさみ、その疑問を解消すべく、突飛(と地球人には思える)な行動を度々やらかすので、「PK(前述のとおり酔っ払いの意)」と呼ばれています。

彼の行動は実は非常に合理的なものでした。なくしたものを探すためにどうしたらよいかを問うた人に「神に祈れ」と教えられたため、実利を求めてまずはヒンディーの神に供物をささげ、献金して祈ったがリモコンは戻ってこない。では、ということで次はキリスト教の教会のミサの最中にヒンディーの供物をささげようとして信者に追いかけられる。供物がヒンディーのものだったということに思い至り、ワインをささげようとして、今度はイスラムのモスクに入ろうとして、またムスリムたちから追いかけられる。こんな調子で、さまざまに頓珍漢なことをやらかします。この辺のどたばたが笑いどころでもあります。

次にPKはすべての神が言っていることを実践しようとします。神が言っていること実践しないと、リモコンがみつからないと思ったからです。ガンジス川で沐浴したかと思えば、教会の聖水の水槽にひたってみたり、メッカの方向に向かって祈ってみたりもします。でも結局リモコンは手元に戻ってきません。この辺は宗教に対しての見事な皮肉になっていますね。世に敬虔な信者はたくさんいて、それぞれの神にそれはそれは熱心に祈りをささげ、わが身を犠牲にしたり、金を喜捨したりしていますが、肝心のご利益というやつは目に見える形では、まず帰ってきません。ただ、心の平安というある種の自己満足をえるためだけの行為が「信仰」ではないのか?この問いに関して、真っ当な答えを返せる人は誰もいないでしょう。いかに身も心も神に捧げつくしても、爆弾テロに遭えばむごたらしく死んでしまう。この世の矛盾を完全に説明しつくす神はいない。深いオハナシですねぇ。最初は笑ってましたが、主題があらわになるにつれ、考えさせられることが多くなって、笑ってなどいられなくなりました。

ストーリーの結末のつけ方は、『男はつらいよ』っぽくなっています。これはこれでなかなか効果的だったのではないかとも思います。ヒロインがハッピーエンドを迎える一方で、主人公は涙を隠して新しい方向に道を見つける。いかにもな結末ではありますがね…。

その他インド映画の特色である、意味のない踊りのシーンもいくつか挿入されていました。踊ってる人たちは、華麗という表現にはそぐわないものの、達者でコミカルな動きをしてました。全員集合における志村けんの持ちギャグみたいなもんで、踊りのシーンをいれないとインドの観衆の皆様は満足しないんでしょうね。また、他の国ではなかなか理解しにくいヒンディー教がもっともメジャーな宗教で、その他の宗教もすべてが入り混じるという風土的な背景を持つインドだからこそ作れた作品だという気もしました。ちょっとググッたら、国際的なコンクールではたいした賞は取っていませんが、小さなコンクールではちょこちょこ賞をとったりもしているようです。なかなかの佳作でした。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-22 09:46 | エンターテインメント | Comments(0)

『ザ・ギフト』鑑賞

ザ・ギフト[Blu-ray]

ジェイソン・ベイトマン,レベッカ・ホール/バップ

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人は一人も死なないし、血もほとんど流れないサイコサスペンスホラー。

サイモンとロビンの夫婦はサイモンの郷里の街にシカゴから引っ越してきました。引越し先は大きくて豪華な邸宅。サイモンの収入が高いことが示されます。

ショッピングセンターで買い物をしていた二人の前に現れ、サイモンに声をかけてきたのはゴードという男性。サイモンは最初誰だかわかりませんでしたが、やがてゴードが高校時代の友人であることに気づきます。親しげな会話を交わした二人は再会を約して別れますが、ゴードはすぐさま引っ越し祝いのワインを持参して夫妻の家を訪問します。ワインのお礼にとロビンはゴートを夕食に招待しますが、サイモンはあまりいい顔をしません。

その翌日、玄関先には何故か魚の餌が…。いぶかしがる二人ですが、邸宅の池には立派な鯉が何匹も放たれていました。この辺で少々不気味さが漂います。このゴードという男が、映画の題名どおり、次々と一方的に贈り物を贈りつけてきて、拒否したとたん、一気に憎悪の塊となって、夫妻に襲い掛かる、というストーリーを予想したのですが、その予想は完全に裏切られます。もっともっと話は複雑でした。

