『極悪鳥になる夢を見る』を読んだ

極悪鳥になる夢を見る (文春文庫)

貴志 祐介/文藝春秋

undefined

ホラー小説の第一人者貴志祐介氏の初エッセイ集。ご本人はおそらくこれが最初で最後のエッセイ集になるだろうと文中で述べてもいます。なんでもエッセイだと自分の文章を見ているのが恥ずかしくなるからだとの理由だそうです。


この感覚なんとなくわかるような気がします。この方はおそらくは非常に真面目なんだと思います。文中に時折織り交ぜるジョークの類も、真面目な人が無理矢理ひねくりだしたような感がありました。本人としては意を決して発したジョークなのでしょうが、文章全体の雰囲気から笑ってはいけないのではないかという、空気がかもし出されています。これは決してマイナスイメージではありません。非常に丁寧に作りこんでいるのであろうことが伺えるのが貴志氏の小説の特色であり、その几帳面さがそのままエッセイの文章にも反映されているというのが率直な感想。おかしなフレーズさえ氾濫させれば面白くなるってもんじゃありませんし、フレーズばかりが先行して内容がスカスカでもプロの作家としての名折れとなりますね。貴志氏が書きたい内容については、ヨタを交えずに書き切った方がおそらくは上手く読者に伝わるのだと思います。
いいんです、面白いフレーズは他の人に任せておけば。貴志氏の真面目なホラー小説は十分に面白いんですから。

文体のお話はさておき、興味深かったのは、貴志氏の作家になるまでの道のり。元々本を読むことが好きで、幼少の頃より外で遊ぶよりは読書を好む傾向にあったようですが、読書が好きなことと、自分で作品を書いてみたいという欲求の間には大きな壁が存在します。貴志氏も、一度は文筆の道をあきらめて保険会社に就職しますが、8年の会社生活の後、どうしても作家になりたいとい欲求に抗えずに、ご本人の言によれば「まったく先の見込みなどない」状態で、所得の面では安定極まりない会社を辞して作家となる道を選ぶのです。う~ん。この辺、文筆業に進みたいと思いながらも会社に恋々としがみついている私にとっては、わが身の度胸の無さを改めて思い知らされる条りです。

さらに、作家としての船出も決して順風満帆なものであったわけではなく、角川のホラー大賞を受賞するまでには数々の挫折があったようです。そうそう、最初から上手くいく人はそうそういるわけじゃないんです。ちょっとだけ安心しました。すでにホラー小説界で堂々たる「名跡」となっている貴志氏とまだ何も書いていない私とを比べることはそもそも不遜だ、というお話もありますがね…。気持ちが上がったり下がったり。こういう気分を味わわせてくれるだけでもこの一冊を読んだ価値があったと思います。

[PR]
by lemgmnsc-bara | 2017-07-29 05:21 | 読んだ本 | Comments(0)

なんだかんだで読んだ本のことばっかり書いてます。たまに映画、時々食い物とドライブとラグビー観戦。
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31