『暗黒の巨人軍論』を読んだ

暗黒の巨人軍論 (角川新書)

野村 克也/KADOKAWA / 角川書店

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巨人を倒すことに生涯をささげてきたといってよい野村克也氏による現在の巨人軍の問題点を指摘した書。

野球というスポーツは、1球1球プレーが切れ、インターバルがあるという珍しいスポーツです。野村氏によれば、この「間」の活用方法こそが勝負を分ける重要なポイントであるとのこと。点差、イニング、アウトカウント、相手投手との相性、走者の有無などの属性により、その場面場面での最良の結果を見極め、その結果をもたらすよう努力するのと同時に、最悪の結果も考えて、そこから少しでも遠ざかるようなプレーをしようと試みる。たとえば、無死一塁二塁で点差が1点ビハインド自分が右打者で相手投手も右、なんてな場面を想像してみてください。最良の結果はホームランで3点取ることではありますが、ホームランが出る確率は非常に低いし、下手に打って出たら内野ゴロでダブルプレーを取られて一気に二死(すなわち最悪の結果)なんて事態にもなりかねない。そこで、チャンスを広げるために送りバントを選択するが、その際には、二塁ランナーが三塁で封殺されないよう、捕球から送球までに時間がかかる三塁側にボールを転がすことを心がける、などというのが「考えた」プレーです。こうした場面場面での最良選択プレーは長い歴史を経るうちに「セオリー」として定着しています。またこのセオリーがあるからこそ、その裏をかく策だって出てくるわけです。そこで、いろんな選択肢を考え、実行するために練習を重ねる、というのが強化における「セオリー」となります。

俗に「アンチは裏返ったファン心理だ」などという言葉がありますが、野村氏は実はかなりの巨人ファンです。有力な選手が続々と集まる巨人には鼻も引っ掛けられなかったという悔しさが打倒巨人への強いモチベーションとなったのですが、野村氏が打倒したかったのはV9を達成した当時の巨人であり、現在の巨人はまったく怖くないとも述べています。V9時代の巨人はONという打線の軸と強力な投手陣を擁した上に、なおかつ各人が自分の果たすべき役割を熟知し、その役割を果たすための練習をきちんとしていたそうです。中心選手であるONも圧倒的な練習量でチーム全体を引っ張った。試合でのプレーだけでなく、日常生活においても他の選手の手本となるよう心がけていたというわけです。こうしたチームが空前絶後のV9を達成したのは至極当然で、現在のチームもこの時代のチームを手本とすべきだとも説いています。

なぜ、こんなことを野村氏が一冊の本にして上梓したのか?それは現在の巨人軍に考えるということがまったく根付いていないからです。冒頭にいくつかのミスが挙げられていますが、なるほどプロとしては恥ずかしいレベルのプレーばかりです。野球というスポーツへの理解も足りないし、理解するための研鑽も積んでいない。反射神経と筋肉だけでただ目の前の事象にのみ対応しているだけ。だから体力が衰えると高いパフォーマンスがみせられなくなる。仕方がないから他球団で実績を挙げた選手をFAで引っこ抜く。かくして素質のある選手が育たずに、功成り名を遂げた選手ばかりを巨人が引っかき集める、という今の図式が出来上がり、しらけたファンがどんどん離れていくという事態を招いたというわけです。

まったくもってその通り。自前の選手を育てて優勝した広島や日ハムに倣うかと思いきや、またぞろ欲しい欲しい病発動で有力な選手を3人FAでかき集めるわ、未完の大器大田を放出するわ、外国人も欲しいだけ取るわで、まったく反省がありません。盟主がこれでは、日本野球はアメリカに追いつくどころか完全ファーム化への道一直線です。なんとかして欲しいもんですが、今の最高権力者がどうにかならない限りはどうしようもないんでしょうね。テレビのゴールデンタイムにプロ野球中継が復活する日は来るんでしょうか?望み薄ですね…。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-23 05:56 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 二 飛流の章』を読んだ

岳飛伝 2 飛流の章 (集英社文庫)

北方 謙三/集英社

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北方大水滸伝シリーズ完結編『岳飛伝』の二巻目。『楊令伝』終了時における作品世界の状況の「おさらい」に終始した観のある一巻目から、岳飛、金国、梁山泊のそれぞれが躍動を始め、新しいストーリーをつむぎだし始めたのが今巻です。

まずは主人公岳飛。梁山泊で銭を鋳造していた田峯を招聘して、楊令に斬り落とされた右手にはめる義手を作ってもらうこととなります。元々の右手に質感、性能ともに劣らぬ義手は、楊令との戦いで文字通り傷ついた岳飛の心身を癒し、新しい戦いへの意欲を掻き立てます。ただし、まだ、自分が主権を握ろうという考えは薄く、あくまでも南宋の軍閥の一つの頭領という位置づけで、金国や梁山泊との対決に臨んでいかに勝利するかを考え、行動しています。また、彼の下には崔蘭という義理の娘が登場します。彼女が、梁山泊の医療を薬という面で支えた薛永が残した、さまざまな薬草の効能を記した書をたよりに、薬に対する造詣を深めていく姿が描かれます。やがて訪れるであろう、大きな戦において彼女が重要な役割を果たすこととなるのでしょう。そして、彼女はまた岳飛に、父親の成長した娘に対する戸惑いまでをも感じさせる役割をも担います。岳飛の人間臭いエピソードを示す手段としてはとしてはなかなか上手く考えられた手法ですね。

金国は王位を狙う人物たちの権力闘争と平行して、隣接する梁山泊との戦いに突入します。元々精強な兵を多数抱えるという設定であり、兵の絶対数も梁山泊軍を大きく上回るために、梁山泊軍と一進一退の攻防を繰り広げます。国としての野望は中原に覇を唱えることではあるのですが、実際にもし覇を唱えることになっても、その際の王が誰なのかについてはまだまだ混迷を深めていきそうですね。梁山泊を凌駕して南宋軍との直接対決があるのか否かも気になります。

さて、われらが梁山泊の面々ですが、現首領である呉用は、自らの「統治権」を破棄し、一種の集団指導体制を採っています。軍、兵站、商流、物流などなどの各分野に最高責任者を任命し、自身はその調整役に回っているのです。自分自身には宋江や楊令のように「志」を強烈に示して梁山泊を一つの方向にまとめあげる力はないと考えての施策です。潔い腹のくくり方ですね。権力に固執するどこかの政治家にはぜひとも見習って欲しいと思います。呉用をはじめとする元々の水滸伝からの登場人物たちは、志という一番の重荷を若い楊令一人に背負わせてしまったことを悔いてもいます。そして、志は一人の人間が背負うものではなく、梁山泊に集った面々の一人ひとりが持つべきものだという結論に達したのです。この施策は結果として、梁山泊の運営体制を現代の「民主主義」に近いものに変質させていきます。「志」に反しない限りはどんな行動をとることも自由。軍においてはさらに「規律」が存在しますが、たとえば商流に関しては梁山泊に蓄えられた原資を背景に日本やベトナムにまで手を広げるなど、当時としては目一杯ワールドワイドな活動が可能です。「裁量が」大きい分、責任も重大であるというのは容易に想像はつきますがね…。

さてさて、今後の展開を楽しみに次巻のkindle化を待ちたいと思います。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-23 05:52 | 読んだ本 | Comments(0)

『ファーゴ』鑑賞

ファーゴ [Blu-ray]