ゴードはロビンが一人でいる時に頻繁に家に出入りするようになります。ここでサイモンはゴードの狙いがロビンにあるのではないかと疑いを持ち始めます。ゴードは次に夫妻を夕食に招待します。せっかく招待したにもかかわらず、いきなり、急な電話がかかってきたという理由でゴードは外出してしまいます。この不可解な行動に際し、サイモンは高校時代にゴードは「不気味のゴード」というあだ名で呼ばれていたということを思い出します。普通は最初にそういうあだ名から思い出すんじゃねーのかよ?というツッコミを入れたくなるのですが、まあ、ここはゴードの不気味さを高める演出だと理解しておきましょう。戻ってきたゴードにサイモンは二度と夫妻に近づくな、という警告を発してゴード家を後にします。しかしゴードからの贈り物攻撃は止みませんでした。

たまりかねて、招待された家に乗り込んでゴードとサシで話をつけようとしたサイモンですが、その家はゴードのものではなく、別の夫婦のものでした。さらに、池の鯉がすべて死んだり、夫妻の飼い犬が行方不明になったり、ロビンがいきなり意識不明になったり・・・。いかにもゴードがサイコパスなんじゃないか、って思わせる作りなんですが、繰り返し言います。お話はそんなに単純じゃありません。

サイモンのゴードに対する態度に不信感を抱いたロビンはゴードについて調べ始めます。するとそこには驚愕の事実が。ゴードは高校時代に上級生から性的暴行を受けたという事実無根のうわさをサイモンに流され、そのことが原因で、その後の人生がめちゃくちゃになってしまっていたのでした。いかにも、な展開を一気に逆転するストーリー展開にはうならされましたね。映画の中でも語られる箴言に「君は過去を忘れるが、過去は君を忘れない」というのがありましたが、その通り。自分自身はたいしたことのないおふざけをやったつもりしかなくても、それを仕掛けられた本人には重大な結果をもたらしていて、しかもそのことに仕掛けた本人はまったく気づいていない。わが身を振り返って考えてみても、こういうことで、知らぬは本人ばかりなりという恨みを買っている可能性は多々あります。心当たりがありすぎて見当がつきません…。これがこの映画を観て感じる最大の恐怖でした。

さて、ストーリーは実は本当の悪人はサイモンだ、という論調で後半部分が進んでいきます。ロビンからゴードへの謝罪を求められていながら、実際には謝るどころが暴行を加えてみたり、会社では、出世争いのライバルの不正をでっち上げて蹴落とそうとしてみたり・・・。こんなサイモンに愛想をつかしたロビンは、子供を生んだ後にサイモンとは別の道を歩もうと決意します。

で、ここに最後の、恐怖に満ちた謎が発生します。そしてその謎の答えは示されません。消化不良というべきか、後々まで残る余韻というべきか…。私は後者を採りたいと思います。もっとも愛した人間と愛するはずだった人間を疑わなければならないという情況こそ人間にとってもっとも恐怖すべき情況ではないでしょうか?期待せずに観た作品ですが、なかなかいろいろ考えさせられました。佳作です。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-22 09:24 | エンターテインメント | Comments(0)

『マリアンヌ』鑑賞

マリアンヌ ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]

ブラッド・ピット,マリオン・コティヤール,ジャレッド・ハリス,リジー・キャプラン,マシュー・グード/パラマウント

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第二次大戦下の秘密工作員とフランスのレジスタンス女性との恋を描いた作品。

カナダのケベック生まれでフランス語が少々話せるマックス(ブラッド・ピット)はモロッコでナチス要人の暗殺を命じられます。その要人に近づくためには、社交界に顔を売っておく必要がありました。で、夫婦の相手役として選ばれたのがフランスのレジスタンス闘士マリアンヌ・ボーセジュール。夫婦役を演じた二人は、首尾よく任務を果たします。

この任務が二人にもたらした思わぬ副作用は、真実の恋。様々な人々の反対にあいながら、それゆえ燃え上がった恋は最後には結実し、二人は結婚することとなります。やがて空襲の夜に娘アンが生まれ、三人で幸せな暮らしを営む毎日が続く、はずでした。

しかしながら、ここで幸せに終わってしまっては、単なるブラピの顔見せ映画なってしまいます。マリアンヌは軍の上層部からドイツ軍のダブルスパイであるという疑いをもたれていました。軍の関係者しか知り得ない秘密事項が、マックスの家族の住むすぐ近くの地域から発信されていることが証拠としてマックスに提示されます。最愛の妻が敵国の、それももっとも蔑まれるべきダブルスパイとは…。しかも、軍の偉い方は、マックス自身にマリアンヌの処刑を命じるのです。

