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『「心の傷」は言ったもん勝ち』を読んだ

「心の傷」は言ったもん勝ち
中嶋 聡 / / 新潮社
ISBN : 4106102706
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現役の精神科医中嶋聡氏による、「被害者帝国主義」についての著作。

「被害者帝国主義」とは、セクハラやうつ病などにおいて「被害者」の主張が全面的に受け入れられ、「加害者」とされた側は一方的に悪であると決めつけられてしまい、全面降伏を余儀なくされるという風潮のことです。

セクハラは日常のほんのちょっとした行為(肩に手を置く、服装や髪型などについてコメントする)について受けた側が「精神的苦痛を受けた」と一言いえば、まず100%悪いとされてしまう。うつ病を理由にずるずると休職を引き延ばし疾病手当を受け取り続ける。自分が被害者だと認定されれば様々な利得を得ることが出来るし、被害者と認定されるのはさほど難しいことではなくなってきている、というのが著者の主張であり、この風潮に対して疑問を投げかけています。

私なども、この著者に言わせれば疾病利得の享受者ということになるのかも知れません。休職こそしていないものの、業務の分担については最大限の配慮をしてもらっていますし、調子が悪い時には、周りの迷惑を顧みずに休んでしまうようなことも多々あります。「健康上の問題」で仕事の分担を減らしてもらっている割には休日にはラグビーなんていうハードなスポーツもやるしフィットネスクラブには足繁く通っている。客観的に見れば、確かにサボってるようにしかみえませんな(苦笑)。

私固有の言い分はあります。うつを患ったのは、希望が叶う条件を満たしていたにもかかわらず、希望とは正反対の転勤と業務を命じられたことによるものであり、ラグビーはうつの深刻化を防ぐために一番有効な手段なのです。仕事以外の価値観をもつことと、適度(とは言い難いですが)な運動でストレスを発散することでようやく正常に近い日常生活保っていられるのであって、ラグビーがなかったら今頃身動きすることもかなわないような重度のうつになってしまっていたかもしれません。

会社に行ってりゃ気に染まない仕事をやらなきゃいけないこともあるさ、というのは確かに一理ありますが、カネを貰っているからといって会社のいうことを1から10まですべて受け入れなきゃいけないんでしょうか?ましてや私は正当な主張をするために努力し、希望を叶えるための条件を満たしたはずなのです。それでも我慢するのが会社に雇われるということだ、と言われれば一言もありませんがね。

著者の主張についてはいくつか共感できるものもありました。最大のものは精神力を鍛えるために「忘れる能力を身につける」ということですね。いつまで悔やんでいてもこだわっていても「暗黒の3年間」が消える訳でもないし、取り戻せる訳でもない。すっぱり忘れて新しい気持ちで生活しよう、という主張に関しては100%賛同できます。でも、なかなかそれが難しい。今でもことあるごとに、転勤を命じられた時のショックと屈辱感がフラッシュバックしてしまいます。その時の上司を一発ぶん殴って辞めてやろうかと考えてみたことも一度ではありません。しかし冷静にその後のことを考えると「うつ持ちの資格無し40過ぎ男なんてどこも雇ってくれない」という現実が重くのしかかってきてしまいます。

今の私に出来ることは、ラグビーを支えに、最小限の仕事で最大限の報酬だけ得るという非常に消極的な「反抗」しかありません。ため息とともに本を閉じました。
by lemgmnsc-bara | 2008-10-12 07:39 | 読んだ本

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