フランシス・マクドーマンド,スティーヴ・ブシェーミ,ウィリアム・H・メイシー,ピーター・ストーメア,ジョン・キャロル・リンチ/20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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ハリウッド屈指のヒットメーカー、コーエン兄弟によるクライムサスペンス。毎年この時期になるとレンタルDVD屋の店頭に出現する「アカデミー賞受賞作品」コーナーに並んでいたやつを衝動借り。

最初に登場するのはいかにも頼りなさそうな男ジェリーと、いかにもヤバそうな雰囲気を醸し出している2人組の男、カールとゲア。ジェリーがカールとゲアに持ちかけるのは自分の妻の狂言誘拐。資産家である義父から高額の身代金をせしめようという目論みです。どうやらジェリーはカネに困っているようです。

カールとゲアは誘拐に成功しますが、逃亡に使った車両にナンバープレートがついていないことを警官に見とがめられ、その警官をゲアが射殺してしまってから、ストーリーが、ジェリーを含む犯人一味にとっては悪い方向悪い方向に展開していきます。いわゆる「ドツボにはまる」というシチュエーションがどんどん進行していくのです。

まずは、警官射殺現場を偶然車で通りかかったカップルを二人とも殺害。罪がどんどん重なります。依頼したジェリーはジェリーで、警察に通報しようとする義父を説得し、身代金を引っ張り出すのに散々苦労させられます。おまけに、当初の要求金額から大幅に増額した身代金をジェリーではなく義父自らが犯人の元に運ぶと言い出し、強引に犯人との受け渡し場所に行ってしまいます。途中で身代金の大半をネコババしようとしていたジェリーにとっては実入りが何もないのに焦りと罪悪感だけが募る結果となります。

で、カネの受け渡し場所に行った義父は、受け取りに来たカールと銃撃戦の上、射殺されてしまいます。さらにはカネと車の取り分の争いから、カールもゲアに殺されてしまいます。いやはや。ちょっとした手違いや一瞬のイラつきによってもたらされたホンのちょっとしたズレがやがて大きな歪みとなって、登場人物たちに襲いかかる、という展開はなかなか上手く考えられていたと思います。悪いことを企んだやつには結局利益はもたらされず、代償としての罪だけはしっかり背負わされる、という結末も悪くありませんでした。

一つだけ消化不良だったのは、身代金の最終的な行方。支払われた金が要求額より大幅に多いことに気づいたカールは、当初通りの分け前だけ持って、残りはとりあえず雪の下に隠してゲアのいる隠れ家に帰るのですが、そこで前述した通り諍いが起こり、殺されてしまいます。カネの隠し場所を知る人物はストーリー展開からはカールしか考えられません。結局このカネは一体どうしたんだろう?そこだけ少々尻切れトンボ感は否めませんが、全体としてはなかなかの佳作だったように思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-14 18:59 | エンターテインメント | Comments(0)

『Eight Days a Week』鑑賞

ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK -The Touring Years DVD スタンダード・エディション

ポール・マッカートニー,リンゴ・スター,ジョージ・ハリスン,ジョン・レノン/KADOKAWA / 角川書店

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1962〜66年頃のビートルズの姿を、現存する映像から描き出したドキュメンタリー映画。当時のライブの映像から、後年になってからのメンバーや関係者へのインタビュー映像なども交え、彼らの「本気」にかなり近いところまでアプローチすることに成功しています。

静かなものから激しいものまでバラエティーに富んだメロディーにのせ、シンプルながら意味の深い歌詞が曲となって流れる。そして彼らの演奏する姿を観に、今までの音楽のコンサートでは考えられないほどの膨大な数の人々が会場に文字通り押し寄せる。熱狂、熱狂、また熱狂。警備の人数を増やしても、警官隊の出動を要請しても、ほとんど何の効果もない。このムーヴメントの解消のために、ひとまずは「ハコ」を大きくする方向に向かうこととなります。すなわち、普通のコンサートホールではなく、野球場などの「スタジアム」を会場とするのです。

今でこそ、ポッと出のアイドルとかいう連中までが当たり前のように行う「ドームツアー」なんてな催しを初めて「行わざるを得なかった」のがビートルズだったのですね。ネット配信などはもちろんなく、レコードですら普及の途上だった当時における彼らの人気は空前絶後、今の言葉で言えばレジェンドとでも言いましょうか。音楽の教科書にまでその名前が載ってしまうというのがよくわかる光景が次々と映し出されます。

そしてこの作品はやがて訪れるであろう、解散の日をにおわすようなカタチで終わっています。それこそ1週間に8日も働き詰めに働く、という日々がデビュー以来続いていた彼らは次第にマスコミの前でも不機嫌さを隠さなくなります。一部のメディアとは険悪な雰囲気になっていたし、デビュー当時の勢いからすればやや勢いに欠ける(とはいえ、それでもすべての作品が「ヒット」したと言える状態なのですがね…)セールスも、メンバー個々の音楽性の違いってやつも影響していたんでしょうね。メンバー間の亀裂を決定的なものにしたと言われている、ジョンのオノ・ヨーコへの過剰なまでの肩入れに関してのタネもこの時期に蒔かれていたのかもしれません。

ビートルズが音楽を、そして社会をどのように変えたのかが具体的に描かれていた、なかなか興味深い作品だったと思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-12 18:37 | エンターテインメント | Comments(0)

『平尾誠二・ラグビー界の太陽大金星のラグビー人生を振り返る』を読んだ

平尾誠二・ラグビー界の太陽 大金星のラグビー人生を振り返る (朝日新聞デジタルSELECT)

朝日新聞/朝日新聞社

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昨年53歳という若さで急逝し、昨日お別れの会が催され、2000人もの弔問客を集めた平尾誠二氏に関する朝日新聞の記事を集めた一冊。大学選手権三連覇を果たした同志社大学時代のものから、昨年6月に行われたジャパンvsスコットランドのテストマッチ直前のものまでが収められています。

平尾氏といえば伏見工業での高校ラグビー全国制覇、同志社では大学選手権三連覇、社会人の神戸製鋼では七連覇とすべてのステージで栄冠を得、ジャパンの中心選手としても長年活躍した「ミスターラグビー」の名にふさわしい名選手でした。

この一冊にも優勝直後のインタビューや、主将としての日常など明るい面が数多く取り上げられています。まあ、亡くなった方の悪い面をとりあげるのは特に日本でははばかられる傾向にありますし、悪いことよりは良いことの方が圧倒的に多い方でもありますので、構成上しかたのない部分もありますが、エディー氏というかつてない業績を残した監督が去った後という時期だけに、苦闘続きだった日本代表監督時代についてももっと触れて欲しかった気がします。彼の一番の悔いはおそらく、志半ばにして退いた日本代表監督であっただろうと思われますし、彼がやろうとしていながら果たせなかった強化策(例えばジュニア世代から継続したエリート育成プログラムなど)については今のジャパンに活かすことが可能であるとも思うからです。

無念の思いとともに、俗に「棺桶のなかまで持っていく」などと言われる秘話やしがらみ、障壁などを赤裸々に語った内容のものを掲載してほしかったなぁ、という気がします。彼は日本ラグビー界のさまざまな場面をすべて知りうる立場にあった人であり、かついろいろな方々に意見を言える立場でもあったはずです。だれの、どんな思惑が日本ラグビーの前進を阻んだか、それこそ亡くなった今だからこそ言えるオハナシが多々あるように思うのですがね…。

新聞報道の限界の一つの局面をみてしまったような気がしました。新聞はその時その時の客観的な事実を伝えることが最優先されるがゆえに一つ一つの事柄を深く掘り下げるて伝えるのは苦手です。新聞に掲載された記事を集めると、どうしても当たり障りのない事象の羅列になってしまうんですよね。平尾氏は称えられてしかるべき人物ではありますが、彼をもってしても改革出来なかったジャパンの今にも連なる暗部について語ることの意味は決して低くなかったように思いました。

