人間はこんなものを食べてきた 小泉武夫の食文化ワンダーランド (日経ビジネス人文庫)

小泉 武夫/日本経済新聞社

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日経新聞の夕刊に連載中のコラム『食あれば楽あり』で、食材に関する蘊蓄と料理に関する美味そうな描写を楽しませてくれている農学者、小泉武夫氏のエッセイ集。本書では数ある異名のうち「味覚人飛行物体」を名乗り、主に日本各地で「食べ継がれてきた」食品にスポットを当てて、その魅力を描き出しています。

小泉氏の持論は、人間が長い間をかけて順応して来たその土地土地の気候風土にあった食べ物が一番おいしいということ。

日本人の食生活の根幹をなすのは米、魚介類、野菜、それに発酵食品であり、これらの食材を中心に食生活を組み立てることが、健康に一番効果的であると述べています。

私も齢50を超え、氏のおっしゃることが実感出来るようになりました。肉や、脂肪分とと糖分の塊であるケーキなんぞを食うと、その場は確かに幸せなのですが、数時間後ぐらいからジワジワと内臓が悲鳴を上げ始めます。で、その蓄積が風が吹いただけでも痛いなんて病気の発症につながったりもします。

歳はとりたくねーな、と思うしかない今日この頃ですが、私の場合は食う絶対量が多いということもあります。いかに日本人向きの食材で食事を工夫しても、量が多ければやっぱり不具合を起こしますね。

いい食材を使った料理を適度な量食べる、というのが一番健康であり、現在の世の中では一番贅沢なことなのではないかと思います。今やいい食材を探すのは至難の業ですし、値段も高くつきますからねぇ…。

しかしモノは考え様です。安いけれどカラダに悪いモノを食い続けて、結果カラダを壊して医療に高い金をかけるなら、多少は高くても健康につながる食品を食べ手いる方が結局は安いと言えるのかもしれません。何より、安全な食品は美味いはずです。元々食い物の美味い不味いは食ったら毒になるか否かを判断するものだったはずですから。

今後は少しづつでも、いいモノを手に入れてしっかり味わって食う、という方向に持っていきたいと考えています。とは言え、ついつい店頭に行くと、魚より肉を、高い良品よりは安い難あり品を買い求めてしまうのですがね…。



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by lemgmnsc-bara | 2017-04-29 21:06 | 読んだ本 | Comments(0)

稲盛和夫 最後の闘い―JAL再生にかけた経営者人生

大西 康之/日本経済新聞出版社

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京セラの創業者として有名な稲盛和夫氏が、経営破綻したJALに乗込んで、いかに内部を改革し、V字回復を成し遂げたかを描いたルポルタージュ。

経営破綻をした際のJALというのはお役所以上にお役所的な会社だったようです。アタマのいい経営陣が素晴らしい経営計画を作りはするものの、その計画を遂行しようと努力する者はなく、「達成出来なかった時のいい訳は超一流」という体たらく。内にばかり目を向けていて、本来なら一番向き合わなければならない顧客からも「笑顔ではあるが心がこもっていない接客態度だ」と評される始末。おまけにいろいろな組合が乱立して社内もバラバラ。破綻するべくして破綻したとしか言いようのない状態でした。

もちろん、素晴らしい社員はたくさんいたのでしょうし、与えられた持ち場の中で精一杯の努力をしていたのではあろうと思います。また、必要だとは思えない地域にまで空港を建て、空港がある以上は国の後ろ盾があるJALが飛行機を飛ばすのが当たり前だろ、という論調で、人が乗ろうが乗るまいが、飛行機を無理矢理運航させた上に、経営をまともに監査しなかった国や政治家たちにも、その罪の一端はあります。でもやはり一番悪いのは「最後は国がケツをふいてくれるさ」と高を括っていたJALの経営陣ですね。

さて、稲盛氏は高学歴でアタマがよく、それ故プライドも高い経営幹部を向こうに回し、小学校の道徳の授業でやるような、「人としての道」とか「やってはいけないこと」などの話から始めていきます。

拍子抜けとともに、「そんなことは知っている」として反発していた幹部たちですが、繰り返し繰り返し人の道を説く稲盛氏への賛同者は次第に増えてゆきます。

「人の道」を知識として知っているだけではなく、実践していくことにより、顧客に提供すべき航空会社のサービスとは一体なんなのか?という原点に立ち戻った行動を社員全員がとるようになり、より良いサービスを提供するためにはどうしたら良いのかを考え、行動する組織に生まれ変わっていくのです。

