2017年 11月 25日
『陰陽師 平成講釈 安倍清明伝』を読んだ
安倍晴明がいかにしてこの世に生を受け、どのようにして陰陽師として世に知られることとなったかを描いた「安倍晴明ライジング」とでもいうべき作品。
寄席などの場で講談として語られた演目を文字で残した本が何冊が現存するそうで、そのうちの主に3冊ほどを種本としてまとめています。題目に「講釈」とある通り、作者本人が物語を講じる、という体で書かれており、「ライブ感」を出すために作者が執筆に取り掛かっている際の身辺の状況やら、直前に観た芝居やらをオハナシのマクラに持ってきて、本筋とは関係ないそれらをひとしきり語った後に、ストーリーが始まるという仕掛けも施されています。作者のエンターテインメント性が遺憾なく発揮された一冊であると言ってよいでしょう。
オハナシは遣唐使として名高い阿倍仲麻呂に関する記述から始まります。元来はもちろん日本人だった仲麻呂は『金烏玉兎集』、『ホキ内伝(ホキはきちんとした漢字があるのですが、変換するのが非常に面倒なため片仮名で表記しておきます)』の二冊を日本に持って帰ることを期待されて唐に派遣されますが、その二冊は当時としては国家の最高機密が書かれてある書であったため、時の中国皇帝はこれを渡したくないが故に、様々な難題を仲麻呂に吹っかけて書を渡さないよう目論むのですが、仲麻呂はその難題をどんどん解決してしまいます。困った皇帝は仲麻呂を無理矢理唐の要職に任命してしまいます。二冊の書の内容もさることながら、こんなに優秀な仲麻呂が日本に帰ったら日本が強敵になってしまうかも知れないと危ぶんだからです。仲麻呂についてはこの後やはり高名な吉備真備などとのカラミも描かれるのですが、まあこれはそこまでにしておきましょう。要するにそれだけの能力を持った人物の末裔であるとされる晴明は生まれながらに大変なポテンシャルを持っていたと言いたいがための前フリです。もっともそもそも阿倍仲麻呂と安倍晴明が演者であるとする説はかなり眉唾物なのだそうですが、面白くなればそれでいい、というのが講談の大原則。私もそれには賛同します。
で、話は飛んで少年に成長した晴明は都へと登ってきます。そこで時の帝が病に臥せっていることを聞きつけ、その病の平癒のための調伏を行うこととなります。そこで終生のライバルとでもいうべき、蘆屋道満と術比べをするという展開になるのです。元々が講談ですから道満側には九尾の狐までが味方して、想像するだにおどろおどろしい呪術で天皇を亡き者にしようという陰謀を巡らせます。
結果もし道満側が勝っていれば、日本はおそらく悪が栄える恐怖の国となり、今頃は半島北部の変な髪型の独裁者みたいな人物に牛耳られるか、あるいは他国に蹂躙されまくって分割されて国としての体をなしていなかったことでしょう。故にそんな危機から日本を救った晴明は空前絶後のスーパーヒーローだ、というわけです。
同じ名字のアベさんにも見習ってほしいものですが、どうも現実社会のアベさんは晴明より道満の方に近いような気がしますね…。
by lemgmnsc-bara
| 2017-11-25 09:25
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