いずれにせよ、私くらいの年代のラグビーファンにとってはまさしくキラ星のような存在でした。その輝きが亡くなってしまった今の喪失感は例えようもありません。改めてご冥福をお祈りしたいと思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-11 08:31 | 読んだ本 | Comments(0)

『5th Wave』鑑賞

フィフス・ウェイブ(初回生産限定) [Blu-ray]

クロエ・グレース・モレッツ,ニック・ロビンソン,ロン・リヴィングストン,マギー・シフ,アレックス・ロー/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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クロエ・グレース・モレッツが主演しているというだけで借りて来てしまった一作。

彼女の今作の役割は女子高生キャシー。ある日キャシーの住む町の真上にいきなり巨大な円盤のようなものが出現します。どうやらこれは異星人(作中の呼び名はアザース。以下アザース)の乗り物兼前線基地だったらしく、このアザースたちからは不気味な10日間の沈黙の後、第一の波(攻撃)が送られてきます。

これは電磁波による攻撃で、エネルギーの統制を司るコンピューターから、人々が持つスマホにいたるまで、すべての電子機器が使えなくなります。次に襲ってくるのが内陸部では大洪水、沿岸部では大津波。この第一次、二次の攻撃はちょっと穿った見方をすれば大地震の光景を模したものかもしれません。ライフラインと通信手段を失った後の人々に襲いかかる大量の水…、特に東日本ではリアルな恐怖を感じる人もいるのではないでしょうか?

お次ぎは伝染病。キャシーの母は看護師で人々の治療にあたるうちに感染して死亡。しかし中にはこの病原菌に打ち勝つ人々もいます。しかし打ち勝ったとは言ってもアザースに脳を乗っ取られて別人格(アザースのために人類を殺戮する方向で活動します)になってしまう人物もいれば、全く影響を受けない人物たちもいます。ここで起こるのが人間同士の同士討ちと疑心暗鬼。このあたりは「人間が本当に頼れるのは人間だが、同時に一番の敵となるのも人間だ」という私にとっては『デビルマン』の原作コミックを読んで以来のパラドクスが示されていたように思います。ここまでの攻撃で第4波。で、五つ目は何?と思っているうちにエンドロールになっちゃいました。何じゃこりゃ?

ストーリーそのものはさほど悪いとは思いませんでしたが、あまりにもリアリティーがなさ過ぎて、普通に観ているのが困難でした。詳しい筋立ては観ていただくしかありませんが、最終的に、人類を救いうるのは子供である、というメッセージを表すために、大人ですらかなわないアザース相手に子供が戦おうとする、という設定がそもそも理解不能。文字通りの子供騙しです。キャシーだって、不意打ちだったとはいえ、訓練を摘んだ女性兵士と戦って絞め殺してしまったりもします。いくらなんでもあり得ねーだろ。もしこれが実情だとしたら、アメリカ軍に守ってもらってるって安心すら出来ねーじゃねーか!

まあ、作品としての室はさておいて。クロエ・グレース・モレッツだけはたっぷりと鑑賞することはできましたので、それだけが救いでした。彼女のファン以外にはあまり観る価値のない作品であるように思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-02-07 19:00 | エンターテインメント | Comments(0)

『家族喰い-尼崎連続変死事件の真相』を読んだ

家族喰い――尼崎連続変死事件の真相

小野一光/太田出版

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戦地から風俗嬢まで幅広い分野のルポルタージュを上梓しているルポライター、小野一光氏による尼崎で起こった不可解な事件に関する渾身のルポルタージュ。

このテの事件の先例としては、北九州の一家監禁殺人事件が挙げられますが、小野氏はこの事件の主犯とされる人物にも直接逢って話を聞いています。今回のこの事件に関しては、主犯とされる角田美代子の行きつけの店などを粘り強く探し出して、「角田ファミリー」をよく知る人々を追い求め、時には事件の当事者から、時には近所の人々からじっくりとファミリーの姿を聞き出し、日々流される、新鮮ではあっても底の浅い情報とは一線を画した、深く濃い実像を描き出しています。

この手法は遠い大学時代に聞きかじったニュージャーナリズムの手法そのもの。書き手は即時性には目をつぶり、じっくりと時間をかけて事件の真相を深い部分まで探り出していきます。そして角田美代子とそのファミリーとされる人物たちの実像をリアルに描き出すことに成功しています。

それにしても何故角田美代子のような人物に魅入られ、いいようにクイモノにされる人物が存在するのでしょうか?小野氏は、角田の洞察力の鋭さとマインドコントロールの方法、警察への対処の仕方などを次々と暴いていきます。

彼女はまず、自分がクイモノにできそうな弱い一家を見つけることが天才的に上手い。そして目をつけられたが最後、その家族は住居に居座られるわ、家族同士が互いに暴行虐待をさせられるわ、ろくに睡眠も取らせずに延々と家族会議をさせられて、何を答えても編成と称して虐待されるわで、どんどん弱っていきます。そして、その家の資産という資産をすべて食いつぶすと、今度はその成員たちを次々と殺してしまうのです。そして新たな寄生先を探すという訳です。聞いているだけで身の毛もよだつような恐怖ですね。

身も心もズダボロにされてから殺される訳ですから、それこそ「死んだ方がマシ」という気分のママで死んでいくことになるのです。哀れという以外に言葉が浮かばない死に様ですね。

自分自身が手を下さずに、周りの人間を「実行犯」に仕立て上げることの上手い人物というのは確かに存在します。私の場合は小学生時代にそういう人物にぶち当たってしまいました。そいつは、成績が良かったために、教師を味方に付けることにいち早く成功しました。ケンカにでもなれば、どちらが発端なのかはまず問題にされず、教師はほぼすべてそいつの肩を持つ方に回りました。そしてそうした教師の姿勢はいつの間にか、そいつに逆らってはいけない、という空気を醸成してしまったのです。で、仮に逆らってしまえば、集団すべての人間からいじめの対象にされる。しかし当の本人は全く自分では手を下さないので、仮にいじめの現場を教師に見つかっても、怒られるのは実行犯だけ。そいつはいつも教師の後ろでニヤケヅラしてました。

角田の場合は、背後に反社会的勢力の皆様がいることをにおわせた上で、最初の方では子飼のガタイのいい男に暴力をふるわせ、獲物の心に恐怖と絶望感を植え付けます。そして絶望感の中で、今度は家族同士が角田に命じられるままお互いに暴力をふるいあうのです。この世の地獄とはこのことではないでしょうか。

こういう人物は本当にどこにでも存在します。魅入られないようにするためには人を見る目というものを培っていくしかありません。魅入られたが最後、行きつくところまで行きついてしまうでしょうから。


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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-28 19:05 | 読んだ本 | Comments(0)

『岳飛伝 一 三霊の章』を読んだ

岳飛伝 一 三霊の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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ようやく文庫化されたので買い求めた、北方水滸伝の完結編『岳飛伝』の第一巻。待ちわびてましたね。

とはいえ『楊令伝』の最終巻を読んでから2年も経っていたので、最初のうちは現在の人間関係をもう一度把握し直すというリハビリが必要でした。そもそものオリジナルメンバー108星で残っているのは呉用、史進、李俊くらいでしょうか。後はほとんどが二世。今巻の中心となってストーリーを引っ張るのは王英と一丈青の息子王貴。梁山泊を財政面から支える商品流通の、それも物流部門に文字通り新しい道をつけようと奮闘します。