上から押し付けた「思想」は結局他人事であり、自らの意思には反映されませんが、自分自身が行動してつかみ取った哲学は自らの行動に大きく影響します。すべての社員が会社の再建を「自分のこと」と捕らえ直す意識改革により、数万人にも及ぶ解雇という文字通り血の出るようなリストラや、徹底的なコスト削減以上に奏功し、JALはV字回復を成し遂げます。

人を感動させるのはかけたコスト以上のサービスを提供すること。そしてそのサービスを生み出すのは一人一人の気持ちです。ナニワ節だといわれてしまえばそれまでですが、そうしたキモチを作り上げることの出来た稲盛氏の手腕には脱帽です。


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by lemgmnsc-bara | 2017-04-29 20:45 | 読んだ本 | Comments(0)

岳飛伝 四 日暈の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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『岳飛伝』も四巻目となり、そろそろ各勢力の動きが活発化してきました。

まず、前巻で梁山泊と講和した金と南宋随一の軍閥岳飛軍とが激突します。互いに「大将」のクビを獲れば勝利であると確信し、主力の兵とは別の動きで、金軍の大将兀述の親衛隊と、岳飛が自ら率いる一隊が真っ向勝負に出ます。決して言葉の数が多い訳ではないのですが、的確な描写で精鋭同士の戦いをリアルに描ききっています。さすがはハードボイルドの第一人者。男臭い戦いの描写は他に比肩する者のない素晴らしさです。ただ、私の乏しい想像力では、イメージしきれない場面も多々ありましたので、誰か映像化してください!!もっともこのリアルさを実写化するのはほぼ不可能でしょうから、コミックかアニメにするしかないでしょうけどね…。

戦いは一進一退で、まだどちらに転ぶか全くわからない状態です。

さて、この両者の戦いに高みの見物を決め込むカタチとなっているのが梁山泊軍。彼らは目先の戦いではなく、もっと遠くを見据えた戦いを進めています。南越に行った秦容は新たな産物としてイメージしている甘藷糖を製造するため、その原料となる甘藷を栽培するための農地の開墾を粛々と進めていきます。栽培のための土地を見いだし、その地の治水を行う過程で、土地の人々との交わりも生まれてきます。この交わりで梁山泊軍にかかわることのなった人物たちが織りなすドラマにも期待が膨らみますね。

梁山泊軍の志の達成のための支えとなるのは「力」、そしてその力の源泉は「物流」だというのもこの物語の一つのテーマです。秦容の戦いがどのように梁山泊の力となっていくのか?そしてその力は三つの勢力の争いに、そして国の民にどのような影響を与えていくのか?まだまだ興味は尽きません。



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by lemgmnsc-bara | 2017-04-25 09:32 | 読んだ本 | Comments(0)

プロ野球・二軍の謎 (幻冬舎新書)

田口 壮/幻冬舎

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昨シーズンは、ファーム、交流戦、シーズンとすべて最下位という「完全最下位(史上初の怪挙…)」を達成してしまったオリックスバファローズ。毎年外国人選手には大枚をはたくし、T−岡田という和製大砲はいるし、中継ぎ、抑えの勝利の方程式もそれなりに整っているのに、何故か勝てずに低迷期に突入しています。今シーズンはいきなり5連勝するなど、好調な滑り出しですが「いつ、この勢いが止まってしまうんだろう」という不安を常に感じさせているのが、この球団の特色ですね。

このオリックスというチームが最高に輝いていたのはブルーウエーブというニックネームだった1990年代半ば頃。イチローが大ブレークして打線を引っ張り、投手のコマも豊富だったところに名将の仰木彬氏が監督に就任し、二年連続してシーズン優勝。二年目の優勝時は阪急ブレーブス時代からの宿敵巨人を破って日本一にも輝いています。

本書の著者であり、現在オリックスバファローズの二軍監督でもある田口壮氏はこの黄金時代に堂々たる主力選手として活躍していました。そしてその時代の実績を引っさげてMLBへと打って出た田口氏は、貴重なバイプレーヤーとしての存在感を醸し出し、日本人としては初となるワールドシリーズ制覇を含め、二度のアメリカNo.1に輝いています。

