『岳飛伝 三 嘶鳴の章』を読んだ

岳飛伝 三 嘶鳴の章 (集英社文庫)

北方謙三/集英社

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岳飛伝も三巻目を迎えました。文庫本ではすでに五巻目まで発売されているようですが、まだ電子書籍では三巻目が最新です。早く電子化して欲しいなぁ、集英社の皆さん。

というわけで、いつもの通りの読書感想文です。

さて、この巻では梁山泊、南宋、金国の三つの勢力が、来るべき「決戦」の日に向けて力を蓄えていこうとする姿を描くとともに、それぞれの勢力が内側に抱える問題や、勢力同士の小さな衝突などが描かれています。

我らが梁山泊の一番の問題は、絶対的なリーダーがいないこと。各頭領たちはそれぞれ「志」を持ち、現在でいうところの自由主義経済国家、すなわち国の強権的な部分をなるべく小さくして、商流や物流を自由に行えることを保証する国家を作ろうとしてはいるのですが、「志」を明確に示し、成員を一つの方向に引っ張っていくだけの資質を備えた人物がいないため、「志」が各人各様に分裂してしまう危険性を常にはらんでいます。水滸伝の頃から「生き残って」いる史進や燕青、呉用などに加齢からくる衰えが忍び寄ってきているのも不安材料。新時代のリーダー候補秦容は軍を離れ、ベトナムで甘藷の栽培に勤しむこととなりますし、新しい商流を築きつつあった王貴は南宋の軍閥張俊の軍に襲われ、半死半生の状態で岳飛の軍で手当を受けることとなります。

かつて、北宋軍に攻め滅ぼされた梁山泊から落ち延びた楊令は金国の保護を受け、「幻王」という名で北宋の軍に対峙しましたが、こうした敵味方とははっきり分かれにくい人間関係が出現するところも「現代的」。王貴と岳飛軍の今後の関係性の変化も見逃せません。

南宋も趨勢がはっきりしない。張俊、岳飛の軍閥は成長を続けている上、皇帝の直属軍も整備されつつあります。張俊は他国と対抗する気満々の上、巨大化した軍閥の勢力を背景に宋の乗っ取りをにおわせる行動にも出ています。岳飛はこのシリーズの「主人公らしく」、心身ともに精強な兵団を作り上げつつあります。先にも述べた通り、梁山泊の中心人物の一人である王貴ともつながりができました。旧宋で跋扈していた諜報集団の残党もいまは鳴りをひそめていますが、今後の勢力の動向によってはまた暗躍を始めるかもしれません。

金国は梁山泊と対決して敗戦します。しかし梁山泊は一気に金国を攻め滅ぼそうとはせずに、和を結びます。そこで交渉の任についたのは宣讃の息子にして、呉用が自らの後継者であると見込んでいる宣凱。武力同士の衝突だけではなく、交渉による戦いもあるのだ、という記述には静かな力があります。宣凱の今後にも期待したいところです。

様々な勢力が入り乱れる様相を示してきた物語がどのような混沌を迎え、平静をとりもどすのか?早く次の巻が読みたいなぁ。



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by lemgmnsc-bara | 2017-03-20 15:10 | 読んだ本 | Comments(0)

なんだかんだで読んだ本のことばっかり書いてます。たまに映画、時々食い物とドライブとラグビー観戦。


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