で、現在の梁山泊はというと、実質的な指導者がいないような状態。なにか活動をしようと思うと、指導部からは物資的な支援があるのですが、各部隊の各々の行動は「志」の下に統一されていた前二作とは大違い。実務担当者としてのリーダーは呉用が務めていますが、リーダーとして引っ張るという役割までは付与されていません。皆が皆、今のままではどこかで大きな破綻が起きるのではないかと思いながら、今のところ大きな不都合は起きていないし、さしあたっての脅威もないのでなんとなくモノゴトが回っていってしまっている状況です。なんというか、今の日本の閉塞感にも似た状況ですね。少し面倒な問題は先送り先送りにして、現在の当事者が責任を問われないようなカタチになんとなくなってしまっている。梁山泊を襲った大洪水の復興が最優先という流れで、中長期的な視点に立って対処すべき問題がとりあえずないことにされている状態なんか、二つの震災の復興に追われている日本の状況にそっくり。で、先送りにした結果のマズい結末の一例が築地移転問題を始めとする都政の混迷です。何かしっくりしないものを感じながらモノゴトを進めていった結果、大きな矛盾が表出する。梁山泊もいつか大きな崩壊を迎えるのではないか?故に北方氏は、完結編の主人公を梁山泊の人間ではない岳飛にしたのではないか?色々な憶測を持ちながら読み進めざるを得ません。

なんてなことを頭の中で思いながら、TVを観ていたら、丁度アメリカのトランプ新大統領の就任式をやってました。で、突然ひらめいたんですが、梁山泊のリーダーをトランプ氏がやったらどうなるでしょうかね?それなりの基盤が整っている状況の下、内容の善悪は別にして、強い言葉で強力なリーダーシップを発揮して、様々な人間からなる集団を一つの方向に持っていこうとする…。こういう人物こそが、この本に描かれている時点の梁山泊には必要なのではないでしょうか。まあ、もしトランプ氏が頭領の座についたら、梁山泊はイスラム国並みのテロリスト集団と化しそうな気もしますがね(笑)。

さて、リハビリも済みましたので、北方水滸伝の掉尾を飾るこの作品じっくりと読み進めたいと思います。ちなみにkindle版での購読となりますので、文庫本の発売とは若干読む時期がズレると思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-22 06:50 | 読んだ本 | Comments(0)

『ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論』を読んだ

【カラー版】ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論 (集英社新書)

ヤマザキマリ/集英社

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『テルマエ・ロマエ』の大ヒットで、一気に人気マンガ家にのぼりつめたヤマザキマリ氏によるルネサンス美術の解説書。題名通り、取り上げられる人物にはやや偏りがありますが、有名どころはほぼ皆紹介されています。

ヤマザキ氏は17歳の時に高校を中退して、絵の勉強をするためにイタリアに渡ります。残念ながら志望していた画家になることは出来ませんでしたが、描画の技術とイタリアの文化・歴史への知識が彼女の中で上手くミックスされて『テルマエ・ロマエ』という快作が生まれたという訳です。

『テルマエ〜』の主人公である技師ルシウスは架空の人物ですが、実在した人物を描いた『プリニウス』(とり・みき氏との共作)という作品も上梓されているようです。プリニウスは本書にも登場します。

さて、ルネサンスとは文芸復興という訳語が当てられる文化的ムーヴメントです。それまで神の教義を伝えるための手段であった芸術が、人間らしさを写実的に表したものに変わっていったことなどが代表的な「動き」となります。

そのムーヴメントの中の三大芸術家といえば、ラファエロ、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロであり、文学の分野では『新曲』を書いたダンテがその代表格です。ヤマザキ氏はこうした人物達の一風変わった人物像を紹介し、その変人ぶりへの愛を語るのです。

芸術家に変人が多いであろうことは、例えば岡本太郎氏の言動や行状をみていれば想像に難くありません。ルネサンス期以前はイエス・キリストや聖母マリアなどは文字通り神々しく、魅力的な人物として「エラそうに」描かれることが一般的でした。神とそれに関係する人々は、聖書などに描かれたイメージからある種のステレオタイプな表現を「強制」されていたのです。しかしながらルネサンス期に活躍した芸術家たちはこうした描き方に異を唱え、実在の人物をモデルに、より写実的に人間の像を描き出すことを始めたのでした。俗に「世の中を変えるのは若者とヨソ者とバカモノだ」等と言われますが、彼らはまさに、芸術のあり方を変えたバカモノだったのです。

彼らによる変革がなければ、芸術は主にキリスト教の伝播道具にしか過ぎなかったかもしれません。そういう意味ではこのバカモノたちには大いに感謝すべきなのかもしれません。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-21 07:14 | 読んだ本 | Comments(0)

『プロ野球もうひとつの攻防「選手vsフロント」の現場』を読んだ

プロ野球 もうひとつの攻防 「選手vsフロント」の現場 角川SSC新書

井箟重慶/角川マガジンズ

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2016年のシーズンにおいて、ペナントレース、交流戦、ウエスタンリーグとすべて最下位で、「完全最下位」という史上初の不名誉な記録を達成してしまったのがオリックスバファローズ。1988年に阪急ブレーブスから経営権を継承し、途中でブルーウエーブと名を変え、さらには近鉄バファローズとの「合流」を経て現在の球団名、経営体瀬となるのですが、「オリックス球団」の創成期に球団代表として経営に携わったのが著者井箟重慶氏。当時の球団経営の裏側を、題名どおり、特に選手との契約を中心に詳しく語った一冊です。

新球団になった当時のオリックスブレーブスは、選手層もちょうど世代交代の時期にさしかかっていました。1970年代後半に阪急ブレーブスの黄金期を築いたベテラン陣は衰えを隠せず、レギュラーラインナップが磐石であったが故の弊害である若手の成長遅れが顕著でした。おまけに当時のパリーグはまだまだマイナーな存在で、いくら勝っても観客は大して増えないが、負けが込めばそれこそ「無観客試合」に近いような状態になることも珍しくありませんでした。親会社だった阪急が悲鳴をあげて投げ出した球団を買い取ったのが当時のオリエントリース。球団買収とともにオリックスと名を変えた同社は、関西発祥の総合リース業者として日の出の勢いでした。井箟氏は丸善石油野球部のマネージメントにかかわったという職歴を買われて球団に入社。以後10年に渡り、球団代表を務めました。

この方の在職時、この球団には実にいろいろなことが起こりました。新生球団であることを差し引いても、並みの球団の3倍くらいの濃い時間を過ごしたのではないでしょうか?