マックスは当然のことながら、任務と愛情のはざまを激しく揺れ動くこととなります。疑惑は本当なのか?マックスは様々な方法を用いてその謎の真相に迫って行こうとします。しまいには軍規を犯してまで、自らフランスに渡り、マリアンヌと実際に逢ったことのある人物に確認をとりにいくのです。そこで得た一つの確認方法は「マリアンヌはピアノを上手く弾く」ということでした。

イギリスに戻ったマックスは、マリアンヌを昼間の酒場に連れて行き、ピアノを弾いてみろと迫るのですが…、というところでほぼネタバレですが、あらすじの紹介を終えようと思います。この後の展開はぜひとも実際の作品をご覧下さい。

自らの愛情と、国を守るという大義の間で揺れ動き、なんとか妻を守ろうとするマックスは一途という言葉がピッタリ来る行動をみせますが、その行動をブラピは上手く演じていたように思います。今に至るまで、世界史上の最大の敵役であるナチスドイツという巨悪と戦うよりも自らの愛に生きようとしたのですから、その真剣さは平和な時代に生きる我々にはなかなか想像しにくいことですが、その心の内を推測出来るまでにうまく具象化してくれていました。大義なのか愛なのか?現代に生きる多くの人は愛を選択すると思いますが、選択した後にそのために具体的に何をどうすべきか?この問いに答えを出せる人間はそうそうはいないと思います。

ツタヤでまとめ借りをする際に適当に選んだ一枚でしたが、なかなかの佳作でした。


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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-16 06:25 | エンターテインメント | Comments(0)

『岳飛伝 七 懸軍の章』を読んだ

岳飛伝 七 懸軍の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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岳飛伝の7巻目。『大水滸伝シリーズ』全体としては終盤ですが、『岳飛伝』に限って言えばちょうど中間点あたり。今巻には戦闘シーンは全くなく、三つの勢力が来るべき「決戦」を見据えて、それぞれに力を蓄える姿が描かれます。

軍功多大だった岳飛を「処刑」(実際には岳飛は逃亡)した南宋は、宰相秦檜が中心となって、かつての宋の栄光を取り戻そうとしますが、内憂外患を地でいく状態。講和がなったとはいえ、いつその状態が破綻してもおかしくない金国、武力でいえば三勢力の中で随一の梁山泊軍が間接的なプレッシャーをかけている上、国内では岳飛亡き後最大の軍閥となった張俊軍の処遇が悩みのタネに。さらに皇帝の座を狙って、死に絶えたはずの青蓮寺勢力までもが暗躍し始めるのです。いやはや。フィクションとはいえ、某国の首相が同じような状況に放り込まれたら、病気を理由にさっさと逃げてしまいたくなるであろう状況です。

金国はリーダーである耶律大石の死期がいよいよ迫り、世代交代を迎えています。その中では梁山泊軍の一員であった、韓成の動きが気になります。前首領の楊令からの関係性を踏まえて連携する方向に向かうのか?それともあくまで単独で中原に覇を唱えようとするのか?これも三勢力の力関係が刻々と変化する展開の中では非常に読みにくい、それゆえハラハラさせられる状況です。

さて、我らが梁山泊軍はというと、「本社」である梁山泊の山塞にいる宣凱が組織としての機能を統制してはいますが、ますます「国」としてのカタチは拡散し、希薄化していっています。各人の心の中に「志」がある限り、どこでどんな形態であろうとも梁山泊という「国」はあり続ける…。現代における「国家」という枠組みすら超えているような概念です。

一方で秦容が南方の地で進めている農地の開拓が軌道に乗り始め、十万人の人間が住む街を作り上げるというプロジェクトが走り始めることとなります。甘藷糖を作るために、当時としては最新・最高の設備を作り上げ、そこに従事する人々がきちんと生活して行く施設と仕組みを作り上げる。物々交換が基本だったこの地の経済活動に通貨を導入する。生活用水の手配から下水の処理まで。元々が武の人であった秦容は、こうした活動も一つの戦いだと心得て、一つ一つの問題と向き合います。人々が安定した暮らしを営むための手段は、武力による統一だけではない、という主張がはっきりとわかる表現方法ですね。

主人公の岳飛は秦容が巨大な街を作ろうとしている地域に近い場所で、やはり新しい街を作って行こうとしています。軍の将であった姚明とともにたった二人でたどり着いた地でしたが、岳飛を慕う兵士たちがボチボチと集まりだし、今巻の終了時点では300人ほどの人員がいました。この仲間たちは新しい国作りを目指すのか?それともあくまでも軍としての復活を企図するのか?当事者同士は否定していますが、梁山泊への合流はあるのか?

