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『PK』鑑賞

PK ピーケイ [Blu-ray]

アーミル・カーン,アヌシュカ・シャルマ,スシャント・シン・ラージプート,サンジャイ・ダット/Happinet

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初めて観たといって良いインド映画。題名の『PK』とは酔っ払いを意味するヒンディー語だそうです。なんの予備知識もなく借りてきてしまった一作。

ところがどっこい、案に反して、この映画、非常に良くできていました。特に、宗教をめぐり、さまざまな利害的、感情的な対立が激化している現在においては、重い重い風刺になっていたと思います。ストーリーはまず、インドのド田舎に怪しげな雲がやってきて、そこから素っ裸に首から緑色の物体を下げた男が一人現れるところから始まります。このオープニングは『ターミネーター』を連想させちゃいますね。出てきた男もシュワちゃんなみに筋骨粒々なマッチョ男。ただし、顔は二枚目半でちょっと特殊な感じです。この男は地球より60億光年のかなたにある星から来た宇宙人でした。この男はたまたま通りがかった一人の男に接近していったのですが、この地球人は緑の物体を奪って逃げてしまいます。緑の物体は宇宙船を呼ぶためのリモコンで、これがないと宇宙人は自分の星に帰れないという設定です。

場面は変わってベルギーに。ここでは一組の男女の出会いが描かれます。二人はひょんなことで知り合い、やがて恋に落ちるのですが、男はパキスタン人でイスラム教、女はインド人でヒンディー教の信者であり、この恋は道ならぬものでした。しかし、ふたりはそんなことにお構いなく結婚式を挙げようとします。花嫁衣裳を着てモスクで待つジャグー。そこに一人の少年が現れ、彼女に手紙を手渡します。そこには、家族や宗教の問題で結婚を取りやめたいというメッセージが…。これからご覧になる皆さんは是非このシーンを覚えておいてください。重要な意味を持つ伏線となっています。

傷心のジャグはニューデリーに戻り、地元のTV局でキャスターの職を得ています。ニュースのネタ探しで街中を駆けずり回る彼女の目に留まったのは、神が行方不明なので探しています、という文言のかかれたビラをまく男の姿。彼こそは冒頭のシーンでリモコンを奪われた宇宙人。彼は地球上の人間なら誰でもが「常識」としていることにいちいち疑問をさしはさみ、その疑問を解消すべく、突飛(と地球人には思える)な行動を度々やらかすので、「PK(前述のとおり酔っ払いの意)」と呼ばれています。

彼の行動は実は非常に合理的なものでした。なくしたものを探すためにどうしたらよいかを問うた人に「神に祈れ」と教えられたため、実利を求めてまずはヒンディーの神に供物をささげ、献金して祈ったがリモコンは戻ってこない。では、ということで次はキリスト教の教会のミサの最中にヒンディーの供物をささげようとして信者に追いかけられる。供物がヒンディーのものだったということに思い至り、ワインをささげようとして、今度はイスラムのモスクに入ろうとして、またムスリムたちから追いかけられる。こんな調子で、さまざまに頓珍漢なことをやらかします。この辺のどたばたが笑いどころでもあります。

次にPKはすべての神が言っていることを実践しようとします。神が言っていること実践しないと、リモコンがみつからないと思ったからです。ガンジス川で沐浴したかと思えば、教会の聖水の水槽にひたってみたり、メッカの方向に向かって祈ってみたりもします。でも結局リモコンは手元に戻ってきません。この辺は宗教に対しての見事な皮肉になっていますね。世に敬虔な信者はたくさんいて、それぞれの神にそれはそれは熱心に祈りをささげ、わが身を犠牲にしたり、金を喜捨したりしていますが、肝心のご利益というやつは目に見える形では、まず帰ってきません。ただ、心の平安というある種の自己満足をえるためだけの行為が「信仰」ではないのか?この問いに関して、真っ当な答えを返せる人は誰もいないでしょう。いかに身も心も神に捧げつくしても、爆弾テロに遭えばむごたらしく死んでしまう。この世の矛盾を完全に説明しつくす神はいない。深いオハナシですねぇ。最初は笑ってましたが、主題があらわになるにつれ、考えさせられることが多くなって、笑ってなどいられなくなりました。

ストーリーの結末のつけ方は、『男はつらいよ』っぽくなっています。これはこれでなかなか効果的だったのではないかとも思います。ヒロインがハッピーエンドを迎える一方で、主人公は涙を隠して新しい方向に道を見つける。いかにもな結末ではありますがね…。

その他インド映画の特色である、意味のない踊りのシーンもいくつか挿入されていました。踊ってる人たちは、華麗という表現にはそぐわないものの、達者でコミカルな動きをしてました。全員集合における志村けんの持ちギャグみたいなもんで、踊りのシーンをいれないとインドの観衆の皆様は満足しないんでしょうね。また、他の国ではなかなか理解しにくいヒンディー教がもっともメジャーな宗教で、その他の宗教もすべてが入り混じるという風土的な背景を持つインドだからこそ作れた作品だという気もしました。ちょっとググッたら、国際的なコンクールではたいした賞は取っていませんが、小さなコンクールではちょこちょこ賞をとったりもしているようです。なかなかの佳作でした。

by lemgmnsc-bara | 2017-07-22 09:46 | エンターテインメント

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