阪急色を「脱色」するためにV9巨人の戦法や選手育成方法を知悉した土井正三氏を監督に迎え、3年間選手の育成に重点を置いた指導体制を敷きます。イチロー選手を見出せなかったとして、指導者としての評価は高くない土井氏ですが、全体の戦力の底上げにはつながったとして井箟氏は「世間」よりは高く評価しています。

そしてその後には、勝つための監督として勝負師仰木彬氏を招聘。仰木監督の誕生とともに彗星のごとく出現したのがイチロー選手。日本球界初のシーズン200本安打を達成するなどして、一気にスターダムに駆け上がった彼は、打線全体を活気付けました。そこに、星野、長谷川、酒井、佐藤、平井といった充実した投手陣が加わったのですから強いのも当たり前。1995年、96年とリーグ連覇を達成し、96年にはチームとしては阪急時代から、仰木監督個人としては3連勝後4連敗を喫した大逆転敗戦の宿敵巨人を倒して日本一にまで昇り詰めました。

この時代のドラフト戦略、外国人獲得、各選手との年俸交渉など面白いオハナシガずらり。なかでもやはり一番興味深かったのは、イチロー選手のドラフト指名をめぐるオハナシでした。イチロー選手は愛知県出身ということもあり、本人も中日ファンでしたし、中日球団もマークしていたそうです。1位指名にかけるほどの目玉ではないにせよ、まるっきりの下位で指名することもないだろう。いったいどの順位で指名してくるのか?この辺のフロント、スカウト同士の原の探りあい、手の読みあいが実にリアルに描かれています。井箟氏も3位指名にするか、4位指名にするか、それこそ3位指名の選手を決める寸前まで迷ったそうです。結局は4位指名で交渉権を獲得し、入団にこぎつけることとなるのですが、ここに人事の妙ってなこともかかわってくるような気がしますね。オリックスで、仰木監督と出会ってこその開花だったかもしれないですから。

イチロー選手といえば、彼は日本球界初のポスティングシステムによるMLB球団遺跡選手でもあります。このポスティングというシステムができるまでのオハナシも非常に興味深い。アメリカに駐在した経験のある井箟氏は制度の整備のためにさまざまな交渉を行い、選手にとっても球団にとってもメリットのあるシステムを作り上げます。スター選手であるがゆえに引き止めたい球団(および日本球界)と、高いレベルで自分を試したいと考える選手とのハザマで奔走したであろう井箟氏の苦労がしのばれるオハナシです。この制度は、選手の価値に見合ったトレードマネーが球団に入ることで、選手が球団やファンに対して、後腐れなくMLBに移籍できるようになったという意味で評価できると思います。日本球界がMLBのマイナーリーグ化してしまったという負の側面も無視できないほどに大きなものではありますがね…。

金だけを使うのではなく、知恵を絞ることでチームを強化し、かつ利益構造も改善する。どこかの金満球団に突きつけてやりたいようなオハナシばかりでした。金だけに頼った即戦力補強は長い目で見た場合に球界全体のメリットを減じる行為であることがはっきりした今だからこそ、井箟氏のような方に球団の経営を任せたいものですね。







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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-19 18:29 | 読んだ本 | Comments(0)

『日本ラグビー心に残る名勝負−歴史に残る日本ラグビー激闘史』を読んだ

日本ラグビー心に残る名勝負―歴史に残る日本ラグビー激闘史

ベースボールマガジン社/ベースボールマガジン社

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1970年〜2015年の日本ラグビーの「名勝負」と言われた試合を紹介したのが標題の書。

日本ラグビー史上における最大の名勝負は、なんといっても2015年第8回ワールドカップ予選プールでの南アフリカ戦でしょう。連続出場こそ途切れてはいないものの、勝利が1回だけという「最弱チーム」ジャパンと、対戦成績で負け越しているのはオールブラックスだけ、過去二回の優勝を誇り、この大会でも優勝候補の一角と目されていたスプリングボクス。番狂わせの最も起こりにくいと言われているラグビーと言う競技において、この下馬評の差は圧倒的で、戦前は「いかに食い下がれるか」が焦点となっていたほどでしたが、結果はエディー氏が帰国後の会見の第一声で発した言葉に集約されていると思います。「新しい歴史、作りました」。

2015年はラグビーフィーバーに沸き、マスコミへの選手、チーム、ラグビーそのものの露出が桁違いに増えました。スポーツジャーナリズムはもとより、一般のメディアでも五郎丸選手のメンタルトレーニング方法やらエディー氏の組織管理方法とかが盛んに取り上げられました。これだけ、ラグビーが日本社会の耳目を集めたのは恐らく初めてでしょう。勢いに乗って乗込んだスーパーラグビーという場ではジャパンに準ずる存在のサンウルブズは苦戦続き、また、ジャパンもスコットランド、ウエールズといったチームには善戦どまりだったため、2015年当時の熱狂的なブームはやや沈静化していますが、まだまだ追い風が吹いているのは事実。2017-18シーズンに期待しましょう。

さて、私自身が思う名勝負は二つあります。奇しくもこの本には両方とも取り上げられていませんでした。

一つは1987年12月6日の関東大学ラグビー対抗戦の早稲田vs明治。世に言う「雪の早明戦」というやつです。堀越、藤掛、今泉といったスーパー一年生を擁してこのシーズン現時点では大学チームとして最後の日本選手権制覇チームとなった早稲田に対し、やはりスーパールーキーと言われたWTB吉田を切り札に、伝統の重戦車FWがその破壊力を存分に見せつけていた明治が真っ正面からぶつかりあった一戦。前日に降った雪を溶かすような熱戦でした。特に終盤、ペナルティーで同点のチャンスを得た明治があくまでも勝利を得るためにゴールキックを狙わずに攻めに攻めた場面で早稲田がみせた執念のディフェンス。この攻防は見応えがありましたね。早稲田のFBの選手は脳しんとうで交代しましたし、私と同じポジションであった屯所選手のジャージがびりびりに引き裂かれていたシーンも印象的でした。

もう一つは1990年1月2日の大学選手権準決勝の早稲田vs大体大。この試合、大体大は徹底的にFW戦にこだわってきました。なかでも特にスクラム。何度も何度も組み直し。ついには認定トライまで取ったと記憶しています。当時の大体大は実は明治キラーと呼ばれていました。同じようにFWにこだわるチームながら、大体大は体育大らしく、当時としては最先端の筋肉強化トレーニングを用いて、より効果的に鍛えていました。確か、筋トレに専念する練習日を週の内に何日か必ず設けていたという記事を読んだ記憶があります。で、大体大のFWは明治の重戦車軍団に対しヘラクレス軍団と呼ばれていました。真っ正面から押しまくる重戦車に対し、力では負けない上に、筋肉に柔軟性を持たせた大体大FWの方が一枚上手だという論調でした。実際に1987-88シーズンの大学選手権でも、この大会でも明治には勝っていたはずです。この試合も終盤までは大体大がリードしていました。先にも述べた通り、スクラムを中心に自分たちの強みを最大限に活かしきった試合でしたが、最後の最後で早稲田が2トライを挙げてうっちゃります。どこか晴れ晴れとした大体大フィフティーンに対し、スクラムで散々にやられた早稲田の3番プロップの選手は号泣してました。同じポジションだけにキモチは非常によくわかります。試合に勝ってもスクラムで負けていたらプロップとしては負けなんです。

さて、この文章を書いている時点で、高校ラグビーは東福岡が優勝。大学は帝京と東海で決勝戦を控え、トップリーグの優勝争いからも目がはなせない状態です。2019年の日本でのワールドカップ開催に向け、この本に収録された試合をしのぐような名勝負がもう一冊本に出来るくらいの充実したシーズンを続けて欲しいものです。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-09 07:57 | 読んだ本 | Comments(0)

『アタック・ナンバーハーフ』鑑賞

アタック・ナンバーハーフ〈デラックス版〉 [DVD]

チャイチャーン・ニムブーンサワット/クロックワークス

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タイに実在したオネエたちのバレーボールチームを描いたタイ映画。公開当初、ちょっと気にはなっていたのですが、そのうちビデオ(2000年の制作ですので当時はまだDVDは普及していませんでした)化されるだろうと、思っているうちにいつの間にか、記憶の彼方に消え去ってしまっていた作品です。先日近所のレンタルDVD屋に行ったらたまたまピックアップコーナーにあったので即借り。原題『サトリー・レック』はこの実在のチーム名でタイ語で「鋼鉄の淑女」という意味になるそうです。邦題はあきらかに、女子版のスポ根マンガの草分け『アタックナンバーワン』のもじりです。当時こうした人々のことはニューハーフとかMr.レディーなんて言い方をしていましたから、タイトルはタイムリーなものではあったようですね。

