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『ニッポンぶらり旅 宇和島の鯛めしは生卵入りだった』を読んだ

ニッポンぶらり旅 宇和島の鯛めしは生卵入りだった (集英社文庫)

太田和彦/集英社

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居酒屋探訪家としても名高いグラフィックデザイナー、太田和彦氏による地方都市周遊本。ま、ざっくりと言ってしまえば紙版の『じゅん散歩』または『アド街ック天国』といった趣の本です。氏の肩書きの通り、あくまでも記述の中心は居酒屋なのですが、観光客があまり足を運ばなそうな地域を丹念に歩き、その場所その場所で感じた人情、気候風土などを独特の視点で記しています。美辞麗句が連なっているわけではありませんが、たとえば料理のにおいまでが漂ってくるような「味のある」記述は、一度その土地を訪ねてみたくなるような魅力に満ちています。

その土地に古くから根付いている店に入り、地元の人が日ごろ食べているものを、地元の人とともに味わう…、確かにこれこそが本当は旅の醍醐味のはずなんですよね。そしてそういう店は表通りの派手な地域でけばけばしく営業するよりも、繁華街の外れとか、ぱっと見ではわからないような小さな路地の先なんかで常連さんだけを相手にひっそりとたたずんでいることの方が多い。最近は馬齢をかさねてきたせいか、若いおねーちゃんなんかがいる店よりも、そういう店で地元の魚の干物かなんかを肴に地酒をぬる燗ぐらいでちびちびやる、って風情にあこがれるようになりました。実際、現在行き着けと言ってよい店は大きなビルの谷間でひっそりと朝時から空けている大衆酒場だったりします。

氏の文章の一番の魅力は、料理の味や香りとともに、そこに生きる人の息遣いまでがしっかりと感じられること。さすがは居酒屋探訪家を標榜するだけあって、数々の名店をしっかり押さえているし、一見さんでぶらっと入った店でも、店の人や隣席のお客さんの懐に飛び込んでいって、その人々が持つ物語をしっかり聞きだしています。どんな人の人生にもさまざまな起伏があるもので、そういうお話こそが最高の酒のつまみなのだ、という主張がしっかりと感じられる一冊でした。

読み終えてから気づいたのですが、この本では四国と北陸の町が数多く取り上げられていました。実は当家は二人とも四国と北陸三県に行ったことがありません。北陸新幹線も開通したことだし、今年の夏は金沢にでも行こうか、というプランもあったのですが、最高権力者様のご都合で東北紀行となったため、いけずじまいでした。こんな魅力的な描き方をされたら、ぜひ行きたくなってしまいますね。特に高知県の桂浜にはぜひ行ってみたいと思いました。もちろんカツオのたたきも食いたいですしね。

by lemgmnsc-bara | 2016-11-12 04:39 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

by 黄昏ラガーマン
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