2007年 02月 04日
『独航記』を読んだ
最初の部分は、共同通信社を辞めて、作家として生活し始めたあたりの日記風エッセイで、作者の謙遜なのか、羞恥心なのか、かなりうらぶれた風情で生活している様が描かれています。作者が引っ越した新居近くのいわゆる「ドヤ街」の日雇い労働者たちに自らの境遇を重ねているあたりの雰囲気がそうなのですが、ひねくれ者の私としては「謙遜も度が過ぎれば嫌みのうち」ってな感じがしますね。いいところのお坊ちゃんが無理矢理不良を気取っているようなもんです。まあ、ご本人は本当にうらぶれた心持ちで書いていらっしゃるに間違いはないのですが、うらぶれるレベルが違うと思います。別にその日に食う飯の金にすら困ってる訳ではなかったんでしょうから・・・。
後半の中国特派員として国外退去を命ぜられた直後のインタビューは、新聞記者としての矜持を感じましたし、『なにげない地獄』は名エッセイだと思います。ご本人は章頭の『解題』で「青臭い文章だ」とまたもや謙遜されていましたが・・・。
ご本人が『文庫版あとがき』で書いているように、この本は様々なレベルの意識の文章が玉石混交で収録されていますが、その中には、今後の日本の社会のあり方への警鐘やアメリカの武力を背景とした強権政治を糾弾するものもあり、卑近な話題であれ、世界規模の問題であれ、一人の人間の中での問題意識という意味では軽重はなかなかつけ難いものなのだと感じました。
by lemgmnsc-bara
| 2007-02-04 07:30
| 読んだ本