私の大学の卒業旅行はタイでした。バンコクのとある日系デパートに土産物を買いに行き、そこでトイレに入ったらオネーサンが二人、かなり念入りに化粧していました。あれ、男女を間違えたかな?と慌てて外に出て改めて確認したら私はきちんと男性用の方に入っていたのでした。つまり彼女?らはオネエ(最近はこういう言い方をしますね)だったのです。まぎらわしいわ!!まったく。

タイという国は、歴史的にLGBTの方々には比較的寛容な国のようです。国教である仏教は同性愛を罪悪視していませんし、国民の敬愛を一身に浴びていた前国王もゲイだったのではないか、などとも言われています。公立の学校には男女のトイレの他に同性愛者専用のトイレがあるそうですし、性転換手術の最先端の地は彼の国です。日本の有名なオネエさんがたもずいぶんお世話になっていると聞きますね。

こうした文化的背景を持つ国ではありますが、やはりLGBTの人々というのはマイノリティーです。作品中でも、観客からブーイングを受けたり、対戦予定のチームに試合を拒否されたりするというエピソードが描かれます。チームのメンバーの一人は母親から同性愛者であることを手ひどく非難され、親子の縁を切られてしまいます。全体的にコミカルな描き方をされてはいますが、描かれている差別に関してはかなり生々しいです。自分の性に関して違和感を感じているというだけの理由で社会から拒絶されてしまうという悲しみは、差別されたことのない者にとっては想像しがたいことです。ステレオタイプな表現方法ながら、その悲しみと、それにめげないでバレーボールに打ち込む彼(女?)たちの姿は上手く表現されていたように思います。まあ、ストーリー的には「勝利がすべてを癒す」というスポ根モノの王道なのですがね。

ちなみに、このチームの監督は女性で、かつレズビアンです。こういうところにも細かなくすぐりは入っています。

ちょっとググって調べてみたのですが、演じた役者たちの素のセクシュアリティーに関して詳しく解説したモノはありませんでした。もし、素のセクシュアリティーがヘテロであるなら、なかなか真に迫った演技であったとは思います。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-08 06:35 | エンターテインメント | Comments(0)

『13の幻視鏡』を読んだ

13の幻視鏡 (角川ホラー文庫)

吉村 達也/角川書店(角川グループパブリッシング)

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本屋の角川ホラー文庫コーナーにその著作が山積になることが多いな、と感じていた吉村達也氏の短編集。名前を良く見かけていたわりには死の作品を読むのは初めてです。おそらく「ホラー大賞」とかいう腰巻がついた本がなかったことが原因だと思います。ちょっと前のkindle割引本コーナーで見かけて即DL。ちょっとググって調べてみたら、この方かなり広い守備範囲をお持ちだったんですね。数々の「シリーズ物」が作品リストにありました。さらに言うとすでに鬼籍に入られていたってのも初めて知りました。

さて、『13の〜』と謳ってあるにもかかわらず、収録のお話は12編。そのへんの事情は生前の吉村氏と付き合いの深かった編集者による解説に書いてありますのでそちらを参照してください。全体としてはホラーというよりは落語の人情話を聴いているかのような読後感を持つ物語が多かったように思います。特に最後の『レイク・クレセントの風』は、何か不思議な結末が待っていそうに思わせて、実に合理的な結末が待っていました。恐怖というよりは、悲しみとその悲しみを乗り越えた先に待っているであろう、ほのかに明るい将来を思わせる仕上がりになっていたと思います。

期待していたホラーではありませんでしたが、吉村氏という作家を知ることができたのは一つの収穫です。当面シリーズ物には手を出す予定はありませんが、ホラー、あるいは虚実が入り混じったミステリーなどについては折を見て読んでいきたいと思います。

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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-06 05:47 | 読んだ本 | Comments(0)

『スーサイド・スクワッド』鑑賞

スーサイド・スクワッド ブルーレイ&DVDセット(初回仕様/2枚組/デジタルコピー付) [Blu-ray]

ウィル・スミス,マーゴット・ロビー,ジャレッド・レト,ジョエル・キナマン,ジェイ・コートニー/ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント

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アメコミ原作の映画化。この作品の版元はDCコミックスで、『バットマン』や『スーパーマン』の世界観がミックスされて作品の設定に影響しています。バットマンの敵役ジョーカーが重要な役所をしめる脇役として登場したり、主人公フロイド(ウィル・スミス)の回想シーンでゴッサムシティーが出て来たり。

まあ、一言で言ってしまえば、『XーMEN』シリーズのDCコミックス版です。特殊技能や超能力を備えた人間が集まって、より強大で凶悪な存在と戦う、ってのが大まかなというかストーリー説明のすべてです。『XーMEN』シリーズとの大きな違いは集められるメンバーがすべて犯罪者であるということ。普通の人間の倫理観とはかなり乖離したキャラクターの持ち主たちが、政府のお役人に爆弾を首に仕込まれて、いやいや敵に立ち向かうという筋立てです。ちなみに犯罪者たちを集めて、超常的な特殊部隊を作ったのは「スーパーマンが死んだため」という理由です。

この作品は日本で公開されたのが2016年の9月10日からだったので、ヒロインであるハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)のコスプレがハロウィーンのばか騒ぎの際に少々流行ったようですが、精々その程度の話題にしかならない作品だったように思います。ハーレイ・クインというキャラクターはなかなかぶっ飛んでましたし、個人的には好感の持てる存在でしたが、なにせストーリーが貧弱すぎてオハナシになりません。

最後の最後に少々どんでん返しじみた展開があり、続編の可能性が示唆されていますが、仮に作られてもビデオ化されてから、それも新作落ちしてからの鑑賞で充分だと思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-04 16:08 | エンターテインメント | Comments(0)

『黄金海流』を読んだ

黄金海流 (日経文芸文庫)

安部 龍太郎/日本経済新聞出版社

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時代小説の大御所、安部龍太郎氏の長編。松平定信の治世下(いわゆる寛政の改革が行われていた時代ですね)を舞台に、伊豆大島の港湾整備事業を巡る争いを重厚な筆致で描いています。

今も昔も多額のオカネが動く公共事業というのは、不正の温床のようですね。実際に動く予算の他に、そこから得られる利権を巡って陰に陽に繰り広げられる戦いの姿がリアル。曲がりなりにも殺人がタブーとされている現在とは違い、武士による平民の斬り捨ては当然の権利として認められていた時代ですから、反対派の主要人物を暗殺してしまう、などというのは日常茶飯事。当然のことながら、その場合にはその道のプロというのが登場することとなります。そこういう時代背景の下に、幕閣クラスの人間の勢力争いから、商人の利権争い、伊豆の大島に存在する島民と流人たちの対立などが複雑に絡み合って、ひっきりなしにいろんな争いが起こります。

登場人物のキャラも皆が皆濃いこと濃いこと。大島の商人大島屋はボンボン育ちの苦労知らず。芸妓あがりの女房を満足させることも出来ず、店の実権も番頭の庄助ににぎられたまま、趣味的生活に「逃げて」います。しかし、ある日、大島屋の持つ廻船が嵐の海で難破してしまいます。積み荷として浜に打ち上げられた俵のなかからはご禁制の品である干ナマコが…。このことを咎められた大島屋は窮地に追い込まれますが、番頭庄助の奇策で一気に挽回します。この奇策が何であったかは実際の本文をお読み下さい。

