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『アマバルの自然誌―沖縄の田舎で暮らす』を読んだ

アマバルの自然誌―沖縄の田舎で暮らす
池澤 夏樹 / / 光文社
ISBN : 4334742637
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著者池澤夏樹氏が1998年から5年半に渡った沖縄の農村での生活の中で、身近な「自然」を拾い上げて綴った「観察日記」。日常の細々としたことを取り上げているところといい、ヴィジュアルをふんだんに取り入れているところといい、非常にブログ向きの内容だという感じを受けました。「プロの作家は金にならない文章は書かない!!」と言われてしまえばそれまでですが・・・。

著者は文中で「農村に自然があるというのは間違いで、農村というのは人間が自らに都合の良いように作りかえた食糧生産工場のようなものである」という主旨のことを述べています。農業だけで食えていた時代はまだ「自然との共存」という言葉に現実味がありましたが、「便利で豊か」な生活が一般化してしまった現代、農薬の使用や「開発」などにより「自然」は急速に失われつつあり、しかもその速度は加速する一方です。

著者が自ら海に潜って撮影した珊瑚の残骸などを見るとぞっとします。著者は護岸工事や、宅地造成のために荒れてしまい、珊瑚が壊滅した渚を「珊瑚の墓場」と名付けていますが、正にその表現がぴったり当てはまる白茶けた海底・・・。これと同じようなことは今までに数限りなくあったのでしょう。

著者は理科系の出身だけあって、事実を冷静に観察し、いたずらに扇情的な言葉を用いる訳ではなく、淡々と描写します。これは池澤氏の他の作品にも共通したことですが、淡々と描写した方が大きな衝撃を与えられることがあります。小説『スティルライフ』しかり『マシアス・ギリの失脚』しかり。

人間が生活していくことは、結局自然を自らの都合の良い形に作り変えていく営みに他ならない、という重い事実が淡々と、それだけに切実に迫ってきます。気軽に読めてしまった楽しい「観察日記」ではあったのですが、読んだ後に残る、ぼんやりとした不安はいつまでたっても消えません。
by lemgmnsc-bara | 2007-09-25 07:01 | 読んだ本

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