『岳飛伝 二 飛流の章』を読んだ

岳飛伝 2 飛流の章 (集英社文庫)

北方 謙三/集英社

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北方大水滸伝シリーズ完結編『岳飛伝』の二巻目。『楊令伝』終了時における作品世界の状況の「おさらい」に終始した観のある一巻目から、岳飛、金国、梁山泊のそれぞれが躍動を始め、新しいストーリーをつむぎだし始めたのが今巻です。

まずは主人公岳飛。梁山泊で銭を鋳造していた田峯を招聘して、楊令に斬り落とされた右手にはめる義手を作ってもらうこととなります。元々の右手に質感、性能ともに劣らぬ義手は、楊令との戦いで文字通り傷ついた岳飛の心身を癒し、新しい戦いへの意欲を掻き立てます。ただし、まだ、自分が主権を握ろうという考えは薄く、あくまでも南宋の軍閥の一つの頭領という位置づけで、金国や梁山泊との対決に臨んでいかに勝利するかを考え、行動しています。また、彼の下には崔蘭という義理の娘が登場します。彼女が、梁山泊の医療を薬という面で支えた薛永が残した、さまざまな薬草の効能を記した書をたよりに、薬に対する造詣を深めていく姿が描かれます。やがて訪れるであろう、大きな戦において彼女が重要な役割を果たすこととなるのでしょう。そして、彼女はまた岳飛に、父親の成長した娘に対する戸惑いまでをも感じさせる役割をも担います。岳飛の人間臭いエピソードを示す手段としてはとしてはなかなか上手く考えられた手法ですね。

金国は王位を狙う人物たちの権力闘争と平行して、隣接する梁山泊との戦いに突入します。元々精強な兵を多数抱えるという設定であり、兵の絶対数も梁山泊軍を大きく上回るために、梁山泊軍と一進一退の攻防を繰り広げます。国としての野望は中原に覇を唱えることではあるのですが、実際にもし覇を唱えることになっても、その際の王が誰なのかについてはまだまだ混迷を深めていきそうですね。梁山泊を凌駕して南宋軍との直接対決があるのか否かも気になります。

さて、われらが梁山泊の面々ですが、現首領である呉用は、自らの「統治権」を破棄し、一種の集団指導体制を採っています。軍、兵站、商流、物流などなどの各分野に最高責任者を任命し、自身はその調整役に回っているのです。自分自身には宋江や楊令のように「志」を強烈に示して梁山泊を一つの方向にまとめあげる力はないと考えての施策です。潔い腹のくくり方ですね。権力に固執するどこかの政治家にはぜひとも見習って欲しいと思います。呉用をはじめとする元々の水滸伝からの登場人物たちは、志という一番の重荷を若い楊令一人に背負わせてしまったことを悔いてもいます。そして、志は一人の人間が背負うものではなく、梁山泊に集った面々の一人ひとりが持つべきものだという結論に達したのです。この施策は結果として、梁山泊の運営体制を現代の「民主主義」に近いものに変質させていきます。「志」に反しない限りはどんな行動をとることも自由。軍においてはさらに「規律」が存在しますが、たとえば商流に関しては梁山泊に蓄えられた原資を背景に日本やベトナムにまで手を広げるなど、当時としては目一杯ワールドワイドな活動が可能です。「裁量が」大きい分、責任も重大であるというのは容易に想像はつきますがね…。

さてさて、今後の展開を楽しみに次巻のkindle化を待ちたいと思います。

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by lemgmnsc-bara | 2017-02-23 05:52 | 読んだ本 | Comments(0)

なんだかんだで読んだ本のことばっかり書いてます。たまに映画、時々食い物とドライブとラグビー観戦。
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