2015年 08月 25日
『彼女について』を読んだ
最近私の机の上には「積ん読山」ほどは高くない「積ん読丘」とでもいうべきものが形成されています。以前はタンスの上に50cmほどは積んであったのでそこからすればずいぶん減りましたが、まだまだ断捨離の精神からはほど遠い状況ではあります。
その丘の一番上にあったのが標題の書。朝、結構慌てていて、なんでもいいからとカバンに押し込んだ記憶があります。で、結果的に久しぶりに読んだよしもと氏作品となりました。
物語は主人公由美子の楽しくも切ない記憶のシーンから始まります。由美子は同年代の従兄弟昇一と一緒に庭で遊んでいます。由美子の母と昇一の母は双子の姉妹。しかも姉妹揃って白魔術の学校を出ている「魔女」だという、やや非現実的な設定。ヨーロッパには白魔術を大真面目に教える学校があるというのは聞いた事がありますが、さすがに日本ではちょっと突飛だと言う感は否めません。
由美子は叔母である昇一の母から「将来あなたを救う事ができるかもしれないから」という理由で連絡先を書いた紙を忍ばせた古びた人形を貰います。しかし結局それ以後由美子と叔母は逢う事がありませんでした。もちろん昇一とも。
そんな記憶の世界から場面は現在の由美子の日常へ。両親が残してくれた遺産で働かなくても食べていける境遇の由美子の元を昇一が訪ねてきます。昇一は自らの母の死を契機に、母の「由美子を救いたい」という遺志を継ぐために由美子の所在を探し当てて訪ねて来たのでした。
そしてそこから、由美子と昇一の過去をめぐる旅が始まります。そしてその旅のなかで由美子一家に起こった事、双子の姉妹の愛憎などが語られていきます。そして待ち受ける意外な結末。これをネタバラししてしまうと著しく興を削いでしまいますので、ストーリー紹介はこれくらいにしたいと思います。
さて、この小説はある映画に対してのオマージュだそうです。日本ではやや違和感のある「魔女」という存在も外国の映画であれば、さほど抵抗なく受け入れられる設定なのでしょう。
設定はともかく、身近な人間と様々に心の交流を重ねていく事こそが「愛」であり、その「愛」の一つの形が家族である、というよしもと哲学はしっかり描かれていました。家族とは決して与件ではなくその成員が作り上げるもの。人間の他者に対する愛情がいかに培われていくか、ということが事細かに描写されていたと思います。
by lemgmnsc-bara
| 2015-08-25 20:41
| 読んだ本