数々の輝かしい実績はさすがにドラフト1位指名を受けた期待の選手だ、と言いたいところですが、氏の選手生活は必ずしも順調なモノではありませんでした。打撃と走塁には長けていたのですが、遊撃手としての守備、特に送球がメタメタで、一時はゴロを捕った後、一塁への送球ができない「イップス」という状況になったこともあったそうです。ちなみにこの「イップス」って言葉が一般化したのも田口氏の「功績」の一つだと思いますね。それほど深刻な問題でした。この症状が重症であったが故に外野手へとコンバートされ、結果的にはこのコンバートは奏功するのですが、田口氏には未だにショートというポジションに対してのこだわりがあるそうです。

また、渡米後は一軍半的な存在で、メジャーとマイナーを行ったり来たりした期間が長かったようですね。そしてこのアメリカのマイナーを経験したことが、この本を書く大きなモチベーションともなったようです。

氏の記述によれば、共に新戦力を見いだすことと、主力選手に調整をさせることが主目的の組織ながら、日米の二軍はまったく対照的です。

日本の場合は二軍であっても基本的には球団がすべて衣食住を提供してくれた上で、野球に打ち込める環境を作ってくれますし、よほどのことがない限り、いきなり契約を打ち切られることはありませんが、米はマイナーだと衣食住すべてを自分が確保しなければならないし、能力がないとみなされれば、今この瞬間に契約打ち切りになるということも珍しくないそうです。

各人が持ちうる文化的背景が比較的均一に近い日本と、人種のるつぼと言われ、人種も言語も宗教も全く異なる人々の集まりである米との文化的な相違が感じられるオハナシですね。

どちらの方法が良いのかは一朝一夕で結論の出せるオハナシではありませんが、米のような、文字通りのハングリーさを乗り越えた選手の方が「緊迫した場面」でのプレッシャーには強そうな気はしますね。

さて、彼我の相違を知る田口氏は、現在の与件の中でどうやって「一軍に奉仕する」組織である二軍を率いていくのか?

オリックスの二軍はウエスタンリーグに所属しており、西日本が活動の場となるため、関東在住の身としてはなかなかその動静が詳しくは伝わってきません。結局は一軍に新しい選手をどれだけ送り出したかで判断するしかないのですが、T−岡田のような「大化け」した選手を一人でも多く一軍に送り込んで欲しいな、とは思います。



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by lemgmnsc-bara | 2017-04-09 17:56 | 読んだ本 | Comments(0)

『ア・ホーマンス』鑑賞

ア・ホーマンス [DVD]

松田優作,石橋凌,手塚理美,ポール牧,阿木燿子/TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)

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故松田優作氏の初監督作品。新宿を舞台に、ヤクザ同士の抗争とそこに関わる謎の男の姿を描いています。

松田優作演じるのは、主人公「風(ふう)」。彼は記憶をなくしているという設定で、バイクに乗って新宿にやって来て、浮浪者のたまり場近くに住みつきます。独特の威圧感を持つ彼の周りには、その威を借りようとする浮浪者たちが恐々近寄ってきますが、彼はまったく相手にしません。やがて、新宿を拠点とする大島組のヤクザ山崎にその威圧感を見込まれ、組の経営するデートクラブのボーイとしての職を得ることとなります。

そんな折、大島組の組長が、対立する旭会のヒットマンに襲撃され死亡するという事件が起きます。この辺は、映画公開当時世間を賑わしていた、巨大暴力団同士の扮装を彷彿とさせます。また、当時の新宿は、そんな血なまぐさい事件が勃発してもおかしくないような危うさが漂ってもいました。親分さんたちが派手にカネをばら撒いて遊んでたりもしましたね。特に夜の歌舞伎町は賑わいとともに、その裏の闇の濃さを濃厚に感じさせてくれる場でもありました。その辺の雰囲気はよく出ていたように思います。

親を殺されたら、そのカタキは自分の命に代えても討たなきゃならないのがヤクザの世界。しかし、大島組の「後継者」藤井(故ポール牧師匠が、コミカルな中にも残虐さと冷徹さを併せ持つインテリヤクザを怪演しています!)は相手のトップではなくナンバー2の副会長への報復を指示。どうやら藤井は裏で旭会とつるんで表向きは共存共栄を目指す方針のようです。この藤井の方針に納得いかないのが山崎。彼は単身で旭会会長の命を狙います。そしてそこに風は助太刀として参戦するのですが…。というところで久しぶりの逃げ口上。この先は本編をご覧ください。