お次ぎに登場するのは、下田の役人英一郎。腕も立ち、人格的にも高潔な人物として登場しますが、自らの出生の秘密を握られ、とある大物政治家の走狗となることを余儀なくされます。我が身の出自を呪いながら、いやいや手を染めた「裏の仕事」ですが、そのうちに英一郎は悪に魅入られてしまうようになり、進んで悪事に手を染めていきます。そのことが原因で妻や娘には去られ、母親は認知症になってしまうのですが、こういう状況がますます英一郎を悪に走らせる…。シュチュエーション変えれば現代の一般市民にも充分に起こりうる「転落」のストーリーですね。

そして、この物語のおそらくはメインキャラである、鉄之助。恵まれた体躯と、自己流ながら卓抜した剣技と天賦のセンスで戦闘能力の高いキャラ設定です。しかしこの人物、地震や船上など「揺れ」が発生する場面になるとパニックを起こし、周りの人間を手当り次第に傷つけてしまうというキャラクターをも付与されています。どうやら鉄之助の過去には「揺れ」に関する重大なトラウマがあり、揺れを感じた途端、そのトラウマが刺激されてフラッシュバックを起こすようです。鉄之助は石川島の人足寄場にいます。いわゆる無宿人であるからなのですが、彼がなぜ無宿人なのかについてはストーリーを追ううちに明らかになっていきます。大きな政争に関連している、とだけ述べておきましょう。鉄之助と常にコンビを組む呑海という坊主頭の人物も力強くストーリーを引っ張ります。この人物も途中で正体が明らかになるのですが、こちらも意外な人物の余生の姿とだけ述べておきましょう。

最後は大島の港湾工事を一手に引き受けた新興商人伊勢屋の現場監督秋広。伊勢屋は予算をオーバーする分に関してはすべて自前で負担する代わりに、港が完成した暁には帆布一反につき100文の入港税を徴収させてほしいとの申し出をして、それが受け入れられ、工事を進めています。しかし、大島屋を始めとする大島に既存していた商人たちは開港にともなう利権がなにも得られないことに反発し、この工事を後押ししている幕閣の要人とはライバル関係にある要人に働きかけて、工事をやめさせようとします。のみならず、ライバル関係にある要人の息のかかった英一郎や、闇の存在である「疾風組」を暗躍させて工事を妨害しようとしたりもします。

そこに工事推進派として立ちはだかるのが鉄之助と呑海に率いられた一派です。いくつもの争いと、人間関係が交錯する面白さは、本の分厚さが気にならないほどでした。他の本のことを気にする暇もなく、行き帰りの電車の中と就寝前の時間を使って三日ほどで読了しました。傑作です。



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# by lemgmnsc-bara | 2017-01-03 08:21 | 読んだ本 | Comments(0)

2016年の年末に当たり

ブロ友の皆様、本年も大変お世話になりました。

このブログを始めたのが2006年の12/30。そしてそこから、なんとなく断続的に書き続けて10年という歳月が経ちました。

ネットという限定的な環境下ではありますが、様々な人々と知り合うことが出来、色々なご意見をうかがえるという体験は非常に貴重なものでした。生活に張りと潤い、時には怒りや悲しみなども与えてくれましたが、それらはすべて自分自身の成長の肥やしになったと考えております。おかげさまで、今後の人生にも一つの大きな指針を与えていただきました。

今後も日々の下らない雑事をつらつらと書き連ねて行く予定ですので、よろしくおつきあいのほどお願いいたします。

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# by lemgmnsc-bara | 2016-12-31 08:30 | 雑談 | Comments(4)

『熊撃ち』を読んだ

熊撃ち (ちくま文庫)

吉村 昭/筑摩書房

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昭和、大正といった現代に限りなく近い時代の出来事に題材を取った作品の多い吉村昭氏の、実在の猟師と実際の事件にもとづいた短編小説集。8人の熊撃ち名人たちが登場し、七つの事件が描かれます。

近年、熊と人間が遭遇し、人間が殺傷される事件が増えていますね。天候不順によりエサが不足している、人間の恐さをしらない世代が成獣に達する年回りとなった、等々さまざまに原因は挙げられますが、根本には、かつては棲み分けが出来ていた境界線を人間が越えてしまい、従来は熊のテリトリーだった地域までその活動領域を広げてしまったことにあると思います。熊にしてみれば、自分の領分に入って来た人間を迎撃し、ついでに食糧にしているだけ。本当は人間の方が人間の方が遠慮しなければいけないオハナシなのかもしれません。

この本に取り上げられた事件は昭和初期、特に北海道などで人間が盛んに未開の土地、すなわち熊の生息域を侵略していた時期でした。人間に生息域を侵された熊たちは文字通り人間に牙を剥き、不用意に山に立ち入った人間を食い殺します。そこで熊たちの駆除に呼び出されるのが「名人」たち。

本来ならば、平和的に共存してゆくべき存在の命を奪って、肉や毛皮、内臓などをとって生計をたてている名人たちは、命を奪うことへの後ろめたさからか、みな一様にストイック。無闇矢鱈と熊を駆除するのではなく、人を食い殺した、あるいは今後食い殺す可能性が高い場合に限ってのみ仕方なく撃ち殺すのです。

名人たちはたいてい一人で行動することを好みます。不慣れな人間はいつパニックを起こして狩りの妨げとなるかわかったものではないということもあると思いますが、人間の勝手な理屈で殺されてしまう熊たちに対し、一対一での戦いを挑み、なるべく苦しませないよう一発で仕留めることでせめてもの償いとしようとする心象が伺えます。人間とはなんと罪深い存在なのでしょうか。などと柄にもなく殊勝なことを考えてしまいました。

いくつかのストーリーをうまくつなぎ直せば、レオ様の『レヴェナント』をしのぐような熊との戦闘が描ける映画となるのではないか、とストーリーに全く関係ないことも思い浮かびました。

なお、この作品集のための取材から派生した長編も存在するそうです。こちらも是非読んでみたいですね。


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# by lemgmnsc-bara | 2016-12-21 21:12 | 読んだ本 | Comments(0)

『10・8−巨人vs中日史上最高の決戦』を読んだ

10・8―巨人vs.中日史上最高の決戦

鷲田 康/文藝春秋

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公式戦の最終戦で勝率がまったくの同率で、勝ったほうがシーズン優勝というプロ野球史上初の大一番となった1994年10.8の中日-巨人戦に関するドキュメンタリー。スポーツライター鷲田康氏の作品です。この試合、私はテレビ桟敷で観戦してましたが、事前からマスコミにあおるだけにあおられたせいもあって、相当に興奮しながら観ていた覚えがあります。

夏前までの楽勝ムードから泥沼の連敗を経てこの日にたどり着いた巨人と、シーズン終了前に早々と高木監督の解任を発表していながら、終盤に一気の連勝で瞬く間に頂上の一歩手前まで上り詰めてきた中日。事前の予想では明らかに後者の方に勢いを感じました。しかも当日の先発は巨人キラーの名をほしいままにしている今中投手。巨人は先発の槙原を始め、斉藤、桑田の三本柱をすべて投入する、と試合前からぶち上げていましたが、いかにいい投手をつぎ込んでも、打って点をとらなきゃしょうがないしなぁ…ってのが試合前の私の個人的な不安でした。 しかし、その不安は二回にでた四番落合のソロホームランで一気に吹っ飛びました。打つべき人がきっちりと仕事をして先制点を取る…。大体において巨人は先行逃げ切りという展開で力を発揮するチームなんです。先発投手のイキがいいうちに、打線がしっかりと点を取って、後は磐石の中継ぎ、クローザーへとつなげて逃げ切る。まずはこの勝ちパターンに一歩近づいた。どうにかこのまま行ってくれ、という当時の心境は今でもかなりリアルに思い出すことができます。

