人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『火花―北条民雄の生涯』を読んだ

火花―北条民雄の生涯
高山 文彦 / / 飛鳥新社
ISBN : 4870313731
スコア選択: ※※※※


腰巻きに書いてあった「大宅壮一ノンフィクション賞」「講談社ノンフィクション賞」「10年に一作の秀作ー柳田邦男」の文字につられて、社内の「ご自由にお持ちください」コーナーから引っぱり上げました。当然のことながら作者高山文彦氏も知らないし、主人公である北条民雄についても全然知りませんでした。

主人公北条民雄は戦前に23歳の若さでこの世を去った作家のことでした。代表作は『いのちの初夜』。川端康成に見いだされて世に出た人とのことでした。

彼は当時死を越える病であったハンセン氏病の患者でした。当時のハンセン氏病は遺伝病であるという誤った通説により、発病した本人はおろか家族や親戚までが社会的に拒絶されるという、まさに業病中の業病でした。

『いのちの初夜』は北条民雄がハンセン氏病専門の世間から隔離された病院に収容された晩のことを描いた小説で、現代においても高い評価を得ている作品です。私は浅学にしてこの小説を知りませんでしたが、川端康成が激賞したということで非常に興味を惹かれました。次回の大型書店衝動買いツアーの際には是非購入し、短い生涯を燃やし尽くした作家の作品を味わいたいと思います。

業病に冒され、社会から拒絶された人間の絶望に満ちた日常生活と、唯一の拠り所とした、魂の叫びである小説。まさに私小説が到達しうる一つの頂点です。病気そのものの苦しみもありますが、社会的生物である人間にとって社会から拒絶されるということはそれに倍するものであったことでしょう。

著者は淡々とした筆致で、院内の絶望的な日常生活や、北条と川端の交流の様子などを書き綴ります。事実そのものの描写は、現実というものの残酷さを見事に浮き彫りにしていました。各賞を受賞するに値する作品だと思います。
by lemgmnsc-bara | 2008-04-06 11:42 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

by 黄昏ラガーマン
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31