2017年 03月 11日 ( 2 )

『奇談蒐集家』を読んだ

奇談蒐集家 (創元推理文庫)

太田 忠司/東京創元社

スコア:


kindleのバーゲン本コーナーからのDL品。最近このイントロ多いですが、バーゲンコーナーから購った作品から新しい作家を知ることも少なくないので、この衝動DLだけは止められません。太田氏の作品を読むのはもちろん初めてです。

主人公は恵美酒一(えびすはじめ)。奇談蒐集家を名乗り、新聞広告を打って実際に奇妙な体験をした人を募り、応募してきた人からその体験談を聞き取るというのが趣味という人物設定です。なお、本当に奇妙なオハナシには高額な謝礼を支払う、というのが広告の謳い文句でもあります。『聊斎志異』みたいな作りのオハナシですね。

さて、この一冊は、いくつかのオハナシが編まれた連作短編集で、どの話も恵美酒氏が指定したバー「Strawberry Hills」に奇談を売り込もうと企図した人物たちが入店するところから始まります。どの話もそれなりに奇妙な話ですので、恵美酒氏は大いに喜んで買い取ろうとするのですが、そこに待ったをかけるのが恵美酒氏の助手(というよりは相棒またはそれ以上の存在)である氷坂。話をする人の背後にいつの間にか忍び寄っているような不気味な習性を持ち、美貌でありながら、外見からは男か女かの区別がつかないというキャラクターが付与されています。

この氷坂は、出てくる話出てくる話にすべてツッコミをいれ、冷静に、科学的に話の矛盾点を指摘し、すべての人の話を思い込みや錯覚によるものだと「解決」してしまうのです。

奇談を集めたい恵美酒氏も、奇談を買ってもらおうと意気込んできた人々もガックリとさせてしまうことがオチ。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ではありませんが、いわゆる奇談とか怪異譚の類いは、すべて当事者の歪んだ主観がもたらすもので、すべてにおいて何らかの「合理的」な説明がついてしまうものだ、という皮肉り方はなかなか悪くありません。この展開は展開として面白かったのですが、最後の最後のオハナシにどんでん返しが待っています。う〜ん、やられたね、ってな感じです。すべての矛盾に対する答えを示すと見せかけて、実は最後の最後に最大の奇談を持ってくるというのは、この一冊の完結編としてなかなか見事な落とし方だったと思います。

太田氏なかなか面白い作風の持ち主ですね。また別の作品を読んでみたい作家が増えちゃいました。



[PR]
by lemgmnsc-bara | 2017-03-11 19:34 | 読んだ本 | Comments(0)

『漂流巌流島』を読んだ

漂流巌流島 (創元推理文庫)

高井 忍/東京創元社

undefined


kindleのバーゲン本コーナーで見かけてDLした一冊。

著者高井氏は、日本史上有名な出来事にフォーカスし、様々な資料を検証し、再構成することで、「そういう見方も出来るな」という事態にその出来事を放り込むという手法でこの一冊を書き上げ、文壇デビュー。ちなみに今作は『ミステリーズ!新人賞』を受賞しているそうです。

さて、この一作には4つの事件が取り上げられていますが、主人公は事件の「当事者」でも、事件があった時代に生きた人物でもなく、その子孫でもなく、映画界の底辺付近を這いずり回っているような駆け出しのシナリオライター。主人公は、低予算でどんな無理な撮影も引き受けるが、「巨匠」とか「名監督」という名称にはほど遠い三津木という映画監督からの依頼で、巌流島の決闘を題材とした作品のシナリオを書くこととなります。この三津木監督という方、安い予算で撮影を引き受けはしても、作品そのものを安っぽく作ることは良しとしない気概だけは持っている人物という設定で、主人公の書いてきたシナリオと、そのシナリオの基となった史料をもう一度見直して、よく言えば大胆な新解釈の、悪く言えば荒唐無稽な筋立てて映画を撮影しようとするのです。

主人公がSFチックな存在、すなわちタイムトラベラーとか超能力者などではなく、身は現実社会にありながら、空想だけは果てしなく飛翔させることを常に求められる映画というものの制作に関わっている人物だというのがミソ。一般的に「常識」とされている説を紹介した上で、「それじゃつまらないから」という理由で、ちょっとしたほころびを見つけて、そこをどんどん拡大させて新しい物語をでっち上げてしまう…。なかなか巧い方法です。

で、でっち上げられた方のストーリーでも、それなりに信憑性のあるものに仕上げられてしまうというところも巧みです。

4つの出来事は、巌流島の決闘の他、赤穂浪士47士の討ち入りに、池田屋事件、鍵屋の辻の仇討ちとどれもこれも人口に膾炙したオハナシばかり。さてさて、この物語たちがどんな風に変身させられ、それなりに筋の通ったオハナシとなるのか?基本的にこの作品集はミステリー集ですので、ネタバレになるような野暮なことはできません。実際の文章に是非触れてみて下さい。

高井氏はこの作風をこの後も続けているとのことなので、折をみて別の作品も読んでみたいと思います。



[PR]
by lemgmnsc-bara | 2017-03-11 19:08 | 読んだ本 | Comments(0)

なんだかんだで読んだ本のことばっかり書いてます。たまに映画、時々食い物とドライブとラグビー観戦。


by 黄昏ラガーマン
プロフィールを見る
画像一覧