この後、各イニングに関して、どちらかのチームから一人「主人公」が選ばれて、その選手の過去-10.8-その後まで、かなり詳細な物語が語られます。落合の負傷退場、桑田のひじの怪我、立浪の左肩脱臼、斉藤の脚の怪我等々。特にこの中では立浪の左肩脱臼あ印象に残っていますね。非常にスマートで泥臭さを感じさせない立浪選手が、一塁にヘッドスライディングし、セーフにはなったものの、左肩を脱臼。後に前年までチームメイトであった落合氏が「あいつはあんなことをやるやつじゃなかったのに、怪我までしてセーフになろうとした。あの姿をみて中日の必死さを感じた」という主旨の発言をしたと記憶しています。

結果としては巨人が勝ってセリーグ優勝。勢いに乗って、西鉄ライオンズ時代からの仇敵であり、当時は「球界の盟主」の座をあらそっていた西武ライオンズをも破って日本一となります。この本の中で、鷲田氏はさまざまな方法で祝祭的な異次元を演出した長嶋茂雄氏に率いられた巨人が、あくまでも普段どおりの野球をやろうとした中日に勝ったと述べています。こと、「この一戦」に際して、いかに選手の力を引き出すか、に関しては長嶋氏の方が一枚上手だったといわざるを得ません。もっとも高木氏が長嶋氏と同じ事をやろうとしてもうまくいかなかったとは思いますがね。この辺の違いがスターと野球職人の違いなのでしょう。どっちがいいとか悪いとかではなく、あくまでも方向性の違いなのですが、10.8の決戦時に関しては、スターのかもし出す非日常が日常を飲み込んでしまったというわけです。

読み終えて、当時の興奮を思い出すとともに、すでにあれから22年もの月日が流れてしまったことに思い至り、感慨にふけってしまいました。その間、日本プロ野球もずいぶん変わってしまいました。そういう意味ではあの一戦は最後の奇跡だったのかもしれませんね。

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# by lemgmnsc-bara | 2016-12-21 19:54 | 読んだ本 | Comments(2)

『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』鑑賞

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ [DVD]

マイケル・ムーア/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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「マイケル・ムーア監督じゃねーよ!!」という近藤春菜のお約束ツッコミでおなじみのマイケル・ムーア氏の今のところの最新作。出演しているのはほぼ監督ご本人だけで、あとはズブの素人のみが登場するドキュメンタリーです。

監督は欧州各国を巡って、アメリカとは大違いの政策を見つけ出し、その関係者へのインタビューを試み、最後はインタビューした場所へ星条旗を押し立てて「侵略」の証とします。ひたすらこの繰り返しですが、それぞれの国で取り上げられるトピックスがいちいち興味深い。

まずはイタリア。この国の労働者は毎年二ヶ月以上の有給休暇が貰えます。このことはアメリカよりむしろ日本に響くオハナシではないでしょうか?毎日毎日朝早くから夜遅くまでオフィスに縛り付けられて、土日の休みもろくろく取れない。労働は善で、休みは悪というのが日本人の基本的な心象。つい最近電通の若手女性社員の過労自殺が大きな話題となりましたが、あれはホンの一例に過ぎず、似たような状況下で心身をむしばまれていく人々は数多いると思います。しっかりと休みを取って人生を楽しみつつ、やる時にはやるイタリア人と、ちょっと長く休むと罪悪感に苛まれる日本人。さて、あなたならどちらの国に暮らしたいですか?という問いは明示されませんが確実に心の中に入り込んできます。

お次ぎはフランスの学校給食。専門の料理人が腕によりをかけて作ったメニューと、大量生産された「工業製品」をただ温めただけのアメリカの給食。前者の豪華さを見せつけられた後では、後者は家畜のエサ程度にしか見えません。人工甘味料に添加物の塊のようなコカ・コーラ(これもアメリカの象徴の一つですね)を勧められたフランスの小学生は一口飲んだだけですぐに監督に返してしまいます。食材の美味さを充分に引き出した料理と、ただカロリーを摂取するためだけの「製品」、さてどちらをあなたは食べたいですか?どちらを自分の子供に食べさせたいですか?これも心に深く刺さる問いです。

その他、大学教育が無料なスロベニアに殺人犯までが、清潔な環境でのびのびと過ごせるスエーデンの刑務所など、それぞれをアメリカの現状と比べることで「どちらが良いか?」という問いを観るものに投げかけるつくりとなっています。

答えはいわずもがなでしょう。しかし、核の抑止のために核兵器を持つのが「常識」であるアメリカの指導者たちにはおそらくアメリカの現状を変える気はさらさらないでしょう。かくして、この作品は監督お得意の壮大な皮肉と、権力へのおちょくりになるのです。なかなかの佳作でした。



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# by lemgmnsc-bara | 2016-12-18 08:04 | エンターテインメント | Comments(0)

『赤目四十八瀧心中未遂』を読んだ

赤目四十八瀧心中未遂 (文春文庫)

車谷 長吉/文藝春秋

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この本を原作とした映画が各種の賞を受賞したことで、ずっと気になっていた一冊。本屋で見かけて衝動買いしてからずいぶん長い間の積ん読山での熟成を経て、ようやく読み終えました。ちなみに映画はまだ観ていません。

主人公生島与一(おおっ、与一!!!感情移入しやすい 笑)は大学卒業後広告代理店に勤めていましたが、勤務を続けて「中流の幸せ」を手にすることが、果たして本当に幸せになることなのだろうか?という深淵かつ青臭い疑問を消し去ることが出来ずに、安定していた生活を捨てます。そして住んでいた東京を離れ、チンピラや年のいった売春婦たちの吹きだまりのような尼崎の片隅で、焼き鳥屋の下働きで口を糊する日々に入ります。

こういう生活への衝動は私にもよく起こります。ただ私には最高権力者様という世間とガッチリつながったヒモがついておりますので、簡単に逃げることは出来ないし、なんだかんだで、食うにも事欠くような経済的な苦しさや惨めさを味わったことがないため、本当に貧しい境遇に落ちてしまった時に耐えきる自信もないので、実行しないだけです。会社の仕事からはちょいちょい逃げてますがね(笑)。

自分の夢や理想からはほど遠いものの、生きていくためにはカネが必要で、カネを得るためには働かざるを得ない…、こう考えただけでも気分は暗く、重苦しくなります。そして物語に重苦しさを増量してくれるのが周りの登場人物たち。刺青師の彫眉に、その子供の晋平、死んだ豚や鳥を捌く焼き鳥屋の女将セイ子ねえさん、そして出自が半島であることを隠しながら生きているアヤ子。どの人物にも、様々な社会の歪みが背負わされています。

中でもアヤ子。彼女は与一のファム・ファタールとして与一をより深い闇の中へと引きずり込んでいきます。そして最後には「一緒に死んで欲しい」と願うのです。結末は題名に表れていますが、与一は精神的には限りなく死に近い状態に追い込まれることになります。

この作品は映画のみならず、文章の方でも直木賞を受賞しています。人間の心がいかに移ろいやすく弱いものか、反面いかにしぶとくてしたたかであるかがよく描かれた一作であったように思います。



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# by lemgmnsc-bara | 2016-12-18 07:13 | 読んだ本 | Comments(0)

なんだかんだで読んだ本のことばっかり書いてます。たまに映画、時々食い物とドライブとラグビー観戦。


by 黄昏ラガーマン
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