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『岳飛伝 五 紅星の章』を読んだ



岳飛伝も巻を重ねること5冊目。この壮大かつ男臭い物語がだんだん終わりに近づいていくのが楽しみでもあり、さびしくもありというところですね。

さて、ストーリーは今までの流れに沿ったものです。南宋の軍閥岳飛軍と兀述とは相変わらず戦い続けています。一方で講和の動きがある反面、岳飛と兀述は直接対決し、「戦いのための戦い」を繰り広げることとなります。戦場では、川中島の上杉謙信、武田信玄よろしく一騎打ちに近いような場面すらあります。結果については直接本文を読んでください。単純に勝った負けたを論じるより、この戦いが両者にどんな影響を及ぼし、その結果として両国間にどのような関係性の変化が生じ、そしてそのことが我らが梁山泊にどのように波及してくるのか、を考えることがこの物語本来の楽しみ方であるはずです。

梁山泊軍は相変わらず高みの見物状態が続いています。しかしながら水面下では激しく動いてもいます。梁山泊軍の頭脳であり続けた呉用がついに亡くなり、「政治」の主体は宣凱に譲られることとなります。王貴の商業部隊は岳飛軍に糧秣を供給し続け、南越に渡った秦容は甘藷糖の製造に向け、着々と体制を整えていきます。

ここでやはり一番気になるのは秦容の動向ですかね。密林を開拓し、治水を行い、甘藷の栽培を本格化させる。農地の拡大や、甘藷糖の製造開始に当たって、増やすべき人物は梁山泊の活動から「引退」した人物たちを充当する。それでも足りない場合は現地の人々を採用したり、水牛を労働力に使うことを考えてみたり…。一種の福祉国家の建設ですね。日本で、源氏と平氏が争っている時代に、自由主義経済国家のみならず、老人の福祉までを考えた国家を出現させてしまうとは…。派手な事件ではなく、日常の着実な歩みこそが国の姿を作り上げる、という北方氏の哲学が見事に表されていますね。

そしてこの福祉国家を打ち立てるためにさまざまな問題に直面する秦容は、直接剣を振るうのとは違う形の戦いに臨んでいるという、気概を持ち始め、自らの求める「志」は今の生活にこそあるのでないかという心境にまで至るのです。荒くれヤンキーが農場経営に目覚めたってなところでしょうか。 来るべき「最終決戦」に向け、南宋、金国、梁山泊の三者がどのような変化をみせていくのか?次巻の発売が待ち遠しいですね。

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by lemgmnsc-bara | 2017-05-23 13:16 | 読んだ本 | Comments(0)

『殿、利息でござる!』鑑賞

殿、利息でござる! [Blu-ray]

阿部サダヲ,瑛太,妻夫木聡,竹内結子,寺脇康文/松竹

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実話を基にした時代劇。タイトルからして、困窮した藩の財政をあずかる家臣がその立て直しを図る物語かと勝手に想像していましたが、さにあらず。

舞台は江戸中期の仙台藩領内の宿場町吉岡。宮城県在住5年余におよんだ私も恥ずかしながら初めて聞く地名でした。物語は茶商の菅原屋が京からその令室とともに帰郷するところから始まります。遠くから駆け寄ってくるのは吉岡宿の肝煎、遠藤。てっきり自分を歓迎してくれると思った菅原屋ですが、遠藤は令室が乗っていた馬を無理矢理に借り受けると、また走り去ってしまいます。前の宿場から物資の引き継ぎを受け、それを次の宿場に運ぶ伝馬役に使用する馬が足りなかったためでした。

このエピソードから、当時の吉岡宿を取り巻く苦難の状況がすべて語られる、というなかなか上手い導入部分でした。この時点ですでに吉岡宿は死にかけていたのです。

菅原屋は茶の栽培に腐心しながらも、宿場町の行く末に不安を覚えていました。そんな時に宿の居酒屋で、死を賭して上訴しようとしていた、造り酒屋穀田屋十三郎とたまたまあってしまいます。宿の行く末を考えると、酔ってなどいる場合ではないが、飲まずにはおれぬ、という不安な穀田屋の様子を阿部サダヲが上手く演じていました。酒席での気安さからか菅原屋は、藩主にカネを貸して、その利息分として伝馬役の費用負担を願い出る、という当時としては破天荒な策をあくまでもヨタ話として展開します。

ところが、このヨタ話を穀田屋が真に受けて、その実現のために走り出します。慌てた菅原屋は穀田屋を止めようと肝煎に相談しますが、肝煎も宿の行く末に気を揉んでおり双手を上げて大賛成。それでは、と大肝煎に話を持っていくと、こちらもこの話に感動して乗ってきます。ホンのちょっとした思いつきが様々な人を巻き込んで、思いつきの当人の意向とは全くズレて大きく大きく「成長」していく…。なかなか凝ったストーリー展開ですね。