あらゆる疑問と期待が提示された一冊でした。次巻の電子書籍化が待ち遠しい限りです。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-14 20:02 | 読んだ本 | Comments(0)

『無私の日本人』を読んだ

無私の日本人 (文春文庫)

磯田道史/文藝春秋

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映画『武士の家計簿』の原作者、磯田道史氏の中編集。三つの作品が収められています。この中の『穀田屋十三郎』という作品が映画『殿、利息でござる!』の原作となりました。

作品は他に『中根東里』、『大田垣蓮月』の二つ。三つの作品とも主人公の名前をそのまま題名にしています。名は体を表す、ではありませんが、各人の人生を見事に描ききっている三作は別の題名をつけようがないってな気がしますね。

さて、この三名が三名とも、歴史好きを辞任する方々でも「?」がついてしまう人物だと思います。それもそのはず、この方々、なにか素晴らしい業績を残した人物たちではなく、あくまでも市井の「無名な」人達です。ただし各々の生き方は非常に興味深い、ドラマチックなものでした。身分制度のあった江戸時代において、藩主にカネを貸し付けてその利息を毎年もらうことを実現させた穀田屋十三郎に、とにかく本を読むことを好み、儒学者として有り余る知識を持ちながら一切表舞台に立たなかった中根東里、幼少の頃から何をやらせても一流で、絶世のと称されるくらいの美貌を持ち合わせたスーパーレディながら、その生活は決して幸福ではなく、晩年に作った陶器が非常に優れた品質であったため、「蓮月焼き」としてわずかに名の残る大田垣蓮月。無名故に史料も乏しく、物語を紡ぎ出すには多大な労力を要したであろうことがうかがわれます。

主人公たちの生き方に共通するのは、自らの身を犠牲にして、その信じる道を突き進んだこと。そしてその信じる道を歩む道程において、その真心が周りの人々を動かし、大きなムーブメントを巻き起こしたこと。本人たちは決して裕福な生涯を送ったのではないことです。

作者があとがきで書いている通り、こうした人々の姿は、経済優先で「カネを持ってる奴が一番エラい」とする現実社会で息苦しさを感じている我々の心を一時の間、清々しくしてくれます。こうした無名の人々が持ち得ていた清浄な心持ちをいつ日本人は失ってしまったのでしょうか?経済の発展以上の損失は日本人からこうした美風が失われたことだと説く、作者の言葉はあまりにも重いですね。清々しくてやがて悲しき中編集。心がめげている人にオススメしたい一冊です。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-09 19:57 | 読んだ本 | Comments(0)

『パイレーツ・オブ・カリビアン5/最後の海賊』鑑賞

『パイレーツ・オブ・カリビアン5/最後の海賊』

当家としては珍しく、上演初日に観に行ったのが標題の作。まあ、とある地方の都市に投宿し、そのすぐ近くにシネコンがあったからってのが最大の理由なんですけどね。

ジャック・スパロウ船長の今回の敵は、スペイン海軍の兵の幽霊たち。船長であるサラザールをハビエル・バルテムが演じています。この配役はなかなかにフィットしていたように思います。彼は、あの『ノー・カントリー』で演じた不気味で冷血な殺し屋を彷彿とさせる迫力を感じさせる演技でした。こちらの作品はファンタジーなので、ややその重厚さがクドかったというのも事実ですが…。

さてこいつらには海賊たちの武器は全く通用しません。なにしろ、もう死んじゃってる訳ですから、銃で撃とうが、剣で切ろうがすべてが彼らのカラダを素通りしていってしまいます。逆に彼らの持つ剣や大砲は有効なので、生身の人間には勝ち目はありません。まあ、言ってしまえば、この辺はゾンビ映画と同じ作り。ゾンビ映画の場合、ゾンビとの意思の疎通ははかれないし、ゆるゆると迫ってくるんで、いかに逃げ切るかが焦点となる訳ですが、こちらの亡霊たちは、海の上ならどこへでも瞬時に現れるし、恨みつらみをさんざん海賊にぶつけてきます。その恨み骨髄の相手がジャック・スパロウであるというわけです。

