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『そうか、もう君はいないのか 』を読んだ

そうか、もう君はいないのか (新潮文庫)

城山 三郎 / 新潮社

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長らく日本の経済小説のトップランナーだった城山三郎氏の死後に発見された「遺稿」。氏にしては珍しく、夫人との馴れ初めから、永遠の別れまでを綴っています。

そもそもの馴れ初めが図書館、それも本来なら行くはずではなかった場所だというところが運命的。どこかの歌の文句ではありませんが、♪あの日あの時あの場所で君に逢えなかったら 僕らはいつまでも見知らぬ二人のまま♪という状況がぴったりきちゃいます。でもそこで知り合ってしまうところが「運命」なんですねぇ。

とはいえ、戦後まもなくの結婚事情は二人を自由に交際させてはくれませんでした。知り合った女性容子さんの父親に「二度と近づかないし、電話も手紙も一切送らない」という念書まで書かされてしまいます。ここで終わってしまったら、ただの失恋物語。ある日二人は当時流行の「出会いの場」だったダンスパーティーで再会を果たします。そこからもまあ、さまざまな紆余曲折はあったようですが、この辺は結婚に至るまでは誰もが通るドタバタでしょう。

結婚してからの容子さんは文字通り家を守ります。夫城山氏が後顧の憂いなく仕事が出来るように、商家の嫁としての家事一切を取り仕切り一切を遺漏なくこなします。

この献身は後に城山氏が小説家として一本立ちした後も続きます。文字通り心身共に城山氏を支え続けたのが容子さんだったのですね。

そして晩年。ガンであることが発覚し、日々病状は悪化していきます。病床にあっても容子さんが一番気にかけていたことは、城山氏の仕事。泣けちゃいますね。私の最高権力者様のように、無理矢理会社に追い立てられると別の意味で涙しちゃいますが(苦笑)。そして永遠の別れ。また泣けちゃいます。

押さえに押さえた淡々とした筆致が、帰って氏と容子さんの深い結びつきを感じさせる佳作でした。こういう夫婦を理想の夫婦というのでしょう。ただ一つ、容子さんのミスを指摘するとすれば、城山氏より先に鬼籍に入られてしまったことでしょうね。女は残されてもたくましく生きていけますが、男はそうはいきませんから…。
by lemgmnsc-bara | 2014-08-16 07:03 | 読んだ本

映画、演劇、お笑い、あまり肩の凝らない小説等々…、基本的にエンターテインメント系に特化したブログにします。

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