『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王』を読んだ

トラオ 徳田虎雄 不随の病院王 (小学館文庫)

青木 理/小学館

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青木理氏による徳田虎雄氏の評伝。週刊ポストに連載されたものに加筆して上梓しています。

徳田氏といえば、2013年の11月に発覚した猪瀬都知事(当時)への資金供与の件で公の場に現れた姿をみて、驚いた記憶があります。現代の世にあっても原因、治療法ともに明らかになっていないALSという難病に冒され、全身が麻痺して、視線の動きでようやく意志の疎通ができるという、非常に痛々しい姿だったからです。そこには、地盤である徳之島で全島の島民を巻き込んで「保徳戦争」を繰り広げたり、徳州会病院の建設に際して建設予定地の医師会とモメゴトを繰り返したり、といった猛々しさはほとんどみられませんでした。わずかに視線の鋭さのみが強烈な意志を感じさせてはいましたがね…。

この本の出版は2013年の前半だったようで、猪瀬都知事への資金供与の問題についてはまったく触れられていませんでしたが、そうでなくても重大な疾患なのに、この事件でよりダメージを負って一気にあの世に行ってもおかしくはないなと思った記憶もあります。でも、あれから3年以上経った現在でも自力で呼吸もできない状況ながらまだご存命のようです。生命力が強いと感心すべきか、この世への未練がそんなに強いのか、とあきれるべきか?いずれにせよ、そんな状態でありながら、徳州会は虎雄氏の指導なしには日も夜も暮れぬという状態だそうです。いやはや。

徳田氏の医学への志向は幼い時に故郷の徳之島の医療体制が整っていないが故に弟が死んでしまったことで芽生えました。徳州会の根本的なスローガンである「生命だけは平等だ」という言葉には、地域や収入により受けられる医療に差があってはならないはずだ、という徳田氏の思いが込められています。患者は年中無休、24時間オープンという体制で受け入れ、3割の自己負担分も場合によっては支払いを免除する、という徳州会グループの病院の姿勢はなるほど「医は仁術である」という言葉を体現しているように思えます。しかし、この患者に取ってはありがたいと思える方針であるが故、進出する地方地方でその地の医師会からの猛反発を喰い、衝突を巻き起こします。徳州会グループに、常に漂うきな臭さというかヤバい雰囲気はこういう紛争に由来するもののようですね。

そして徳田氏自身もかなり強烈な人物であるようです。自分が正しいと信じたことを推進するためにはどんな「汚い」方法でも使う。そしてその「汚さ」ですら、自分の策の推進のためには必要だったと正統化してしまう。まわりの人間もすべて巻き込んで、不眠不休で目的を達成するまでしゃにむに走る。スティーブ・ジョブズしかり、ダイエーの創始者中内功氏しかり。大きな既得権益団体に戦いを挑み、大きくブレークスルーした人物にはどこかしら狂的な部分があるようです。徳田氏も、どんな地域のどんな人々にも平等に医療が行き渡る体制を作るためには政治を変えなければいけない、と考え「俺は総理大臣になる」と言い放って政界に進出します。

実現させるための方法についてはいろいろと問題があるように思いますが、なにしろ、一つのことを成し遂げようと自分の持てるもののすべてを注ぎ込む、という集中力と執念については大いに見習う点があるように思います。もっとも凡人中の凡人である私は自分の身の減量すらも達成し得ないというのが現状なのですが…。




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by lemgmnsc-bara | 2017-02-26 18:03 | 読んだ本 | Comments(0)

なんだかんだで読んだ本のことばっかり書いてます。たまに映画、時々食い物とドライブとラグビー観戦。
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