そのジャック・スパロウは毎日毎日飲んだくれているばかりで、部下たちに愛想を尽かされ、ひとりぼっちになってしまいます。おまけにイギリス海軍に捕らえられ処刑台にかけられて、ギロチンを落とされる寸前までいきます。そこでかつての盟友であるウィル・ターナー(彼も一種の死者なので、海全体を覆う、成仏できない呪いの対象です)の息子ターナーが乱入し、この作品の特色の一つである、コミカルで派手な戦闘シーンが繰り広げられ、間一髪で助かることとなります。ジャックと一緒に絞首刑にされるはずだった女性天文学者(魔女の疑いがかけられていました)カリーナもそこで助かり、3人でこの呪いを解くことのできるツールである「ポセイドンの槍」を探す旅に出ようとするのですが、ジャックには船も部下もいません。

そこに現れたのがジャックのライバル、バルボッサ。ジャックは彼の助力を得て、謎を解きながらポセイドンの槍を探す旅に出る、というのが主なストーリー。もちろんそこにはスペイン亡霊海軍との戦いも盛り込まれます。で、これ以上はネタバレとなってしまうので、お約束の逃げ口上。実際の作品をご覧下さい。

5作目ともなると、若干のマンネリ臭はどうしても漂ってしまいますが、その分を差し引いてもなかなか面白い作品であったと思います。最後の結末のつけ方が、私にとってはあっけなさ過ぎではありましたがね。





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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-09 12:17 | エンターテインメント | Comments(2)

『クレムリン秘密文書は語る 闇の日ソ関係史』を読んだ

クレムリン秘密文書は語る 闇の日ソ関係史 (中公新書)

名越健郎/中央公論新社

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時事通信の特派員として世界を股にかけ、とりわけ旧ソ連の事情に精通した著者名越氏による、日ソ関係の歴史を解き明かした一冊。かなりきわどいことが書いてありました。

旧ソ連の末期、ゴルバチョフ政権下の時代にグラスノスチ(情報公開)という政策が採られ、分厚いベールに包まれていたソ連の歴史を語る文書が一斉に公開されました。日ソ関連の書類もその例外ではありません。第二次大戦の際に、事実婚の夫とともに日本からソ連に逃げて行った女優岡田嘉子氏のソ連での生活ぶりを記した文書から、日本共産党、日本社会党への資金援助の実態。そして安倍首相がプーチン大統領にいいようにあしらわれ、プーチン大統領のことをファーストネームである「ウラジミール」と呼んだことくらいしか話題にならなかった北方四島返還交渉の歴史に至るまで、日ソの間に横たわる虚々実々の駆け引きがかなり詳細に語られています。

日ソ両国間の歴史を語る際にどうしても避けて通れないのが、日ソ不可侵条約を一方的に破棄して北方四島を強奪したことと、日本人のシベリア抑留でしょう。ソ連は、敗戦目前の日本の弱体化に乗じて、念願の不凍港獲得のために北海道の北半分を獲得しようと画策していたらしいのですが、アメリカの強硬な反対によってその夢はかなわなかったそうです。そこで、せめてもの「補償」として大量の日本人を抑留して、厳しい条件下での開拓、開発に従事させたのだそうです。大国間のパワーゲームのとばっちりを受けて辛酸をなめた皆様は心から同情申し上げます。こういう方々の苦労を礎として今の日本の繁栄があるのだということを忘れてはいけないな、と改めて思わされる史実です。毒蝮三太夫師匠の姿を見習わなければなりません。くたばり損ない、とか言っちゃいけませんが(笑)。

あとは、やはり、日本共産党、日本社会党との関係が興味深かったですね。米を筆頭とする西側諸国の一翼として経済発展を遂げている日本に、なんとか左派思想のくさびを打ち込みたいソ連から、上記の両党への多額の資金援助があったということを始めて知りました。こうした左派勢力への資金援助は何も日本に限ったオハナシではなく、東欧諸国などの左派政党にもかなりの資金援助があったようです。自国内に兵器をため込むだけではなく、各国での左派勢力を支えるためにカネを使っていたというわけですね。自民党が選挙前に候補者たちに資金をばらまくようなもんでしょうか?結局いつの時代でもどこの国でもモノを言うのはオカネなんですねぇ。単純ながら重い真実を突きつけられてしまいました。

ソ連崩壊後のロシアは冷戦当時のような求心力を持ち得ていませんが、まだまだ世界の一つの極であるのは事実です。英国のEU離脱は親ロシア派の国々の力が強くなるのではないかと言われていますね。日本とロシアの間には北方領土の問題が依然として横たわっています。そしてこの問題があり続ける限りは鈴木宗男氏のような政治家も存在し続けるでしょう。まだまだ世に出ていない秘密文書はたくさんありそうですね。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-07-01 08:08 | 読んだ本 | Comments(0)