プロジェクトの推進役こそ決まったものの、肝心のオカネのアテはないまま。言い出しっぺの菅原屋を始めとする「金貸し委員会」は私有財産を整理して何とかオカネを作り出しますが、彼らだけでは全然足りない。そこで、何とか仲間を増やそうと奮闘する姿がメインストーリーとなります。これだけなら、単なるコミカルな映画で終わってしまうのですが、最後には大きな人情話が待っています。この作品の原作である『無私の日本人』に感動した人が、制作の一翼を担った東日本放送勤務の娘にこの本を紹介し、そこから様々なエラい方々に感動の連鎖を呼んで、制作されたのがこの映画であるというエピソードがウィキペディアに出ていましたが、読む人読む人に感動を与えたであろう部分はこの人情話の部分であろうと思われます。とにかくいいオハナシなんです。

ストーリーとは無関係に、藩の財政の最高責任者を演じた松田龍平のマゲヅラの似合わなさが特筆もの。彼に関しては少々声が高いところもマイナスポイントかな?まあ、父親のイメージに引っ張られ過ぎてるってオハナシもありますがね…。その他仙台を舞台にしているということで地元の英雄羽生弓弦氏が最後に藩主役で登場したのも公開当初は話題となりましたね。なかなかの佳作だったと思います。



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by lemgmnsc-bara | 2017-05-07 08:17 | エンターテインメント | Comments(0)

『ブラックファイル 野心の代償』鑑賞

ブラック・ファイル 野心の代償 [Blu-ray]

ジョシュ・デュアメル,アンソニー・ホプキンス,アル・パチーノ,イ・ビョンホン,アリス・イヴ/松竹

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主役のジョシュ・デュアメルについては全く知らないまま、アンソニー・ホプキンスとアル・パチーノが出ているということだけで借りて来てしまったのが標題の作。クライムサスペンスだということも、観始めてから始めて知ったという、予備知識の全くないままの衝動借りでした。

物語は、アンソニー・ホプキンス演じるデニングの周りの状況説明から始まります。デニングは大きな製薬会社のCEOで、データのねつ造により死亡者がでてしまうほどの害のある薬を売り出しており、その訴訟問題に頭を痛めています。そんな彼の支えとなっているのは愛人のエミリー。そのエミリーが誘拐され誘拐犯からは身代金の要求が。犯人の指定場所である画廊に赴いたデニングは、接触を図って来た男を殴り倒してしまう…。

ここまでのシーンの後、時系列的には少々戻り、主人公ベン(ジョシュ・デュアメル)の状態を説明する描写に入ります。彼は看護師の妻を持つ弁護士で、その妻とは流産が原因でしっくり行っていない。相変わらず、ハリウッドはかならず家庭環境に問題のある主人公を出しますね。問題のある家庭環境が「普通」のこととなってしまっている社会環境に薄ら寒さを覚えてしまいますが、ストーリーの主題から外れるので、ここは一瞬の感想に止めておきます。そんなベンのSNSに、ある日、元カノからの友人申請が…。その元カノこそエミリー。エミリーは権力ずくで自身を愛人としたデニングには反発を覚えており、新薬のデータねつ造の事実を証明するデータの提供を申し出た上、妖艶な誘いもかけてきます。

ベンはまず妖艶な誘いにぐらつきますが、なんとか最後の一線までは越えませんでした。しかし、名誉欲や出世欲などには駆られてしまい、エミリーからデータの提供を受けることとなります。ベンの所属する弁護士事務所は敏腕弁護士として名高いチャールズ(アル・パチーノ)の経営するもの。ベンはチャールズに出所は少々ヤバいものの、信憑性の高いデータであることを納得させた上で、デニングとの対決に臨もうとするのですが…。

データを貰おうとエミリーの部屋を訪れたベンは、エミリーが遺体となっているのを発見します。ここから、時系列的にも行ったり来たりだし、人間関係を混乱させる人物も登場して来るしで、ストーリーはかなりカオスな状態となります。ですが、最終的には納得の結末に。どんでん返しが二回あるとだけ記しておきましょう。どのようなどんでん返しかは是非とも本作を鑑賞いただきたいと思います。

アンソニー・ホプキンスに若い女性が絡むと、ついついいきなり噛み付いてしまうのではないか?と考えちゃいますね。良きにつけ、悪しきにつけ、ハンニバル・レクター博士の役が強烈であることの証左です。アル・パチーノを観たのは非常に久しぶり。この作品は2016年に公開されたのですが、ずいぶんと老けた印象です。なによりも井上順そっくり。♫おっせっわにぃなりました〜、って歌い出しちゃうんじゃないかというくらいに似てました。そこで本当に歌ってくれたら大笑いをひっくり返しますが、それだと『新春隠し芸大会』のパロディードラマになっちゃうしなぁ…。

ストーリーはなかなかよく練られていましたが、仕上がり的には微妙な作品でした。



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by lemgmnsc-bara | 2017-05-07 06:43 | エンターテインメント | Comments(0)

なんだかんだで読んだ本のことばっかり書いてます。たまに映画、時々食い物とドライブとラグビー観戦。


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