全体に、不思議な緊張感の漂う作品でした。今にも大爆発しそうな予感があるのに、決して爆発しない。俗に言う「嵐の前の静けさ」ってやつがずーっと続きます。それこそ本当に最後まで。結局観る側の期待も予測もすべて裏切る結末が待ち受けているんですが、一言で言えば拍子抜け。あれだけ引っ張った緊張感はナンだったんだ?という感想を持つしかない結末です。アクターとしての松田優作に求められていた「雰囲気」はたっぷり味わえたものの、作品としては欲求不満の残る不思議な一作でした。

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by lemgmnsc-bara | 2017-04-07 20:19 | エンターテインメント | Comments(0)

本当は間違いばかりの「戦国史の常識」 (SB新書)

八幡 和郎/SBクリエイティブ

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歴史学者八幡和郎氏による、戦国時代の解説書。

私は八幡氏の著作を読むのは初めてですが、様々な時代の様々な地域の出来事について、新しい考え方を提示し、今までの定説(いわゆる教科書に載っている「史実」)を覆すことを自らの使命としている方のようです。

この本のターゲットは題名通り、日本の「戦国時代」。日本という国が大きく変わった時代であり、世の抑圧された皆様が「俺があの武将だったら…」という仮説を好きなだけ飛翔させることのできるエピソードに満ちた時代でもあります。

氏は、現在の定説は、徳川の治世を正統化したいが故にかなり偏った見方をしていると喝破しています。すなわち、それまで戦乱に明け暮れていた日本を最終的に平定した徳川家こそが正義であり、それ以前の反徳川勢力(反織田の勢力も含む)はすべて悪で立ち遅れた存在だったという論調で語られる学説です。

最後の最後に徳川家の前に立ちふさがった豊臣家などは最も悪く描かれています。秀吉は死の間際に狂ってしまい、夢か現かはっきりしない意識状態のまま、勝算などないに等しかった朝鮮出兵に及んだ、とか戦を理解していない淀君とその取り巻きの文官たちが余計な口出しをしたため、真田幸村を筆頭とする優秀な武将を無駄死にさせたとか…。

もちろん、今までの定説にもそれなりの根拠に基づいたものであることは事実なのでしょう。しかしその説と、そこから派生したエンターテインメント作品が広く流布されたことで、徳川にはポジティブさが、それ以外の勢力にはネガティブさが必要以上に付与されてしまったというのもまた事実です。

それぞれの事柄についての定説と、八幡氏の見解の相違についてはぜひとも本文をお読み下さい。一つだけ印象に残ったのは、織田・徳川と武田の二つの大きな戦いを巡る見解です。この二つの戦いとは、徳川軍が大敗し、逃げる家康が馬上で恐怖のあまり脱糞したというエピソードで有名な三方ヶ原の戦いと、当時としては最新の武器である鉄砲と三段構えという斬新な戦法で武田の騎馬軍を織徳連合軍が散々に打ち破った長篠の戦いです。前者は脆弱な三河武士が武田の精強な騎馬武者軍団に蹂躙されたというイメージで、後者は旧態依然の武田軍に対し、織徳連合は最新兵器を用いて大勝したというストーリーですね。確か学校でもそう習った気がします(笑)。八幡氏はこの二つの戦いは単純に兵数の多い方が勝っただけ、という味も素っ気もない説を開陳しています。三方原では武田軍二万五千に対し、織徳側は一万一千、長篠では同一万五千に対し三万五千。血湧き肉踊る戦国物語ではなく、冷徹な現実ってやつです。実社会の経験からは冷徹な現実のほうが強いと学びましたね(泣)。戦国シュミレーションもののゲームだって、武将の才能より兵力のデカい方が強いんですから…。

俗に「歴史を学ぶことの一つの価値は、過去を研究することでその過ちを分析し、同じ間違いを繰り返さない方策をたてることだ」などと言いますが、事象の見方をまるっきりひっくり返されるような説を次々と出されると、なにを基準に考えればいいのか、よくわからなくなってしまいますね。

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by lemgmnsc-bara | 2017-04-01 07:36 | 読んだ本 | Comments(0)