2018年 07月 07日
『六つの希望 吉祥寺探偵物語』を読んだ
五十嵐貴久氏の吉祥寺探偵シリーズの第三作目。
主人公川庄が「本業」にしているバイト先のコンビニに6人組のフルフェイスのヘルメットをかぶった人物たちが侵入して来て店をジャックしてしまうところから物語はスタートします。
物腰や身体つきなどから、どうやら犯人たちは老人(一人は車椅子に乗っていたりもします)、それも皆かなりの高齢者らしいと主人公川庄に推測させています。6人はそれぞれ違う色のヘルメットを被っているので、言葉を交わす際にはお互いをそのヘルメットの色で呼び合っています。
犯人たちは、店内に入ってくると、まず持ってきた銃で威嚇射撃。店にいた客も店員も一斉に床に伏せるしかありません。
最初こそ荒っぽかったものの、犯人たちは意外に紳士的で、人質になった人々には一切手を出さない上に、店にあるものはなんでも好きなだけ食べていいし、外部との連絡も取り放題であると宣言します。表のシャッターを締め切り、従業員の通用口は溶接するなど身柄だけは拘束しているものの、人質はほぼ自由に行動できます。特に外部との連絡はむしろ推奨しています。この出来事がなるべく多くの注目を集めることを願うかのように…。
で、店内の人質38名と、都内5か所の小学校に仕掛けたという時限爆弾を背景に、犯人たちは警察に5つの要求を突きつけます。高級な寿司と高級なウイスキー、販売が停止されたため入手困難なタバコという、一人の犯人の要求以外は、全て特定の人物を呼んで、その人物と話をさせろというもの。しかもそのうちの一人は消息不明。犯人たちから与えられた時間は五時間。果たして警察は犯人たちの要求に応えることができるのか?そして川庄たち人質の運命やいかに、というサスペンスです。ストーリーの紹介は以上にしたいと思います。
私が五十嵐氏という作家を知った『交渉人』と同様のテイスト、すなわち一見なんの関係もなさそうな出来事や人物たちが実は裏で深く結びついているというストーリーが次々と展開されていきます。『交渉人』では血も流れたし、恨みと倫理の対立というかなりへヴィーな、人間の葛藤が描かれていました。今作は、血こそ一滴も流れない穏やかな展開ですが、人間が人間として生き、そして死んでいくとはどういうことなのかという、別種の重々しさがありました。松下幸之助は「青春とは心の若さだ」という言葉を残しましたが、何事であれ、追究したい事柄があり、それに対しての情熱が冷めていなければ、たとえ年齢が幾つになろうと、多少体が不自由になろうと、その人はまだ青春時代の中にいる、そんなことを思わせてくれた一昨でした。
大泉洋あたりを主役にして是非映像化してほしい作品です(でもそれだと『探偵はBARにいる』とカブっちゃうか…)。
by lemgmnsc-bara
| 2018-07-07 19:48
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